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医療制度の崩壊を「在宅医療」が食い止める。在宅医療の牽引者たちが“超高齢社会”の未来を語る|イベントレポート

2017.08.09 10:00

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オバラミツフミ

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MHA2 在宅医療
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「『在宅医療×テクノロジー』の“今”をつかみ“未来”をつくる」をテーマに2017年4月に行われた「MedPeer Healthtech Academy chapter2」(メドピア ヘルステックアカデミー)。本記事では、沼田佳之氏(『Monthlyミクス』編集長)をモデレーターに迎えて行われた、石山洸氏(デジタルセンセーション株式会社 取締役COO)、中西敦士氏(トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 代表取締役)、草西栄氏(トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社)、田上佑輔氏(やまと在宅診療所院長)、宮田俊男氏(日本医療政策機構 理事/みいクリニック 院長)によるトークセッションの内容を再構成してお届けします。

高齢化が進み、1人の若者が1人の高齢者を支えなければならない時代が2050年に訪れると予測されています。そのなかで注目されているのが「在宅医療」。医療現場の煩雑な業務を効率化するテクノロジーが開発されたことで、これまで医者中心・病院中心だった医療にパラダイムシフトが起ころうとしています。在宅医療の牽引者たちが考える「在宅医療×テクノロジー」の未来とは、一体どのようなものなのでしょうか?

テクノロジーよりも大切なのは、「患者の視点を持つ」こと

沼田佳之(以下、沼田) 病院中心の医療から在宅中心の医療へ変化が起こりつつあります。今後は在宅医療の質の向上を目指すテクノロジーが開発され、市場が拡大していくはずです。今回のイベントでは、皆さんからもそれぞれ人工知能による介護教育の自動化や煩雑な医療業務を効率化するテクノロジーについてお話をいただきました。それを踏まえて、何か印象に残っていることがあればお教えください。

石山洸(以下、石山) 田上(佑輔)先生がおっしゃっていた「テクノロジーよりも大切なことがある」という言葉にとても共感しています。「市場が大きくなりそうだから」という軽いノリで参入する技術提供企業も少なくありません。しかし、もっと社会課題や現場で困っていることに目を向ける必要があります。具体的なニーズに応えるテクノロジー開発を行えるか否かが在宅医療における技術発展のポイントになると思います。


(デジタルセンセーション株式会社 取締役COO 石山洸氏)

中西敦士(以下、中西) その通りですね。一方、どんなにニーズがあっても使ってもらえなければ意味がないとも思います。私たちが開発した「DFree」を最初に導入してもらったのは、現状に課題意識のある介護施設。導入を決めてもらえた介護施設は通信インフラが整っていましたし、若いスタッフの方もいるので使用に困らなかったと思います。しかし、一人で暮らす高齢者の方々や老々介護の方々に使ってもらえるかはまだ分かりません。

田上佑輔(以下、田上) たしかにそうですね。ただ、現場にいる医者の立場からお話させてもらうと、基本的に新しいテクノロジーやデバイスをどんどん持ち込んでもらうことは歓迎です。私たちのような医療従事者からすれば、そのどれも見たことも聞いたこともないものなので、一度は使ってみたい。その上で、「こういうケースに使えそうだね」と相談できれば、ニーズに対して最適な使用方法を検討できると思います。現場との情報共有が活発化すれば、こちらから提案をすることもできますし、開発者の皆さんも現場に足を運んでほしいですね。

本日皆さんのお話を聞いて思ったのは、テクノロジーを提供する側も私たちのような医療現場側も根本的な考えは一緒だということ。コアにあるのは「地域の人たちとコミュニケーションを取りながら、より良い介護、より良い生活を実現しよう」という想いではないでしょうか。


(やまと在宅診療所院長 田上佑輔氏)

「医療×テクノロジー×ビジネス」多角的視点で介護業界の課題を解決する

沼田 在宅診療では患者さんの生活をみることになりますので、情報共有が非常に重要となります。医療と介護がしっかりと連携し、そこに最適な技術を提供する必要があります。技術開発を行う側として、どのような心がけが必要なのでしょうか。皆さんは現場とコミュニケーションを取る上で気をつけていることはありますか?

草西栄(以下、草西) 製品を開発する以前は、現場に泊まり込んで具体的なニーズを引き出そうと奮闘していました。アンケートなどで大まかなニーズを確認することもできますが、それだけでは不十分だと思ったからです。しっかり現場の意見をヒアリングすることは心がけていました。大企業なら「コストがかかりすぎる」と言われてしまう可能性があるので、ベンチャー企業だからこそできたことかもしれません。それでも実際にリソースを持っているのは大企業の方です。コスト云々ではなく、しっかりとニーズを汲み取ろうとする体質が業界全体に生まれてくるべきでしょう。


(トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 代表取締役 中西敦士氏(左)/草西栄氏(右))

中西 医療と介護の間にある乖離を埋める必要があると感じています。両者の連携をしっかり取ることで、より効果的な治療ができるようになるからです。

過去にこんな事例を教えていただきました。余命2か月を宣告された重度のパーキンソン病患者が、11ヶ月間寝たきりの状態からリハビリで立ち上がるまで回復したというものです。医学的アプローチではなく、介護側からのアプローチによって回復に至ったということですね。この事例が示唆するのは、一つの同じ病気でも画一的な見方を改めることで、状況が変わる可能性があるということ。私たちも介護分野で技術を提供するだけでなく、医療現場と手を取り合いながら業界の未来を考えられるよう心がけたいです。

石山 お二人のお話にもありましたが、在宅医療問題の解決は容易ではありません。在宅医療には「現場の問題で解決できるか」「テクノロジーで解決できるか」「ビジネスとして成立するか」という3つの問題があります。この3つが重なる部分は解決しやすいのですが、それ以外の部分は難しい。

たとえば、「介護問題を人工知能で解決したいです」と人工知能ビジネスの従事者の方に言うと、「儲からないのにどうして?」と言われてしまうことがあります。介護よりも儲かる業界があるのは事実です。ただし、それでは問題がずっと未解決となってしまいます。

そこで我々は、人工知能で作った介護教育のオートメーションシステムを違う領域に応用して利益を上げ、その利益を介護業界に投資しています。短期的には意味のないことに思えるかもしれません。しかし、このような順序で事業を展開しないことには日本の介護問題は解決ができません。この3つの視点で危機意識を共有する必要があると思います。

主体的に医療を選択する時代へ。産学官のつながりで「医者中心の医療」に改革を起こす

沼田 技術開発者の視点からいくつか意見をいただきました。現場の医師としての立場から、田上先生はどのようなことを感じられましたでしょうか。

田上 もちろんテクノロジーが医療現場を改善してくれるのは嬉しいことです。企業が研究開発の精度を上げながら現場に貢献しつつ、行政がビジネスとしても成功できるような取り組みを支援することで、サステナブルな形での問題解決ができるのではないかと思います。

宮田俊男(以下、宮田) 介護がビジネスとして成立しないわけではありませんが、あまり大きな利益を上げられる市場ではありません。そのため、配当を求める投資家からはお金を集めにくいんです。しかし、出資先によっては比較的支援を受けやすい業界でもあります。とりわけ日本政策金融公庫は社会的課題の解決を目指す企業を支援してくれるので、融資をしてくれることが多いです。短期的に大きな利益を上げるのは難しいですが、企業の方には少しずつ利益を上げながら次の課題解決に投資していく視点を持ってほしいです。


(日本医療政策機構 理事/みいクリニック 院長 宮田俊男氏)

沼田 ビジネスとして成立させることが、長期的な問題解決にもつながるんですね。田上さんは医師として在宅診療の現場に身を置かれていますが、ビジネスよりも課題解決に重きを置いているとお聞きしました。その理由はなんでしょうか?

田上 やっぱり在宅診療は楽しいんです。病院における医療はガイドラインや診断方法が画一的ですが、在宅診療は患者さんと伴走するような診療になるので、ただ単に「病気を良くする」行為以上にやりがいが感じられます。とくに若い世代の医者には、やりがいを求める人が多い傾向があるかもしれません。今後、在宅診療のあり方や位置づけも変わっていくと思います。

沼田 「在宅医療の未来が良いものであってほしい」という考えは、立場が違えどみなさん共通の見解ですね。健康で暮らしたいという思いは、誰しもが持つもの。私たちもそれを後押しできるような社会を創っていかなければいけません。最後になりますが、より良い在宅医療の未来に向けて、皆さんが個人として成し遂げたいことを一言でお願いします。


(左:モデレーター・『Monthlyミクス』編集長 沼田佳之氏)

石山 全世界80億人がユマニチュードを使える社会を実現します。

中西 “おもらしゼロ社会”の実現に向けて頑張ります。

草西 「DFree」を世界の半分以上の人たちが知っている世界を創りたいです。

田上 診療所を通して誰もが安心して生活できる地域をつくります。

宮田 病院中心の医療が批判されていますが、それは個人がその人らしく生きられていない社会への批判だと思います。受動的な医療制度を改め、もっと個人が主体的に医療を選択できる社会を創り上げます。

***イベントレポート一覧***
2017年4月22日開催 「在宅医療×テクノロジー」の“今”をつかみ”未来”をつくる~|MedPeer Healthtech Academy chapter2
“第4次産業革命”は超高齢社会をどう変えるのか?人工知能×ビッグデータが変える介護の未来【デジタルセンセーション・石山洸氏】
超高齢社会の医療に求められる「コミュニティ意識」とは?【日本医療政策機構・宮田俊男氏】
地方で働くドクターが考える“医療現場とテクノロジーの隔たり” 【やまと在宅診療所院長・田上佑輔氏】

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