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VRの民主化がもたらす医療革命とは?医師と経営、専門家の視点で捉える「VR×医療」の可能性

2017.08.25 17:00

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オバラミツフミ(EDIT BY 長谷川リョー)

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VR
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FacebookやGoogleに代表される世界的企業をはじめ、去年は日本からSONYが「PlayStation VR」を発表するなどVR市場が賑わっている。VRブームを巻き起こした「Oculus Rift(オキュラス・リフト)」が発表された2012年当初はエンターテイメント領域での使用が主だったが、現在は様々な業界で応用されるようになった。もちろん医療も例外ではない。

「Oculus Rift」の誕生から5年が経ち、VRは一般の人でも利用可能なほどに民主化された。医療業界においてもVRを利用したイノベーションが模索されている。仮想空間でのリハビリや研修医のトレーニングは近い将来実現されるであろう。今回、そうした医療の未来を占うべく国内最大級のVR専門メディア「Mogura VR」編集長・久保田瞬氏をお招きし、「VR×医療は今どこまで進み、果たしてこれからどこまで革新を起こせるか?」をテーマに鼎談を行った。鼎談相手は、両者とも現役医師であるメドピア株式会社・代表の石見陽と、同社が12月に主催する「Health 2.0 Asia – Japan 2017」の統括ディレクター上田悠理が務めた。

「Oculus Rift」誕生から5年。VRの民主化が始まった

鼎談のはじめに、「Mogura VR」編集長・久保田瞬氏からVRの誕生から今日に至るまでの流れを解説いただいた。


(「Mogura VR」編集長・久保田瞬氏)

久保田瞬(以下、久保田):端的に説明すると、VRとは「脳をだます技術」です。正確には「Virtual Reality」と表記され、日本語では「仮想現実」と訳されます。現在の技術ではゴーグルを頭に装着し、現実では知覚できない世界を眼前に作り出します。

現実と違う世界を見るだけなら映画と変わりませんが、VRの場合360度見渡しても景色が変わりません。現実世界と切り離された場所に居ると錯覚するのが特徴です。

VRデバイスとして著名な「Oculus Rift」が登場したのは2012年頃。当時は非常に高価で、1台数百〜数千万円するものでした。しかし現在は、技術の発達に伴い価格も低下。パソコンとセットでも20万円程の価格になり、一般の人でも購入できるまで民主化しています。現在の主な用途は、ゲームをはじめとするエンターテイメントです。

上田悠理(以下、上田):昨年「ポケモンGO」がリリースされましたが、あれはVRを用いたゲームなんですか?

久保田:「ポケモンGO」は、VRではなくAR(Augmented Reality : 拡張現実)を用いたゲームです。VRは現実とは切り離されたシチュエーションを作り出す技術ですが、ARは現実空間にデジタルな情報を表示する技術。「ポケモンGO」は、見ている景色にポケモンが表示されていましたよね。

石見陽(以下、石見):MRという言葉も聞いたことがあります。違いはなんでしょうか?

久保田:MR(Mixed Reality : 複合現実)はVRとARの上位概念です。VRは現実で知覚できない世界を作るため、現実世界で見えているものが見えなくなります。しかしそれでは汎用性が低いので、VR空間でも現実世界を再構築する技術が開発されつつあります。するとVRとARの定義が曖昧になっていきます。

なぜ医療現場にテクノロジーが浸透しないのか

ーーVR技術が医療現場に応用されている事例はどのくらいあるのでしょうか?

久保田:研究段階では事例も増えています。しかし、現場への導入が進んでいないのが現状です。大学病院で先進的な知見を持つ医師が実験的に導入を始めているところだと思います。

上田:VRに限らず、医療現場の末端まで急速にテクノロジーが浸透した例は少ないです。電子カルテが登場しているのにもかかわらず、未だに紙カルテを利用している病院がほとんど。

石見:たしかに医療現場にスピーディーにテクノロジーが浸透することは少ないですが、全くないわけではありません。CTは10年ほどで浸透しています。最近では、手術支援ロボット「ダヴィンチ」の使用率も徐々に高まり、数年前に保険が適用されました。しかし、当たり前に使用されるまでには20年ほど時間がかかるのではないかと思います。

久保田:「ダヴィンチ」は人間の手の可動域を超えた手術が可能になる画期的なロボットのはずです。なぜ普及しないのでしょうか?

石見:あくまで推測ですが、「ロボットに頼る医師は腕が悪い」という風潮も一因になっているのではないでしょうか。

上田:あると思います。ただ現在は、科学的根拠に基づいた観点で最適な医療を施す「標準治療」が推奨されています。都心と地方で医療に差があってはいけない。常に結果を平均化する方向に考え方が移行しつつあるので、「標準化」がテクノロジーの浸透を促すかもしれません。

久保田:日本の医療はある意味「古い業界だ」とも聞きます。国内でVRを用いた医療を現場レベルにまで推進しようとしているのはHoloEeyes(Holoeyes株式会社)さんくらいではないでしょうか。製品が開発されることは少なくないですが、やはり医療現場に浸透するケースは少ない。あくまでも「システムを作りました」と展示会に出展するまでに止まっています。

仮想空間でリハビリ、トレーニング。VRは医療をどう変える?

ーーVRによって、医療はどのような変化を遂げるのでしょうか?

上田:私は形成外科が専門ですが、手術中に3Dデータが見られるのは非常に便利です。3D処理した画像や、3Dプリンターで作成した模型を使用することもありますが、まだまだ改善点は多くて。看護師の方に画像をスクロールしてもらうのですが、コミュニケーションコストがかかります。

石見:3Dプリンターを用いた手術はすでに浸透しているんですね。


(メドピア株式会社 「Health 2.0 Asia – Japan 2017」統括ディレクター 上田悠理(医師))

上田:そうですね。一つ例をあげると、小児の口唇口蓋裂の手術の際には非常に役に立ちます。治療のために自身の体から骨を移植するのですが、小さいお子さんは手術を行うこと自体がリスクです。当たり前のことながら、失敗は許されません。3Dプリンターの登場によって、事前に模型を作ってシミュレーションすることが可能になりました。

VRであれば、実際に手を触れることなく同じことができます。バーチャル空間のように清潔な状態でシミュレーションができれば、より安全な手術が可能になるでしょう。

久保田:まさに、注目されているVRの使用方法が「3Dモデルを3Dのまま使う」発想です。今までの3Dは、画面の中でしか3Dを操作することができませんでした。VRであれば、画面の中に止まっていた3Dをある意味空間に直接配置しています。こうした発想は、医療や建築など3Dデータを扱う業種に関しては非常に相性が良いのです。

医療においてはトレーニングもVRが力を発揮する領域です。研修医が執刀前にマネキンでトレーニングを行うのではなく、VR空間で3Dデータを使用した方がよりリアルです。

上田:手術の中には、顕微鏡を用いて微細な操作が必要なマイクロサージェリーというものがあります。その際に実は、神経や血管が集約されている鳥の手羽先を用いて練習をし、指先感覚を養います。VRでは、そうした触覚も再現できるのでしょうか?

久保田:手羽先を使うんですね(笑)。触覚に関しては課題の一つで、まだそこまで精緻な再現には至っていません。現状は、振動によるフィードバックが主です。

石見:日本製「ダヴィンチ」が触覚の再現に挑戦していますよね。こうした流れからも、今後はトレーニングや実際の手術に向け、より高度な再現ができるようになっていくことが予測されます。

久保田:トレーニングに近い部分だと、リハビリへの応用もできるのではないでしょうか。VRデバイスが加速度的に進歩しているので、トレーニングセンターの一室くらいの広さなら、ゴーグルを装着した状態でも問題なく歩くことができます。たとえば、落ちているものを拾う動作も違和感なくできます。現実世界でのリハビリには精神的ストレスがつきものですが、VR空間ならストレスを緩和できるかもしれません。

上田:ただ、患者さんにVRを用いたリハビリを容易にすすめることはできません。というのも、リハビリは精密に設計する必要があります。「この筋肉は動かすけど、この筋肉は動かして欲しくない」ということも多いのですが、VR空間は現実世界と切り離されているため、健康な感覚で体を動かしてしまうケースも考えられます。

同じリハビリなら、疾患追体験のアプローチは有効です。精神科の療法の一つに「やらせてみる」アプローチがあります。たとえば高所恐怖症の症状緩和を行う場合、完全にコントロール可能な範囲内で恐怖を惹起させるんですね。VR空間で恐怖に慣れたら、今度は現実世界でも実践してみる。すると高所恐怖症が和らぐことはあると思います。


(メドピア株式会社 代表取締役社長 CEO 石見陽(医師))

石見:肉体的なリハビリを行う場合は実証が必要ですが、今後データが蓄積されれば現状不可能なリハビリが可能になることも往々にして考えられます。手術現場での使用はハードルが高いかもしれませんが、まずは患者さんへのリスクの少ないトレーニングやリハビリからVRの可能性を模索していくのが良いかもしれません。VRでのトレーニングは特に、実際の手術現場に研修医が立ち会うのは嫌がる患者さんもいますし、失敗が許されにくい今の時代に合っているはずです。

医療×VRのビジネスは成功する?マネタイズは“第三世代”を狙うべき

ーー今後VRが医療に応用されていくケースとしてどのようなものが考えられますか?

上田:遠隔診療への応用はあるでしょう。特に精神疾患は遠隔診療の方が対面での診療より向いてることもあり得ます。一つ例をあげると、自閉症の患者さんは人に会う行為自体が刺激で、精神状態が悪化することがあります。専門科に連れて行くこともご家族にとってはストレスなので、精神的負担を減らせるのはイノベーションです。

久保田:病院に「VR診察室」と掲げられているかもしれませんね。確かに遠隔診療は、VRの会っていないのに会っているかのように感じる「ソーシャル性」が生かされる領域かもしれません。

石見:日本にいながらアメリカのお医者さんの治療を受けられる可能性もあります。「ダヴィンチ」とVRがリンクできれば、理論上は海外の医師がオペレーターとして手術できることになりますよね。

久保田:「テレイグジスタンス」と呼ばれる分野ですね。頭にVRデバイスを装着して、患者さんと医師を同じ空間に配置する。そして、医師が手を動かすのに呼応してロボットが操作される。まさにテレポート技術です。

石見:もちろん医師にも保守的な考えの方がいます。私自身まだまだVRを用いた医療、特に手術に関しては懐疑的になってしまう部分もありましたが、今日お話をお伺いして大きな可能性を感じました。

久保田:デバイス側のイノベーションはまだまだ引き続き起き続けていて、現在のデバイスは第一世代。携帯電話で表現するなら「ショルダーフォン」です。10〜20年後には笑ってしまうくらいの性能だと思います。
デバイスを作ってはフィードバックをもらい、改善する。現状はこうした段階ですが、逆にいうと今の段階でFacebookやGoogleなどの世界的企業がVR領域で事業を始めているのは、現在では考えられないようなイノベーションが起きることを予見させます。

今後医療領域でVRの活用を考える場合は、もっとデバイスも高性能になり手頃になる普及段階に合わせて、実用化を狙うのが吉。すぐにイノベーションを起こそうとするのではなく、第三世代のデバイスが登場するであろう2、3年後を狙って準備するのがもっとも効果的ではないでしょうか。

***鼎談メンバー・プロフィール***

久保田 瞬(すんくぼ)|Shun Kubota
株式会社Mogura 代表取締役、「Mogura VR」編集長

慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、環境省に入省。環境白書の作成等に携わる。ECベンチャー勤務を経て、現Mogura VR編集長、株式会社Mogura代表取締役社長。現実を進化させることができるVRに無限の可能性を感じ、身も心も捧げている。これまでに体験したVRコンテンツは展示、配信合わせて500作品以上。現在ももちろんコンテンツを体験し続けており、VR業界の情報集約と提供、コンサルティングを行っている。また、海外の主要なVRイベントでは必ず現地に足を運び、取材やネットワーク構築を行っている。2016年は6回渡米。

石見 陽|Yo Iwami
メドピア株式会社 代表取締役社長 CEO (医師・医学博士)

1999年に信州大学医学部を卒業し、東京女子医科大学病院循環器内科学に入局。循環器内科医として勤務する傍ら、2004年12月に株式会社メディカル・オブリージュ(現メドピア株式会社)を設立し、代表取締役社長に就任。
2007年8月に医師専用コミュニティサイト「Next Doctors(現MedPeer)」を開設し、現在10万人以上の医師(日本の医師の3人に1人)が参加する医師集合知プラットフォームへと成長させる。現在も週一回の診療を継続し、医療現場に立つ。

上田 悠理|Yuuri Ueda
メドピア株式会社 「Health 2.0 Asia – Japan 2017」統括ディレクター(医師)

早稲田大学法学部を卒業後、岡山大学医学部に編入し医師免許を取得。形成外科・訪問診療医として、在宅高齢者の褥瘡管理に携わる。臨床を継続する傍ら、2017年4月よりHealth 2.0 Asia – Japan統括ディレクターに就任。臨床現場で感じるニーズと、テクノロジーで可能なこととの間に大きな隔たりを感じており、この壁を破壊するべく、12月に開催されるヘルステック領域のカンファレンスHealth 2.0 Asia – Japanに向けて活動している。

***イベント告知***

2017年12月5日・6日に渋谷・ヒカリエホールにて開催する「Health 2.0 Asia – Japan 2017」。
1日目のプログラムには「VR」セッションも用意し、Mogura VR編集長の久保田氏にモデレーターを務めていただきます。

早期割引第1弾は8月27日〆です。ぜひご参加ください!
詳細・お申込みはこちら

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