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医療に変革を起こすのはエンターテイメント?ゲーミフィケーションが“病院中心”の医療システムを刷新する

2018.01.13

Text By
オバラミツフミ
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長谷川リョー
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松平伊織
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2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事では、モデレーターに産業医・大室正志氏を、パネリストにキャップスクリニック総院長 白岡亮平氏をお招きして行われたトークセッション「アート、エンターテインメント×医療」をダイジェストでお届けします。

高齢化に伴う医療費の高騰を受け、“病院(治療)中心”の日本の医療は、個人が主体的に健康維持に取り組む“予防医療”への変革が求められています。本トークセッションには、医療業界の外から医療の改革を推進する4名のゲストを招待。ソーシャルゲームやSNSの仕掛けを応用し、医療とアート、エンターテインメントを融合しながら、従来の「受動的な医療システム」からの脱却を目指す取り組みについてお話しいただきました。


(左から)大室正志氏、白岡亮平氏

大室正志(以下、大室):モデレーターを勤めます産業医の大室です。約30社の産業医業務に従事しながら、ヘルステックを推進する企業のアドバイザーとしても活動しています。本日は、パネリストにキャップスクリニック総院長の白岡亮平先生をお迎えし、「アート、エンターテインメント×医療」と銘打ったトークセッションを行わせていただきます。

白岡亮平(以下、白岡):従来の医療は「辛い」や「痛い」といったネガティブなイメージを持たれることが多いのではないでしょうか。今後、予防医療を推進していくためには、医療にポジティブなイメージを持っていただくことが不可欠です。

イメージチェンジを図るためには、人の心を動かすエンターテイメントが非常に大きな効果を発揮するのではないかと考えています。

大室:表題に掲げた「アート」や「エンターテイメント」は狭義の意味ではなく、「人の心を動かす」といった広義で捉えています。

ディスカッションに入る前に、レガシーな医療業界をアートやエンターテイメントを用いて変革しようと試みている4名のゲストに、自己紹介を含めたデモンストレーションを行っていただきましょう。

大井潤(以下、大井):DeSCヘルスケアの大井です。私たちは健康保険に加入している人の健康をサポートするサービス「KenCoM」を運営しています。「KenCoM」は体重の記録管理を基盤に、血圧や血糖値などを一括でチェックすることができるアプリです。

自身の健康状態を可視化した上で、健康状態の向上に取り組めるインセンティブも用意しています。一つ例を挙げると、個人に最適化した記事をアプリで配信し、記事のとおりに運動をするとギフトがもらえる仕組みです。親会社であるDeNAはゲームを主力事業としていることもあり、ヘルスケアにもゲーミフィケーションの要素を取り入れるなどして、人々の健康意識が向上するようアプローチしています。


DeSCヘルスケア株式会社 代表取締役社長 大井潤氏

吉岡純希(以下、吉岡):デジリハ(NPO法人Ubdobe)の吉岡と申します。「デジリハ」は、小児向けにデジタルアートを応用したリハビリプログラムを提供するプロジェクトです。

リハビリは基本的に単純作業なので、小さいお子さんは、リハビリをする意義を見出せなくなってしまうことが少なくありません。そこで、目的を持って継続的にリハビリに取り組めるよう個人に最適化したプログラムを作成しています。


デジリハ エグゼクティブディレクター 吉岡純希氏

David Colleen(以下、David)SapientXのDavid Colleenと申します。私たちが取り組んでいるのは、対話に特化したAIの開発です。弊社が開発するAIは、小児病院で子どもたちの緊張を和らげるために話をすることができ、また、電子カルテに情報を追加することも可能です。

AIに業務を一任することができるので、医師と看護師の負担を減らすことができます。来年リリース予定ですが、患者と医師を効率的につなぐインターフェースになるのではないでしょうか。


SapientX CEO David Colleen氏

清古貴史(以下、清古)リアルワールドゲームスの清古と申します。私たちは『ポケモンGO』のような世界地図と現実を重ね合わせた位置情報ゲームを自社で開発し、人々の健康につなげています。

具体的には、ゲームを楽しんでいるうちに自然と歩行距離が長くなり、健康につながる仕組みです。現在神戸市と共同でコンテンツ構築を行っており、3月から実証実験を開始いたします。


リアルワールドゲームス株式会社 代表取締役社長 清古貴史氏

患者第一の“ケアプランドリブン”が、医療を身近な存在にする

大室:それでは、トークセッションに入っていきたいと思います。現在予防医療に取り組んでいない方も、予防に興味がないわけではありません。しかし日本は医療制度が充実しているため、そもそも自ら健康投資を行う概念がないと言えます。DeNAはゲーム事業に強みを持っておられますが、「KenCoM」を立ち上げる際も当初からゲームとの連携を考えられていたのでしょうか?

(関連記事:「AIがおせっかいを焼くようになる」ー産業医・大室正志氏が語る“予防医療の民主化”

大井:立ち上げのメンバーには、以前ゲーム事業に携わっていた者もおります。今現在健康な人に健康を意識する活動を促すのは難しいので、ゲームの“日常の隙間時間に入っていく”ことと、継続利用してもらうための仕組みを組み込みました。

白岡:私は定期的にクリニックに通って健康を維持する習慣を身につけてもらうために、乳幼児期もしくは学童・思春期を対象にした「セサミストリートイニシアチブ」を展開しています。

セサミストリートのキャラクターを用いたコンテンツを配信して健康教育を行い、病院のイメージを「怖い」ものから「楽しい」ものへと変革しようとしています。実際に教育を受けた子どもたちは、健康に興味を持ってくれています。

(関連記事:「医師を必要としない世界」へ、現役医師が挑む未来の医療【医療法人ナイズ・白岡亮平氏】|イベントレポート

大室:子どもという観点では、吉岡さんにも通ずるものがあるのではないでしょうか。実際にリハビリプログラムを提供する上で、子どもたちの興味を喚起するためにはどうしたらいいのでしょうか?

吉岡:企業が持っている新しい技術ありきの“シーズドリブン”ではなく、患者第一の“ケアプランドリブン”でサービスを作るのが重要です。先ほどもお話ししましたが、「デジリハ」では個別最適化したプログラムを作成しています。例えばリハビリをする本人が好きなキャラクターを取り入れることで、自ら進んでリハビリをするようになるんです。

大室:Davidさんに先ほどご紹介していただいたAIは、若い女性がアバターになっていました。他にも男性のパターンや、キャラクターがアバターとして登場することもあるのでしょうか?

David:アニメのキャラクターや漫画のキャラクターもアバターとして採用しています。具体例を一つ上げれば、ポケモンと協業し、ポケモンバトルの戦略をアドバイスするなどのコミュニケーションをとることも可能です。

患者さん一人一人に対して適切なキャラクターを登場させる必要性があると感じています。

予防医療のハードルを下げるには、SNSの仕掛けを模倣すべき

大室:清古さんは先ほど「自然と歩行距離が長くなる」とおっしゃっていましたが、どのような仕掛けを施しているのでしょうか?

清古:比較的短い間隔で目標物を置くことが重要です。実際に歩いてもらうにも、100m以上歩かなければならない場合は疲れてしまい、そもそもゲームをプレイしてもらえなくなってしまいます。

白岡:『ポケモンGO』を現在も利用し続けている方の多くはゲーム好きの方だと思います。予防医療を広めていくためには、そうした限定された層に響くだけでは不十分だとも思います。サービスを開発する上で、利用者を拡大する工夫などはありますか?

清古:来年リリースするアプリは、世界で5,000万ダウンロードされているゲームのキャラクターが登場します。認知度の高いキャラクターとコラボレーションすることでダウンロードの障壁を下げるのが、まず一つ目の工夫です。

また、ニッチなマーケットに届くアプリを複数開発することで、セグメント毎にユーザーを獲得することも検討しています。

大室:予防医学とアプリケーションの相性の良さはよく耳にします。ただ、UXがよくないとすぐにユーザーが離れてしまうんですよね。

大井:おっしゃる通りです。動作が鈍いと離脱率が高くなってしまうため、いかにシンプルな設計にするかを心がける必要があります。また、しっかりとインセンティブを与えてあげるのも離脱率を下げる大きな要因になります。

David:ゲームはもちろん、TwitterやFacebookにならい、ユーザー獲得のテクニックを応用することが大事です。そうした意味で、『ポケモンGO』は理想的なヘルスケアサービスでした。

白岡:最後に、エンターテイメントと医療を融合していくために必要なことを、皆さんから一言ずついただければと思います。

大井:医療従事者と、異業種の人間が積極的にコミュニケーションを取ることだと思います。目指すゴールは一緒なので、牽制し合うのではなく、お互いを理解することが重要なのではないでしょうか。

吉岡:事業者は入念なリサーチをし、しっかりとエビデンスを取った上で、ソリューションとして自らのサービスを提示することだと思います。

David:患者さんの視点に立つことです。患者さんがテクノロジーに理解を示していただければ、革命が起こるでしょう。

清古:大井さんがおっしゃるように、事業者と医療従事者が相互に理解し合うことが重要だと思います。「こんなにいいサービスがあります」と訴えたところで、それを受容していただけなければ意味がありません。

大室:ありがとうございました。医療とエンターテイメントの融合は今後、ヘルステック分野でも注目のテーマになっていくのではないでしょうか。

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