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未来をみつける

health2.0 Asia - Japan2017 VRの未来

「早くAIに助けてもらわないといけない」医療の全体最適に不可欠なAIの役割とこれから

2018.02.09

Text By
オバラミツフミ
Edit By
長谷川リョー
Photos By
松平伊織
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2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

モデレーターに奥野恭史氏(京都大学大学院医学研究科 教授)を、パネリストに春田真氏(株式会社エクサウィザーズ 代表取締役会長)をお招きして行われたトークセッション「AIで描く未来」をダイジェストでお届けします。

AIは「人の仕事を奪う」と表現されることも多く、導入するメリットがなかなか浸透していないのが現状です。しかし奥野氏は、労働人口の減少を例に挙げながら「早くAIに助けてもらわないと悲惨な状況になる」と指摘。医療業界も例外なく人材が減少していく未来において、AIはどのような役割を果たすのでしょうか。AIビジネスを展開する3名のゲストをお招きし、医療におけるAIの存在意義、そしてAIがある医療の未来を紐解きます。

※セッション登壇者
・奥野 恭史(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻 ビッグデータ医科学分野 教授)モデレーター
・春田 真(株式会社エクサウィザーズ 代表取締役会長)パネリスト
・岡本 茂雄(株式会社シーディーアイ 代表取締役社長)デモ
・島原 佑基(エルピクセル株式会社 代表取締役)デモ
・溝上 敏文(日本アイ・ビー・エム株式会社 ワトソンヘルスソリューションズ 部長)デモ

AIの役割は、ワークフローのバックアップ。医療と介護にAIが存在する未来

株式会社エクサウィザーズ春田真氏、京都大学奥野恭史氏
(左から)春田真氏、奥野恭史氏

奥野恭史(以下、奥野):モデレーターを務めます京都大学大学院医学研究科の奥野です。本日はエクサウィザーズの春田さんをパネリストにお招きし、表題にあります「AIで描く未来」についてお話を進めてまいります。

春田真(以下、春田):エクサウィザーズの春田と申します。エクサウィザーズはAIの利活用と普及を通じて世の中に貢献することを原点にスタートした会社です。本日はゲストの方々を交え、医療領域でいかにAIを活用していくかを議論できればと思っています。

奥野:早速ですが、まずはゲストの3名にデモを行っていただき、ディスカッションに入ってまいります。よろしくお願いします。

株式会社シーディーアイ 岡本茂雄氏
株式会社シーディーアイ 代表取締役社長 岡本茂雄氏

岡本茂雄(以下、岡本):シーディーアイの岡本と申します。シーディーアイとは「ケアデザイン研究所」の略称であり、介護分野に革命を起こそうと立ち上げた会社です。被介護者本人とその家族がより充実した生活を送るための介護の方向性を「ケアプラン」と言い、ケアプランを作成する職業が「ケアマネージャー」です。私たちは、ケアマネージャーの仕事にAIを活用しようと考えています。

ケアプランを作成するには、身体機能と生活機能を考慮する必要があります。身体機能とは、体に麻痺があるのか、寝返りができるのかといった、文字通り身体の機能を指しています。また、排泄の機能などが生活機能に該当するものです。

AIは、1年後にどのような状況になるのかといった未来予測を含め、ほんの数秒でケアプランを作成します。従来の「機能補填型の介護」を、自立を目指す「未来志向型の介護」にできるのです。私たちはこの変化を革命だと考えており、介護の未来が明るくなると考えています。

日本アイ・ビー・エム株式会社 溝上敏文氏
日本アイ・ビー・エム株式会社 ワトソンヘルスソリューションズ 部長 溝上敏文氏

溝上敏文(以下、溝上):日本IBMの溝上と申します。本日は、ニューヨークに拠点を構える「メモリアル スローン=ケタリングがんセンター」と共同開発している、癌の診断支援を行う「Watson for Oncology」についてお話しさせてください。

「Watson for Oncology」とは、AIの技術を用いた癌の診断支援のシステムです。がん患者さんの電子カルテ情報をWatsonが読み込み、エビデンスに基づく治療法を診療ガイドラインに沿って表示します。また、副作用情報も表示することができます。どういった治療を施した際に、どのような副作用が起こりうるのか。また、そうした副作用を起こした患者さんが臨床試験でどの程度いたのか等の情報を提示します。

現在は乳がんや肺がん、子宮がん、子宮頸がん、膀胱がんなど、多くの癌腫をサポートしており、今後もその幅を広げていく予定です。

エルピクセル株式会社 島原佑基氏
エルピクセル株式会社 代表取締役 島原佑基氏

島原佑基(以下、島原):エルピクセルの島原と申します。弊社は、医療画像診断の支援をする人工知能を開発する会社です。医療現場ではCTやMRI、顕微鏡や内視鏡の進化によって医療画像が膨大化しています。しかし、その医療画像を診断する医師の数は横ばいから減少傾向にあります。その差を埋めるためには人工知能を用いた業務支援が必要ではないかと考え、研究開発を進めています。

本日は、脳のMRI解析を例にサービスについてお話しさせてください。医師は脳の画像をもとに診断を行うのですが、日々業務に従事する傍ら、数百枚の画像を目視でチェックしなければなりません。

私たちは、この煩雑なワークフローを支援することで、誤診を軽減したり、小さな変化を見逃さないように医師の仕事をバックアップしています。今後は、画像解析による支援だけでなく、レポートの作成等も連携し、医療現場の負担をより少なくしようと取り組みを進めているところです。

日本は「決断してから早い」。AI市場をつくるために、政府ができること

株式会社エクサウィザーズ 春田真氏
医療現場にAIを普及させていく際の課題は?

春田:医療領域で、既にAIは研究段階から実用段階に入っているように感じています。AIを用いた医療が今後普及していくうえで、どのような課題を感じておられますか?

島原:実用化は、おそらく2〜3年で大きく進むと考えています。課題があるとすれば、医師はとても忙しいということです。多忙な医師が、現場に新しい機器やサービスを導入するのはなかなか抵抗があります。医師のワークフローをいかに邪魔しないよう設計するかが共通課題ではないでしょうか。

岡本:とはいえ、AIの質は「いかに学習機会を持てるか」にかかっています。現場で使われるたびに学習し、精度が高くなっていくんです。「優しい心で介護をする」といった、現在AIが苦手とする部分を埋めるためにも、積極的に導入していかなければいけないと思っています。

溝上氏ーWatsonはまだ日本の医療でビジネス展開できていない
Watsonはまだ日本の医療でビジネス展開できていない

溝上:Watsonはアメリカやヨーロッパ、韓国など世界各国で利用されています。しかし日本は、「AIというソフトウェアを医療の現場でどのように活用すべきか、規制すべきかどうか」という問いに決着がついてません。そのため、まだ医療機関向けのビジネスを診療向けには展開していません。

また、医師の方々との連携も重要。国ごとに診療ガイドラインは違うので、今後は各国に合わせた診療プログラムを作り込んでいく必要があると思っています。

春田:国に対して求めることはありますか?

溝上:技術が法制度に与える影響は、医療業界以外にも見られます。たとえば車の自動運転で事故が起きた場合の責任は誰が取るのかと言った問題が良い例です。しかしリスクを恐れ過ぎても、いつまでたっても新たなテクノロジーが普及しなくなりかねません。

国とITベンダーが密な会話をしていくことで、何かしら打開策が見えてくることを期待しています。海外で発展したサービスをそのまま導入するのではなく、必要であれば日本仕様に変えていくことも必要かもしれません。日本は“決断してからが早い国”ですから、まずはしっかりと対話を重ねることが必要です。

島原氏ーまずはとにかく早く市場に出して判断すべき
まずはとにかく早く市場に出して判断すべき

島原:私も毎月のように厚労省を訪問し、AIを正しく理解していただくために、リスクとメリットをしっかりとお伝えしています。その上でガイドラインを作っていただきたいのですが、やはりリスクも挙げていくとキリがないんです。

実際に利用されるのはお医者さんなので、まずはとにかく市場に出す。使われるかどうかは市場に委ねればいいんです。スピード感を持って認証をする文化をつくり、市場ができてくればいいなと思っています。

奥野:私は、「AIが人の仕事を奪って何が悪いんだ」と思っています。日本の労働人口は減少の一途をたどっていて、もちろん医療従事者も例外なく減っていくでしょう。悲惨な状況になる前に、早くAIに支援してもらわないといけません。そうした未来のために、法整備を急ぐことはもちろんですが、さまざまなAI開発をより早く進めていくべきだと考えています。そしてとにかく、市場に開放すべきだと思うんです。

岡本氏ーデータセットの所有権帰属を明確にする必要がある
データセットの所有権の帰属を明確にする必要がある

岡本:人工知能の時代には知的財産権の整理が重要になります。データセットの所有権がどこに帰属するのかを明確にしなければなりません。AIの所有者に帰属することが認められない場合、スピード感を持って開発することができないのです。

最後は国民の意識。医師だけに頼らない時代を生き抜くためにできること

春田:本日はベンチャー企業、そして大企業からゲストをお招きしております。それぞれの立場から率直な意見をお聞かせ頂けますか?

島原:企業だけでなく、学会レベルでもAIは非常に注目されています。もはや「やっていないとまずい」くらいです。そうすると企業がどんどん参入し、同じ領域で競合するケースが増えていきます。しかし、ひとくちに「医療画像をAIで解析するベンチャー」といっても、得意領域はさまざまです。大きく分けて同じ領域であっても、1万×1万くらいの碁盤があります。1万×1万を奪うことは不可能で、自社の得意領域と苦手部分を明らかにしながら、医療の全体最適のために手を組むべきだと思うんです。

全員でー各社が得意領域を持ち寄って、オープンイノベーションを起こせばいい
各社が得意領域を持ち寄って、オープンイノベーションを起こせばいい

溝上:AIの時代を迎えるにあたり、ベンチャー企業にはチャンスが溢れていると思います。従来の「会社の規模が重要な意味を持つ時代」とは異なり、一個人の生産性をAIの力で増幅することができる。企業の規模が、企業力の差ではなくなると思います。

性能の高いAIのシステムを開発するために重要なのは「良質なデータを大量に持っているか」。資本力のある企業の方がデータを集めやすいかもしれませんが、大企業の優位なところはそれくらいしかないのではと思います。

岡本:私たちは、資本ではなくデータを集めることに注力してきました。あとは、資本力のある企業さんとオープンイノベーションを起こせばいい。医療も介護も、ネットワークをつないでいくことでより良くなっていくと思います。

島原:もっとも重要なのは、この会場にいる皆さんの意識だと思っています。医師が今のまま私たちの健康を支えてくれていた時代が終わってしまうかもしれない。「今後の医療はAIがあることが普通なんだ」ということを理解してほしいです。数年後には、「気付いたらAIが使われていた」なんてことになると思います。そうした未来を描いていただければと思います。

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