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未来をみつける

コミュニケーションから手術支援。多様性を見せる「医療ロボット」、十人十色のプロジェクトにせまる

2018.03.01

Text By
半蔵門太郎
Edit By
オバラミツフミ
Photos By
松平伊織
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2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。ヘルスケア業界をリードする気鋭の起業家たちが集い、数十にも及ぶセッションが繰り広げられました。

今回は、モデレーターに坂田信裕氏(獨協医科大学 情報教育部門 教授)、パネリストに宇山一朗氏(藤田保健衛生大学 総合消化器外科 教授)、橋本康彦氏(株式会社メディカロイド 代表取締役社長)をお迎えして行われたトークセッション「日本のモノづくり~ロボットの進化~」を再構成してお届けします。

ロボット産業は日本のお家芸とも言われています。近年、医療の現場でメイド・イン・ジャパンのロボットが活躍し始めています。医療ロボットの最先端で活躍されている方々に、それぞれのプロジェクトの展望と、ロボット開発の裏側をお伺いしました。

※セッション登壇者
坂田 信裕(獨協医科大学 情報教育部門 教授)モデレーター
宇山 一朗(藤田保健衛生大学 総合消化器外科 教授)パネリスト
橋本 康彦(株式会社メディカロイド 代表取締役社長)パネリスト
檜山 康明(株式会社MICOTOテクノロジー 代表取締役社長)デモ
玉置 章文(トヨタ自動車株式会社 パートナーロボット部長)デモ
吉藤 健太朗(株式会社オリィ研究所 代表取締役)デモ

モノづくりで医療をアップデート。医療ロボット開発を推進する十人十色のプロジェクト

獨協医科大学 坂田信裕氏
獨協医科大学 坂田信裕氏

坂田信裕(以下、坂田):モデレーターを務めます、獨協医科大学情報教育部門の坂田です。本日は2名をパネリスト、そして3名のゲストにデモンストレーションをしていただき、「ロボット」をキーワードにさまざまな取り組みを紹介していきたいと思います。まず、登壇者の方々にそれぞれの活動をご紹介いただきます。

宇山一朗(以下、宇山):藤田保健衛生大学の宇山です。本日は手術支援ロボット「ダヴィンチ」をご紹介したいと思います。私が外科医になった1985年当時、一般的な外科手術の方法は、みぞおちからへその下まで大きくメスを入れる「開腹手術」しかありませんでした。

しかし医師になって数年経った1990年半ば頃になると、お腹に小さな穴を空け、そこに胃カメラに似た小さな内視鏡器具を体に入れて手術を行う「腹腔鏡手術」が登場しました。腹腔鏡手術は手術の低侵襲化(手術・検査などに伴う痛みや発熱、出血などをできるだけ少なくする)を実現する技術です。開腹手術に比べて術後の回復が早いとされています。

藤田保健衛生大学(医師) 宇山一朗氏
藤田保健衛生大学(医師) 宇山一朗氏

腹腔鏡手術が登場してから十数年。腹腔鏡手術をいち早く取り入れた医師たちの努力により、現在では開腹手術と同等の手術効果を達成するまでに至りました。開腹手術を凌駕する根治性、安全性を目指す段階に入っていますが、腹腔鏡手術は動作制限が大きく非常に難易度が高い。

そこで出会ったのが手術支援ロボット「ダヴィンチ」でした。ダヴィンチは手首のような関節機能を持ち、人間の手の震えを補正することができます。これにより、より精緻な作業を可能にします。私たちはこのダヴィンチを用いて、開腹手術を凌駕する結果を出せるような技術を開発できるよう取り組んでいます。

(関連記事:第一人者が語る「ロボット支援手術」の現状とこれから【藤田保健衛生大学教授・宇山一朗氏】

株式会社メディカロイド 代表取締役社長 橋本康彦氏
株式会社メディカロイド 代表取締役社長 橋本康彦氏

橋本康彦(以下、橋本):メディカロイドの橋本と申します。メディカロイドは産業ロボットの大手である川崎重工と医療機器メーカー・シスメックスの2社の出資で設立されたた合弁会社です。ロボット開発と医療機器開発のノウハウを融合し、医療ロボットの開発を推進していきたいと考えています。

ロボットの開発を目の当たりにする中で、ロボットは人と共存してサポートする存在になりつつあることを感じています。私たちには厳しい事業環境の中で培われたコスト競争技術、信頼、高機能なプロダクトの開発技術性がある。これからいろんな先生のご指導を頂きながら、医療に貢献していきたいと思っています。

トヨタ自動車株式会社 玉置章文氏
トヨタ自動車株式会社 玉置章文氏

玉置章文(以下、玉置):トヨタ自動車の玉置です。本日は、障がい者や高齢者などの家庭内での自立生活をアシストする生活支援ロボット「HSR」を紹介いたします。

HSRは家庭や施設で邪魔にならず、かつ機能性を損なわない大きさを実現しています。また、あちこちにアームを伸ばすことができ、床のモノ拾いも可能です。台車部分は全方位に移動でき、移動の際には人や物を検出し、止まったり、避けたりすることもできます。自己紹介は、HSRにお願いします。

HSRは現在、高齢者向け施設やALSの患者に利用してもらい、実用化への歩を進めています。トヨタ自動車のコンセプトは「すべての人に、移動の自由を」です。高齢者やALSなど、体が動かない方々の手足となるような存在を目指し、開発を進めていきます。

株式会社MICOTOテクノロジー 代表取締役社長 檜山康明氏
株式会社MICOTOテクノロジー 代表取締役社長 檜山康明氏

檜山康明(以下、檜山):MICOTOテクノロジーの檜山です。本日は医療用シミュレーターロボット「mikoto」を紹介いたします。これは救急搬送された患者などへの措置として行う、気道確保のための経鼻経口気管挿管をシミュレーションできるものです。主に医学部生や研修医のトレーニングとして用いることを想定しています。

私たちがこだわっているのはリアリティです。外観は肌の質感から人間とそっくりのもの、体の内部は患者さんのCTデータから作りこみを行い、形、位置関係から非常にリアルな構造となっています。

また、mikotoは挿管がうまくいかなかったときに「おえっ」とえずくようになっています。単に挿管をするだけでなく、患者さんの不快な気持ちや痛みを医師が感じながらトレーニングできる工夫です。挿管が一通り終わると、実際に行った処置に対して100点満点で評価をしてくれます。

従来の挿管トレーニングは現場での実践との乖離がありました。人間の体は状況によって変化します。mikotoはその変化の機微を捉えられるよう、内外のリアリティにより、実践的なトレーニングを積むことができます。

(関連記事:「Health 2.0」で会場を沸かせた鳥取発ベンチャー。医師を育てるロボット「mikoto」が誕生するまで

株式会社オリィ研究所 代表取締役 吉藤健太朗氏
株式会社オリィ研究所 代表取締役 吉藤健太朗氏

吉藤健太朗(以下、吉藤):こんにちは。オリィ研究所の吉藤です。私は昔から体が弱く、3年半ほど学校に通えない時間がありました。その間本当に辛くて、半分うつ状態で天井を見つめ続ける日々。日本語を忘れかけたこともあります。このとき感じた孤独感をどう解決するかが、私のテーマになっています。今日ご紹介するのは分身ロボット「OriHime」です。

このロボットは機械が自律して動いているのではなく、入院している仲間が遠隔操作しています。高齢者やALSの患者が遠隔操作によって私の声を聴き、見え、触れることができるのです。

今、私たちは目だけでコンピュータを動かせるUIを開発しています。最近ではこの目だけで動かせるコンピュータを利用して、患者さんが絵を描いたり、作曲したり、さらには仕事をされる方も出てきました。将来的には、分身を使うことで自分の体を自分で介護でき、自分の意思で会いたい人に会いに行って、社会に参加できる未来を作っていきたいと思っています。

あくまで“名脇役”であれ。人の暮らしを豊かにするロボットの作り方

坂田:ここからはディスカッションに入りたいと思います。まず、皆さんがロボットを開発するうえで大事にしていることは何か教えてください。

ロボットを開発するうえで大事にしていることについて語る6人

宇山:どんなに精密で多機能であっても、直感的に使えないものは使えるようになるためのトレーニングに時間がかかります。その点、今のダヴィンチは、直感的に使うことができます。手術は急な出血など、不測の事態にも対応しなければなりませんので、直感的なUIは重要だとと思っています。

橋本:宇山先生のおっしゃるように、わかりやすく直感的であることに加え、人間の機能を向上させるアウトプットの形を作っていくことが大事だと思っています。この2つが両立すると、様々な領域で受け入れられ、社会に貢献できるのではないでしょうか。

玉置:忘れてはいけないのは「主役は人間である」ということですね。ロボットは人間の領域を侵していくようなもののように思われがちですが、人間がロボットをしっかりコントロールさえすれば、これまでできなかったことができるようになるなど、私たちの生活を大きく変えることができます。ここがロボットを開発するうえで意識しているポイントです。

吉藤:私はロボットを”ツール”の1つとしてしか考えていません。日本にはALS患者が1万人いますが、そのうち7割は自ら呼吸器を外し、死を選択してしまいます。その理由の多くが「これ以上迷惑をかけられないから」「なにもできないから」。自分で自分のことができるだけでなく、誰かに必要とされることを実感できるタスクをこなせるようになる。そのための手段としてのロボットだと思っています。

ロボットと「共存共栄」することが、より良い未来を創造する

坂田:次に、医療ロボットを推進してくためにこれから取り除いていかなければならない壁、法整備や病院の体制など、日頃感じる課題がありましたらお聞かせください。

檜山:医学においても、日本の場合は座学中心に教育がされてきました。アメリカでは実践的な教育、シミュレーターをどんどん使った教育をされています。日本でもシミュレーターを使って教育をしてくことで、実践重視の教育が進んでいけばいいなと思っています。

橋本:医療に限らず、ロボットを導入することに関してリスクばかりに目が行き、恐々としている人が多いと思っています。役に立つところをしっかりと評価して、ロボットの導入にアクティブになれば、世の中にもっとロボットが広がっていくと思います。

宇山:ロボット手術が本当に良いものなのか、評価してもらうことが必要だと思います。そして、評価された以上は皆さんが収めた税金で安心して経済的な治療を受けれるような環境を作らないといけない。

実際、我々の治療は自由診療で200万近い費用がかかります。しかし、様々なところでロボット手術が患者さんにとって良いというエビデンスがたまってきたのであれば、ロボット手術の環境を整えていく必要がある。皆さんの税金がいい医療に使われるような未来にならなければいけないと思っています。

坂田:短時間でしたが、日本の中でのモノづくり、ロボットの視点からさまざまな活動がされていることが分かったと思います。本日はありがとうございました。

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