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遠隔診療の普及に必要なのは、医療従事者のコミュニケーション力【医療法人社団ナイズ・ 白岡亮平氏】|イベントレポート

「「遠隔医療」の“今”をつかみ“未来”をつくる <第2弾>」と題されて2017年9月に行われた「MedPeer Healthtech Academy chapter4」(メドピア ヘルステックアカデミー)。

本記事では、白岡亮平氏(医療法人社団ナイズ理事長兼キャップスクリニック総院長、メディカルフィットネスラボラトリー株式会社 代表取締役最高医療責任者)による「地域医療からみた遠隔医療の需要と問題点:開業医が遠隔診療を活用するには何が必要か」と題された講演の内容を再構成してお届けします。遠隔診療が普及しない要因には技術的な問題やコストが挙げられますが、「医師のコミュニケーション力が足りていない」ことも課題なのだといいます。

「メラビアンの法則」を例に挙げ、「医師に求められる『患者を安心させるスキル』によって対面診療、遠隔診療ともにより良い医療になる」と語る白岡氏に、現在の遠隔診療と今後についてお話しをいただきました。

便利なはずの遠隔診療は、なぜ普及しないのか

医療法人社団ナイズ、メディカルフィットネスラボラトリー株式会社の代表を務める白岡と申します。医療法人社団ナイズは365日年中無休のクリニックを都内で5つ運営しており、メディカルフィットネスラボラトリーは自分自身が自分の手で健康を作り出すことのできるセルフメディケーションのソリューションを提供する会社です。(参考記事:キャップスクリニック総院長・白岡亮平氏が語る「エンタメ×医療」の可能性

医療法人社団ナイズ理事長兼キャップスクリニック総院長・白岡亮平氏

本日は地域医療から見た遠隔医療の需要と問題点、そして開業医が遠隔診療を活用するために必要な「コミュニケーション力」について現場で働く開業医の立場からお話しさせていただきます。

まず、遠隔診療のメリット・デメリットについて説明した上で、現状の動向に触れてから本題に入らせてください。

対面診療と遠隔診療のメリット・デメリット
対面/遠隔診療のメリットとデメリット

遠隔診療は、対面診療ではない診療の形式を指します。近年「遠隔診療」と耳にする機会が増えましたが、これまでも電話を通じた再診などが行われていたので、特別なことではありません。使用するツールがビデオチャットやチャットツールなどに多様化しているのが現状です。

続いて、対面診療と遠隔診療のメリット・デメリットですが、医療従事者における対面診療のメリットは「情報量が多い」ことです。一度の診療で問診、診察、検査とさまざまな対応ができるため、適切な診療ができます。患者さんにとってのメリットは、直接医師に診察を受けるので安心感があるということです。また、診察直後に処方箋を受け取れるなども特徴に挙げられます。

一方で、対面診療は医療機関としては待ちスペースの確保が必要であったり、患者数が多い場合はすぐに診察できないなどのデメリットもあります。通院の手間もあるため、患者さんにご面倒をかけてしまう場合も少なくありません。結果的に、継続診療のドロップアウトを招くことも少なくないのです。

遠隔診療は、対面診療におけるデメリットを克服するとして注目を集めています。とはいえ、導入するまでのハードルもまだまだ高い。代表的な例を挙げると、診療報酬が低いこと。また、患者さんの理解を得られないことも想定されます。たとえば、仮に誤診が起きてしまった場合「遠隔診療であったこと」が原因ではないかと判断されてしまう可能性があるのです。診療する側のコミュニケーション力の有無や、患者さんの遠隔診療に対する理解も求められるため、マネジメントのコストも膨大。こうした現状を鑑みると、遠隔診療の導入は、現在のところメリットよりもデメリットが大きいのではないかと感じています。

患者と医師の視点でみる遠隔診療の現状

遠隔診療を実践する上で整理すべきポイント7つ

遠隔診療のメリット・デメリットについて簡単にお話ししましたが、さまざまな観点から意見が飛び交うため、一度論点を整理しなければ正しく議論することはできません。遠隔診療を実践していく上で、整理すべきポイントは①対象者、②対象疾患、③提供者、④提供場所、⑤提供手段(ツール&オペレーション)、⑥保険診療か自費診療か、⑦医師法の問題です。

現状どのようになっているのか、順番に解説します。まず対象者ですが、地域に関しては東京のクリニックから北海道の患者さんを診察するニーズは高くなく、あまり効果をなしません。希少疾患を診察する場合、専門性の高い医療を提供できるメリットはありますが、それほど機会も多くないのです。そして年齢に関しては、「小児・成人・高齢者」すべてに対応することはできるものの、高齢者はツールの使い方が分からない場合もあるので、すべての年齢のニーズを満たす可能性も高くありません。

続いて、提供者について。診療所は医師以外にも看護師や栄養士、薬剤師などの医療従事者が働いています。つまり、栄養士が行う栄養指導を遠隔診療で行うことも考えられます。しかしながら現在は診療以外のことを遠隔で行い、診療報酬を得ることは許されていません。現場の医師としては、今後医師以外の職種から遠隔診療が普及することを願っています。

そして、提供する場所。遠隔診療であれば、忙しいビジネスマンであっても病院に来ることなく診察が受けられます。生活習慣病のドロップアウトを防ぐことに有用ではないかと思われます。しかし、平日の場合は出社の合間を縫って診察を受ける方が多いため、実際のところあまり効果を発揮していないケースも少なくないのです。一見すると便利でも、利用した人にしかわからないデメリットも多く存在するということは知っておくべきだと思います。

提供手段は非常に重要です。病院を経営する上で、診療報酬が低いのにもかかわらずツールを導入することはリスクです。オペレーションコストを要することや、通信状況のいかんによっては万全の診療ができないケースも想定されます。対面していないことを補うだけのコミュニケーション力があるかということも大きな課題です。

次に、保険診療か自費診療か。先ほども申し上げましたが、診療報酬が低いのにもかかわらず保険診療を提供することは医療従事者側のモチベーションには繋がりません。とはいえ、自由診療にしたところで費用は高くなるため患者さんへのメリットも少ない。これらは普及を遅らせる要因の一つです。

最後に、医師法について。法律上、遠隔診療は「直接の対面診察による場合と同等でないにしても、これに代替し得る程度の患者の心身の状態に関する有用な情報が得られる場合には、遠隔診療を行うことは直ちに医師法第20条等に抵触するものではない」とされており、問題なく診療を行うことができます。

遠隔診療の普及には医療従事者のコミュニケーション力が必要

遠隔診療が普及するために必要なものについて語る白岡氏

ここまで遠隔診療のメリット・デメリット、そして現状の動向をお話ししました。遠隔診療を普及させるためには、システム、オペレーション、スタッフ教育、患者理解、診療報酬体系といった総合的なパッケージプログラムが必要になるのですが、医療従事者のコミュニケーション力がもっとも重要ではないかと思うのです。

というのも、我々が行ったインタビューによると、クリニックを選ぶ基準は立地的条件や時間的条件が大半を占めます。つまり、大病院ではなく近くのかかりつけ医に診察をしてもらうケースが大半。患者が望んでいるのは、医師との関係性を含めた安心感なのです。

実際に皆さんも家の近くに病院がある場合、遠隔診療を提供していたとしても、おそらく対面診療の方が安心感を得ると思います。遠隔診療に踏み切る要因があるとすれば、お医者さんからすすめられた場合ではないでしょうか。

以上のことから、遠隔診療の普及には安心感が必要だといえます。そして、安心感を高めるには医師のコミュニケーション力が問われるのです。遠隔診療に必要なコミュニケーションの要素を考える際に、「メラビアンの法則」が役に立ちます。

メラビアンの法則についての説明

コミュニケーションにおける相手に与える影響は言語情報が約7%で、非言語情報が9割を占めるといわれています。また、音声情報と文字情報の違いにも注目してください。音声情報は記憶性が高く主観を伝えやすい。文字情報は記録性が高く客観を伝えやすい特徴があります。

遠隔診療では物理的な距離が遠いため、非言語のコミュニケーションの要素が減ります。必然的に文字情報が増え、客観性に偏ったコミュニケーションになってしまいます。しかし、安心感は個人の主観によるもの。医療従事者はこの点に注意し、患者さんの主観を引き出すよう配慮しなければいけません。

ただ、これは医師にとって一番大事なスキルであり、遠隔診療に限った話ではないのです。コミュニケーションを重視することは、対面診療の基本でもあります。患者さんと良好なコミュニケーションを築こうと努力することは医師が原点に立ち返るきっかけになり、それによって遠隔診療が普及していくのではないかと思います。

白岡 亮平Ryohei Shiraoka

医療法人社団ナイズ 理事長
キャップスクリニック 総院長

慶應義塾大学医学部卒業。さいたま市立病院、慶應義塾大学病院などに勤務し、小児医療を中心に地域医療に従事。2012年4月、365日年中無休のキャップスこどもクリニック西葛西を開院。同年7月に医療法人社団ナイズを設立。北葛西、代官山、亀有、紀尾井町にも開院し、医療法人社団ナイズ理事長、5つのクリニックの総院長を務める。2014年12月、メディカルフィットネスラボラトリー株式会社設立。
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