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厚労省医務技監・鈴木康裕氏が語る、社会保障関係費の増大を食い止める“3つのチャレンジ”とは?

2018.04.03

Text By
オバラミツフミ
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長谷川リョー
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松平伊織
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2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事では、厚生労働省 医務技監の鈴木康裕氏によるキーノート「平成30年医療・介護同時改定 toward&beyond」をダイジェストでお届けします。

鈴木氏は「高齢化の深刻化に伴う社会保障関係費の増大を防ぐために、現在日本は“3つのチャレンジ”を行っている」と語る。制度の改定を迎え、医療構造はもちろん、医薬品開発を行うテクノロジーや、AIを用いた技術開発に力を入れる必要があるそうだ。地域毎に変化する医療ニーズを汲み取り、最適化された医療を実現するための変革について語った。

医療・介護同時改定における“3つのチャレンジ”

厚生労働省 医務技監 鈴木康裕氏
厚生労働省 医務技監 鈴木康裕氏

鈴木康裕(以下、鈴木):厚生労働省の鈴木と申します。本日は、平成30年に行われる診療報酬と介護報酬の同時改定をテーマにお話させていただきます。私は、平成30年を“惑星直列の年”と呼んでいます。というのも、診療報酬と介護報酬の同時改定に加え、医療計画も介護保険計画も新たになり、国民健康保険も都道府県単位になるからです。

かつて日本の首相を務めた小泉純一郎氏は、ダーウィンの進化論を引用し、「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ」と述べました。

少子高齢化が深刻化する日本社会も、今まさに変化が求められています。現在我が国は、変化に対応すべく“3つのチャレンジ”を行っている最中です。一つは「人口のチャレンジ」、二つ目は「財政のチャレンジ」、そして3つめが「技術のチャレンジ」です。

今回の医療制度の改定と、今後の改定を、現在のチャレンジに照らし合わせながら解説させていただきます。

複眼的視点で考える社会保障関係費の削減

鈴木:まず、「人口のチャレンジ」についてお話しいたします。これまでの高齢化は、「高齢者の人口が増える」という現象でした。このときは、いかにサービスを増やすかが我々のチャレンジでした。しかし、これからは高齢者の数が増えるのではなく、全人口に占める高齢者の割合が増加する「比率的高齢化」へとシフトしていきます。

生産年齢人口が少なくなり、労働力が減っていきます。つまり、税金や社会保険料を払う人口が減少するのです。先進諸国と比較し、世界の中でどうやって生き残っていくかが課題になります。

社会保障費について話す鈴木氏

鈴木:こうして人口構造が変化すると、医療にも大きな影響が起こります。現在の医療は、若年層の急性期症状と、高齢者に多く見られる慢性期の症状に対応できる体制です。しかし今後は、高齢者向けの制度をより充実させていかなければなりません。

ここで、2つ目の「財政のチャレンジ」が求められます。税収の減少に反比例し、年々社会保障関係費は増加していく。

これまでは、なんとか高齢化に対応できるように必要な財源の確保に努めてきましたが、今後はその予算を必ずしも捻出できるとは限りません。子育て支援や介護制度の拡充にも予算を当てる必要があるため、さらに社会保障関係費を切り詰めなければならない可能性があるのです。しかし、あまりに社会保障関係費を削減すると、格差を拡大することにつながります。

税金や社会保障制度を使って低所得層などに所得を再分配した後の世帯所得の格差を示す「ジニ係数」に着目すると、高所得者の税金を高くするよりも、社会保障制度に当てる金額を増やした方が格差の是正につながるのです。

社会保障関係費が膨大になってしまうことは避けなければなりませんが、単一的ではなく複眼的な視点を持たなければなりません。
 

バイオ医薬品を育て、医療の最適化を図る

鈴木氏の語る”3つのチャレンジ”について熱心に耳を傾ける観客

鈴木:続いて、3つ目の「技術のチャレンジ」についてお話しさせていただきます。みなさんは「担税能力」という言葉をご存知でしょうか?

担税能力とは、産業別に課税対象となる法人が、実際に税負担を受け持つことができる能力を指します。かつては自動車産業がトップでしたが、現在は医薬品産業が取って代わっています。

リーマンショック以降、多くの産業の担税能力が下がっています。しかし、医薬品産業は景気の影響をほとんど受けていません。つまり、安定的な市場なのです。

その医薬品市場がどのような動向にあるかに着目すると、バイオ医薬品が増えています。しかし日本は、アメリカなどバイオ研究が進む国に比べてまだまだサポートが弱い。そうした現状を受け、厚生労働省はいくつかの施策を動かし始めています。

まず一つは、遺伝子検査と連携した医薬品の投与です。肺がん患者に用いる薬に「イレッサ」というものがあり、この薬は「EGFR」と呼ばれる遺伝子変異を持つ患者に投与する場合、4人に3人に効果があります。しかし、「EGFR」を持たない患者に投与しても4人に1人しか効果を発揮しません。つまり、どう考えても事前に遺伝子の検査を行った方が効率がいいのです。

今後は肺がんだけでなく、さまざまな癌で、どういった薬が相性がいいのかを調査していきます。

日本の医療に求められる、未来を見据えたテクニカルチャレンジ

鈴木康裕氏が登壇する 「Health 2.0 Asia - Japan 2017」day2のキーノートに集まる多くの聴衆
鈴木康裕氏が登壇する 「Health 2.0 Asia – Japan 2017」Day2のキーノートには、多くの聴衆が集まった

鈴木:続いてご紹介するのは、ICTを用いて医療従事者の負担を減らす取り組みです。従来、医薬品は安全性と有効性がはっきりと証明されなければ市場に出回ることはありませんでした。しかし現在は、再生医療における医薬品については、安全性さえ担保されていれば有効性はある程度の推定があれば認証を行う「早期承認」制度を導入しています。

今後は、「早期承認」制度をその他の医療機器や医薬品でも行えるように準備をしています。早期承認後に、医薬品は効果を実臨床で証明するため、市場に流通するのですが、このデータを取得するのは非常に苦労を要します。現在は、製薬会社の方が足を使って情報を入手しています。今後は、電子カルテから即座にデータを取得することで製薬会社のコストを削減したいと考えています。

また、平成30年の同時改定にあたり、介護を含めた医療制度の適正化を図ります。20〜30年後を見据えると、地域毎に医療のニーズが変化していくことが明白です。しかし臨床の現場にいると、日々の変化には気づきにくい。すると、20年後には地域のニーズと提供する医療がミスマッチを起こしているということも考えられます。

国としては、医師を含め医療業界に身を置く方々と連携し、未来を見据えた医療への転換ができればと考えています。

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