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未来をみつける

クマ型ロボット「ここくま」を持ちながら微笑む神山氏

病名にとらわれない社会へ。テクノロジーが「認知症」を生み出した社会の分断を越える

2018.04.12

Text By
半蔵門太郎
Edit By
オバラミツフミ
Photos By
松平伊織
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2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事ではモデレーターに市川衛氏(医療ジャーナリスト)、パネリストに竹林洋一氏(静岡大学創造科学技術大学院 特任教授)、神山晃男氏(株式会社こころみ 代表取締役社長)をお招きして行われたトークセッション「プラットホーム化する疾病〜認知症〜」をダイジェストでお届けします。

少子高齢化が止まらない日本。認知症への理解が深まっていく一方で、認知症を「障害」とカテゴライズすることで「健常者」との分断が大きくなっている側面もあるのではないでしょうか。認知症の問題は社会が生み出したもの。分断された社会を克服するために、医療とテクノロジーができることは?

※セッション登壇者
・市川 衛(医療ジャーナリスト NHK制作局科学・環境番組部チーフディレクター)モデレーター
・竹林 洋一(静岡大学創造科学技術大学院 特任教授)パネリスト
・神山 晃男(株式会社こころみ 代表取締役社長)パネリスト
・下河原 忠道(株式会社シルバーウッド 代表取締役)デモ
・遠山 陽介(株式会社ベスプラ 代表取締役)デモ

認知症は「社会の病気」。健常者との分断を越えるビジネスの挑戦

医療ジャーナリスト NHK制作局科学・環境番組部チーフディレクター 市川衛氏
医療ジャーナリスト NHK制作局科学・環境番組部チーフディレクター 市川衛氏

市川衛(以下、市川):市川と申します。私はNHKの制作局でディレクターをしており、医療健康系、特に認知症に関する取材を続けてきました。今回のテーマは「プラットホーム化する疾病〜認知症〜」。皆さんとディスカッションを始める前に、この「プラットホーム化」が何かを明らかにしておきましょう。

従来、認知症は「病」である認識が強く、とにかく薬を作ることに注力されていました。しかし長年の研究の末、医療や薬だけではなく、環境整備や相互理解によって症状の多くが対策可能なものであることが分かってきたのです。そのため、認知症のアプローチは医療だけでなく、ITなどさまざまなサービスに余地がある。それが「プラットホーム化」しているということなのではないかと考えています。

今回は、まさにプラットホームを構築しようとしている皆さんにお集まりいただきました。まずご紹介するのは、2017年11月28日に「みんなの認知症情報学会」を立ち上げ、その理事長に就任された竹林洋一先生です。

静岡大学創造科学技術大学院特任教授 竹林洋一氏
静岡大学創造科学技術大学院特任教授 竹林洋一氏

竹林洋一(以下、竹林):竹林と申します。今年の春に静岡大学の教授を定年退職し、「みんなの認知症情報学会」を立ち上げました。市川さんのおっしゃったように、認知症ケアには社会のあらゆる機能を結集させていかなければならないと思っています。つまり、ビジネスチャンスでもある。特に次世代の認知症ケアは人工知能と親和性が高いのではないかと思っています。

市川:それではデモに移りましょう。まず、高齢者の方に会話サービスを提供されてらっしゃる株式会社こころみの神山晃男さんです。

神山晃男(以下、神山):こころみの神山と申します。本日は弊社の提供する「つながりプラス」を紹介します。「つながりプラス」は、認知症に限らず、一人暮らしをされている高齢者の方に弊社のコミュニケーターが毎週お電話をして話し相手になるサービスです。

株式会社こころみ 代表取締役社長 神山晃男氏
株式会社こころみ 代表取締役社長 神山晃男氏

神山:会話内容は何気ない世間話で、コミュニケーターも話をじっくり聞くことが仕事です。しかし、そんな何気ない会話を聞いてもらうことが自己認識を高め、自分は価値のある存在なんだと思っていただけるんです。話を聞いてもらうことで、自分の人生に対して積極的になれるサービスだと実感しています。

また、我々がこのコミュニケーションサービスを運営するなかで蓄積したノウハウを、他のサービスに還流しています。代表例がNTTドコモが提供する高齢者向けコミュニケーションロボット「ここくま」です。クマのぬいぐるみ「ここくま」とコミュニケーションをとれるサービスなのですが、このロボットの会話のセリフやリアクションなどのシナリオを担当しています。

(関連記事:あえて完璧でないものを作る。家族の絆を思い出させてくれるロボット「ここくま」【NTTドコモ・横澤尚一氏】|イベントレポート

まだまだ入り口ですが、弊社は、生身の人間と対面したサービスを通じて得たノウハウを、テクノロジーに提供していくビジネスモデルを目指していきたいと思っています。

市川:ありがとうございました。続いて株式会社シルバーウッドの下河原忠道さんです。

株式会社シルバーウッド 代表取締役 下河原忠道氏
株式会社シルバーウッド 代表取締役 下河原忠道氏

下河原忠道(以下、下河原):シルバーウッドの下河原です。弊社は「VR認知症体験プロジェクト」を提供しています。文字通り、バーチャルリアリティ(VR)の技術を活用し、認知症の中核症状を体験するものです。私がこのプロジェクトを始めたのには、高齢者向け住宅を運営する中で感じた、認知症に対する現場と社会の認識の乖離が問題意識にありました。

社会の多くの人は認知症に対してネガティブなイメージを持っていると思います。そういったイメージは、私たちが認知症の方たちを施設や病院に追いやり、健常者との分断を生むことで増幅されていきます。認知症が問題なのではなく、むしろ認知症の当事者が生きづらい社会に問題があるということを、 VR認知症体験会を通じて伝えています。

市川:ありがとうございました。続きまして、株式会社ベスプラの遠山陽介さんお願いいたします。

遠山陽介(以下、遠山):ベスプラの遠山と申します。本日ご紹介するのは弊社が開発・提供している脳の健康維持アプリ『脳にいいアプリ』です。多数の論文・研究を精査するなかで発見した、脳が活性化するために必要な「運動」「食事」「脳トレ」「コミュニケーション」を促進するコンテンツです。

株式会社ベスプラ 代表取締役 遠山陽介氏
株式会社ベスプラ 代表取締役 遠山陽介氏

遠山:それぞれどのようなコンテンツを配信しているのか紹介していきましょう。まず「運動」では歩数計測を行います。しかし、ただ単に歩数計の機能を果たしているわけではありません。個人の情報からAIが適切な歩数を「目標歩数」として提示してくれます。また、累計の歩数距離を東海道五十三次や四国のお遍路に換算することで、思わずいっぱい歩きたくなるようなデザインをしています。

「食事」では栄養素や酵素があらかじめ表示されており、食べた品目をタッチするだけで入力完了という簡便なUI設計にしています。また、「脳トレ」では計算問題・パズル問題・記憶問題が対戦型でプレイすることができます。

そして、これらのデータを家族に共有することで「コミュニケーション」が生まれる仕組みです。このアプリを提供し始めてまだ10ヶ月ほどですが、実際に認知機能の向上、脳の活性化が化学的に証明できています。これからどんどんデータを取得し、研究を進めていきたいです。
 

未開拓だからこそ、チャンスはある。ケアビジネスのマネタイズ状況は?

市川:医療の文脈で捉えられていた認知症が、社会全体で幅広く取り組むべきものとして認知されていくなかで、ビジネスチャンスも生まれてきているのではないでしょうか。今回はその先駆けとしてサービスを提供している皆さんに、実際のマネタイズの状況をお聞きしたいです。

神山:私たちは他にも、親の自分史を届ける「親の雑誌」というサービスを提供しています。喜寿や米寿などのお祝いの際に作って楽しんでもらう家族が多く、サービス全体としては「つながりプラス」ではなく「親の雑誌」でマネタイズしている状況です。

竹林:ビジネス的な側面で捉えると、「ここくま」のような大企業のサービス開発に参画するやり方もあるのではないかと思いました。

神山:おっしゃる通りです。「ここくま」におけるNTTドコモような大企業とのコラボレーションは、ベンチャー起業が規模を大きくしていく契機になるのではないかと思っています。

市川:ありがとうございます。下河原さんはいかがでしょうか。

下河原:VR業界は、将来を見据えると指数関数的に成長すると考えています。現在はまだ爆発的に成長する段階ではありませんが、今のうちに良質なコンテンツをたくさん生み出すことが肝要です。爆発的な成長フェーズに備えられるかが勝負だと思っているので、今はマネタイズできていなくても、いつか必ずリターンがくると信じて一生懸命取り組んでいます。

市川:ありがとうございます。遠山さんはいかがでしょうか。

遠山:「アプリを提供している」とだけ聞くと、マネタイズまでできていると思われがちです。しかし実際は赤字で、マネタイズできていません。現在のマネタイズポイントはアプリ内の一部課金制、より詳しい検査の提供、他の事業者さんとのサービス展開の3つです。しかし、これからデータが蓄積していくことで、ビッグデータ研究の分野に還流できるのではないかと思ってます。
 

「認知症」も「障害」もキャラクターの一部。プラットホーム化の実現は、分断を越える契機になる

分け隔てない社会の重要性について語る下河原氏の話を聞く一同

市川:最後に、認知症に関するサービスが広まっていくために大事なポイントをお伺いできればと思います。

下河原:「認知症」も「障害」も、誰かが作り出したイメージによって悪印象を増幅させています。ただ単にキャラクターが違うだけ。疾病はたしかに存在します。しかし、だからといって分断するのではなく、分け隔てない社会にしていくことが理想なのではないのでしょうか。世の中の争いごとの原因は、相手の立場に立って考える想像力の欠落にある。そして、その欠落を補完する力がVRにはあると感じています。

遠山:現在、社会の大多数が「予防しなくても認知症にはならない」と思っているようです。予防しようと思う人は少数派。しかし、この多数派にどれだけアプローチできるかが「プラットホーム」の力だと思っています。

さまざまな疾病があるなかで、「Aの疾病にはこれ」「Bの疾病にはこれ」といったように、ソリューションを蓄積することが「プラットホーム化」です。認知症はたくさんある疾病の中の1つでしかない。私はアプリを提供していきながら、プラットホームを構築するデータを集めていきたいと思っています。

市川:ありがとうございます。このセッションの中で、サービスを作る際に「認知症の症状」に最適化するのではなく、受ける方がそのサービスを使いたいと思うか、その人のお役に本当に立つのか?を考えていくことが大事だと感じました。また、これからデータをこれからきちんと蓄積していことで、AIの助けを借りつつ、より良いサービスが生まれていくのだと思います。

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