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「患者が医療チームのCEOである」シリコンバレーの起業家 Robin Farmanfarmaianと考える“Health 2.0”の全貌

2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事では、Actavalon(癌治療を目的とする分子製薬企業)のVice Presidentであり、『The Patient as CEO』の著者でもあるRobin Farmanfarmaian氏を迎えたセッション「技術革新により患者が決定権を握る」をダイジェストでお届けします。

Robin氏が医療業界に携わるきっかけになったのは、16歳のときに自身が受けた誤診。壮絶な治療を経て「最適な医療にはテクノロジーの進歩が不可欠」だと考え、テクノロジーが実現する「患者が決定権を握る医療」の推進を掲げています。Robin氏が描く「患者がCEO」の世界観とはどのようなものなのか。シリコンバレーにみる最先端の医療から、“シームレスな医療”の全貌に迫ります。

テクノロジーの進歩が実現する、「患者主導の医療」とは?

The Author of The Patient as CEO  Robin Farmanfarmaian氏
The Author of The Patient as CEO Robin Farmanfarmaian氏

Robin Farmanfarmaian(以下、Robin):Robin Farmanfarmaianと申します。私の人生の目標は「最低でも1億人の患者さんに、ポシティブな影響を与えること」です。VRを用いて体が麻痺してしまった患者さんや癌患者さんを助けようと、いくつかの初期ステージの医療系スタートアップに関わり、仕事をしています。

その背景にあるのは、私自身、16歳で誤診を受けたことです。これまでに、43回の入院と大きな手術を6度経験しました。病院を転々としましたが、誰一人として「テクノロジーが進歩するまで待とう。今後、より良いソリューションが生まれるかもしれないよ」と声をかけてくれるドクターには出会えませんでした。テクノロジーが発達した未来まで手術を待てば、私は臓器を3つ失わずに済んだかもしれません。

26歳のときに、ドクターは私に「君はもう治癒したよ」と言いました。しかし、耐えきれないほどの痛みが私の体には残っていたんです。すると、服用する鎮痛剤の量が次第に増えていき、1日80mgのメサドン(合成鎮痛薬)を服用していました。

自宅療養に関するスライドの前に立つRobin氏

Robin:次の診察時に「もう薬をやめたい」と告げましたが、ドクターは「脊椎にモルヒネポンプを埋め込もう」と言ったんです。「私はまだ26歳なんです。ふざけてるんですか?」と反論しました。死ぬまで薬漬けの人生はうんざりです。そこで、私を診てくれていた医療チームに別れを告げ、新たなチームを結成しました。彼らは正確な判断を下し、私にレミケード(TNFαという生体内物質の働きを、抗体によって抑える抗体製剤)を処方してくれたんです。すると、たった24時間以内に寛解しました。たった一晩の出来事です。

患者が主体的に医療を選択できるようになれば、これから先の医療は大きく変容します。本日は、「技術革新により患者が決定権を握る」というテーマでお話しさせてください。
 
 

“シームレス”が世界のトレンド。加速する遠隔診療が医療の常識を刷新する

Robin:近年、point of care(診療所や家庭などその場で迅速に検査する仕組み)を実現する機器が充実しつつあります。患者さんは、もう病院に足を運ぶ必要がありません。

たとえば、99ドルの単極誘導の心電図を使い、データをクラウド上にアップデートしてAIに読解してもらいます。もし医師に診てもらう必要があれば、遠隔診療を使えばいいんです。遠隔診療の市場は、2015年には世界で180億ドルほどの規模しかありませんでした。しかし、2021年には412億ドルのマーケットになると予測されています。

point of careについて説明するRobin氏

Robin:遠隔診療にまつわる世界の動きを見てきて、さまざまなトレンドに気づきました。たとえばシリコンバレーでは、ドラックストアチェーンがクリニックとパートナーシップを結んでいます。

ドラックストアでNurse Practitioner(ナース・プラクティショナー:一定レベルの診断や治療などを行うことが許された看護師)の診断を受けることができ、必要があれば、米国最大手の医療機関の一つであるCleveland Clinic(クリーブランド・クリニック)のドクターとバーチャル空間でつながることができます。

また、米国最大の医療団体であるKaiser Permanente(カイザー・パーマネンテ)が昨年行った調査を紹介させてください。従来は病院に足を運ばなければいけなかった診察のうち、およそ50%をバーチャルに切り替えることに成功したそうです。

こうした動きが加速し、現在は食物アレルギーや性感染症、甲状腺機能なども自宅でチェックできるようになっています。脳のチェックも自分でできるようになっていて、認知症や脳震盪なども早期に検出できるんです。すると薬剤による治療も可能になります。これらはすでに、FDA(アメリカ食品医薬品局)で承認を得ています。

遠隔診療のトレンドについて説明するRobin氏

Robin:私の持病を治療するには6週間ごとにレミケードを投与する必要があり、これまでは2万8,000ドルの費用が必要でした。しかし、自宅でレミケードを投与すれば1万ドルで済みます。病院へ移動する手間も要りません。患者経験が大きく変化しているんです。私たちは、テクノロジーが進歩する過渡期にいます。シームレスな医療が実現しつつあるのです。
 
 

医療における患者は、会社でいうCEO。専門家を雇い、自身の健康をデザインせよ

Robin:医療という大きな概念のなかで、患者はCEOの役割を担っています。会社のCEOは専門的な知識をすべて網羅した存在ではありません。マーケティングやファイナンス、法務、それからエンジニアリングなど、必要な専門家を束ねているのです。方向性を定め、最終的に責任も持つことが仕事です。

医療における患者の位置付けは、会社でいうCEOに他なりません。医療の専門家でなくても、自分の健康は自分でつくることができます。しかしながら、「自分の医療をコントロールする」ことに恐怖心を持つ方もいるでしょう。

そこで私たちは、企業や病院に「健康と生命のコーチングプログラム」を提供しています。医療の専門家ではなくとも、AIをはじめとするテクノロジーで自身の健康を守ることができるんです。

患者が主導権を握ることについて語るRobin氏

Robin:たとえば患者さんは、提示されたある一つの治療計画に対して準拠できないこともあるでしょう。しかし、新たな治療法を探す方法を知らなければ、治療やリハビリを受けられなくなってしまいます。

そういったことを避けるために、コーチングという形で指導するわけです。研究を重ね、多角的に情報を集めることで、複雑性を解決します。

ここで一度、少し考えてみてください。人生のなかで、我々は患者になることがあると思います。あるいは、親しい人の面倒をみることもあるでしょう。皆さんは、あなた自身の健康を守る医療チームのCEOです。さあこの瞬間から、行動を変えていこうではありませんか。

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