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糖尿病はいまや世界的な“パンデミック”。予防に求められるのは「わかりやすさ」と「人とのつながり」

2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。
本記事では、Health 2.0の共同創設者であるMatthew Holtがモデレーターを務めたトークセッション「プラットフォーム化する疾病~糖尿病~」をダイジェストでお届けします。

厚生労働省の発表によると2016年時点、国内で「糖尿病が強く疑われる者」は1,000万人を上回り、世界には4億人以上の糖尿病患者がいるとされています。今や糖尿病は、世界的な“パンデミック”とも呼べる状況にあるのです。

「3大」には数えられないものの、糖尿病はそれらに匹敵するほど罹患率の高い「生活習慣病」。糖尿病は普段の「予防」が重大な影響を与えます。予防において人の行動をデザインするのはビジネス、IT、テクノロジーの得意分野。今回のトークセッションでは国内から海外まで、実際に糖尿病「予防」から「治療」まで幅広いフェーズで支援をするフロンティアをお招きしました。

※セッション登壇者
・Matthew Holt(Co-Chairman, Health 2.0)モデレーター
・菊池 守(下北沢病院 病院長)パネリスト
・松本 健吾(株式会社レスキー 代表取締役 社会医療法人敬和会大分岡病院創傷ケアセンター 医師)デモ
・Ed Deng(Health2Sync Co-Founder & CEO)デモ
・Thomas Dijohn(dacadoo ag sales department Vice President Asia-Pacifi)デモ
・脇 嘉代(東京大学大学院医学系研究科社会連携講座 健康空間情報学講座 特任准教授)デモ

Matthew Holt(以下、Matthew):Health2.0のCo-ChairmanであるMatthew Holtと申します。本日のテーマは「糖尿病」。糖尿病は地域を問わず、最も大きな慢性疾患といえます。国によっては医療費の10%~15%が糖尿病に当てられるほどです。

Health 2.0 Co-Chairman Matthew Holt氏
Health 2.0 Co-Chairman Matthew Holt氏

これほどの状況にありながら、糖尿病の「管理」は十分な状況ではありません。これから糖尿病を「感知」し予防へ繋げていくには、決定的なHow、つまり「プラットフォーム」が必要不可欠です。本日はこの「プラットフォーム化」をどのようにして推進していくのかをディスカッションしていきます。まず、パネリストの菊池先生から、日本の糖尿病の現状をお話していただきましょう。

菊池守(以下、菊池):下北沢病院の菊池と申します。日本では現在、糖尿病予備軍が1,000万人、そして糖尿病患者が1,000万人おり、罹患者は増加傾向にあります。

下北沢病院 病院長 菊池守氏
下北沢病院 病院長 菊池守氏

特に問題なのが、病気と主体的に向き合おうとする人が少ない現状です。35%の患者が未治療または治療中断。40代の過半数が検診で危険性を指摘されても診断に行きません。糖尿病の患者さんが自分をコントロールし、治療を継続的に行っていけるようデザインするのは、今後取り組むべき大きな課題といえます。
 
 

パンデミックはビジネスチャンスにも。1,000万人の「潜在顧客」に届けることができるか

Matthew:それでは、日本で糖尿病ケアをされているお二方にお話を伺います。まずは脇嘉代さん、お願いいたします。

脇嘉代(以下、脇):脇と申します。本日は私が所属する東京大学の講座で開発された「GlucoNote」をご紹介します。「GlucoNote」は、糖尿病とおよびその予備群の方を対象とした自己管理支援アプリです。

東京大学大学院医学系研究科社会連携講座 健康空間情報学講座 脇嘉代氏
東京大学大学院医学系研究科社会連携講座 健康空間情報学講座 脇嘉代氏

:GlocoNoteの使用者は、体重・血圧・血糖値等の基本データ、さらに毎日自分が食べたものを登録します。すると登録毎に、摂取カロリーから食事に含まれるの栄養素まで、システムからの自動フィードバックを得ることが可能です。このフィードバックをもとに、生活習慣を改善することができます。

また、このアプリは米Apple社が提供する医療研究支援フレームワーク「ResearchKit」を利用しているため、同意を取った上でアプリ内のデータをすべて臨床試験に使用することができるのです。

菊池:糖尿病の重症患者と話をしていて思うのは、意識的に「これが合理的だ」と突き付けるよりも、無意識に働きかける仕組みが必要だということ。

たとえば、私の知人には、『Pokémon GO』を今でも続けている人がいます。あれこそ、まさに「行動変容」なんです。それまで全く行動を起こそうと思っていなかった人たちを自然に歩かせています。「GlucoNote」は患者のモチベーションに対し、どのようなアプローチをとっていますか?

:ただ単にデータを登録するだけではなかなか習慣化しません。データが可視化され、データに対するメッセージを受け取れることがモチベーションの向上につながっていきます。双方向のコミュニケーションがモチベーションに繋がっていくのではないでしょうか。

Matthew:ありがとうございます。続いては株式会社レスキー代表取締役、松本健吾さんです。

松本健吾(以下、松本):松本と申します。本日ご紹介するのは、私たちが研究開発している『足ケアナビ』です。糖尿病の併存疾患のひとつとして、足が変色したり痺れをもたらす足病変があります。「足ケアナビ」は、足病変のケアのために糖尿病診療医と足病専門医をつなぐ遠隔診療相談ソフトです。どんな機能なのか、実際にやってみましょう。

「足ケアナビ」の画面

松本:画面に出ているのは私の足です。スマホで撮影したものをアプリに読み込ませると、AIが画像を診断し、1次判定を出してくれます。判定結果は青色信号ですので、私の足は異常はありません。

黄色・赤信号が出ると、2次測定へ移動しQ&Aを行います。Q&Aをこなすと、黄色信号が赤信号に変化している場合があります。判AIが診断し、人間の症状を重篤と断するのです。重症と診断された患者はボタンを押すことで即時に専門医とのオンラインチャットを開始できます。一度このツールを用いることで早期発見が為され、足の切断を免れた患者さんがいました。

株式会社レスキー 代表取締役 社会医療法人敬和会大分岡病院創傷ケアセンター医師 松本健吾氏
株式会社レスキー 代表取締役 社会医療法人敬和会大分岡病院創傷ケアセンター医師 松本健吾氏

松本:これから1,000万人もの糖尿病患者と対峙することになると、AIの力は必要不可欠になってきます。我々は「足ケアナビ」で、AIによる糖尿病診断のプラットフォームを構築していきたいです。

菊池:AIを活用するお話がありましたが、今後、糖尿病治療におけるAIとの関わりはどのように変化していくとお考えでしょうか。

松本:さまざまなパターンが考えられると思いますが、最も大きな問題は医療従事者の慢性的な人員不足です。医師の学習や文献検索など、雑務をAIがこなしてくれるようになれば、より現場は効率化するのではないかと考えています。

Matthew:お二人のサービスは、現在どのような広がりを見せていっているのでしょうか。

松本:今年の5月に一般公開をしましたが、まだそれほど普及が進んでない現状です。やはり医師の立場からすると、なかなか通常業務に追加してオンラインで診療する時間がありませんので、リソースをどのようにして割くかが今後の課題です。

:現在の利用者は1,000人弱です。来年度からはNTTドコモさんとともに商用化することも決まっていて、ビジネス化を進めるで広まっていくのではないかと考えております。
 
 

患者の重い腰を上げられるか。「患者中心主義」なツールが市場で生き残る

Matthew:続いて海外の事例を紹介します。Health2Syncの共同創業者でいらっしゃいます、Ed Dengさんです。Health2Syncは台湾の企業で、台湾の国家プロジェクトにも参画しています。それではEdさん、よろしくお願いいたします。

Health2Sync Co-Founder & CEO Ed Deng氏
Health2Sync Co-Founder & CEO Ed Deng氏

Ed Deng(以下、Ed):Health2Syncの共同創業者のEd dengと申します。今回は私たちが提供しているアプリ「スマートヘルス」をご紹介します。スマートヘルスは、健康にかかわるあらゆる情報が一元管理できるアプリです。日々の食事から血糖値、体重の変化まで、直感的な操作で記入することができます。

スマートヘルスの大きな特徴が「パートナー機能」です。追加された「パートナー」はその人のあらゆる数値を観察することができます。医療従事者だけでなく自分の家族をパートナーとして追加することができ、数値の面から体の変化を感じ取り、声をかけたりエールを送ることが可能です。たとえば、いま私は日本にいますが、アメリカの祖母のデータをチェックし、すぐに応援メッセージを送ることができます。

私たちの理念は患者を第一に考える「患者中心主義」です。これからも患者さんの生活の質を向上させる、全く新しいソリューションを提供していきたいと思っております。

Matthew:ありがとうございます。続いてはdacadooのThomas Dijohnさんです。

Thomas Dijohn(以下、Thomas):dacadooのThomas Dijohnです。私たちは数値化された「ヘルススコア」で自らの健康状態を管理するアプリ「dacadoo」を提供しています。「ヘルススコア」は食事、睡眠、体重、喫煙、感情など、記入してもらったデータをもとに生成しています。現在の私のヘルススコアは731です。平均値が600ほどなので、少々健康といえますね。

dacadoo ag sales department Vice President Asia-Pacific Thomas Dijohn氏
dacadoo ag sales department Vice President Asia-Pacific Thomas Dijohn氏

Thomas:dacadooはデータを記入してトラッキングするだけではありません。ソーシャル機能を有しており、運動や食事を友人を共有できます。また、さまざまな医療機器・医療アプリと連携することができ、自身の健康状態を克明に把握することが可能です。是非皆さん、dacadooを利用して健康をマネジメントしてみてください。

Matthew:ありがとうございました。こうした主体的にデータを記入してもらう必要があるアプリは、継続できるモチベーションが必要です。多くの人に訴求できる、モチベーションを上げる「コア」は何でしょうか。

Thomas:3つ要素があると考えています。1つはカロリーや血圧などのデータをどのように意味づけをするかということ。数字だけをみて判断するのではなく、それをどのように解釈し、どのように行動に結び付けていけばいいのか。これが分からないと長続きません。私たちはスコアを用いて「自分がいまどの段階にいるのか」を提示することでモチベーションを維持しています。

2つ目は「サポートグループ」の存在です。家族や、友達、職場の同僚など、オンラインのつながりを持つことは大きな意味を持ちます。3つ目は、金銭的なメリットです。健康になることでどれだけの対外的なメリットを得ることができるのかを提示することで、エンゲージメントが上がることが明らかになっています。

Matthew:それでは最後に菊池先生から意見を伺いましょう。ご紹介いただいたように、ヘルスケアにまつわる様々なツールが出てきています。これから糖尿病治療に対して、こうしたツールに求められることは何でしょうか。

菊池:「分かりやすさ」だと思います。これから医療は少しづつ「医師主導」から「患者主導」へ動いていきます。その中で「予防」「生活習慣」の中に含まれる膨大な情報を、どのようにわかりやすく、端的に見せていくかが重要なのではないでしょうか。

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