FUTURE

ヘルステックの未来を切り拓くためのアイデアの種をお届け

旧態依然の医薬品業界に訪れた“Pharma 2.0”の波。データヘルスで実現する新ビジネスの可能性

2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事ではモデレーターに沼田佳之氏(『Monthlyミクス』編集長)、パネリストに三好昌武氏(社会保険診療報酬支払基金 専務理事)、横田京一氏(大日本住友製薬株式会社 IT&デジタル革新推進部長)を迎えたセッション「Pharma 2.0 データヘルスの夜明け」をダイジェストでお届けします。

予防医療の推進により、“脱・病院”の機運が高まっています。病気を治療するのではなく、病気になりにくい体を保つ習慣をつくるべく注目されているのが「データヘルス」です。表題にもある通り、日本ではまだ「夜明け」ともいうべきフェーズ。医療業界を長年にわたって見つめてきた有識者たちは、データヘルスによって変化していく医療をどのように捉えているのでしょうか?

※セッション登壇者(所属・役職は登壇時時点のものです)
・沼田佳之氏(株式会社ミクス 代表取締役 兼『Monthlyミクス』編集長)モデレーター
・三好昌武氏(社会保険診療報酬支払基金 専務理事)パネリスト
・横田京一氏(大日本住友製薬株式会社 IT&デジタル革新推進部長)

医療データを集約し、新たな医療モデルを創る。国家が推進するデータヘルスの未来

株式会社ミクス 代表取締役 兼 『Monthlyミクス』編集長 沼田佳之氏
株式会社ミクス 代表取締役 兼 『Monthlyミクス』編集長 沼田佳之氏

沼田佳之(以下、沼田):『Monthlyミクス』編集長の沼田と申します。本セッションのテーマは「データヘルスの夜明け」です。一口にデータヘルスと言いましても、ビッグデータやリアルワールドデータ、検診データなどさまざまなイメージがあるかと思います。どのデータを取っても、今後の医療をよりよくしていくために欠かせないものです。

記者として今後の医療について注目しているわけですが、本日は極めて重要なお話を、お二人のゲストにお伺いしていこうと思っています。まずは、社会保険診療報酬支払基金 専務理事の三好昌武さんお願いいたします。

三好昌武(以下、三好):社会保険診療報酬支払基金の三好と申します。少し私の経歴について話をさせていただくと、25年ほど医薬品とヘルスケアの領域で証券アナリストをしておりました。

「支払基金」という組織は、「特別民間法人」です。厚生労働省の管轄下にあるため、従来は厚生労働省の人間が理事長あるいは専務理事を務める仕組みでした。しかし現在は、そうした仕組みを改革しようと動き出しており、私のように外部の人間が役職についております。

社会保険診療報酬支払基金 専務理事 三好昌武氏
社会保険診療報酬支払基金 専務理事 三好昌武氏

表題にもある「データヘルス」についてですが、アナリストの経験をもとに申し上げると、非常に「散在している」のが現状です。私ども支払基金を始め、病院や民間企業など、散在したデータがインテグレートされていないのです。

こうした現状をどうにかしようと発案したのが、前厚生労働大臣の塩崎恭久先生です。2017年の7月に、「データヘルス改革推進計画」と「支払基金業務効率化・高度化計画」という二つの計画が発表されました。

計画の大枠は、支払基金と国保中央会が中心になって散在しているデータを集約し、データベースをしっかりと作ることです。人によって加入する医療保険の種類は違いますし、転職や独立など、さまざまな要因によってデータが散在してしまう現状を、一元管理することを目指しています。

沼田:三好さん、ありがとうございます。来年(2018年)の4月から、医療保険の運営権が都道府県に移管されます。ヘルスデータを用いた地域ごとの健康増進の取り組み、または医療保険や介護保険の最適化などが行われるかと思います。データを用いた新たな医療の形に期待が高まるばかりです。続いては、大日本住友製薬株式会社の横田京一さんにお話をお伺いします。
           
          

医薬品にとらわれない新ステージへ。大日本住友製薬の新たな挑戦

大日本住友製薬株式会社 IT&デジタル革新推進部長 横田京一氏
大日本住友製薬株式会社 IT&デジタル革新推進部長 横田京一氏

横田京一(以下、横田):大日本住友製薬株式会社の横田と申します。少し、私の自己紹介をさせてください。入社以来14年間、医療現場でMR(医薬情報担当者)の仕事をし、学術担当、営業所長、マーケティング部門を経験しました。その後、3年前に本社組織に異動し、現在に至ります。

三好さんのお話を受け、製薬会社としてどのように「データヘルス」に貢献できるかを考えました。ひとつ自分の中にあるのは、データが整備されていくことによって、リアルワールドデータ(診療報酬請求データや健診データなどの実診療行為に基づくデータ)を今まで以上に活用できるのではないかということです。

弊社もすでに、リアルワールドデータを用いた取り組みを実施していますので、事例を紹介させていただきます。弊社の医療費を見ると1%の社員でその約20%を占める現状にあります。すでに持病が重症化している状態にある社員に加え、今後症状が重くなるであろうと思われる社員に対して様々なアプローチを講じることで重症化を防ぎ、医療費の支出を抑えようと考えています。

製薬会社ではありますが、病気になる前に何か対策を講じようと動き出しているわけです。その一つの事例が、社員の健康管理を行う「デジ健トライアル」という取り組みです。対象社員にiPhoneとApple Watchを貸与し、普段通りの生活をしてもらいながらデータを取得し、ポイント、ポイントでアンケートに答えてもらいながら、栄養士や心理士の方がアドバイスを受けるというプログラムを実施しました。

対象社員と非対象社員を比較すると、5ヶ月後には、対象社員の体重が優位に減少していることが分かりました。ほとんどが健常人ですが、それでも大きな効果が出ています。

どのようにして健康に対する意識を変え、行動変容を起こしていくのかを追求し、データをもとに全社員の健康増進につなげていく。そして結果として、社員の生産性を向上させることを目指しています。データの活用は、健康経営を推進する契機になるのです。

大日本住友製薬の企業理念は、『人々の健康で豊かな生活のために、研究開発を基盤とした新たな価値の創造により、広く社会に貢献する』です。「医薬品」という言葉は、企業理念にありません。今後、変化する医療に合わせながら、新たなステージに立とうと考えている次第です。
      
         

データヘルスが実現する産業構造の転換とは?

沼田:ありがとうございます。製薬企業は薬をマーケットに供給する役割を担っているわけですが、健康経営を推進するということは、逆に薬を使わないことになります。医療業界に課せられている産業構造の転換が容易に想像できるのではないでしょうか。

データヘルスについて話す三好氏

三好:全国にある支払基金の支部の審査状況を見ていて気づいたことですが、病名とは別に「疑い病名」というものがあります。いわゆる境界域の患者さんを指しており、「病気のようで、病気ではない」患者さんに対し、どういった疾患判断をするかが問われます。

たとえば、「糖尿病の疑い」といった具合です。薬を投与するには早いが、とはいえ月に一度は診察を受けなければならないといった状態を指します。この症状を改善することが大事であり、横田さんがおっしゃられた「行動変容」が鍵になりますよね。

沼田:三好さんは先ほど、今国の施策として、データヘルスを推進していくとおっしゃられていました。データヘルスへの移行を進めると医療の質や具体的なサービスなどは、どのように変化していくのでしょうか?

三好:まず、無駄な医療費の削減が可能になります。先ほど「疑い病名」を例にあげましたが、ある疾患を持った患者さんが一から十まで検査を受ける事例が多々あります。データで本人のことが管理されていたら、その労力はなくなります。

沼田:そうですね。よく、残薬の問題や重複投与の問題も取り上げられるので、データヘルスによって医療費の削減以外にもさまざまな問題解決ができるのではないかと思いました。

横田さんにもお伺いしたいのですが、健康経営によって産業構造を刷新していくには、社員一人一人の参画が肝要だと考えています。そうした働きかけをした際に、自社の薬を使う価値をマーケットに訴求するにあたって、何か新しいひらめきなどはあるのでしょうか?

健康経営を自社の製薬ビジネスとどう結びつけるか話す横田氏

横田:大前提として、健康産業の一員である以上、自身が健康であるのが重要だと思っています。社員全員が健康になっていくことが、社会に貢献する一つのきっかけになるとも考えています。製薬会社ではありますが、薬を提供する以外に、ノウハウを提供するなどして横展開していくことも視野に入れていますね。

沼田:つまり、従来のビジネスモデルからの転換は意識されているのですね?

横田:そうですね。国も「薬を作って売るだけのビジネスモデルでは、もう立ち行かなくなる」というメッセージを発信しています。そうした背景があるなかで、一度成熟したビジネスモデルから脱却しなければいけないと思っています。異なる産業と連携していく姿勢が重要になるはずです。
         
          

ニューカマー不在の医薬品産業。「成熟」から抜け出すために求められること

沼田:データを横断的につなぎ合わせていこうという機運は、ビジネスサイドの方にとっても大きなメリットがあることではないでしょうか。

製薬マーケットとニューカマーについて話す三好氏

三好:先ほど横田さんが「成熟している」と表現されたように、医薬品産業はニューカマーがほとんどいません。ここ最近では、片手で数える程度だと思います。他の産業に比べ、新陳代謝のスピードが遅いのです。

こうしたカンファレンスに参加されている方は、医療産業以外で事業を展開されている方も少なくないと思います。双方がしっかりと融合していければ、大きなビジネスチャンスになるでしょう。しかし、そうした提携はなかなか実現しないのが実情です。お互いに歩み寄る姿勢を持ち、双方のことを深く知った上で議論することが求められていると思います。

横田:三好さんがおっしゃられた通り、出来上がったビジネスモデルといった中で、新たなチャレンジをしていく姿勢が求められます。その際は、従来とは違う発想をする勇気が必要になるでしょう。小さいことからはじめ、PoC(概念実証)を回していくことが大事です。そうした取り組みをしなければ、何も生まれずに産業自体が衰退していく気がします。

沼田:お二人の意見に賛同です。本日のテーマは「データヘルスの夜明け」ということで、まさにこれからどうしていくか、ということが求められます。国の施策や現在の医療の姿を理解した上で、データヘルスの価値を見出していくことが肝要でしょう。今後も継続した議論をしていただければと思っています。


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