FUTURE

ヘルステックの未来を切り拓くためのアイデアの種をお届け

64年東京オリンピック選手の今。50年来のヘルスデータから見る、スポーツ教育の未来

2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事では、国立スポーツ科学センター メディカルセンター 中嶋耕平氏をお招きしたセッション「Deep Dive:『平均寿命=健康寿命=100歳』の実現に向けて~スポーツ医学からの提言~」をダイジェスト形式でお届けします。

日本は平均寿命の長い“長寿国”ですが、一方で、健康で生きられる期間が平均寿命と乖離していることが問題視されています。高齢期における医療費高騰の一因とも考えられます。

中嶋氏は、東京オリンピックの代表選手のヘルスデータから、「高齢期の運動機能を向上するには、若い頃からの運動習慣が重要で、さらには習慣となりうる切っ掛け(Trigger)や有意義な体験の創生が重要」だと語ります。オリンピアンが教えてくれる、「健康で長く生きるコツ」について伺いました。
 ■目次


アスリートのヘルスデータから見える、老齢期の運動機能

ハイパフォーマンスセンター 国立スポーツ科学センター メディカルセンター 整形外科(医師)
国立スポーツ科学センター メディカルセンター 中嶋耕平氏

中嶋耕平(以下、中嶋):国立スポーツ科学センターの中嶋と申します。国立スポーツ科学センターは、アスリートの競技力向上を目的に設立されました。私は、この施設の中にあるメディカルセンターに勤務しています。ここでは競技力向上のために必要なデータをとっています。

私たちは、1964年の東京オリンピックに出場した代表選手に対して、4年置きにずっとメディカルチェックを行って来ました。当時、国際スポーツ医学連盟が世界各国に通達したことで各国が一斉に始めたのですが、今でもこのプロジェクトを継続しているのは日本のみです。

2016年のリオ・オリンピックの際にも、1964年の日本代表選手のメディカルチェックを行いました。選手はもう男性で平均76歳、女性で平均73歳となり、参加者も減っているのですが、それでも100名以上がクリニックにきて健康診断と体力測定を行っています。1976年からはレントゲン検査を、2004年からは骨密度検査を行っています。本日は、そのデータをお示しさせてください。

東京オリンピックの代表選手の筋力は、男女ともに、同じ年齢の中での平均値を超えています。長座体前屈などで運動能力を比較しても、やはりパフォーマンスが優れているのです。骨密度は非常に特徴的で、男女ともに同年代平均値よりも非常に高い値を示します。

早くから競技を始めると、体にかかる負荷が大きいようにも感じられますが、データから判断すると、むしろ老齢期の運動機能にいい影響を及ぼすと考えられるのです。
  

中~高齢期における運動習慣の有無が医療費高騰の分かれ目?

中嶋 耕平氏

中嶋:今日お話しさせていただきたいのは、アスリートのメディカルチェックによって得た知見が、健康寿命の延伸につながるのではないかということです。

2017年の調査によると、日本の平均寿命は、女性が87.14歳で男性が80.98歳です。男女ともに80歳を超えています。また2060年には、女性は平均寿命90歳を超えるともいわれているのです。しかし、健康寿命は平均寿命と10歳以上の開きがあります。健康寿命と平均寿命に差がある限り、多大な医療費がかかるのです。

私たちは、高騰する医療費問題を解決するには、幼少期から若年期に運動をする習慣をつけることが有用だと考えています。

スポーツ省が発表したデータによると、小学校の時点で、男子は7割、女子の5.5割が「運動が好きだ」と回答しています。ところが中学になると、男子は6割、女子は4.5割になってしまうのです。一方、「運動が嫌い」と回答するこの割合は、倍以上にもなります。特に女子は、年齢が上がるにつれて運動が嫌いになってしまうそうです。

運動機能が一般の方よりも高い東京オリンピックの代表選手の運動習慣をみてみると、やはり平均値より高い。そうしたデータからも、一度定期的な運動習慣を持つことが、老齢期の健康に寄与すると考えられます。
  

幼少期からの運動習慣が、平均寿命と健康寿命の乖離を埋める

中嶋 耕平氏

中嶋:平均寿命と健康寿命の差を埋めるためには、できる限り運動が嫌いな子どもをつくらないことが大事になると思います。高齢者が健康を維持する上で、定期的な運動習慣を持っていることが一つのソリューションになるからです。

ただ、子どもにスポーツをさせましょう、というのは文科省とかスポーツ省の仕事である一方、高齢者に運動をしましょう、というのはどちらかというと厚生労働省の仕事になっています。このように行政が縦割りだとなかなか効率的に進まないので、子どもから老人まで運動する習慣を身につけていくことを推奨していかなければいけないと考えています。

現在はスポーツ省がこの問題の解決に向けた取り組みを開始しています。これからは、高齢社会での高齢者の医療問題を見据えて、競技としてのスポーツのみならず、健康維持を目的とした子どもへのスポーツ教育が重要になってくるのではないかと考えています。

  • b.hatena
  • pocket