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HIMSSのCEOが語った、日本医療を革新する第一歩とは?

2018年12月4日から5日にかけてメドピア株式会社主催で開催された、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2018」。産学官からヘルスケア業界をリードするトップランナーたちが集い、数十にも及ぶセッションが繰り広げられました。

本記事では、HIMSS(医療情報管理システム協会)のCEOであるHarold (Hal) Wolf III氏による講演と、Health 2.0の共同創設者であるMatthew Holt氏とのディスカッションの様子を、ダイジェストでお届けします。

Harold氏は、世界のヘルスケア業界が直面している「高齢化」問題がもたらす影響と、その解決のために行なっている取り組みを紹介します。また「『自分で調べてから病院に行く』時代となりつつある現代、あらゆる医療情報を統合する必要がある」とも言及しました。世界各国、そして世界第2位のヘルスケア市場である日本で、いま求められている変革に迫ります。
 ■目次


断言しましょう。このままでは、医療が立ちゆかなくなる

President & CEO, HIMSS Harold (Hal) Wolf III
President & CEO, HIMSS Harold (Hal) Wolf III

Harold (Hal) Wolf III(以下、Hal):おはようございます。まずは私がCEOを務めている、「HIMSS」(医療情報管理システム協会)について紹介させてください。

HIMSSは、アフリカと南極を除く全大陸にコミュニティを展開している非営利団体です。南極は寒すぎますが、2019年にはアフリカへの進出も予定しています。「人の健康の最大化」をビジョンに掲げ、テクノロジーや医療情報を活用し、世界中の人びとが年齢や場所を問わず最適なヘルスケアサービスを享受できる世界を創造するための活動を行っています。グループの1つであるHealth 2.0も含め、現在では世界中に約10万人のコミュニティを形成しています。

いま我々が立ち向かっているヘルスケアの課題は多岐に渡ります。その最大の課題が「高齢化(Silver Tsunami)」です。日本はその象徴的な国ですが、アフリカを含む世界のあらゆる地域で高齢化が進行しています。今後ますます、GDP創出に寄与する労働人口は減り、一人が支えなければいけない高齢者の数も増えていきます。さらに寿命が人類の歴史上最も長くなるにつれ、生活習慣を背景とする慢性疾患の負担が増加しています。

また、医療へのアクセスにも課題があります。病院が近くにないという地理的な問題を抱える田舎に限らず、都市部についても、医療従事者の人材不足や新技術と技術習得とのギャップ、また患者側の情報収集力の向上によってより高いレベルの医療が求められることで、それを提供するキャパシティがない場合も想定されます。サービスを受ける側の教育レベルも上がっており、Health 2.0で紹介するような革新的なイノベーションが期待されるようになっているため、医療従事者に求められる負担も重くなります。

このままでは、明らかに医療が立ちゆかなくなってしまいます。こうした問題に対して、WHOとも協業しながら、デジタル技術を駆使してどう対処していけるかを考えている組織が、我々HIMSSです。

「自分で調べてから病院に行く」時代に求められる、医療情報の統合

President & CEO, HIMSS Harold (Hal) Wolf III

Hal:現代のヘルスケア領域の変革を考える前に、とある2人を紹介させてください。1人は私の愛犬バンディ、もう1人は息子のアダムです。2人とも私の宝物ですが、2人を見たときに「ワクチンを打つタイミングを考えた時、バンディとアダム、どちらの医療システムが整っているのだろうか?」と考えました。

結論から言うと、愛犬バンディの方ではないでしょうか。バンディには、彼の医師からワクチンを打つ時期が来るとお知らせがきます。しかし、アダムにはそのようなお知らせは来ません。なぜなら、システムとしての管理ではなく、「親が」それを決めるべきとされているからです。

医療システムは、ポピュレーションヘルスに始まりゲノム情報へと徐々にパーソナライズ化されつつあります。一方、現代は皆さん自身がヘルスケアに関する情報を検索・比較し、個々人で健康管理を行う、自己管理型のヘルスシステムの時代になりつつあります。この中には、健康状態が分かるヘルスアプリを使っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

医療機関が提供するパーソナライズされた医療システムと、個人が自己管理するヘルスシステム–––両者をいかに迅速に融合させ、適切なヘルスケアサービスを提供していけるかが、いまヘルスケア業界が直面している課題です。

ただ、この変化は既におきつつあります。米国では、62%の方が処方薬を自分で検索し、47%が医師に特定の薬を処方するように依頼をしています。また、58%が検索から自身で診断の当てをつけており、56%が医師に自身での診断を提案しています。つまり、病院に行く前にある程度自身でリサーチして当たりをつけてから、診察に来ているのです。

いまや、従来の医療機関における電子カルテ情報のみならず、自覚症状や日々の運動、食事といったライフログ情報をも統合し、本人及び医師に共有されるヘルスケアシステムが求められています。全ての情報が融合され、共通言語として24時間365日、どこからでもアクセスできるような形になる、そんな理想形が現実になってきています。パラダイムシフトは既に起こりつつあるのです。

医療の革新は、“一対一”から“チーム”へのシフトで生まれ変わる

President & CEO, HIMSS Harold (Hal) Wolf III

Hal:統合された様々なヘルスケア情報を、病院を訪れる前の段階から利用可能にする。そんな新たなヘルスケアのパラダイムを実現するため、HIMSSではさまざまな取り組みを行なっています。電子カルテ(EMR)システムとの連携は、世界でもすでに普及が進んでおり、すぐに日本でも利用できるようにしていきたいと思います。

そのために、先ずは従来のような「医師と患者が一対一で行う医療」から、「チームで行う医療」へと意識を変えていく必要があります。また、既存の組織にテクノロジーをただ上乗せただけでは「よりコストと時間のかかる組織」になるだけです。医療システムに新しいテクノロジーを導入するためには、テクノロジーそのものだけでなく、医師や看護師などの人材の育成と技術を活かすためのオペレーションプロセスの準備が必要になります。人材・プロセス・テクノロジーの3つが揃ってこそ、新たなヘルスケアシステムが実現するのです。

いま我々は、大きな変革の中にいます。そしてこの変革は、継続的かつ迅速に推進しなければいけません。電球はろうそくを改善していくことでは生まれませんでした。今必要なのは大きな飛躍です。ヘルスケアでも同じように、皆さんと手を携えながら、さらなるスピード感を持って変革に取り組んでいかなければなりません。

日本医療の革新は、在宅医療の領域から始まる

Health 2.0 Co-Chairman  Matthew Holt
(写真左)Health 2.0 Co-Chairman Matthew Holt

Matthew Holt(以下、Matthew):お話しありがとうございました。私の方から3つ質問させていただきます。まずはヘルスケア情報の連携を核とした新しいヘルスケアシステムへの移行についてです。アメリカではここ10年ほどで紙ベースから電子カルテベースへのシフトが成功しました。一方日本では、電子カルテの普及率はまだ35%ほど。このような状況で、お話にあったパラダイムシフトを起こすために、日本は、アメリカからどのような点を学ぶべきなのでしょうか?

Hal:アメリカで電子カルテの普及が進んだのは、政府がテクノロジーの重要性を理解し、システムの使い方のガイダンスやルール設定、EMRシステムへ移行するための投資を積極的に行なったからです。その背景には、今後ヘルスケアを平等に提供していくためには、テクノロジーが必須であるという強い信念があったと思います。日本でも、テクノロジーの重要性を認識し、適切な投資とルール設計は必要となります。

そのうえで、オープンソースの電子カルテを導入し、新技術を導入する際のルールを明確にしていくべきだと思います。そうすると、後から新しいテクノロジーやシステムを導入することが容易になるのです。アメリカではこれをしなかったために、現在、新しいシステムを導入する際にデータの相互運用性に大きなコストがかかってしまっています。その失敗から学び、日本ではオープンソースで導入していくと、効率的に普及させられるのではないでしょうか。

Matthew:ありがとうございます。続いて2つ目の質問です。何千億もの資金が流れているアメリカに比べて、日本はヘルスケアスタートアップの数も約800社と多くなく、そこへの投資額もまだまだ小さいです。そうした状況下でヘルスケアシステムそのものに大きな変化を起こすためには、特にどのジャンルで新しいテクノロジーを導入していくべきだと思いますか?

Hal:在宅医療の領域は、日本では特に注目すべきだと思います。高齢化が進むと、在宅医療のニーズも高まります。これは、日本だけでなくグローバルでのニーズでもあり、世界中が、高齢先進国である日本の動向に注目しています。この領域でのテクノロジー導入は、新たな投資先の開拓にもなり、グローバルでのビジネス展開のきっかけとなるのではないでしょうか。

Matthew:このHealth 2.0 Asia – Japanでも素晴らしいアプリケーションがたくさん紹介されているので、それらをどう在宅など高齢市場に適応させていくかということが必要ですね。最後に、HIMSSの今後の構想を教えてください。

Hal:世界中にHIMSSのシステムを広げていきたいと思っています。いま、世界中が高齢化や医療情報の連携といった同じような問題に直面しており、同じような解決策を模索しています。この領域に、最大限我々の力を活かして最適化していこうと思います。

そしてグローバルに拡張していく上で、日本は最も重要なマーケットのひとつです。日本のヘルスケア市場の規模は、世界第2位。イノベーションを実行する能力も、医療ニーズも極めて大きい。ですから、この日本でいかにしてヘルスケアのイノベーションを起こしていくか、HIMSSとHealth 2.0、メドピア、そして参加者の皆さんと一緒に考えていけたらと思います。

Harold (Hal) Wolf III

President & CEO, HIMSS

Harold (Hal) Wolf III世は医療情報管理システム協会(HIMSS)のCEOである。HIMSSは北アメリカとインターナショナルの2つの組織から構成される、グローバルな会員制組織であり、HIMSS Analytics部、市場調査・データサービス部、メディア部(各種媒体)、Personal Connected Health Alliance部、Health 2.0(デジタルヘルスカンファレンス)の各部門において、ITを駆使した健康改善を実現するために活動している。
Wolfは、mhealth(モバイルヘルス)、製品開発、ケアモデル統合、流通、ITイノベーション実証等の専門家として約35年の経験を持つ経営者として、国際的に認知されており、end-to-endな運営、委託、データデザイン設計の導入において世界中のヘルスケアシステム、医療機関をサポートしている。

Matthew Holt

Co-Chairman, Health 2.0

Matthew HoltはHealth 2.0の共同創設者。英国ロンドン出身。1990年代は米国のInstitute for the Future(未来研究所)にてヘルスケアの未来学者、そして市場調査会社のHarris Interactiveにてアナリストを務める。2000年代初めには、PHRのスタートアップに籍を置き、その頃から今や10万人の読者を誇るヘルスケア分野では著名なブログ、「The Health Care Blog(THCB)」の執筆をつづけ、その後、Health 2.0の設立に参画。THCBは現在、Health 2.0のメディアの一つになっており、Matthewも時折寄稿している。
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