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「学術からビジネスへ」AI×医療の未来【エクサインテリジェンス代表・春田真氏】|イベントレポート

2017.06.05 9:40

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長谷川リョー

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RHS2 ディープラーニング 人工知能(AI)
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「AI×医療の”今”をつかみ”未来”をつくる」をテーマに2016年9月に行われた「Realtime Healthtech Seminar vol.2」。本記事では、春田真氏(株式会社エクサインテリジェンス 代表取締役会長)による「AI×医療の未来」と題された講演の内容を再構成してお届けします。

ディープラーニングを駆使しながら医療分野におけるプラットフォーム構築を手がけるエクサインテリジェンスの春田真会長がこの分野で会社を設立したきっかけ、ビジネスシーンにおけるAI技術の活用の最前線、そして今後のAI×医療の展望を語る。

「エクサインテリジェンス」設立のきっかけ

今から理解する人工知能(AI)の歴史とディープラーニング」で人工知能の歴史に関するプレゼンテーションを行った浅谷(学嗣)とともに2016年2月にエクサインテリジェンスという会社を立ち上げた春田と申します。

私はもともとDeNAという会社で初期より約15年半勤めてまいりましたが、2015年の6月に退任し、ベンチャー投資・育成に注力すべくベータカタリストという会社を設立しました。そのなかで、「自分たちとしてもこういうサービスや事業があれば良いのではないか」と思うものについては、自らで立ち上げることにしました。そのうちの一つが遠隔医療相談のプラットフォームです。2016年に「first call」(ファーストコール)という名でそのサービスをスタートさせましたが、出会いもあり、会社自体をメドピアグループに入れて共同で事業をやっていくことになりました。

遠隔医療の他にもやりたいことがいくつかあり、その一つが人工知能(AI)、特にディープラーニングを使ったサービスでした。浅谷とは対照的に、私はもともと文系出身。それでもDeNAという会社では、DNA解析を行う「MYCODE」や人工知能を使った自動運転サービスの開発など様々な種類のサービスに携わってきました。

浅谷は「6ヶ月も勉強をすればディープラーニングを使えるようになる」と言っていましたが、やはり文系出身の自分にはややハードルが高いもので、事業をやるにしてもパートナーを探す必要がありました。そうした中、たまたま京都大学で産業連携の制度があり、そこである先生に「京大に面白いやつがいる」と紹介されたのが、現在エクサインテリジェンスでCEOを務める古屋です。古屋とディープラーニングについての会話をしているなかで、彼は「僕は人工知能を作ること自体にそもそも意味を見出していない。単なる研究機関にするつもりは全くない」と言っていました。

僕自身も、人工知能とは単純にコンピュータに何かをさせるテクノロジーの一つであると捉えていました。あくまでも技術であるということを前提にしたとき、今後それを使った色んなサービスが出てくることは想像に難くありません。とりわけディープラーニングがその中心になっていくのではないかということについては、確信めいたものが自分の中にあり、それを発展させていくことはもちろん、発展の過程でも様々なサービスが生まれていくのではないかと考えていました。

FacebookやGoogleといった巨大企業の防波堤となるために


(本記事内のスライド資料の権利はすべて株式会社エクサインテリジェンスに帰属)

後ほども触れますが、GoogleやFacebookといった海外のプラットフォーマーが次々と人工知能関連の成果を上げ始めているのは皆さんも周知の通りです。そうしたなか、アメリカに対して日本の研究は後塵を拝しているのではないかということも盛んに議論されています。たしかに研究レベルでみたときに遅れている部分があることは否めないかもしれませんが、それを以って負けとするのは違うのではないでしょうか。

サービスやプロダクトを提供するメーカーさんからすれば、人工知能分野を牽引しつつあるGoogleのようなプラットフォーマーとは、共に仕事をしていく関係性にあるため、単純な負けということにはなりません。では、機械学習をはじめディープラーニングの基本的な考え方もまだ十分に浸透していないなかで、我々ベンチャーは何をやっていくべきなのか。テクノロジーはもちろんのこと、サービスレベルでお客様に納得されるサービスを作っていかなくてはなりません。それを突き詰めることが結果的に、GoogleやFacebookのような巨大企業に対する防波堤にもなるのではないかという思いで、会社をスタートさせました。

若い学生や研究者の方ともお付き合いをさせていただくなかで、やはりアカデミア側のバックボーンも必要だということを実感し、早稲田大学の尾形哲也先生や、京都大学の鹿島久嗣先生に技術顧問として入っていただくことになりました。お2人には簡単なアドバイスをもらうだけではなく、我々が今作っているプロダクトにも積極的に意見をうかがう形で、実際に工数をいただきながら一緒にやっていただいています。どんなことにチャレンジしているかといいますと、一言でいって「産業をつくる」ということです。まだまだ産業として明確になっている分野ではないため、自分たちで設計図を書き、自分たちで作ってみようということでやっています。

浅谷のプレゼンにもありましたが、人工知能自体は1950年代より議論されています。特に医療分野においては、かなりのものが技術的に80年代には出来上がっていました。現時点においても、大量のデータから特定のものを抽出するということに関してはコンピュータが人間に勝っているということは言うまでもありません。

「人工知能」が学術レベルから一般大衆に広がっていくために

学術レベルの議論だけをしていても、どうやって一般大衆にサービスとして受け入れられていくのかは見えてこないでしょう。

近年、人工知能が一般にも広く知られるようになったきっかけとして、IBMのワトソンがアメリカのクイズ番組「Jeopardy!(ジョパディ!)」でクイズ王を負かした出来事があります。さらに2016年にはコンピュータの囲碁プログラム「AlphaGo(アルファ碁)が韓国のトップ棋士であるイ・セドルを下したことが話題になりました。こうしたニュースは広く一般に人工知能を知らせるマーケティングという意味でも非常に効果的であったと思います。

囲碁だけではなく、実際の社会で人工知能はどのように使われていくのでしょうか。医療、金融、自動車といった分野で活用されていくのは間違いありません。最近では「チャットボット」が注目を浴びていますが、言語解析も人工知能によって洗練化されつつあります。

我々としてどんなプラットフォームを作っていくのかを説明する前に、人間の脳を考えてみてください。脳の構造も前頭葉、側頭葉、小脳などの部位ごとに役割が分かれています。

APIという言い方が適切なのか分かりませんが、人工知能もパッケージとして一括りのものというよりは、人工知能ごとにやれることが分化しています。画像認識、音声認識、言語認識といったAPIの一つ一つを賢くしていこうという研究が日々なされているのです。

ワトソンにも実は20数個ほどのAPIがあります。彼らは「人工知能」という言い方はしませんが、それぞれのAPIを必要とするサービスに個別に差し込んでいく形でスタートしていると思われます。

ではディープラーニングを活用して事業に生かしていこうというときに、どうすればいいか。実際のところ、社内のなかでも人工知能、特にディープラーニングを使いこなせる人材は非常に少ないと言わざるを得ないでしょう。

人工知能の歴史自体は長いですが、その成果が急激に上がり始めたのはここ2〜3年です。たとえば製造部門に勤められている方や優秀なエンジニアの方々のなかには最先端の論文をキャッチアップし、技術を追っている人がいるかもしれません。個人レベルで勉強していたとしても、それが組織のアセットにつながっているかといえば、まだそこまで行っていないのが実情ではないかと思います。

そこでまずできることとしては、実際に研究している大学や開発している企業に話を聞きに行くということが一つあるでしょう。人工知能自体を研究されている大学や先生は少なくないのですが、ディープラーニング自体は比較的新しいテクノロジーですので、それを標榜している研究室はほとんどないのではないかと思います。だとすれば、そもそも相談先もないというのが実態かもしれません。

ビジネスシーンで期待されるAIの活用

現在我々が取り組んでいるのは、我々自身がその間に入って、受け入れる大学を探すということです。

先ほど早稲田大学の尾形先生に技術的なサポートを仰いでいるというお話をしましたが、彼はロボットとディープラーニング(人工知能)の両方を研究されています。ロボットを進化させるための方法を探求している最中に行き当たったのが「ディープラーニング」だといいます。自動車メーカーをはじめ、あらゆる製造メーカーが先生のところに相談に行かれます。とはいえ、研究室にいる人員も限られているので受けきれないのが実際問題です。あるいはすでに案件を受けている場合、別の筋からは引き受けられないといった状況もあります。

我々には自分たちの隣にディープラーニングをやっているメンバーもいますので、そうしたメンバーを中心に動かすことであらゆる案件ができるのではないかと思っています。スムーズに話が進むような枠組み作りを現在進めているところです。

では今後どのようなビジネスシーンで人工知能は活用されていくでしょうか。

まずビッグデータ解析は今後も引き続き活用が進んでいくでしょうし、カスタマーサポートや作業現場の労働代替化が進んでいくでしょう。もちろん「人の仕事が奪われる」といったことが言われるように賛否両論が分かれるところですが、地方の現場に行けば行くほど、事態は単純ではないことに気付かされます。

たとえば食品加工の現場では、人を確保すること自体が難しくなりつつあります。そうした切実なニーズに対して、食品加工の現場の労働をロボット化できないかといった議論が盛んになされています。

こうした分野へのディープラーニングの活用が世界的に期待されている状況です。こうした観点からディープラーニングを人の生活に役立たせるためにいかに使っていけるかを今後は考えていく必要があると思っています。

AI×医療のこれから

海外においてはAI×医療の分野で様々なサービスが次々と生まれてきています。テクノロジーが進化していく過程において、程度の差こそあれど、AIもその一つに過ぎません。基本的にAIそれ自体で空を飛ぶこともできませんし、あくまでもコンピュータの中にあるものです。実際に何か別のものがなければ、単独では何の意味もありません。最終的にはそれをどのように生かしていくのかということに過ぎないのです。

先ほどからワトソンには触れていますが、2016年8月にワトソンは癌に関する論文を学習し、医師が見つけられなかった特殊な白血病患者の病名を見抜きました。これは一例に過ぎませんが、今後もこうした形で医療分野に適用されていくケースが増えていくでしょう。

ただしアルゴリズムを作っていくことと同時に、データ自体の確保も肝になっていきます。AIを活用した医療系ベンチャーを仮に立ち上げるにしても、データなくしてサービスの運用はほとんど不可能といえるでしょう。

病院全体としてみた場合にデータを企業に提供することには、患者さんのプライバシーの問題もつきまといます。それをクリアできたとしても、データ自体がそれほど整理されていません。

そして一番大きい問題は法的な枠組みをいかに整理していくかということです。最後に我々のサービスも紹介しますが、「診断」という言葉も容易には使えません。医療の場合はご存知のように、自分で支払っているというよりも、保険制度の中で自己負担が限定されています。こうした状況にあって、法的な枠組みを整備していかないことには積極的に医療現場に持ち込んでいくというのも難しいのです。

最後に我々の取り組みについてご説明します。一つが心臓MRIの画像診断。CVイメージングサイエンスさんと共同で取り組んでいます。彼らはもともと日本の心臓MRI分野で10%ほどのシェアを持っていましたが、放射線技師をどう確保し、技師の技量をいかに担保していくのかに問題意識を持っていたんです。とりわけ世の中でディープラーニングが盛んに言われているなかで、自分たちでサービスに生かすことに課題をもっておられました。そんな中でたまたま我々と出会う機会があり、共同で作っていくことになりました。

どんなことをやろうとしているかというと、CTやMRIによって大量のデータが蓄積されていくと、その画像を診断する医師一人当たりの負担も増えます。そうすると見落としが増えていく可能性も拭えません。そこで技師をサポートするものとしてディープラーニングを使えるのではないかという話になりました。もちろん理想的には自動診断のような形にまで持っていきたいですが、まずは負担感をなくすためのサポートとして導入していきます。

具体的には、心臓のMRI・CT画像を撮影した後、大量にある画像群の中から、まず診断に適切な画像を選定します。そしてその画像から冠動脈がある領域を認識し、狭窄部位を抽出します。この一連の流れを人ではなく、コンピュータが行うことで、血管のなかにある狭窄の診断支援を行うことができます。病院やクリニックが抱える医療データベースは整理されていないので、画像データを自動的にタグ付けし、意味付けしていくことで、診断支援に必要なデータにアクセスしやすくします。

どうそれらを学習させるかですが、上記はディープラーニングの仕組みを単純化したものです。元画像と教師画像というものがあります。教師画像とは「ここにあるよ」ということを教えてくれる画像です。「元画像の中から血管はどこにありますか?」という命題に対して、「ここだよ」ということを教えてくれる教師画像をたくさん学習させます。ここにおいてディープラーニングという手法が使われています。

僕らの作ったアルゴリズムでディープラーニングを何回か回してみたところ、結果として出てきたのが上の図です。白の画像データが教師データですが、人であれば何回かやっているとサボったりしてしまうんです。コンピュータの場合はそういったことはありません。

本日紹介したのはCTデータですが、今後はMRIにも展開していこうと準備中です。ソフトウェアをどんどん進化させていくことで、狭窄部分を抽出し、一気に診断できる形が整っていくでしょう。

心臓の冠動脈狭窄における1人の患者の診断には、一般の医師で30分、心臓の専門医でも13分かかります。それがMRI・CT画像を取得してから狭窄抽出までを機械が数秒で行うことで、医師の仕事は抽出領域の確認と診断のみとなります。診断時間が大幅に短縮されることで、医師1人で多数の患者を同時に診断可能となるはずです。

ディープラーニングの面白いところは研究成果が次々とオープンに公表されていくことです。最先端のAI分野でどんな研究が行われているのかは論文を読み続けることである程度は追えるのですが、全てを網羅しようとするのは大変です。そして、論文で出てきたことを自分たちが作っているアルゴリズムに実装するのもそれほど簡単ではありません。論文をしっかり読むのはもちろんのこと、一定の制約条件が設けられているので、簡単には動かない。実装するための論文が必要な場合もあるので、試行錯誤していくことが大事です。

本文で繰り返し述べてきたように、人工知能(AI)といえどもテクノロジーに過ぎません。「テクノロジーを提供します」というだけでは存在し得ないので、データを持っていることが条件になります。我々としても医療分野に限らず、製造などの他分野の方々とご一緒させていただきながら、今後もいい形で世の中にサービスを提供していきたいと考えています。

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春田 真Makoto Haruta

株式会社エクサインテリジェンス 代表取締役会長
メドピア株式会社 経営顧問

1992年4月、株式会社住友銀行に入行。同行退職後、2000年2月 株式会社ディー・エヌ・エーに入社、同年9月に取締役に就任。2008年7月、常務取締役に就任。2011年6月、取締役会長に就任。DeNAの上場を主導するとともに大手企業とのJV設立や横浜DeNAベイスターズの買収等M&Aを推進。2011年12月 横浜DeNAベイスターズのオーナーに就任。2015年4月、株式会社ベータカタリストを設立し代表取締役に就任。2016年2月、株式会社エクサインテリジェンスを設立し、代表取締役に就任。 2016年5月よりメドピア株式会社の経営顧問も務める。

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