FUTURE

ヘルステックの未来を切り拓くためのアイデアの種をお届け

自動運転、指紋認証、最新テクノロジーに託される医療現場の課題解決

2018年12月4日から5日にかけてメドピア株式会社主催で開催された、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2018」。産学官からヘルスケア業界をリードするトップランナーたちが集い、数十にも及ぶセッションが繰り広げられました。

今回は、鎌ヶ谷総合病院の副院長・望月猛氏による講演「Deep Dive: Real worldとFuture worldのFusionを目指して(powered by 中外製薬)」の様子をダイジェストでお伝えします。

医療の現場には、中の人にしか見えない様々な課題がある。その解決に向けて、望月氏がテクノロジーに寄せる期待は絶大です。指紋認証、自動運転、センサー、ロボット…既に現場で使用されているものから構想まで、“FutureWorld”に託したい最新技術の数々を紹介していきます。
 ■目次


6年後、認知症患者の数は650万人超に。疲弊する医療現場をどう変える?

鎌ヶ谷総合病院 副院長 望月猛氏
鎌ヶ谷総合病院 副院長 望月猛氏

望月猛(以下、望月):鎌ヶ谷総合病院で副院長を務める望月猛です。今回は「Real worldとFuture worldのFusion」と題し、未来のために実装していきたいテクノロジーの数々をご紹介させていただきます。

今、AIは医療現場に大きく踏み込んできています。我々医師よりも高い確率で病気を発見しますし、患者さんの予後までAIが予測できる時代がもうそこまできています。やがて予防もAIでできるようになるでしょう。しかし、医療現場にはもっと他に困っていることがあるんです。

本題に入る前に、日本の医療の現状を把握しておきましょう。日本は現在、世界一の長寿国と呼ばれていますが、「健康寿命」が寿命よりも10年ほど短いと言われています。つまり、最期の10年間は介護や医療機関の手を借りて生活せざるを得ない人が多いのです。

また、ご存知のとおり、日本は「超高齢社会」です。2025年には65歳以上の人口が3,500万人を超え、現役世代の負担は増加。一方で、高齢者の増加とともに、認知症患者も増加していきます。5人に1人が認知症の時代が来ると言われており、2025年には679万人が認知症患者になると予想されているのです。

また、マンパワーの面でも日本は問題を抱えています。日本にはアメリカの10倍と言われる166万もの病床を抱えていますが、人口1,000人に対する医師数はアメリカと同じ割合。つまり、アメリカと同程度の医師の割合で、10倍もの病床を扱っています。

高齢者、中でもケアの負担が大きい認知症患者が増えていくこれからの時代、このままでは医療従事者が疲弊していく一方です。そこで、今回は私から“RealWorld”と“FutureWorld”をつなぐテクノロジーを提案させていただきたいと思っています。

指紋認証、自動運転…。医療現場のマンパワー不足を解消するテクノロジーの数々

望月:高齢者の方を診察するとき、お名前を聞いても「はい?」と聞き返されることがよくあります。名前を確認できないと安全上問題がある上に、名前の確認に貴重な診療時間の多くを割いてしまうという問題があります。

そこで提案したいのが、指紋認証技術の応用です。銀行に用いられているような個人認証システムを応用することで、患者さんを瞬時に識別できるようになります。さらに、指紋認証を電子カルテに繋ぐことによって、遠隔医療でも、患者さんを間違えることなくデータを共有できるのです。

鎌ヶ谷総合病院 副院長 望月猛氏

望月:また、高齢者が増えるこれからの時代、看護師のマンパワー不足は深刻です。

手術を行う際には、看護師に患者さんを病室まで運んでもらう必要があります。ベッドを病室から手術室に移動させ、手術が終わったら綺麗なベッドに患者さんを乗せ、病室に送り届ける…。ベッドを手術の前後で2回、2人で運ぶ必要がありますから、手術を1回行うごとに「2名 × 2」の看護師のリソースを失っていたのです。

そこで提案したいテクノロジーが、自動運転技術です。自動運転システムをベッドに導入し、半自動運転で行うことによって、安全かつマンパワーを少なく、患者さんを移動できるようになります。安全性に関しては、麻酔科の医師がモニターで監視すれば、安全に患者さんを手術室まで移動させることができます。

自動運転システムは、手術の現場以外にも活路があります。例えば、車椅子の患者さんは、トイレを利用するためにナースを呼び、解除してもらう必要がありました。そこで車椅子に自動運転システムを導入することでも、看護師のマンパワーを減らすことができると思っています。

鎌ヶ谷総合病院 副院長 望月猛氏

望月:テクノロジーによって代替できる看護師の仕事は、他にもあります。もう1つ紹介したいのが、おむつ交換の効率化。現在、看護師が夜間での患者さんのおむつ交換に割かれる時間は、平均78分と言われています。昼間と夜間の決まった時間に患者さんのもとを巡回し、おむつを交換していくわけですが、夜勤の看護師はこれが一番大変なんです。

時間を取られることはもちろん、汚物が少なくてもおむつを交換しなければなりません。当然、なかには綺麗なおむつもありますので、余分な廃棄物が大量に出ることになるわけです。

そこで、実際に開発されているのが、介護用のおむつセンサーです。しかしまだ医療現場とはつながっていません。排泄を感知するセンサーが、おむつ交換のタイミングを医師や看護師が持つPHSに通知してくれれば、必要な患者さんのおむつだけ交換すればよくなります。看護師の労力と、無駄なおむつのコストを削減できるはずです。

テクノロジーは「不慮の事故」の発生をも防ぐ

望月:医療の現場において、もう一つ問題になるのが、「インシデント」と呼ばれる不慮の事故です。しかし、テクノロジーによって、この「想定外」の事象を減らせていくのではないかと思っています。

鎌ヶ谷総合病院 副院長 望月猛氏

望月:インシデントの代表例として挙げられるのが薬の事故です。患者さんが間違った薬を飲んでしまったり、飲み忘れたりすることがあります。65歳以上の患者さんは平均して6.4種類もの薬を飲んでいますが、種類が多い上に、飲むタイミングも異なる。これを一人ひとりに配薬していくのは非常に手間がかかります。

そこで用いるべきテクノロジーとして、ロボットを提案したいと思っています。薬を飲むタイミングになったら、ロボットが患者さんに薬を配役してくれるシステムです。私の病院では、患者さん一人ひとりにバーコードタグが割り振られていて、電子カルテと連携しています。このバーコードタグをロボットが読み込めば、予め入力しておいた必要な薬を患者さんのところに届けることができます。

また、ベッドからの転落・転倒も代表的なインシデントです。認知症患者さんの中には、ベッドから降りようとする患者さんがいます。そこで提案したいのが、ベッド柵に設置するセンサー。柵に一定の力がかかると、看護師のPHSにお知らせが届くようになれば、転落を予防することができます。これができると、多くの患者さんの再骨折がなくなり、患者さんと病院、双方の負担が軽減することを期待しています。

鎌ヶ谷総合病院 副院長 望月猛氏

望月:“Future world”へ期待する医療のあり方として、いくつかのテクノロジー応用を紹介させていただきました。テクノロジーに期待することとして、患者さんの安全性の向上と、慢性的に不足する医療従事者のマンパワーの補完があります。この2点を兼ね添えた“Future world”を作っていかなくてはいけません。

日本は先進国の中でもトップレベルの高齢化社会です。しかし、テクノロジーを用いて新たな高齢化医療モデルを確立できれば、多くの先進国にとって手本となることができます。高齢化対策のモデルケースを立ち上げていき、世界に発信していきたいですね。

望月 猛Takeshi Mochizuki

2000年順天堂大学医学部卒業。研修医を経て、整形外科医となる。東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センターで研鑽を積み、2009年より鎌ケ谷総合病院整形外科部長、2015年より副院長となり現在に至る。関節外科を専門とし、急性期から回復期治療まで幅広い医療に携わっている。