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オンライン診療は「第一歩」を踏み出せたか? –––各領域の先駆者が集い、遠隔医療の未来を探る

2018年12月4日から5日にかけてメドピア株式会社主催で開催された、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2018」。産学官からヘルスケア業界をリードするトップランナーたちが集い、数十にも及ぶセッションが繰り広げられました。

今回は、2日目に行われたパネルディスカッション「患者中心のオンライン診療を実現する」の様子をダイジェストでお送りいたします。

2018年4月の診療報酬改定によって、オンライン診療が一部保険適用されました。一方で、算定可能な対象患者が限られたりと、現場では賛否両論の声が上がっているようです。今後、日本においてオンライン診療はどのような形で広がっていくのか。様々な形で遠隔医療サービスを提供する起業家と共に、ディスカッションが行われました。

※セッション登壇者
・大室 正志(医療法人同友会 産業保健部門 産業医)モデレーター
・多田 絵梨香(株式会社MICIN オンライン診療ユニット マネージャー)パネリスト
・富原 早夏(経済産業省 医療・福祉機器産業室⻑)パネリスト
・中西 智之(株式会社T-ICU 代表取締役社長、医師)デモ
・小川 晋平(AMI株式会社 代表取締役、医師)デモ
・Snehal Patel(CEO & Co-Founder, MyDoc Pte. Ltd.)デモ
・谷口 達典(株式会社リモハブ 代表取締役社長CEO、医師・医学博士)デモ
・山本 慎也(メディホーム株式会社 CTO)デモ
 ■目次


診療報酬改定は、オンライン診療普及の「第一歩」となったのか

医療法人同友会 産業保健部門 産業医 大室正志氏
医療法人同友会 産業保健部門 産業医 大室正志氏

大室正志(以下、大室):産業医の大室と申します。今回のセッションのテーマは「患者中心のオンライン診療を実現する」。最新事例を紹介しながら、オンライン診療の課題と将来に向けた展望を議論していきたいと思います。

私も産業医として活動するなかで、「遠隔地にある工場へ、遠隔医療を展開できないか」と議論する機会も多いので、非常に楽しみです。実際のサービスデモをしていただく前に、まず最初にパネリストの方々をご紹介します。

株式会社MICIN オンライン診療ユニット マネージャー 多田絵梨香氏
株式会社MICIN オンライン診療ユニット マネージャー 多田絵梨香氏

多田絵梨香(以下、多田):株式会社MICINの多田です。私のファーストキャリアはヤンセンファーマで、マーケティングやMRに従事していました。その後、医療系の学会を経て、現在は株式会社MICINという医療系スタートアップで働いています。MICINでは、患者さんがスマートフォンで予約から診察、処方箋の受け取りまでをオンラインで完結できるプラットフォーム「curon(クロン)」を展開しています。

経済産業省 医療・福祉機器産業室⻑ 富原早夏氏
経済産業省 医療・福祉機器産業室⻑ 富原早夏氏

富原早夏(以下、富原):経済産業省の富原です。現在、医療機器と福祉用具を担当しています。本日のテーマである「オンライン診療」は、新しい医療のあり方を支えるイノベーションやデジタルヘルスを担当する私にとって、とても興味深い内容ですので楽しみですね。

大室:では、セッションに入りましょう。2018年に行われた診療報酬改定において、オンライン診療が一部保険適用となりました。一方で、算定可能な対象疾患が限られることもあり、現場では賛否両論の声が上がっています。

歴史を整理すると、2015年に通達が出た際にオンライン診療はNGではないという機運が広がり、様々なサービス事業者が立ち上がりました。今回の改定は、良い意味ではそれが立派に認められたということ。一方で、今までグレーゾーンだったところが、明確にここはアリでここはダメと線引きされ、アリな部分の診療報酬が意外と安かったというのが、賛否両論を生んでいるところかと思います。

この改定について、事業者、官僚として医療事業に携わるお二方はどのような感想を抱きましたか?

多田:保険適用されたことで、正式な診療形態として認められたのは、大きな前進だと捉えています。しかし、臨床現場の先生方の声を聞くと、今の制度のままだと普及しづらいこともまた事実なようです。

例えば弊社だと、舌下免疫療法の治療継続でエビデンスを出していたのですが、そこが適用外だったのは現場の先生方も残念だとおっしゃっています。

富原:そうですね。まず一歩前進できた点では、非常にポジティブに捉えています。これから、オンライン診療に関する経験知や有効性や安全性などのエビデンスが蓄積されていくなかで、建設的な議論につなげていくことができるのではないでしょうか。

大室:2年前、遠隔医療と言えば対面診療の代用というイメージを持っていた人が多かったと思います。しかし、遠隔医療のあり方には他にも3つあります。1つが、ドクターがより専門性の高いドクターに教えを乞う、DtoDの分野。あとは、「診療」という医療行為ではない、「相談」を前提とした医療相談。また、ウェララブルデバイスなどで集めた情報を活用し、適切なアドバイスができるデバイスベースの遠隔医療もありますす。

ここで富原さんにお伺いしたいのですが、経産省としてはいま、特にどういったスタイルの遠隔医療を応援しているのでしょうか?

富原:前提として、このセッションのタイトルにもある通り、医療のあるべき姿は「患者中心」です。断片的でなく継続的に患者に寄り添っていくものであるべき。なので、単に対面をオンラインで置き換えるといった手段に議論が終始してしまうのはもったいないと思っています。

日常で使用する家庭用医療機器やウェアラブルデバイスを通し、データ取得の正確性や効率性も向上してきました。さらに、AIスピーカーやスマートフォンなど医療以外のツールとも連携して、その人にあったケアのヒントを得ながら、適切に介入していく手段の一つとして遠隔医療が組み込まれていく可能性を感じています。

Health 2.0 Asia - Japan 患者中心のオンライン診療を実現する

大室:世界にも目を向けて議論したいのですが、医療は世界中どこを見渡しても理想的な未来ってあまり変わらないですよね。そこにどう到達するかは各国で異なるけれど、目指す未来は同じなのかなと。お2人は世界でのオンライン診療についてどう見ていらっしゃいますか?

富原:私も、目指す姿は各国で同じだと思います。ただ、異なるのは、たどり着き方とモチベーションかもしれません。

例えば、インドネシアでは今遠隔医療が進んでいますが、それは皆保険による急激な医療需要の増加に医療インフラが追いついていないという課題があるからです。中国ではデジタルヘルス全体へ積極的に投資されていますが、医療資源が足りていないことが要因になっているので、オンライン診療もその解決手段として使われています。

大室:確かにそうですね。その意味では、日本は人口密度が高く、医療がフリーアクセスという中で、「今ある医療のクオリティを下げても問題ないのか」というのが論点になっています。

多田:海外という点では、オンライン診療によって、海外の患者さんが日本の医療を受けたいという声が弊社によく届きます。海外赴任している日本人の方からも同様ですね。ですので、日本の医師が海外の医療に貢献するというオンライン診療の形もあると思っています。

歯科医から心臓医まで。広がるオンライン診療

大室:ここからは、デモに入っていきたいと思います。まず、シンガポールを拠点に活動するベンチャー企業、MyDocのSnehal Patelさんです。MyDocは、アジア初のバリューベイスドなヘルスケアプラットフォームであり、Fortune500にも選ばれていますね。医師だけでなく、保険会社や薬局ともつなぐプラットフォームを構築しています。それではSnehalさん、よろしくお願いします。

MyDoc Pte. Ltd CEO & Co-Founder Snehal Patel氏
MyDoc Pte. Ltd CEO & Co-Founder Snehal Patel氏

Snehal PatelMy DocのSnehal Patelです。私はアメリカで外科医として働いた後、10年前に投資家としてアジアに移住しました。「Mydoc」をシンガポールで立ち上げたのは6年前。現在、マレーシア、香港、スリランカ、インドでも事業を展開していまして、タイ、ベトナムにも進出しようとしています。

弊社が提供する「MyDoc」は、オンライン診療の予約から診療、処方箋の注文、そして保険へのアクセスまでをスマートフォン1つで行えるアプリです。BtoBtoCで提供しており、最大の顧客は保険会社です。

使い方をご紹介します。例えば救急医療の際、アプリを立ち上げるとまずはAIのチャットボットで症状について質問されます。それに答えた後、スケジュールが空いているドクターをアプリ上で見つけて、ビデオ通話での診療を行います。特徴としては、過去の検査結果や電子カルテも連携しているため、アレルギーや既往歴がすべてこのアプリで把握できます。

診察を経て薬が必要だと判断された場合は、処方箋を出してくれ、自動的に薬局に送られます。直接薬局で薬を受け取ることもできますし、自宅への配達も可能。現在私たちは、現地の薬局チェーンと、このサービスを提供するために提携を進めているところです。

AMI株式会社 代表取締役(医師) 小川晋平氏
AMI株式会社 代表取締役(医師) 小川晋平氏

小川晋平(以下、小川)AMI株式会社の小川です。弊社では、聴診器を超えた聴診器、「超聴診器」を研究開発しています。超聴診器は、心音測定に特化した医療機器で、心音と心電をデータ化することで、診断をアシストするというもの。3つの電極で測定した心電図と、集音器で録音した心音を組み合わせることで、診断の精度を高いものにしています。

また、現在は遠隔聴診のためのビデオチャットシステムを開発しています。心臓の音をすべてビデオチャットを通して聞き取ることは困難なので、音の大きさと高さ(周波数)を可視化することで、大動脈狭窄症などの異常を発見することを目指しています。今後、こういった遠隔聴診を医療のスタンダードにしていきたいと思っています。

メディホーム株式会社 CTO 山本慎也氏

山本慎也(以下、山本)メディホーム株式会社の山本です。私たちは、歯科パノラマエックス線画像のAI読影システムを開発しています。パノラマX線画像をAIに読み込ませることで、虫歯や根尖病巣といった病変を数秒で特定することが可能です。複数の医師の知見を教師データとして学習させて開発しています。

大阪万博が開催される2025年には、介護や医療領域に必要なお金は、今より20兆円も増えると言われています。歯科医療の分野においても、こういったAI診断を導入することによって、歯科医療の品質向上、そして歯科医師の負担軽減が急務です。

そこでAI技術だけでなく、歯科医師がそれぞれの得意分野で活躍し、効率的に治療を進めていく「歯科AIコンソーシアム」を組成しました。歯科医師の先生には、歯科パノラマのX線画像を読影していただき、例えばAI研究機関の方には、読影していただいたものを教師データとして学習して、AIサービスを医療機関にフィードバックしていきます。

株式会社T-ICU 代表取締役社長(医師) 中西智之氏
株式会社T-ICU 代表取締役社長(医師) 中西智之氏

中西智之(以下、中西)株式会社T-ICUの中西です。私たちは、救急現場の医師が、遠隔地にいる集中治療の専門医に心電図モニターや電子カルテの画面をキャプチャーして送信することで、アドバイスを乞うことができるDtoDでの遠隔医療システムを開発しています。

システムの機能としては、ビデオ通話のみでいたってシンプルです。現場のニーズを踏まえて必要最低限の機能だけでやっていけているというのは、医師である私が始めている強みかもしれません。

現在、専門医19名、医学部教授4名が応援してくれています。さらに国立大の小児のICUで、我々のシステムを使って遠隔ICUをはじめる話が進んできています。遠隔ICUの普及に向け、活動を推進していきたいと思っています。

株式会社リモハブ 代表取締役社長CEO(医師、医学博士) 谷口達典氏
株式会社リモハブ 代表取締役社長CEO(医師、医学博士) 谷口達典氏

谷口達典(以下、谷口)株式会社リモハブの谷口です。私たちは在宅で行える心臓リハビリシステムを開発しています。これは、心疾患を抱えた患者さんに、病院で心電計をつけたり血圧を測ったりしながら有酸素運動をしてもらい、心臓のリハビリを進めてもらうものです。

心不全の患者は日本に120万人いると言われていますが、高齢者に多く、リハビリが非常に重要です。週3回ほどリハビリに通うことを推奨していますが、実際にできているのは1割未満。そこを遠隔医療によって解決したいと思っています。

簡単に、システムの説明をさせていただきます。患者さんと医師はタブレットで問診を行います。ここで、医師は患者さんの表情を見て、その日の運動ができるかどうかをチェックするのです。問診が終了したら、患者さんは運動を開始します。運動の最中にも、脈拍や負荷の変動を見ながら、医師から遠隔で指示、調整することが可能です。

私たちはこうしたシステムを構築し、在宅のリハビリを効率的、かつ安全的に行うことができる社会の実現を目指しています。今後は、栄養指導や服薬管理を統合し、リハビリテーションをコアとした在宅管理システムを開発していきたいと思っていますね。

拡大するオンライン診療。領域ごとの「次の一手」に迫る

Health 2.0 Asia - Japan 患者中心のオンライン診療を実現する

大室:ここからは、それぞれのサービスについて深掘りしていきましょう。まずは「curon」ですが、ホームページを拝見すると、他社より安く提供できると説明があります。なぜ安く提供できることができるのでしょう?

多田:オンライン診療は市場が未成熟なため、まずは医療機関や患者さんに広げる必要があります。弊社はまず、オンライン診療を広げることを当面の目的に据え、医療機関の負担を無料で提供しているんです。

大室:なるほど、ありがとうございます。続いて、Petelさんにお伺いしたいのですが、「MyDoc」以外にもサービスを展開しているのでしょうか?

Patel:はい。私たちは、シンガポールで特に問題を抱えている保険会社を顧客に、さまざまな慢性疾患のマネジメントをサポートしています。糖尿病患者さんへの12ヶ月のコーチングプログラムや、栄養サービスなども用意しています。オンライン診療は、なかなか病院にいかない患者さんに対する継続的なフォローアップが可能になります。

大室:経済産業省の富原さんにお伺いします。日本は、国民皆保険という制度があるため、民間企業があまり積極的に動けない現状があるのではないかと思います。その点、どうお考えでしょうか。

富原:近年では、民間保険の中でも「健康増進型保険」といったものが増えてきています。従来のように、病気になったときに支えるものではなく、病気の「予防」を支えるサービス。その点では、民間でも面白いモデルが生まれてきていると言えるのではないでしょうか。

大室:小川さんは“発明医師”として、今後どのようなものを開発していきたいと思っていらっしゃいますか?

小川:「超聴診器」と名前をつけたからには、聴診器に毛が生えたくらいでは意味がないと思っています。これまでの聴診器では医師が聴き分けられなかった音や、血圧などの数値も計測できるよう、開発を進めていきたいですね。

大室:山本さん、先ほど歯科コンソーシアムの話が出ましたが、一度プラットフォームができてしまうと、同業他社の参入がしづらくなる面もあるのではないかと思います。「歯科AI」の先駆として、業界をどのように盛り上げていきたいと考えているのでしょうか。

山本:もちろん、AI研究機関として私たちだけで利権を独占するつもりはありません。ただ、歯科医療の現場から国民皆保険制度の課題を解決していくには、今のサイズくらいで成功事例を作っていくのがいいのかなと思っています。

大室:最後、収益面についてもお伺いしたいと思います。まずは中西先生、T-ICUはDtoDなのでお金を払うのは病院ですよね?国の補助はつくのでしょうか。病院が多い日本では、当直が1日1~2件しかなくても当直料が高くなったりするため、その点で集中治療のDtoDは、医療費の削減に繋がるようにも思えます。

中西:国の補助については今はまだついておらず、学会と一緒に働きかけたいです。その際、確かに医療費削減については、今回オンライン診療が保険適用された理由にもなっていると思います。しかし、一時期は病院の集約を叫ばれていたものの、なかなか進まない現状がありますし、病院が無くなる地域の方はやっぱり困るので、医療を行き渡らせるために遠隔医療が活かされるといいなと思っています。

大室:谷口先生、リモハブの遠隔心臓リハビリは、病院で行うのと同じ収益が得られるのでしょうか?

谷口:心臓リハビリは保険点数になっているのですが、今はまだ病院で行うのと同じ点数はついていません。心不全の一番の問題は再入院なので、そこでの効果をエビデンスで示していくことが重要だと思っています。