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「インターフェイス」としてのロボットは、ヘルスケアをどう変える?–––最先端の活用事例から迫る

2018年12月4日から5日にかけてメドピア株式会社主催で開催された、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2018」。産学官からヘルスケア業界をリードするトップランナーたちが集い、数十にも及ぶセッションが繰り広げられました。

今回は1日目に行われたセッション「インターフェイスとしてのロボット」を、ダイジェストでお送りします。

昨年に引き続きモデレーターを務めた獨協医科大学教授の坂田信裕氏は、ロボットの持つ魅力を「人びとが語りかけたくなること」と指摘します。今回のセッションでは、3種類の異なるロボットの開発者が登壇し、ロボットの持つ「インターフェイス」としての可能性に迫ります。

※セッション登壇者
・坂田 信裕(獨協医科大学 情報教育部門 教授)モデレーター
・花村 勇臣(株式会社ハナムラ 代表取締役)デモ
・伊東 伸(株式会社iKoyoo 代表取締役社長)デモ
・西尾 修一(株式会社国際電気通信基礎技術研究所)デモ
・柴田 崇徳(産業技術総合研究所 上級主任研究員)デモ
 ■目次


高齢者が、“動かない”ロボットに見せた「慈しみ」

坂田信裕(以下、坂田):モデレーターを務めます、獨協医科大学の坂田です。私はもともと基礎医学の研究者でしたが、ICTの面白さに惹かれ、5年前から医療や介護現場でのコミュニケーションロボットの展開や運用について、研究を続けています。

今回のテーマは「インターフェイスとしてのロボット」。研究を続けるなかで、対人コミュニケーションを代替する役割を持ったロボットにとって、話しかけやすさなどを演出する「存在感」、それを表出するインターフェイスが非常に重要なファクターだと感じています。

私がロボットの「存在感」の重要度を感じたきっかけとして紹介したいのが、鹿児島県肝付町での出来事です。高齢者率が約40%の肝付町では、ロボットなどのテクノロジーを活用して、高齢化や人口減少などの社会課題を解決することを目的とした取り組みをしていました。

獨協医科大学情報教育部門 教授 坂田信裕氏
獨協医科大学情報教育部門 教授 坂田信裕氏

坂田:私はそのイベント当日、ロボットを連れていき、高齢者と一緒に体操のレクリエーションをする予定でした。しかし、私の操作ミスにより、ロボットが動かなくなってしまったのです。

私の頭が真っ白になっている最中、一人の高齢者が近寄ってきて、人型のロボットの腕に手を添えて「せっかく遠くから来てくれたのにね」と話しかけたのです。その瞬間は何が起きたかわかりませんでしたが、いま思うと「ロボット」が持つ独特の存在感、「インターフェイス」としてのユニークさ・面白さが表出した瞬間だったと思っています。

今回は、デモのなかで3種類の異なるロボットを皆様に紹介します。ぜひ、ロボットの「インターフェイスとしての面白さ」について感じていただければと幸いです。本日はよろしくお願いいたします。

ロボットがコミュニケーションの「障壁」を取り除く

株式会社国際電気通信基礎技術研究所 西尾 修一氏
株式会社国際電気通信基礎技術研究所 西尾 修一氏

西尾修一(以下、西尾):国際電気通信基礎技術研究所の西尾です。本日みなさんに紹介するのは、抱っこして対話をするロボット「ボノイド」です。私たちは現在、iKoyooの伊東さんと共に、このロボットを認知症高齢者のケアに応用できないか、研究を続けています。

私たちはこれまで、遠隔操作型のロボット「テレノイド」を用いて、日本だけでなく、世界中で実験をしてきました。「テレノイド」は、オペレーターが遠隔で操作して会話をするロボットです。オペレーターが動くとロボットも動き、遠くにいても側で話しているように感じられます。

見た目に特徴がありますが、重度の認知症で心を閉ざしてしまった高齢者の方々でも、心を開いて「テレノイド」に対してさまざまな話をしてくれます。さらに、家族や介護スタッフの言葉を「テレノイド」を介して伝えることで、受け入れてくれることもありました。認知症の方に対する「翻訳機」のような役割を果たしてくれるのです。

定性的な変化だけでなく、NIRSによる脳活動計測から、「テレノイド」を通じて会話をすることで脳が活性化されることも確認されました。そんな「テレノイド」を軽量化し、オペレーターが不在でも会話ができる「自律対話」を搭載したものが、「ボノイド」です。

「自律対話」は非常に難しい技術で、まだまだ研究の途上ではあります。Amazonが、20分間自律して対話が続けられたら1億円賞金を出すと言っているくらいです。しかし、認知症の高齢者にはありがちな会話の「パターン」があるので、それをつかむことで自律対話のシステムが作れるんじゃないかと思っています。

坂田:ありがとうございます。1つだけ質問をさせてください。「テレノイド」と「ボノイド」の決定的な違いの1つがオペレーターの有無ですが、このことは高齢者にバイアスとして作用するのでしょうか。

西尾:実際にロボットを抱っこして会話をはじめると、テレノイドの場合、最初だけ遠隔で人が存在していると思うものの、次第にテレノイド自体と話している気分になってきます。そういう意味で、ファーストインプレッションは異なるのかもしれませんが、話しているうちに違いは無くなっていくと考えています。

「鏡の中のコンシェルジュ」が健康をサポート

花村勇臣(以下、花村):ハナムラの花村です。私たちは「インテリアとITの融合」をテーマに、テクノロジーを駆使したインテリアを紹介しています。そして、今回紹介するのが、「ミラーコンシェルジュ」による日常人間ドックです。化粧台の鏡の前に立つとミラーコンシェルジュが現れ、心拍数を測定。健康状態へのアドバイスをしてくれます。

株式会社ハナムラ代表取締役 花村勇臣氏。モニターに写っているのが「ミラーコンシェルジュ」
株式会社ハナムラ代表取締役 花村勇臣氏。モニターに写っているのが「ミラーコンシェルジュ」

ミラーコンシェルジュ:「現在測定中です、そのままお待ちください‥。測定結果が出ました。心拍数がやや高い状態です。緊張していたり、お風呂上がりなどであれば問題ないです。気になる場合は、医療機関の受診を検討してください。運動して生活のリズムを整え、食べ過ぎ飲み過ぎに注意しましょう。また十分な睡眠をとりましょう。定期的に健康診断をして、自分の身体の状態を確かめましょう。」

花村:血液中のヘモグロビンが緑色光を吸収する性質に着目し、画像解析により、皮膚表面の色変化から心拍数を測定します。また顔登録によって、家族の健康状態を保存することも可能。現在はアプリを制作中で、スマホで健康管理ができる未来を目指しています。

「ミラーコンシェルジュ」の一番の特徴は、自分の好きな顔と話せること。一枚の写真があれば、芸能人でも3Dフェイスが生成できますし、洋服やメガネを変えることもできます。さらに、日本語、英語、中国語に対応。ぜひ「ミラーコンシェルジュ」を使って、自分の好きな顔に健康管理を任せましょう。

ぬいぐるみとの「ふれあい」が、患者のペインを解消する

産業技術総合研究所 上級主任研究員 柴田崇徳氏
産業技術総合研究所 上級主任研究員 柴田崇徳氏

柴田:産業技術総合研究所の柴田です。今回紹介させていただくのはアザラシ型のロボット「パロ」です。見た目はぬいぐるみのようですが、触覚、音声認識、温度など、さまざまなセンサーが搭載され、海外では医療機器として非薬物療法に活用されているロボットです。対象年齢は全年齢。ふれあいを通じて、楽しみや安らぎを与えることを目的としています。

カリフォルニア州立大学サンフランシスコ附属小児病院の集中治療室で、セラピー用アザラシ型ロボット「パロ」と触れ合う男児
カリフォルニア州立大学サンフランシスコ附属小児病院の集中治療室で、セラピー用アザラシ型ロボット「パロ」と触れ合う男児

柴田:「パロ」の活用事例として、小児がんのケースをご紹介しましょう。がんはアーリーステージの場合、化学療法で薬を3〜5時間かけて服用するのですが、その間に気持ち悪くなったり、痛みを感じることがあります。そのときに「パロ」と触れ合ってもらうことで、子供の痛み、不安を和らげることができるのです。パロは、感染症対策をクリアし、小児の集中治療室等でも活用されています。

認知症の高齢者にも、「パロ」は効果を発揮します。例えば、重度のアルツハイマーで、いつも叫んでしまう高齢者に「パロ」を渡すと、叫ぶのをやめ、落ち着いた様子で「パロ」に自分の内面を吐露し始めるのです。これまでは副作用のある向精神薬を用いて落ち着かせるしかありませんでしたが、「パロ」によってケアテイカーの負担を軽減できます。

「パロ」は現在、世界各地で評価を受けています。アメリカでも治験を行い、「パロ」と触れ合うことで不安やうつ、痛みが軽減し、投与する薬が30%減少できる事実を確認。この結果を受け、アメリカの公的医療保険制度「メディケア」が、「パロ」を使ったセラピーを保険償還するまでに至りました。

現在のユーザーは高齢者が中心ですが、今後は子どもから大人まで、幅広い年齢層の治療で活用可能。いま、世界でガンは年間で約1,400万人が新たに罹患し、認知症は約5千万人いますから、かなり多くの人々にパロのメリットを届けることができると思っています。

坂田:ありがとうございます。1点質問なのですが、さまざまな動物があるなかでアザラシを選ばれたのは、インターフェイスとして優位性があったのでしょうか。

柴田:確かに、犬や猫をモデルにしなかったのかという指摘はよくいただきます。実際に猫型のロボットを作ったこともあるのですが、身近な動物でよく本物を知っている分、ロボットのクオリティにがっかりしてしまうんです。一方でアザラシは最初の期待値が低く、触れ合っていくうちに評価が高まっていく。ポピュラーな動物より、受け入れられやすいんです。

「親しみやすさ」だけでなく、定量的なデータを示すことが肝要

坂田:ここからは、パネルディスカッションに入りましょう。今回のテーマでもある「インターフェイス」ですが、この言葉は「情報の出入り口」の意味も持っています。お三方は、インターフェイスとしてのロボットをどのように考えていますでしょうか。

西尾:スマートフォンのように、ニュースをはじめとした情報の「入口」としてのイメージを持っている方が多いと思います。しかし、私たちが開発しているテレノイドやボノイドは、高齢者から話を引き出す、情報の「出口」としての性質が強いのではないでしょうか。

株式会社iKoyoo 代表取締役社長 伊東 伸
株式会社iKoyoo 代表取締役社長 伊東 伸

伊東伸(以下、伊東):ボノイドに話しかけることによって、高齢者がどのようなリアクションをするのか、仮説検証を繰り返すなかで、システムのアップデートを繰り返しています。

花村:我々はインテリアの仕事をしるので住宅の観点で言うと、ロボットは『白雪姫』に出てくる鏡のように、必要なときに現れてコミュニケーションを取ってくれる存在になると思っています。またカスタマイズ可能ですので、好きな顔や声を当てはめることもできる。

柴田:あらゆるロボットは、人から受け入れられることでセラピー等の効果が出てきます。技術的な先進性だけでなく、人間の感性に訴えるデザインを追求する必要があるのです。触り心地といった数値では測れないものを考慮して作ることで、初めて受け入れられやすいものになるのではないでしょうか。

坂田:なるほど。「受け入れる」か否かは人の好みが影響してきそうですが、西尾さんは「ボノイド」を苦手に感じる方の属性をどう捉えられていますか?

西尾:子育て経験のある女性は、赤ちゃん抱っこするのと同じ感覚で抵抗なく受け入れてくれることが多いです。反面、子育て経験のない女性や男性は、かなり抵抗を感じる方もいますね。

伊東:受け入れられるか否か、「親しみやすさ」は重要な変数ですが、事業としておこなう以上、経済的な観点を見過ごすわけにはいきません。例えば、「パロ」は保険適用をされており、一定の補助がありますが、「ボノイド」は「誰にとって」「どんな価値をどの程度」提供するのか、十分検討する必要があります。例えば、人材確保が課題の施設経営者にとって重要なのは、「ボノイド」を高齢者に預けることで時間に余剰が生まれ、さらに充実したケアを提供できるかどうか。事業化するからには、ケアテイカーや直接利用者だけではなく、広範かつ多角的な側面から介護、医療における便益とコストを考えなければなりません。

坂田:「受け入れる」の背景には親しみやすさだけでなく、経済合理性も関わってくるんですね。柴田さんの開発する「パロ」ではいかがでしょうか?

柴田:「パロ」の場合、普通のペットと同じくらい親しんでいただけるよう、10年以上使える設計を施しています。ですので、短期的なコストはかかりますが、長期的にみると大きなメリットを感じられる構造です。最近のデータによると、とある認知症の患者さんが「パロ」と一緒に生活することで、問題行動がどんどん減って、在宅介護をする家族の負担が低減したというデータが出ています。

定量的なデータを示しますと、在宅介護の場合、地方自治体が介護保険で負担するのは月に10万円。一方で、施設に入れるとなると月に30~40万円を支払うことになります。「パロ」のレンタル料金は月に2万円ですので、1ヶ月間でも多く在宅介護が維持できれば、月に20万近い出費を抑えることに繋がる。アメリカで保険適用されたのも、コスト削減に繋がることが評価されているのが大きいと思っています。

坂田:ありがとうございます。最後に、登壇者の皆様から一言ずつ、今後の展望を伺えればと思います。

西尾:デモでもお話ししたように、「ボノイド」は現在、自律対話の機能を開発しているところです。数年以内にはみなさまに見せられると思うので、ぜひ展示に足を運び、ロボットとのふれあいを体験していただきたいです。

伊東:現在のテーマは、高齢者の対話に関するデータの蓄積と、AIによる自律型の会話技術の発展です。私たちには「テレノイド」などの研究を通じて得た「コア」となる技術があります。高齢化社会が進む日本から始まり、世界中で使用されるロボットを開発していきたいですね。

花村:今回は「ミラーコンシェルジュ」として、心拍数を測定するAIを紹介しましたが、これからは様々なソフトウェアとコラボレーションして、多くの機能を付与していきたいと思っています。

柴田:今日のお話を聞いて興味を持った方は、ぜひ「パロ」とぜひ触れ合ってみてください。やはり、触れ合ってみることではじめて理解できることはたくさんあります。これからもっとみなさまに「パロ」を活用していただけるよう、現場でのトライアルを重ねていきたいですね。

坂田:今回は「インターフェイスとしてのロボット」をテーマに、3種類のロボットと、開発の背景を紹介しました。それぞれ活用の場面や機能は異なりますが、「対人コミュニケーション」を主軸に置いている点で、コミュニケーションロボットの開発に敷衍できる知見があったかと思います。今回のお話を参考に、ロボット開発の次の一歩を考える機会になれば幸いです。今日はありがとうございました。