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“食生活革命”に挑む日米スタートアップが語る、テクノロジーが変える栄養の未来

2018年12月4日から5日にかけてメドピア株式会社主催で行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2018」。産学官からヘルスケア業界をリードするトップランナーたちが集い、数十にも及ぶセッションが繰り広げられました。

今回は、2日目に行われたセッション「食生活革命~テクノロジーは人の栄養を向上させるか~」の様子をダイジェストでお送りします。

健康を考えるうえで欠かすことのできない「栄養」。しかし、日々の忙しさや、食べたいものへの誘惑に負けてしまい、栄養への意識が薄れてしまうのも事実です。テクノロジーは、人びとの栄養意識をどのように向上させられるのか。食事記録アプリから薬の情報プラットフォームまで、幅広い領域の人びとが集まり、議論が行われました。

※セッション登壇者
・吉澤 美弥子(500 Startups Japan(現 Coral Capital) シニアアソシエイト)モデレーター
・Matthew Holt(Co-Chairman, Health 2.0)モデレーター
・天辰 次郎(株式会社ウィット 執行役員)デモ
・Adrian Gomez(Co-Founder & CEO (MSc., R.N.), S-There Technologies.)デモ
・Ben Lo(Co-Founder, Medzii)デモ
・Ravi Soin(Co-Founder, Medzii)デモ
・小原 一樹(アドウェル株式会社(現・シルタス株式会社) 代表取締役CEO)デモ
 ■目次


食事の画像、ポイントカードから栄養価を算出。食事記録を自動化するスタートアップ

Health 2.0 Co-Chairman Matthew Holt氏、500 Startups Japan(現 Coral Capital) シニアアソシエイト 吉澤 美弥子氏
Health 2.0 Co-Chairman Matthew Holt氏(写真右から2番目)
500 Startups Japan(現 Coral Capital) シニアアソシエイト 吉澤 美弥子氏(写真右から3番目)

Matthew Holt(以下、Matthew):Health 2.0のMatthewです。今回のテーマは「食生活革命~テクノロジーは人の栄養を向上させるか~」。このセッションでは、健康を考える上で欠かすことのできない「栄養」について、「テクノロジー」との関わりを模索していきたいと思っています。今回はセッションの進行役として、500 Startups Japan(現 Coral Capital)の吉澤美弥子さんをお呼びしました。

吉澤 美弥子(以下、吉澤):500 Startups Japan(現 Coral Capital)の吉澤美弥子です。私は大学在学中、海外のヘルステック企業を紹介するWebメディアを運営していました。現在は、ヘルステックに関心のある医療従事者や、IT人材の交流やコラボレーションを支援しています。

それでは、早速デモに入りましょう。まずは、日本で事業を展開をされている2社から、お話を伺いたいと思います。

株式会社ウィット 執行役員 天辰次郎氏
株式会社ウィット 執行役員 天辰次郎氏

天辰 次郎(以下、天辰):株式会社ウィットの天辰次郎です。弊社は、食事記録をするだけで、無料でアドバイスを受けられるサービス「あすけん」を提供しています。食事記録の際、コンビニの商品からファミレスのメニューまで幅広い食事メニューから記録できる網羅性と、手入力が面倒な方には食事を撮影して画像解析で記録できる簡便性が、あすけんの特徴です。

食事記録が完了すると、タンパク質やエネルギーなどが書かれた成分表だけでなく、アドバイスが閲覧可能になります。アドバイスを表示するアルゴリズムは、厚生労働省の資料に基づき設計しました。アドバイスと数値をみせることで、知識のない人びとでもわかりやすく行動を変容させられる仕組みになっています。

ユーザーの記録はクラウドに保存されるため、医師が論文を執筆する際のエビデンスとして使用可能です。こうした学問的な取り組みも評価を受け、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の助成金対象事業に選定していただくことができました。

今後の展望の1つとして、注力していきたいのは海外版の展開。既にアメリカ版のあすけんは会員数が13万人を超えており、海外でも通じる手応えを感じています。また一般向けだけでなく、医療領域でも使用されるようなツールになっていきたいですね。

アドウェル株式会社(現・シルタス株式会社) 代表取締役CEO 小原 一樹氏
アドウェル株式会社(現・シルタス株式会社) 代表取締役CEO 小原 一樹氏

小原 一樹(以下、小原):アドウェル株式会社(現・シルタス株式会社)の小原です。本日は、弊社の提供するアプリ「SIRU+(シルタス)」についてご紹介させていただきます。このアプリは、ポイントカードなどの決裁情報と連携させて、購買情報から栄養素を分析することで、食生活のインプットを「自動化」していくものです。

買い物ベースの管理なので、家族がいる人は家族全員の栄養価管理が可能。また買い物情報から栄養素を算出するアルゴリズムによって、栄養素の不足や過多を推測し、食材をレコメンドする機能も付与しています。さらにユーザーの嗜好や住んでいる地域、アプリ内の閲覧履歴を元に、個々人の好きな味や調理法を推測しながら、パーソナライズされたレコメンドができるのも特徴です。

「SIRU+」は2019年春にリリースし、全国に展開していく予定です(※2019年3月29日にサービス開始)。もしご興味を持っていただけるメーカーさん、ヘルスケアサービスの方々がいましたら、是非お声がけください。

いかに「健康」を意識させずに長続きさせるか

Health 2.0 Asia - Japan 2018、食生活革命~テクノロジーは人の栄養を向上させるか~

吉澤:天辰さん、小原さん、ありがとうございました。2社を交えてのパネルディスカッションに移ります。まず1つ目にお聞きしたいのは、継続的にアプリを使用してもらうためのUI、UXの工夫です。なかなか長続きしないヘルスケアサービスですが、どのような仕掛けを施しているのかお聞かせください。

天辰:食事を記録する際に「気持ちいい」、「楽しい」と感じてもらうことに、一番気を遣っていますね。具体的には、アドバイス画面にキャラクターを登場させたり、食生活のクオリティをポイントで評価したりと、「ゲーミフィケーション」を取り入れることで継続率の向上を図っています。また、あすけんにはユーザー同士で食事画面を見せ合うコミュニケーション機能も搭載。「一緒に高め合う感覚」も、継続率の向上に寄与しているのではないでしょうか。

吉澤:あすけんは非常に多くのユーザーを抱えているアプリだと思うのですが、競合もいるなかで、どのようにマーケティング戦略を進めていったのでしょうか?

天辰:とにかく「世界一の食事管理ツール」になることだけに、こだわりを持つようにしていて。人びとが「痩せたい」、「綺麗になりたい」と思ったとき、真っ先に思い浮かべるアプリとなれるよう、マーケティング施策を考えていますね。実際、「ダイエット おすすめ アプリ」といったワード検索も上位で表示されていますし、ASO(※アプリストア内の検索エンジン最適化)も非常に強いです。

吉澤:もう1つ、お聞きしたいことがあります。あすけんのビジネスモデルで素晴らしいと思っているのは、ユーザーの一人ひとりがしっかりと課金しているところ。ヘルスケアサービスは、なかなかユーザー課金をされにくい領域だと思うのですが、なぜ「あすけん」には課金しようとするユーザーが多いのでしょうか?

天辰:「健康になろう」、「生活習慣になりたくない」といった長期的な予防意識ではなく、「痩せたい」、「綺麗になりたい」という短期的な“欲求”に刺していることが大きな要因ではないかと思っています。「あすけん」のユーザー課金は300円/月ですが、「それで綺麗になれるのであれば、安いものだ」と思ってくれるユーザーは多いですね。

吉澤:続いて小原さん、「SIRU+」はまだリリースされていないサービスですが、継続率の向上のために、どのような仕掛けを考えているのでしょうか。

Health 2.0 Asia - Japan 2018、食生活革命~テクノロジーは人の栄養を向上させるか~

小原:健康意識は長続きするものではないので、いかに意識させずにアプリを使ってもらうかに気を遣っています。そのための機能として必要なのが、先ほどもお話しした「簡便化」と「自動化」ですね。また健康意識が高くない日でも、少しでも栄養のことを考えられるような仕掛けを意識しています。

吉澤:たしかに、健康意識の低いときのデータをいかにして取得していくかは、継続率に大きく関係してきそうですね。「SIRU+」は今後、どのようなビジネスモデルで収益を上げていこうと考えられているのでしょうか?

小原:私たちがターゲットとしているのは、「あすけん」のユーザーよりも更に健康意識の低い人びと。そういった人びとは健康へのモチベーションが低いため、あまり継続的な課金システムでマネタイズすることは望めません。しかし買い物と同時にデータが大量に入ってくるため、流通業者や食品メーカーをターゲットに、ビッグデータを提供していくことでマネタイズできるのではないかと思っています。

吉澤:なるほど、ありがとうございます。健康意識の低い人びとに「SIRU+」を利用してもらうために、どのようにリーチしていこうと考えていますか?

小原:2つポイントがあると考えています。1つは、買い物のデータを集めるサービスですので、スーパーマーケットを接点にユーザーを獲得していくこと。もう1つは、子供の栄養をしっかりと管理したいお母さんにアプリを訴求していくこと。実証実験では、子供の栄養管理を簡便化できるということで、子育てしている母親層から好評を博していました。

海外からやって来た、栄養の「摂取」と「計測」のテクノロジー

Matthew:ここからは、海外の2社にお越しいただきましょう。1社目は、S-There TechnologiesのAdrian。S-There Technologiesでは、尿からさまざまな指標がモニタリングできるスマートデバイスを開発しています。2社目は、Medzii。この会社では、薬やサプリメントの副作用などの情報を集めて、シンプルで分かりやすい形で患者さんに提供しています。では、デモをお願いします。

S-There Technologies Co-Founder & CEO Adrian Gomez氏
S-There Technologies Co-Founder & CEO Adrian Gomez氏

Adrian Gomez(以下、Adrian)S-There TechnologiesのAdrianです。突然ですが、みなさん、1年で何回トイレを利用しているかご存知でしょうか?

知らない方が多いと思いますが、私たちは1年間に約2,500回トイレを利用しています。弊社は、そんな日常生活の一部であるトイレにセンサーを設置することで、人びとの健康に寄与することをビジョンとしています。今回は実際に、弊社が開発しているセンサーをご紹介しましょう。

Adrian:こちらがセンサーです。手のひらサイズの小さなセンサーですが、小便を検知することで血尿の判定や血糖値、水分量、尿タンパクも計測可能です。取り付け方は、センサーの裏についたステッカーを便器に装着するだけ。非常に簡単です。

また、弊社はこのセンサーに準拠したアプリを配信しています。アプリでは最初に体重、身長、性別を記入。センサーはBluetooth経由でアプリに接続します。Appleの健康アプリとも連携できるため、健康記録を一元管理することが可能です。

このセンサーは現在、スペインやベルリンの臨床現場で使用されていますが、「得た情報をどのように活用できるのか」を知るべく実験を行ないました。結果、糖尿病性腎症患者のモニタリングに使えるのではないか、との仮説を得ることができました。

また今後は、尿検査をこのセンサー1つで済ませることができないか、模索しているところです。具体的には、アラーム機能をつけようと思っています。例えば、尿タンパクのレベルが高い日にアラームを鳴らすことで、病気の早期発見が可能になる。そんな機能です。

弊社の製品は、糖尿病やその予備軍、糖尿病を予防したい人びとにニーズがあるのではないかと考えています。病院や製薬会社で導入されることも期待できますし、多くのチャンスが眠っているビジネスだと感じています。

Medzii Co-Founder Ravi Soin氏

Ravi Soin(以下、Ravi):MedziiのRaviです。弊社は、薬、サプリメントの効果や副作用の情報を集めたプラットフォーム「Medzii」を患者さんに提供しています。このプラットフォームは、30年分の臨床データや、学術文献検索サイト「PUBMED」から情報を集め、機械学習で薬、サプリメントを評価。学術的に見ても、非常に信頼性の高いプラットフォームです。

また、罹病歴や持病をプロフィールに記入いただくことで、薬によってどのような副作用が起きる可能性があるのかを警告したり、個々人にあった薬をレコメンドすることも可能。さらに薬による作用だけでなく、正しい用法、容量も、「Medzii」から知ることができるのです。

複数の薬物が体内で融合することで発生する「薬物相互作用」についても、データベースに蓄積しています。薬物相互作用は死亡例が出てくるほどのシリアスな問題ですが、薬局から出される薬から市販のOTC薬まで、多くの薬を網羅し、患者さんの体にあった薬を提供できるよう情報発信しているんです。他にもアレルギーに対する反応や、サプリと併用することで効果を発揮する食材などもレコメンドしています。

ヘルスケアサービスは、同業者の「口コミ」で広まる

Matthew:では、ここからパネルディスッカッションに入っていきましょう。まずAdrianに質問です。ビジネスの側面からの質問になりますが、今後トイレに設置するセンサーを、どのように展開していこうと考えているのでしょうか?

Adrian:1つのやり方としては、トイレメーカーとの協業もあり得ると考えています。日本で言えばTOTOさんとは、1度お話をしてみたいです。「トイレ」は他の市場と比べると変化があまりないので、10〜20年といった長いスパンで市場を見極めていきたいと考えています。また患者さんが多くいる施設などの臨床現場にも、使用するチャンスは多くあると感じています。

Medzii Co-Founder Ben Lo氏
Medzii Co-Founder Ben Lo氏

Matthew:Medziiのビジネス展開についても、Co-FounderのBenからお話を伺いましょう。

Ben Lo氏:弊社にとって鍵となるのは「パートナーシップ」だと思っています。パイロット版をいくつかの病院でテスト導入していますが、私たちが提供する情報サービスが広まるのは同業者「口コミ」がほとんど。医療のアドヒアランスが問題になっている老人ホームも可能性があると思っていますが、信頼性が高いことを多くのクリニックや施設に認知してもらい、飛躍的にサービスが広まることを期待したいです。

Matthew:ありがとうございました。今回は4社にお越しいただきましたが、人の命を助けるためには、もはやデータは必要不可欠だということがわかりました。今後、ヘルスケアを変えていくためには、やはりテクノロジーのプラットフォームやモニタリングが欠かせません。今後、今日登壇してくれた各社が飛躍的に発展することを願っています。