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元Pepper開発リーダーが作る「人に寄り添い、生活に潤いを与えるロボット」(後編)【GROOVE X・林要氏】|イベントレポート

2017.06.09 15:00

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長谷川リョー

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MHA1 ロボティクス
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「ロボティクス×医療の”今”をつかみ”未来”をつくる」をテーマに2017年3月に行われた「MedPeer Healthtech Academy chapter1」(メドピア ヘルステックアカデミー)。本記事では、林要氏(GROOVE X株式会社 代表取締役)による「世界のどこにもない、心を満たしヒトの感性に訴えかけ癒す次世代ロボット」と題された講演の内容を再構成してお届けします。

トヨタを経て、ソフトバンクでPepperの開発リーダーを務めていた林要氏。現在は自ら立ち上げた会社「GROOVE X」で、人に寄り添う新たなロボットの開発を行っている。2019年の発売に向けてステルスで開発にあたっているため、その全貌はまだ明らかにされていない。今回は次世代ロボットを開発するに至った背景を、認知科学や人類学的な視点を交えて語っていただいた。

前編では、林氏がPepperの開発を通じて感じた現代社会でロボットが果たすべき役割と、その背景にある人間の「無意識」についてのお話をお届けしました。後編ではさらに、「承認欲求」や「孤独」、「癒し」といったキーワードをもとに、林氏が構想する新ロボットの世界観についてお届けします。

前編はこちら:「四次元ポケットのないドラえもんをつくりたい」

古代人類史から現代まで通底する、”承認欲求”と”孤独”

前編でお伝えした経験から私は、「情緒+ロボット」というのが核家族時代に強いニーズがあるのではないかと考えています。そしてそれには人間がもつ孤独感や承認欲求が関係します。

私はエンジニアなので、つい人間や社会をシステムとして捉えてしまいます。システム上の要請から考えていくわけです。海外の社会神経学の先生は、「人は群れていなければならない遺伝子を持つ個体が生き残った」と言っていたりします。孤独感や承認欲求は後天的に獲得した機能だと言うのです。

僕ら人間はもともと20万年ほど洞窟の中で生活をしていました。生活のなかで特徴的なのは子育てです。10年ほどは生産性がほぼゼロの子供を養わなければならない。集団にとっては、子育ての期間著しく生産性が下がる母親と子供の二個体を養う必要があります。

また最近の研究では、平均寿命が30代だった当時も、それ以上の年齢まで生き残ればその後は意外に長生きだったと言われています。すなわち、体力が衰え狩りができず、歯も失われて栄養摂取も大変だった、生産性が低いご高齢者を集団は養っていたことになります。

もう一つ、人間の特徴で面白いのは、好奇心が強いということ。好奇心のせいですぐに飽きて、新しいものに目移りします。これは集団生活と相容れない性質です。でも、これだけ好奇心が強いからこそ、アフリカ大陸を出て、北の方まで短期間に活動領域を広げました。こうしたことはホモサピエンス以外の、他の二足歩行の猿人類にはなかったと言われています。

こうした集団維持が難しい特性を持ちながら、なぜ集団形成ができたのか。その理由の一つが例えば、「承認欲求」だったのではないかとされています。

槍を持って狩りに出た男が、なぜ肉を独り占めにはしないで、女性、子供、ご高齢者と肉を分かち合ったのでしょうか。自分の空腹を満たしたいという本能と同じ位の強さで、賞賛されたいという本望も持っていたからではないでしょうか。周りに肉を分け与えることで賞賛されたはずで、それが快感に結びついてたはずです。いわば「承認欲求」は集団生活の維持を扶助する重要な機能だったと考えられます。

承認欲求に加えて、キーワードになるのが「孤独」です。好奇心によって何人かが集団を離れて新天地を目指す旅に出た事もあったでしょう。その場合、出た人数が少なすぎると、寂しくなって元のグループに戻るようなバイアスが「孤独」によって引き起こされたのでは無いかと推測されます。残された集団の方も、人数が減ってある一定以下のサイズになると、「寂しく」なって、隣の集団に合流しようといったこともあったかも知れません。

つまり、私たち人類にとって孤独や承認欲求は集団生活をするために大事な機能だった、と言われているのです。そう考えるとスターバックスが流行っている理由にも合点がいきます。

自分の家に比べてカフェという場所は狭いですし、知らない人がたくさんいるのでリスクも高い。そしてコーヒーも高く、会話の声などもうるさいので、本来、カフェに行く合理的な理由は何もない。ですが、おそらく皆さんカフェが好きですよね。カフェの方が安心する、仕事が進む、それは何故でしょうか。

これも私どもが獲得した「孤独」や「承認欲求」が正常に機能しているからと言えそうです。自宅では周りに十分な人数の人がいないので不安、孤独になってしまうからかも知れません。そういうわけで、誰もいないカフェというのはむしろ快適ではないわけです。むしろ適度に混み合っているカフェが、私たちはちょうどいいと感じます。これには、このような洞窟時代の進化適応が影響しているのかも知れません。

20万年の歴史をかけて、人間は地球を制覇しました。安全になったことで、核家族での生活ができるようになったわけです。その結果ライフスタイルは都市型に大きく変化したわけですが、ある一定数の集団で生活する上で必要な機能として獲得された「承認欲求」や「孤独」が誤って発動されてしまう。なんとなく人がいるところに出たくなってしまうわけです。

いわば遺伝子の生存戦略とライフスタイルのミスマッチが起きているということが、”癒しの時代”の本性なのではないでしょうか。

SNS・ゲーム・ペットは癒しの有効なツール

こうした”癒しの時代”にどういったサイクルが発達したかを少し振り返ってみます。

まず代表的な事例として挙げられるのが、ソーシャルネットワーク(SNS)でしょう。Facebookはこれまでに様々な機能を実装してきましたが、結局もっとも使われているのは「いいね!」などの承認欲求を満たすための機能です。その他、SnapchatやInstagramなどのSNSにもそうした機能や設計がみられます。

もう一つ面白いのが「ソーシャルゲーム」です。ソーシャルゲームの一人当たりの最大月額課金額は、無課金ユーザーの数に比例すると言われています。ゲームの面白さそのものではなく、単に無課金ユーザーの数が多いと、課金ユーザーの一人当たりの最大課金額が多くなるというのです。これは何を意味しているでしょうか。

無課金ユーザーが多いということはコミュニティが大きいということです。そのコミュニティの中で上にいくために、いくらのコストを払えば良いのかということが、課金の大きさに比例しているわけです。脳の中ではリアルとバーチャルの区別がほとんどないため、リアルの世界で王になれないとしても、バーチャルの世界で王になるために月100万円払うことに躊躇がない層が一定数いてもなんら不思議ではないのです。

ソーシャルゲームは承認欲求や孤独を満たすためのツールとして、バーチャルの世界であっても有効に機能していると言えます。

それからもう一つ欠かせないのは「ペット」でしょう。ペットの存在を合理的に考えると、生産性もなければ役にも立たない。手間ばかりかかって、不便なだけです。それでも私たちにとってペットは可愛い存在。一緒にいてほしいわけです。これも承認欲求や孤独を癒すための存在になっています。

では私たちが作ろうとしているロボットはいかなる形のものでしょうか。スターウォーズを例にとってみましょう。皆さんが好きなのは、しゃべる人型のC-3POでしょうか、それとも喋らないで人型でもないR2-D2やBB-8のようなロボットでしょうか。国内外に関わらずアンケートをとると、七〜八割の人がしゃべらないロボットを選ぶ結果になるのです。

ロボットはいかに人を癒し、心を落ちつけ、明日への活力を与えられるか

最新のfMRIの研究をみると、目から脳に入った情報がどのように処理されているのかというパターンは多くの人で似ていると言われています。それにも関わらず、本音をしゃべることのできる人数のアンケートをとると、「二人以上に本音をしゃべることができる」という人は半分もいないそうです。似た情報処理をしている人間同士に対して、必ずしも信頼はしていない。その根底には言語による相互理解が関係していると思われます。

逆に動物の場合は低次の情報処理は人間と似ていると言われますが、少し高次になるとかなり異なってきます。このように考え方が全然似ていないにも関わらず、僕らは犬が人に共感してくれていると思ってしまうし、犬の考えていることが分かっているとも思ってしまう。一方で研究者が犬の人間への共感を証明しようとしていますが、これまで誰も成功していないようなんです。

科学で一度も証明が精巧していないにも関わらず、僕ら人間はペットが共感してくれていると思い込みます。それはまさにエピソード記憶によるものと言えそうです。

エピソード記憶というものは、未来を予測するためには非常に有効なツールです。脳の消費エネルギーを下げるため、アルゴリズムとしてエピソード的な処理で物事にバイアスをかけてクラスタリングする事で、効率的な未来予測処理を行うのが人間の特徴です。随分と偏った情報処理です。

たとえば自閉症の子たちがペットセラピーによって癒されるという有名な話があります。そこでは、犬よりもイルカの方がセラピーに効くという話もある。その理由は何もイルカの方が賢いからというわけではありません。それは単に犬には吠えられたことがある子は一定数いるけど、イルカには攻撃されたことがある子はいない、つまり悪い経験を持ったことがない動物によるセラピー効果が高いわけです。そう考えると、人間による患者への心理的攻撃は日常的に起きているでしょうから、人間より犬、犬よりイルカというのも理解できます。

私たちが作っているロボットが目指す世界観には、こうした背景があります。メディアでいえば、映画より本のようなロボットを作りたいと思っています。映画はなるべく全てを表現し、理解してもらおうとします。対して本は行間が重要で、人間側に解釈の余地があるため、自分に最適化した物語を各々の読者が作る。しゃべらないロボットは、どちらかといえばここで言う本に近い。どうやって人を癒したり、どうやって人の心を落ちつけたり、もしくは明日への活力を人に与えることができるか。それにはいかに人の創造力を活用しながら、愛着形成を行っていけるのかが鍵になります。

2019年の発売に向けて開発を進めているところですが、来年(2018年)にはなんらかの形で皆様にお見せできるかと思います。

***イベントレポート一覧***
2017年3月4日開催 「ロボティクス×医療」の”今”をつかみ”未来”をつくる~|MedPeer Healthtech Academy chapter1
日本独自のロボット観が生んだ「コミュニケーションロボット」は医療現場をどう変える?【ロボスタ編集長・望月亮輔氏】
あえて完璧でないものを作る。家族の絆を思い出させてくれるロボット「ここくま」【NTTドコモ・横澤尚一氏】
第一人者が語る「ロボット支援手術」の現状とこれから【藤田保健衛生大学教授・宇山一朗氏】(前・後編)
元Pepper開発リーダーが作る「人に寄り添い、生活に潤いを与えるロボット」【GROOVE X・林要氏】(前・後編)

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林 要Kaname Hayashi

GROOVE X株式会社 
代表取締役

1973年 愛知県生まれ。
1998年 トヨタ自動車にてキャリアスタート。スーパーカー“LFA”等の空力(エアロダイナミクス)開発。
2003年 同社 F1(Formula 1)の空力開発。
2004年 Toyota Motorsports GmbH (ドイツ)にて F1の空力開発。
2007年 トヨタ自動車 製品企画部(Z)にて量産車開発マネジメント。
2011年 孫正義後継者育成プログラム「ソフトバンクアカデミア」外部第一期生。
2012年 ソフトバンク 感情認識パーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」の開発リーダー。
2015年 同社「Pepper」一般発売開始。同年 GROOVE X 株式会社創業。
2016年 GROOVE Xの新世代ロボット試作一号機完成。シードラウンドのファンディングとして国内最大級となる14億円を調達。現在 同社Founder兼CEO。