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“第4次産業革命”は超高齢社会をどう変えるのか?人工知能×ビッグデータが変える介護の未来【デジタルセンセーション・石山洸氏】|イベントレポート

2017.07.20 15:36

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長谷川リョー

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MHA2 ビッグデータ 人工知能(AI) 介護
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「『在宅医療×テクノロジー』の“今”をつかみ“未来”をつくる」をテーマに2017年4月に行われた「MedPeer Healthtech Academy chapter2」(メドピア ヘルステックアカデミー)。本記事では、石山洸氏(デジタルセンセーション株式会社 取締役COO)による「超高齢社会における医療へのAI活用」と題された講演の内容を再構成してお届けします。

人工知能の普及によってもたらされる「第4次産業革命」。人工知能とビッグデータを利活用することで、業界の垣根を超えた産業構造の変化が起きようとしています。“第4次産業革命”で介護業界の未来はどう変わるのか? 32歳という若さにしてリクルートの執行役員「IT-EXE」に就任し、同社のAI研究機関「Recruit Institute of Technology」初代室長を務めた石山洸氏は、介護業界が介護とは別の領域と融合していくことを示唆します。

デジタルセンセーションの石山洸と申します。まずはじめに、私自身のバックグラウンドについて少しお話させてください。

大学院生時代は経済分野や教育分野など、あらゆる分野にどう人工知能を活用するかという研究をしていました。修士課程の2年間で人工知能に関する論文を18本書いたのですが、論文をたくさん書くなかで気づいたのは「論文を書くだけでは社会が変わらない」ということです。大学院時代に培った知見を社会接点の多い会社で活かそうと考え、リクルートホールディングスに就職しました。

1年目はオンラインマーケティング、データサイエンティストの仕事を同時に経験しました。それから4年間Webメディアのグロースハックを任され、入社5年目から新規事業の立ち上げに従事。2014年に社内の人工知能研究機関である「Recruit Institute of Technology」の初代室長に就任して、世界的な人工知能研究者とコラボレーションして研究開発を行いました。

ある程度各事業と人工知能の接続が終わったところで、「今後解決しなければならない課題をもっとも抱えているのは介護業界だ」と考え、デジタルセンセーションに転職しました。

人工知能を応用できる領域は大きく二つに分けられます。一つは自動化できる領域、もう一つは自動化できない領域です。後者はあまり語られることがありませんが、実はこちらに介護の問題を解決する大きな可能性があります。

たとえば、機械によって介護の労力を削減すると介護の質の低下をもたらす可能性があるため、完全に自動化することは困難です。しかし介護をしている動画を撮影し人工知能のサーバーに送ると、その介護がどのようなレベルにあるのかを解析してフィードバックを返すような仕組みができ始めています。

新たな介護技法「ユマニチュード」を人工知能が普及させる

デジタルセンセーションでは、認知症の新しいケア技法として注目を集めている新しいケア技法「ユマニチュード」の普及・定着を行っています。

ユマニチュードは「見る」「話す」「触れる」「立つ」という4つの柱に立脚したケア技法であり、英語では「HUMANITUDE(ヒューマニチュード)」と呼ばれます。要するに、しっかりと尊厳を持って人間らしくケアをすることで「自分が大切にされている」と感じてもらうための技法です。

実はユマニチュードを日本に導入するとき、「本当に効果があるのか?」と疑問視する声がありました。そこで初めて、人工知能の研究者たちが協力しながらユマニチュードの効果をデータで可視化し始めたんです。

その結果明らかになったのは、認知症患者によくみられる攻撃的な行動や介護の拒否がユマニチュードによって減少するということ。ユマニチュードが介護者と被介護者の間に信頼関係を作り、BPSD(認知症における周辺症状)に効果をもたらすことがデータとして証明されたのです。


(本記事内のスライド資料の権利はすべてデジタルセンセーション株式会社に帰属)

ただ、課題となるのは技法を広めるためのインストラクターの数を増やすこと。そこで我々は人工知能を活用しながら、ユマニチュードができる人の数を増やす研究を行っています。

具体例を挙げます。こちらはケアをしているシーンを動画に撮影しながら、ワイプに映る有識者が同時並行でアドバイスを加え、「どういうケアをしたときに、介護者と被介護者のリアクションが変化するのか」というデータを蓄積するもの。

人工知能がそれらを学習することにより、ワイプから指導してくれている人を人工知能に置き換え、良いケア・悪いケアの判断ができるようになることを目指しています。実際の介護ケアを自動化することはできませんが、自動化不可能な領域へ人工知能を適応させ、課題の解決を目指しているのです。

“第4次産業革命”にみる「データ×地域包括ケアシステム」の可能性

紹介したのは認知症ケアの無人化を目指す人工知能ですが、実はさまざまな領域に応用することができます。

というのも、すべてのコミュニケーションのなかでもっとも難しいとされるのが認知症ケアのコミュニケーションなのです。なので、より簡単な領域においてこのシステムが活用できることがわかっています。たとえば、新築マンションを購入する際の接客やテレビ局でのアナウンサー教育などですでに利用されています。

人工知能が特定の領域で学習したデータを別の領域に適用することを「第4次産業革命」と呼びます。第4次産業革命では「人工知能がどのように私たちの社会をより良くするのか?」が議論され、世界中で加速するスマートシティ化の推進に大きく寄与しています。

スマートシティ化は、要介護者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを送るための「地域包括ケアシステム」の実現にも大きく関わることです。その話をする前に、以前手がけたの私の仕事についてお話しさせてください。

私は長らくビックデータを用いた地方創生の事業に携わっていました。当時、岩手県の紫波町でフィールドワークをしたことがあります。紫波町は年々人口が減少している地域なのですが、紫波町で地方創生を手がける岡崎さんという方が「人口成長と経済成長の両方を成し遂げられる」とおっしゃっていました。その理由を伺ったところ、Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグが同じことを言っていたのに気づいたんです。

まずはユーザー数を増やし、それからユーザー1人あたりの売上を増やしていくのがFacebookのビジネスモデルです。これは人口成長や経済成長を成し遂げる地方創世のモデルによく似ています。ただ、Facebookと地方創世の類似には決定的な違いが一つあります。それはデータの有無です。

Facebookは、一ヶ月間利用のないユーザーに対し、どのようなメールを送れば再びアクティブになるのかというテストを何億パターンも検証します。蓄積したビッグデータを解析し、改善を繰り返しながら、ユーザー数を拡大させました。

一方で、行政や地方自治体が持っているデータのほとんどは非常にざっくりしたものです。そのため、すぐにFacebookのマーケティング改善手法を地方創世に応用することは難しいですが、地域のスマートシティ化に付随する形で取り入れていくことは可能でしょう。

以前、実際にFacebook社の執行役員・横山直人氏を招いて長野県の小布施町で人工知能を活用するワークショップを行いました。

小布施町は栗が名産物で、栗農園が主要な産業です。しかし栗の木を育てる技術が難しく、技術継承の困難さから農業従事者の数が減少しています。そこで、この課題を人工知能で解決する方法を議論し、VRを用いて技術継承を簡単にする方法を導きました。つまり、人工知能は地方でも経済成長をサポートできるということです。

ここで言いたいことは、データと人工知能を組み合わせることで、地域が抱える課題を解決できる可能性があるということです。

内閣府が提供する産業構造や人口動態をビックデータに集約したプラットフォーム「RESAS」には医療系や介護のデータも少しずつ導入されてるんですね。データが蓄積されていくのに応じて、ケアの効果的なテクニックや使用法が可視化され、介護の需要と供給のレベルが量と質共に分かってきます。

業界を超えた「ヒト×モノ×データ」のつながりが、超高齢社会を快適な未来に変える

デジタルセンセーションが提携する企業・ブティックスが「CareTEX」という介護業界最大の展示会を主催しています。来年以降、さらに大規模な展示会「東京CareWEEK」を開催する予定です。

「東京CareWEEK」は介護機器を販売する企業に加え、その他周辺産業も含めた展示会を構想しています。単発の展示会を週単位に広げ、さまざまな業界と連携しながら、どのようなことが介護の世界でできるかを検討していくわけです。

すると、時間と空間の制約が徐々になくなっていきます。仮にこれが年単位のイベントとなり、そこにテクノロジーを投入すれば、24時間365日必要なときに必要なだけ介護に必要な情報や物資を活用できるプラットフォームが生まれる可能性があるでしょう。

弊社が提供する「ユマニチュード」の技術はヒトに関するものです。そのため、モノに強いブティックスさんと協力することで、より多角的な視点で介護の問題を考えられるようになります。今後はかけ離れた領域同士が統合されていくことで、異なる領域のデータが持つ因果関係を分析できるようにもなります。地域に対して「ヒト、モノ、データ」の観点から最適なアプローチが可能になるのです。

一口に「地域包括ケアシステム」といっても、多方面から課題解決策を見い出せることにビッグデータの大きな可能性があると思っています。

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石山 洸Kou Ishiyama

デジタルセンセーション株式会社
取締役COO

2006年、株式会社リクルートに入社。同社のデジタル化を推進した後、新規事業提案制度での提案を契機に新会社を設立。事業を3年で成長フェーズにのせバイアウトした経験を経て、2014年、メディアテクノロジーラボ所長に就任。2015年、リクルートのAI研究所であるRecruit Institute of Technologyを設立し、初代所長に就任。2017年より、故マービン・ミンスキー博士が長年顧問を務めたデジタルセンセーション株式会社の取締役COOに就任。静岡大学客員教授(2017年4月1日より)、東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員、betacatalyst Inc. 技術顧問を兼任。

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