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地方で働くドクターが考える“医療現場とテクノロジーの隔たり” 【やまと在宅診療所院長・田上佑輔氏】|イベントレポート

2017.08.04 15:37

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オバラミツフミ

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MHA2 在宅医療
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「『在宅医療×テクノロジー』の“今”をつかみ“未来”をつくる」をテーマに2017年4月に行われた「MedPeer Healthtech Academy chapter2」(メドピア ヘルステックアカデミー)。本記事では、田上佑輔氏(やまと在宅診療所院長)が手がける「テクノロジーより前に必要なこと:都市と地方の在宅診療を通して」と題された講演の内容を再構成してお届けします。

ビジネスシーンにおいては、必ずしも人の手を必要としないシーンが人工知能やロボットに置き換えられるようになりました。医療現場にも、こうした業務効率化を図るテクノロジーを取り入れる機会が増えつつあります。しかし、「テクノロジーよりも大切なことがある」と田上氏は語ります。地方で在宅診療を行う現役のドクターが考える、適切なテクノロジー開発とはどのようなものなのでしょうか?

医療法人社団やまと理事長の田上佑輔と申します。もともと、東京大学付属病院で外科医をやっておりましたが、2011年の東日本大震災で宮城県登米市にボランティアに行ったことがきっかけで、現在は東京近郊の都市部と宮城県で在宅診療を行っています。まずは簡潔に、その経緯をお話させてください。

ボランティアを終えて、東京に帰ってきたときに痛感したのは環境の不平等さでした。東京大学付属病院は患者さん1,000人に対して医師が1,000人いるような病院ですが、登米市は10人の患者さんを1人の医師が診ているような状態です。そこで、個人で在宅診療を行おうとも考えましたが、それだけでは医師不足を解決できません。お医者さんが少ない地域に長期的に関われる形を考え、2013年に在宅診療所を設立した運びになります。

「在宅医療×テクノロジー」という今日のテーマでは、AIによるイノベーションなどが主なキーワードになるかと思います。しかし私は、医師や医療者の働き方を今後どのようにしていくか、地域レベルでの医療の最適化をいかに実現していくかもイノベーションの一種だと考えています。本日は、病院や診療所など医師が関わる医療現場で働いている当事者としての側面からお話をさせてください。

地方と都市部の医療の違い。需要に対して最適な医療を

私たち医療法人社団やまとは、宮城県の登米市と大崎市、神奈川県の日吉と武蔵小杉に在宅診療所を開設しています。

宮城県登米市は人口8万人、高齢者率が約30%の地域。医師が本当に少ない所です。大崎市は新幹線の駅もある人口14万人ほどの街で、多くの人は日中仙台で働き、夜になると家に帰ってきます。一方、武蔵小杉はもともと古い街でしたが、再開発が始まった約10年前から人口が増加しています。日吉が位置する横浜市港北区も単身世帯が多い人気住宅街です。

地域の事情に合わせ、求められる在宅医療の形も変わります。例を挙げればキリがないですが、一つ大きな違いとして「家族のあり方、介護の形」があります。地方は10人ほどの大家族で暮らしていることが多いです。都市部の場合、特に武蔵小杉は独居や核家族が多く、おじいちゃんがおばあちゃんを一生懸命介護していることが多いです。

もう一つの大きな違いは人の流動性。地方は区域のなかに大型ショッピングモールがあり、その商圏の中でコミュニティが形成されています。対して都市部は、日中・夜間を含めて人の流動が活発であり、地方の方がより地域で固定化したコミュニティが形成されているのです。

地方には地域で「いかにお互い助け合うか」といった文化がありますが、都市部は会社や学校など所属している団体、組織のコミュニティが一般的であるため、地域内での人と人のつながりが薄くなりがちといえるでしょう。

在宅診療は、車で一軒一軒訪問する形で行われるのが通例です。主に病院に自ら通えない人向けにサービスは提供されますが、介護や医療のみならず、食事や睡眠、排泄などの日常生活がどのように行われているかを看てあげる場合が多い。

都市部と地方とは診療のスタイルは同じですが先ほども申し上げた通り「家族、地域とのつながりの薄さ」。周りにほとんど知り合いがいないということです。

独居も多いため、生活をチェックしてくれる人が医療者以外にいません。週のうち何日間かデイサービスに通っていることもありますが、それ以外は家にいるので、しっかりご飯を食べているか、薬を飲めているかが分からず医療介護者での情報伝達が重要です。

これらはほんの一部の話ですが、「在宅診療」にも事情の違いがたくさんあることをお分かりいただけたでしょうか。地域に求められる医療の形を知り、需要に対して最適な医療を提供することが必要なのです。

地域医療に変革をもたらす都市部と地方の「循環型医療」

続いて、「地域包括ケアシステム」についてお話させてください。私たちは地域とともに各診療所が医療活動を行う必要性を感じており、それぞれの地域で医療・介護に関わるイベントを毎月1回開催しています。

患者さんの生活をみるとなると、医師だけではなく介護師や看護師など多職種の人たちが関係性を持たなければいけません。生活に関わるすべての人たちと「顔の見える関係」を構築できる環境があると、地域にまつわるリアルな情報を吸い上げることができます。

地域の人が何に困っているかといえば、結局のところ「気軽に聞きに行ける場所がないということ」です。診療所まで行くのが大変ですし、行政に足を運んでも「医療のことは分からない」と言われてしまう。どこに相談しても分からないのが問題なのです。

そこでわれわれはワンストップで地域の方の相談を受けることができる、「coFFee doctors」というカフェを開きました。


(coFFee doctorsのカフェでの勉強会の様子)

相談を受ける以外にも、集まった人同士であるテーマについて勉強会を開催し、そのテーマに関する課題のヒアリングを行っています。それを行政の方に届けると、地域に根ざした事業を作ることができるんです。登米市のケースでは、現在施策を含め約40の事業が稼働中です。

勉強会には都市部のお医者さんをお招きすることもあります。外部からお医者さんが来ることを地方の方も喜びますし、先生方も地方での働き方を検討してくれたり。このように都市と地方が循環することで、地方の医療を活性化することができると思うんです。

医療現場とテクノロジー開発の隔たりを埋める、両者の接点になりたい

上記にまとめているのが主な私たちの活動です。その多くがテクノロジーによって置き換えられるのではないかと感じる方も多いと思います。実際の現場からすると、今あるテクノロジーをしっかり活かしきれていないというのが本音です。テクノロジーの便利さを感じつつも、その地域にマッチしていないことも多く、より現場の声を反映したテクノロジーを創っていくべきだと思っています。

また、テクノロジーにより煩雑な医療業務が効率化されるのは間違いないことですが、それ以上に解決しなければならない問題もあります。

たとえば、私たちが行っている都市部と地方で医療を循環させる取り組み。なかなか理解されにくいのですが、一人の患者さんを複数のお医者さん同士で診るのは大変です。お互いの診療・コミュニケーションの連続性を保つのが、すごくハードルが高い。

地方のみならず、都市部にも課題は山積みです。冒頭でもお伝えしたように、都市部は独居や核家族が非常に多い。そのため介護者がサービスを提供してくれていても、そこには家族がいないので孤独感が拭えません。

金銭面などの都合でサービスの継続が難しくなると孤立し、物理的にも精神的にも孤独感を感じてしまうことになります。社会的・精神的・身体的にも安心して生活できるような取り組みをしていかなければなりません。まずはその意識を持つことが優先です。

私たちが行っている診療所の経営は、“地域医療のインフラ作り”といいますか、課題をみんなで共有できるような場所作りです。

テクノロジーは徐々に医療現場に介入し、小さなイノベーションをもたらしつつあります。それでも、現場で課題解決に奮闘する医師とテクノロジー開発者には倫理面などで認識のズレが少なからず存在しているんです。

私たちは在宅診療による医療の質の向上に努めながらも、この認識の隔たりを埋めていく「現場医療とテクノロジーの接点」の役割を担っていきたいと思っています。

***イベントレポート一覧***
2017年4月22日開催 「在宅医療×テクノロジー」の“今”をつかみ”未来”をつくる~|MedPeer Healthtech Academy chapter2
“第4次産業革命”は超高齢社会をどう変えるのか?人工知能×ビッグデータが変える介護の未来【デジタルセンセーション・石山洸氏】
超高齢社会の医療に求められる「コミュニティ意識」とは?【日本医療政策機構・宮田俊男氏】
医療制度の崩壊を「在宅医療」が食い止める。在宅医療の牽引者たちが“超高齢社会”の未来を語る(トークセッション)

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田上 佑輔Yusuke Tanoue

医療法人社団やまと 理事長
熊本生まれ。鹿児島私立ラ・サール高校から現役で東京大学理科Ⅲ類合格。東京大学医学部卒業後は千葉県国保旭中央病院の研修医を経て東京大学医学部附属病院腫瘍外科に入局。東日本大震災での災害医療ボランティア活動を機に2013年に宮城県登米市と東京にてやまと在宅診療所創設。現在・医療法人社団やまと理事長。毎週登米と関東を行き来し、診療以外にも地域住民や行政と関わり、登米市の地域包括ケアアドバイザーを務める。各地でこれからの在宅診療・地域医療についての勉強会、講演を行っており、多数のメディアにて活動が取り上げられている。

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