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「協働を促す文化づくり」がヘルステック企業の成長の武器となる-石見陽 × 井手直行 × 岡島悦子

2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事では、メドピア株式会社 代表取締役社長 石見陽のオーガナイズによるトークセッション「先輩起業家に学べ」をダイジェストでお届けします。

パネリストには、創業前の石見氏が「組織づくり」において強く影響を受けたという、井手直行氏(株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長)、および経営チーム強化コンサルタントとして、ベンチャー企業の組織開発の経験が豊富な岡島悦子氏(株式会社プロノバ 代表取締役社長)のお2人を迎えしました。

日本でもヘルステック分野での起業が増える中、スタートアップの成長期に共通する「100人の壁」の壊し方、自走する組織を作るための文化醸成、ヘルスケア業界に適した組織づくりまで語っていただきました。

スルーしがちな組織課題が、成長過程のベンチャーを破壊する

——井手さんは2008年から約8年間、株式会社ヤッホーブルーイングの社長を務めていらっしゃいます。企業を成長させるなかで、組織づくりに対してどのような課題感がありましたか?


株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長 井手直行氏

井手 直行(以下、井手):社長に就任した当時、組織は最悪のコンディションでした。創業から数年間赤字が続いていた時期であり、メンバーも日常的に会社の陰口を叩いていました。

このままでは会社が健全に成長しないと考え、就任直後から戦略的に企業文化を醸成するなど、注力的に組織づくりを行いました。すると、約2年でチームのコンディションが安定し、驚くことに事業も急激に成長しました。以降12年間の業績は右肩上がりで、創業時はメンバーが数名だったこの会社も、今では150人の規模に拡大しています。

石見 陽(以下、石見):組織が成長する過程で、多くの会社がマネジメントが不全に陥る「100人の壁」があると聞きますが、今感じていらっしゃる課題はありますか?

井手:まだクリティカルな課題ではありませんが、組織の一体感が醸成できなくなったことでしょうか。組織が急拡大するなかで、全メンバーに経営方針や考えを共有し、推進することが難しくなっていると感じています。


株式会社プロノバ 代表取締役社長 岡島悦子氏

岡島 悦子(以下、岡島):ベンチャー企業は事業成長を優先するために、組織課題への対応を後回しにする傾向があります。私がこれまで開発を手伝ってきた組織にも、組織開発における課題に対して“見て見ぬふり”をしてしまったために、状況が悪化してしまったケースがありました。

典型的なケースは、事業の成長速度に組織開発が追い付かないこと。たとえばオフィスを増床した場合、各部署の距離が離れるので、組織全体で考えると意思疎通を図る機会が損なわれてしまいます。すると、「自分のチームの苦労が、会社や他部署には理解されていない」といった不満が出てくるようになるんです。その結果、急成長中の競合ベンチャーに人材が流出するケースもありました。

井手:弊社もメンバーが150人になり、拠点を4つに増やしましたが、やはり物理的な距離が仕事の円滑な進行を妨げてしまうこともあります。

岡島:こうした問題が起こるのは、組織において情報の非対称性が生じるためです。解決法としては、「部署を超えた繋がり」を作ることが挙げられます。また、組織が疲弊せず継続的に行える仕組みにすることが大事です。たとえば、ボトムアップで行う部署横断のサークルや飲み会でも構いません。逆にトップダウンで行う方法としては、既存部署の枠組み(機能別、事業別など)を超えて協働を促す「マトリクス型組織」を作ることが挙げられます。

石見:「部署を超えた横の繋がり」という観点では、井手さんはご自身のアシスタントを定期的に交代させていますよね。

井手:はい。毎年違うメンバーを社長アシスタントにアサインしています。僕と一緒に1年間仕事をし、まずはそのメンバー自身に企業文化を色濃く知ってもらう。そして、彼らが現場に戻ることで、経営者の考えを代弁できる人材が増えていく。そんな仕組みになっています。

岡島:その仕組みは、経営者育成の観点でも有効です。社長業の舞台裏を体験することで、仕事のプライオリティ付けや経営判断の観点を理解できるようになりますから。

メンバーを自走させる文化が、企業における不変の武器


メドピア株式会社 代表取締役社長(医師) 石見陽

石見:経営者として、組織の成長のために必要だと思っていることは何ですか?

井手:企業文化を組織に浸透させ、戦略的に自己組織化を図ることです。企業が推奨する行動規範に基づいて各メンバーが自主的に仕事をする状態になると、経営者のマネジメントコストが下がりますから。企業の成長戦略において、最大の差別化要因であると考えています。

岡島:文化こそが、企業における不変の武器ですよね。企業が成長を遂げるためには、「環境変化に適応しながら、イノベーションを起こす組織」をつくることが大事。組織の人材が固定化されたままでは、陳腐なアウトプットしか生まれなくなってしまうので、戦略的に人材を入れ替える仕組みを作ることが必要になってきます。

井手:弊社はメンバーが150人を超えた段階から、約3年ごとに人事配置を変えるようになりました。本人の希望と育成観点に鑑みて、大胆に仕事内容を変えていきます。また、組織としてイノベーション創出を促すために、本人起案のプロジェクトがあれば、業務時間の2割程度を使って良いと認めているんです。

岡島:メンバーの意欲によって、イノベーションが創出される仕組み作りが大事だと思います。最近では、仕事時間の20%を個人の好きなプロジェクトに使うことを推奨した「20%ルール」を定める企業も見られますが、実態はメンバーの意思に反した「強制的な仕事」になってしまっている印象です。

井手:意欲がある人は必要なスキルを自力で身に着け、成長するものですから。そのことに気付いてからは、「スキルよりも、意欲重視」で仕事をアサインすることを徹底するようになりました。その結果、今ではメンバーが起点となり「自ら挙手して、やりたい仕事を取りに行く」文化が醸成されています。定常業務との兼ね合いや協働者に遠慮するメンバーに関しては、マネジメント側が業務調整をして環境を整えています。

石見:挙手制の文化を醸成するためには、何がインセンティブになると考えますか?

岡島:給与など有形のものよりも、そのメンバーに選出され、周囲からの評価・承認を得ることがインセンティブになるのではないでしょうか。何より、ベンチャー企業は、ただでさえ事業の安定的成功が保証されづらい状況なので「失敗を恐れず、突破しようとする」意欲のある人材を登用していくことが大事だと思っています。そのためには、そういった人材を集めて組織横断のプロジェクトを行うことが有効ですし、それが結果的に彼らへの動機形成にもなるので、企業にとっても一石二鳥です。

多様なスペシャリティを活かすためには、組織の中で絶対的な相互信頼が必要

——組織づくりにおいては、「どのような人材を確保するか」ということも大事です。採用時に重視すべき要件について、どのようにお考えでしょうか?

井手:採用で大事な観点は、「優秀であること」と「会社の経営理念に凄く共感してくれること」の2つです。前者は、会社の評価制度をそのまま採用面接に転用して判断します。後者の基準は、経営層が面接をし「本当に共感してるな」と心底思えるかどうかです。

岡島:特に「理念に共感ができない人材」は、入社後絶対に辞めます。採用には「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」の2種類があり、前者はプロダクトが好きなパターンで、後者は理念が志望動機になっているパターン。採用すべきは後者ですね。

石見:とはいえ時間が限られた面接の中で、求職者の「理念の共感度」を判断するのは難しいことだと思います。企業にフィットする人材を見極めて採用するために、面接以外の場で何か工夫できることはありますか?

岡島:「一緒に働きたい」と思う人材を見つけたら、必ず「いつか一緒に働きたいですね」と早めに声を掛けておきましょう。いざその人材が欲しい時に限って、相手の条件が折り合わないケースも想定されます。前もって声を掛けておくと、相手がいざ次のキャリアステップを考えるときに、自社のことを思い出してくれるようになります。採用は長期戦ですから、前もって仕込んでおくことが大事です。

井手:内定辞退者に対しても、この方法は有効だと思います。実際に声を掛けたところ、数年後に再び面接を受けに来た人もいましたから。

岡島:おっしゃる通り、企業の人材確保において汎用的に使える手法です。他にも、退職が惜しい人材には、出戻りを歓迎する旨を伝えておくと良いでしょう。出戻り人材は、会社へのエンゲージメントが高いうえに、外部で得た経験値や多角的な視点があるので、社内におけるダイバーシティの推進にも貢献します。私はこれまでに、さまざまな組織における人材の採用や退職に立ち会ってきましたが、適切な離職率は相場として10%程度だと感じています。

井手:弊社の退職率は、相場と比較すると低い方です。しかし、僕にとって社員は家族同然なので、定年まで一緒に働いてほしい。なので、企業として最低限の新陳代謝しか行わないと決めています。そのポリシーを貫いた結果、社員同士の相互信頼や協働の姿勢がより強くなったと感じます。

岡島:相互信頼を重んじる企業文化こそ、このヘルスケア業界に適しているのではないでしょうか。特にこの業界は、多岐にわたるスペシャリストの協働によって成り立っています。彼らが一丸となり、円滑に事業開発や運営を行うためには、「協働を促す文化」を作ることが必要です。そのためには、企業文化といった理念の側面と、人事制度といった仕組みの側面の両方から、最適な組織をつくっていくことが大事になってきます。

石見:経営者が意図的に「協働を促す文化」を醸成しない限りは、社員同士が「家族」といえるほどの信頼関係は生まれませんし、多様な人材が活躍する組織にはならないのでしょうね。

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