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Health 2.0ピッチコンテスト優勝のコメントを求められる檜山氏

「Health 2.0」で会場を沸かせた鳥取発ベンチャー。医師を育てるロボット「mikoto」が誕生するまで

2018.02.06

Text By
オバラミツフミ
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長谷川リョー
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2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「health 2.0 Asia - Japan 2017」。当日のカンファレンスをもっとも賑わせた「ピッチコンテスト」では、日本のヘルスケアの未来を担う先進企業が自社サービスについて熱く語った。

本記事では、最優秀賞およびLINK-J賞を受賞した「MICOTOテクノロジー」のインタビューをお届けする。

同社が開発する医療手技のシミュレーションロボット「mikoto」が今、医療業界の視線を釘付けにしている。鳥取大学医学部・付属病院と連携して開発したロボットは、人間そっくりの見た目。内視鏡挿入で「おえっ」とえずく反応を示すなど、医療と開発の両側面の知識をフル活用した。参入のリスク、ハードルが高い医療領域に、いかにして参入を決めたのか。開発までの苦労とこれからの展望を代表の檜山氏に伺った。

MICOTOテクノロジーは、ロボット開発を主業とする鳥取の企業。同社が開発する「mikoto」は、救急搬送された患者などへの措置として行う、気道確保のための経鼻経口気管挿管や内視鏡検査などの手技をシミュレーションできる。見た目から皮膚の感触、そして反応に至るまで人間そっくりに再現されているため、人体を用いることなく実践的な経験を積むことが可能だ。

同社代表の檜山氏は、ピッチコンテストにて「医師を目指す人は、研修医になって初めて患者さんに接することになります。つまり『知識はあるが、実務経験がない医師』がぶっつけ本番で命を預かることになる。そうした課題に着目し、『mikoto』を開発しました」と語った。

Health 2.0ピッチコンテストにて賞状をもらうMICOTOテクノロジー 代表取締役社長 檜山康明氏
MICOTOテクノロジー 代表取締役社長 檜山康明氏

最優秀賞およびLINK-J賞を同時受賞したことからも、同社のロボットへの期待度の高さが伺える。「日本のロボット技術で医療現場を変える」と語る檜山氏に、創業秘話と今後の展望を伺った。

リスクの高い医療領域に、地方のロボット会社が参入した理由

ーー檜山さんのファーストキャリアは証券会社だったとお伺いしております。「MICOTOテクノロジー」を創業するまでの経緯をお伺いできますか?

檜山康明(以下、檜山):もともとは学生時代から経営に興味があり、「ビジネスをするなら営業が基本だろう」と証券会社に入社しました。そこでは結果を出そうと、とにかくがむしゃらに働いていました。3年間勤めたのですが、より経営に携われる職業につきたい考え、退職。ベンチャー企業のコンサルティングを行う企業へと転職しました。

ロボット開発事業の可能性について語る檜山氏
「ロボット開発ほど、これから可能性のある事業はない」

そのときに社員の一人が、ロボット会社を担当することになったんです。当時、産業用ロボット以外でロボットを主要事業に据える企業は全く存在しなかったので、衝撃を受けました。アニメや映画の世界の話だと思っていた民生用のサービスロボットでビジネスを展開するなんて、考えられないことでした。

ーーそれで同社に転職されたのでしょうか?

檜山:そうです。IPOを目指していたので、証券会社時代の知識を活かせるのではないかと転職しました。証券会社で働いていたときに、どういった企業の株価が上がるのかをずっと見てきました。当たり前ですが、今後成長見込みのある企業の価値が高い。ロボット開発ほど、今後可能性のある事業はないと思ったんです。

テムザックでは、経営企画業務を11年間務め、資金調達や広報、事業開発など、あらゆる職務に携わりました。テムザックのある福岡県は全国初のロボット特区に認定されていたこともあり、首相官邸に行ってロボットの説明をすることもありました。とにかくロボットは、初めての試みばかりでやっていて面白かったですね。

ーーテムザックは医療ロボットを開発していたのでしょうか?

檜山:いえ、レスキューロボットや警備ロボットなどを開発していました。医療領域は医療知識が必要で、また、リスクが高く、認証を受けるまでにコストがかかります。

しかし、鳥取大学医学部付属病院が、新しい医療機器を作ろうとパートナーを探していたことが転機になりました。当時、鳥取大学医学部付属病院は、先端医療、医療機器開発に取り組む組織を立ち上げたタイミングもあり、協業して医療ロボットを開発することになりました。そこでテムザックが連携して2014年に立ち上げたのが「MICOTOテクノロジー(旧社名:テムザック技術研究所)」です。その代表に私が就任することになりました。

内視鏡挿入で「おえっ」とえずく、人体をとことん再現したシミュレーションロボットの誕生

ーー「mikoto」を開発するまでの経緯をお伺いできますか?

檜山:最初は患者さんが身につけるロボットを開発していました。しかし、安全上のリスクがあまりにも高い。「有事の際にどこまで責任を負うか」という明確な基準がないですし、そもそも規格を満たすのにも時間がかかります。

そこで、医療教育のロボットを開発しようと軌道修正しました。ニッチではありましたが、鳥取県からのバックアップもあり、現在に至ります。

Health 2.0ピッチコンテストにて"mikoto"に内視鏡を挿入する檜山氏
人体に近い感触を持つ「mikoto」でシミュレーションを行うことで、緊張感や臨場感のあるトレーニングが可能に。手技を確実なものにし、医療技術の向上に貢献する。

ーー「経鼻経口気管挿管」に絞って開発された理由を教えていただけますか?

檜山:鳥取大学医学部付属病院の先生方にお話を伺い、どういったシミュレーションロボットを開発しようかと頭を悩ませました。最終的には、命がかかっているシチュエーションにこそ、シミュレーションが必要なのではないかと結論付けたんです。

ーー「医療領域はリスクが高い」とおっしゃっていましたが、それでもこれでいこうと決断できたのはなぜだったんでしょうか?

檜山:開発途中の段階で、日本全国のお医者さんや医工連携を推進している団体など、キーマンに話を聞いてもらったんです。すると、非常にポジティブな意見をいただくことができました。やはりニーズがあることなんだと再認識できましたね。

ーー開発で苦労された点をお伺いできますか?

檜山:最初の課題は、全身麻酔がかかった顎の弛緩状態を再現することでした。人間の筋肉は複雑なので、嚥下(食物を飲み下すこと)の動き一つ再現するのも一苦労です。人体と全く同じ構造を機械で作ることは不可能ですが、どれだけリアリティを再現できるか追求しました。

ーー医師の方々と相談しながら開発されたんですか?

檜山:そうですね。喉を通過する際に、どこにどの程度、人間が苦しさを感じるのかなど、お医者さんにしか分からない細かい点を相談していました。細部に至るまで人間の感覚に近づけているため、「mikoto」は反応・反射しやすいところに触れると「おえっ」と声を出します。

弊社に医学的知識を持った人材はいないため、体の構造を勉強しながら、ロボット技術をどう融合させるかに労力を割きました。

医師と相談しながらの"mikoto"製作について語る檜山氏
医師と相談しながら細部に至るまでリアリティを追求した

医師の方々からは、医学的な知見を共有してくださることはおろか、機械的な側面からアイディアを出してくれることもあります。現在は研究をどんどん深められているので、とてもやりがいを感じていますね。

鳥取から全国へ。“ニッチ&オンリーワン”で医療現場を革新する

ーー今後は海外展開を見据えて事業を展開されるのでしょうか?

檜山:海外の医療関係者に「mikoto」を見ていただくと、良い評価をいただけるものの、「現在の価格より安く販売してくれ」と言われてしまいます。海外は日本よりも医療投資が活発なので、大きな資本力を持つ企業が多く、大量生産が可能なんです。まずは日本国内に「mikoto」を普及させたいと考えています。試験的に、3月までは100万円を切る価格で販売を行う予定です。

また「経鼻経口気管挿管」に特化したシングルタスクモデルで勝負し、やがて現在はシミュレートできない高度な技術にも挑戦していきたいです。ニッチな市場でオンリーワンな企業を目指しています。

※「Health 2.0 Asia – Japan 2017」ピッチコンテスト優勝特別キャンペーンとして、シングルタスクモデルを30台限定で、3月末まで98万円(税別)で販売決定
「【受賞キャンペーン!】mikotoシングルタスクモデル、W受賞特別キャンペーン!」についての詳細はこちら

今後の事業展開について語る檜山氏の手元

ーー医療ロボットというのは常に主要事業に位置付けるのでしょうか?

檜山:その軸はぶらしません。ただ、他の事業も並行して行っており、医療から裾野を広げ、福祉領域にも参入する予定です。

高度な技術に対応できるシミュレータロボットを開発しつつ、ハンディキャップを負った人たちが健常者と同様に生活できるようなサポートに力を入れていきたいと考えています。

株式会社MICOTOテクノロジー公式HP

医療用シミュレータロボット「mikoto」についての動画サイト

檜山 康明Yasuaki Hiyama

株式会社MICOTOテクノロジー 代表取締役社長

1972年山口県生まれ。1994 年 証券会社入社後、ベンチャー支援系経営コンサルティング会社を経て、2000 年ロボット開発ベンチャーとして創業した㈱テムザックに入社。事業開発、広報、資金調達業務等の経営企画部門に従事。2014 年 ㈱テムザック技術研究所(現: ㈱MICOTOテクノロジー) 代表取締役社長 就任。
医療・福祉分野に特化したロボットベンチャー企業として、鳥取大学医学部附属病院の複数診療科との強力な連携のもと、医療シミュレータ等の開発、製造、販売を行っている。工学×医学の知識を活かした企画開発力、設計力、製作力を強みとする。
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