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「BASE FOOD」起業ストーリーから紐解く―主食の再定義が世界にイノベーションをもたらす理由

2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。当日のカンファレンスをもっとも賑わせた「ピッチコンテスト」では、日本のヘルスケアの未来を担う先進企業が自社サービスについて熱く語った。

本記事では「BASE PASTA」でピッチコンテストのファイナリストに選ばれたベースフード株式会社 代表取締役・橋本舜氏のインタビューをお届けする。

同社が開発した完全栄養食「BASE PASTA」は、1食で31種栄養素を一度に摂取できる。橋本氏がIT企業の社員時代にマンションの自室で作ったものがベースとなり、現在海外展開を見据えて事業を展開している。構想のルーツにあるのは、食の楽しさを担保した完全栄養食品の必要性を感じたことだという。「BASE PASTA」は“効率最適”されたビジネスマンの食生活にイノベーションを起こせるのか?起業のきっかけと開発秘話、今後の展望を伺った。

ベースフードが開発した「BASE PASTA」は主食でありながら、1度の食事で必要な31種類の栄養を摂取できる「完全栄養食」。商品のPRバリューもさることながら、2017年2月に販売開始後、大手メーカーを差し置いてAmazonの食品部門で堂々の売上ランキング1位を獲得した。

ベースフード株式会社 代表取締役社長 橋本舜氏(ピッチコンテストでのプレゼン)
ベースフード株式会社 代表取締役社長 橋本舜氏(ピッチコンテストでのプレゼン)

同社のビジョンは「主食をイノベーションして健康を当たり前に」。CEOの橋本氏はピッチコンテストで、パスタだけでなくパンやラーメン、ナンなど世界中の主食に栄養バランスを持たせられる“コアの技術”を持っていると語った。

ピッチコンテストでは受賞こそならなかったものの、若いながらも堂々としたそのプレゼンテーションと受け答えに存在感を示した。海外展開も見据えているという橋本氏に、起業のきっかけ、開発秘話、今後の展望を伺った。

28歳で感じた自らの限界。現状打破へ挑んだ“起業”という選択

BASEFOODのオフィスで受け答える橋本氏
ベースフードは創業から今も変わらず、目黒区のマンションの一室で新商品を開発している

――橋本さんのファーストキャリアはDeNAだとお伺いしています。DeNA出身の起業家も多いですが、入社時から起業を見据えていたのでしょうか。

橋本舜(以下、橋本):DeNA入社時に起業は考えていませんでした。中小企業の経営者だった父にも、「最初は大企業で仕事の働き方を学ぶべきだ」と言われていましたし、大学で働き方は学べていなかったので、まずはしっかりと会社で学びを得るところから始めようと思っていました。

DeNAを選んだのは、学びが多そうで自由度も高そうだったからです。チーム単位で動きながら、新規事業に関われるのがいいなと思いました。

――起業しようと思ったきっかけをお伺いできますか?

橋本:新規事業の立ち上げに関わるなかで、戦略、分析、ロジカルシンキングといったコンサルタントに求められるような能力が身につきました。しかし、28歳を迎えたときにこのような能力だけの限界を感じたんです。ビジネスマンとしてもうひと伸びするには、他の能力をつける必要がある。どんな能力を身につけるべきか思いを巡らせた結果、「起業家」のもつ感性的な感覚を身に着けたいと思いました。

DeNAにいた時、起業家と関わることがけっこうあったんです。そのときに、起業家の人がもつ何か他とは違う“すごい”感じを受けて好奇心をもち、それが何なのかを探りたいと思っていました。

実際に起業へのきっかけになったのは、DeNA時代に参加していた自動運転プロジェクト・ロボットタクシー(現在はオートモーティブに改称)ですね。

――ロボットタクシー事業ではどのような影響を受けたのでしょうか。

橋本:「自動運転」と聞くと、AIなどのテクノロジーでの効率化の側面が連想されがちです。しかし、特に地方では、自動運転はヘルスケア事業になるんですよ。交通弱者の高齢者の方が通院できるようになって入院が減ったり、買い物に出歩けるようになったりすることが健康につながったりと、自治体の至上命題である医療費の削減につながるとみられているからです。

事業活動の中で得たことについて語る橋本氏の手元

橋本:ヘルスケアと密接にリンクしたロボットタクシー事業に参加するなかで、少子高齢化問題の深刻さを肌で感じました。今は地方だけでも、自分が50歳、60歳になったときには、東京でも現実になってくる問題です。しかし、深刻な問題にも関わらず解決へ向けたアプローチは少ない。若い人たちがやらないからなんですよね。この問題に立ち向かうことは難しい反面、社会貢献性が高くやりがいがあることを感じました。何か直接的なアプローチはないかーー。考えた末に、主食の完全栄養化が「健康寿命」を延ばす最大のソリューションだと思いました。

「ドリンクだけ」や「サプリメント」では物足りない。主食を科学し、おいしさを担保した完全栄養食を開発

――健康寿命を延ばすためのソリューションとして「完全栄養食」に辿り着いた経緯を教えてください。

橋本:「健康寿命」というテーマが決まったときに色々調べましたが、病気予防には「栄養・睡眠・運動」の3つが大事だと必ず出てきます。自分で考えると、睡眠と運動はできているのに、「栄養」だけがまったくできていませんでした。会社を見渡しても、お金のある役員でも忙しすぎて昼食をお菓子で済ますしかなかったり、会食ばかりだったり。リテラシーが高い人でも、栄養についての知識がある人はほとんどいません。

そんなときにWIREDで完全食「ソイレント」が紹介された記事を思い出しました。一通りの栄養素が含まれているので、栄養素の知識が要らない、というコンセプトは素晴らしいなと思ったんです。そこから完全栄養食を色々と調べてみましたが、ドリンクやサプリメントのような形態しかなかったんです。ソイレントは寝食に充てる時間を節約してでも働きたい人のもの。もともとスタートアップの人やプログラマー、研究職などに重宝されていました。

――ただ、それでは食事としての楽しみがないですよね。

橋本:そうなんです。ソイレントは素晴らしい商品ですが、ドリンクだけ飲んでいればいい世界観は『マトリックス』のような暗い未来に近い。食事を楽しみながら健康維持もしたい人に向けた、ちゃんとおいしい 完全栄養食品の必要性を感じたんです。

BASEPASTA実物写真
食感や味の良さにこだわりながらも、糖質を抑え、1食で1日に必要な栄養素の3分の1を摂取することができる。愛用者には横浜DeNAベイスターズのアレックスラミレス監督など、著名人も多数。

――そこで「主食」と結び付けてみようと。

橋本:「健康」、「栄養」が大事なのは分かっていても、実践できる人は少ない。サラダを食べなさいとか、ファーストフードはダメって言われても、できないものはできない。 供給側が変わろうとせず、消費者が変わることを求めるのはおかしい。逆転の発想で、ハンバーガーのパンが、牛丼の米が、ラーメンの麺が栄養バランスが良くなれば、ストレスなく栄養が満たされ、健康寿命が延びるのではないかと考えました。

また、ITの力で携帯電話はじめ様々なものにイノベーションが起こっているにも関わらず、「主食」は米・パン・麺など、何千年も同じスタイルのままです。そんな「主食」のあり方にイノベーションを起こすことは、今まで誰もやってきませんでした。

――パスタの開発はどのように行ったのでしょうか。

橋本:アイデアの実現性を確かめるために、DeNA時代から1人でパスタの開発をしていました。製麺機を買い、大豆粉など栄養豊富な食品をスーパーで買い、マンションの自室で製麺していたんです。試作を続けていくうちにだんだん美味しいものが作れるようになり、気づいた頃には自分の生活に欠かせないものになっていました。自分で作ってもそれなりものができたので、この主食での完全栄養食は広がっていく可能性があると思いました。

――実験を経て、初めて起業へと踏み切ったんですね。

橋本: DeNAで食品事業をするのは難しいですし、前述した創業者特有の力を身に着けたいと思っていので、20代のうちにチャレンジしたいと思いました。

それに、主食から健康を当たり前にするというのは自動運転と同じくらい面白いと思いましたし、自分しかやらないだろうなと思い決断しました。

――BASE PASTAは初動からクラウドファンディングの「Makuake」で100万円を調達しています。更に『WIRED』をはじめ各種メディアに多く登場したりと、PRを非常に上手く行っている印象です。自社製品をマーケティングするうえで心がけていることがありましたら教えてください。

橋本:PR戦略は当初はあまりなく、ほとんど場当たり的にやってきました。ですが、とにかく「早く」動くことだけは徹底していましたね。事業作りに追われて広報活動のスタートが遅れるのは、ベンチャー企業にありがちな失敗例なので。

「パスタで完全栄養食」といったコンセプトには、それ自体にPRバリューがあります。構想段階からPRバリューを意識して作っているというのが大きかったかと思います。広告予算 をかけられないベンチャー企業にとって、その製品にPRバリューがあるのか、広報視点で客観的に自社製品をとらえることは大事なのではないでしょうか。そもそも、人が話題にしてくれるかどうかは、世の中に求められているかを測る大切なものさしだと思います。

一人ひとりのストーリーに寄り添う。BASE PASTAが問い直す“健康食”の役割

IT業界から食品業界へ参入したことについて語る橋本氏

――IT業界から食品業界への転身。ご自身で大きな変化はありましたか?

橋本:ITはまだ業界自体が若く、経営者の最高齢が40~50歳くらい。一方で食品業界は古くから存在する業界で、戦後から高度経済成長期の日本を支えた、強いベンチャーマインドを持った経営者の方が数多くいます。ベースフードを立ち上げてから、その方たちのお話が聞けるのはとても新鮮で面白いですね。

――今年からアメリカでの海外展開を始めるということをお聞きしました。

橋本:今年から弊社のCOOがサンフランシスコに滞在しており、2018年4月にアメリカ西海岸で販売開始できるよう製麺所とも契約を進めています。

ヌードルやパスタ、パンの世界市場は約百兆円規模。これから、このうちの約一兆円が「健康的な主食」市場に変わるのではないかと思っています。日清食品さんがカップヌードルで世界をとったように、私たちは「健康的な主食」で、先駆として大きい市場を作りたいです。

――日本国内ではどのような展開をされていきたいですか?

橋本:私たちが目指しているのは「大人の給食」です。いままで健康食品は健康意識の高い人のものでしたが、そうでない人や、とにかくおいしいものが食べたい人でも健康的な食事ができるようデザインをしていきたいです。

現在、BASE PASTAのカップ麺バージョン(※)と、様々な種類のパスタソースを準備しています。仕事が忙しい人は簡単に作れるカップ麺版を中心にしたり、自分の好きなパスタソースを選べたり…と、一人一人のライフスタイルや健康状態にパーソナライズした食事を提案していきます。

2018年4月10日より完全栄養即席カップパスタ「BASE PASTA quick」を販売開始

BASEPASTAのコンセプトについて語る橋本氏
BASE PASTAは食本来の“楽しさ”を保ちながら健康になれるものにしたい

――「ストレスなく快適な暮らしを」。BASE PASTA全体で通底している思想ですね。

橋本:僕はオカズがたくさんある“豊かな食事”を否定するつもりはありません。完全栄養食だけ食べていろと言うつもりも毛頭ない。ただ、いつもは仕事が忙しくてインスタント食品 で済ませているところをBASE PASTAにすることで、「夜飲みに行こうかな」なんて思えたりする。ハレの日ではなく日常的な「ケ」の日の食事もおいしく健康的にすることで、人生の選択肢を増やせるわけです。

――BASE PASTAを食べることが、健康以外の充実感にもつながっていくんですね。

橋本:食事の機能は、単なる栄養補給だけではありません。その日のモチベーションになったり、リフレッシュになったり、コミュニケーションが生まれたり…。人それぞれのストーリーがあります。BASE PASTAは食の“楽しさ”を訴求しつつ、健康的なライフスタイルを提案していきたいです。

株式会社ベースフードの公式HP

橋本 舜Shun Hashimoto

ベースフード株式会社 代表取締役

1988年生。東京大学教養学部卒。株式会社DeNAに新卒入社。月商10億円規模のソーシャルゲームのプロデューサーを経て、新規事業部署に移り、駐車場シェアリングサービスのakippaの立ち上げ、及び、自動運転タクシー・バスの開発を行うロボットタクシーの立ち上げに従事。2016年6月に退職し、ベースフード株式会社を創業。「主食をイノベーションして健康を当たり前にする」をビジョンとし、世界初の完全栄養の主食"BASE PASTA"を開発。販売開始後、日本のAmazonで食品人気度ランキング1位を獲得。現在、社員6名で国内での普及や海外展開の準備を進めている。
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