PEOPLE

未来をつくる人たち

日本初の保険適用アプリ「Join」の成功秘話。新規参入から4年、薬事承認までの軌跡を振り返る

2018.02.20

Text By
オバラミツフミ
Edit By
長谷川リョー
Photos By
横尾涼
  • b.hatena
  • pocket
2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事では、日本で初めて保険適用されたアプリ「Join」を開発した株式会社アルムの坂野哲平氏を迎えたセッション「ソフトウェアが薬事承認に至るまで」をダイジェストでお届けします。

坂野氏はセッションの冒頭で「事業会社が医療機器開発で成功するためには、5つの要素がある」と説明。成功確率が非常に低い領域とされる医療機器市場で事業展開を行う上では、マネタイズを意識することが不可欠だと語りました。

医療のバックグラウンドを持たずして市場に参入し、テクノロジーで医師をつなぐソフトウェア「Join」を開発。新規参入から4年、いかにして、日本初の保険適用を勝ち取ったのか。現在に至るまでの軌跡と、輸入超過の市場逆転を目指す未来を語っていただきました。

事業会社が医療機器開発で成功するための5つの要素

株式会社アルム 代表取締役社長 坂野哲平
株式会社アルム 代表取締役社長 坂野哲平

坂野哲平(以下、坂野):株式会社アルムの坂野と申します。本日は表題にあるように、主に医療機器の承認プロセスと保険適用についてお話をさせていただきます。

弊社が開発した、医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」は、日本で初めて保険が適用されたソフトウェアです。なので、保険適用までどういった経緯があったのか、さまざまな方からお声がけをいただきます。ただ私は、医療の知識があるわけでも、医療業界にコネクションがあったわけでもありません。そもそも医学部がない大学を卒業しています。

私自身はもともとプログラマーですが、プログラマーとしての腕も良くないんです。社内のエンジニアには「社長が作るプログラムはバグばっかりなので、もう開発しないでください」なんて言われています。

医療業界は、医療資格がなくても参入が可能です。「なぜ保険が適用になったのでしょうか?」とよく聞かれるのですが、「諦めなければ、何とかなる」といつもお伝えしています。弊社は医療領域に参入してから4年しか経っていませんし、極論「誰でもできる」と思っています。

「諦めなければ、何とかなる」を具体的に話すと、5つの要素に分類されます。一つ目は、「しっかりとしたプロダクトを開発する」こと。二つ目は、「仲のいい会社を見つける」こと。三つ目は、「採用活動をしっかりと行う」こと。4つ目が、「エビデンスを集積し、役に立つと明示する」こと。そして最後に、「資金繰りを円滑に行うこと」です。

詳しくは後述しますが、弊社は医療業界に参入するまでに非常に多くの事業を手がけてきました。さまざまな事業を見てきたなかで、「医療機器の開発」は、医薬品の開発に次ぐ、成功確率の低い「博打」な事業だと考えています。なので、心安らかに事業開発をするためには、お金のことをしっかりと考えなければいけません。

私たちは医療にバックグラウンドがないので、事業会社の視点から医療機器開発についてお話しさせていただければと思います。

テクノロジーで医師をつなぎ、刻一刻と迫る死と戦うソフトウェア「Join」

坂野:医療領域に参入する以前の仕事は、主にメディア関係です。4年前に事業売却をしたときに、エンジニアの体制だけが残った状態で、次はどの領域に参入しようかと考えました。

参入先を検討している際に思い浮かんだのは、リーマンショック時の苦労。当時業界が縮小しなかったのは、医療と教育、そして農業でした。この3つのうち、どの領域に参入しようかと考えている最中に、ちょうど薬事法が改正(※)されたんです。

法律の改正は、悪い見方をすれば思いっきり規制が入ることを意味しますが、良い見方をすれば、新たな枠の中で事業を創ることもできる。これをチャンスと捉え、医療領域への参入を決めました。

※従来はソフトウェア部分のみでは薬事法の規制対象とならず、ハードウェア部分に組み込んだ形で規制していたが、新たな法律では、ソフトウェアを単体で流通することを可能とし、「医療機器プログラム」として規制対象とすることが認められた。

坂野:以前までは「通信と放送の融合」なんてことを企業理念に掲げていましたから、急に「人の命を救います」と言い始めた矢先には、社員に「殿、ご乱心ですね」と言われたりしていました。

とはいえ、私たちが培ってきたIT技術は、医療業界に求められるミッションをクリアする一因になるだろうと思ったんです。私たちが定めた領域は脳卒中と心臓急性疾患。WHOのデータによれば、年間およそ1,500万が亡くなる病気です。

この二つの病気は「時間との戦い」が大きな課題として挙げられていました。心臓が止まっているなら早く動かしてあげなければいけませんし、脳内の血管が詰まっているのなら一刻も早く溶かす必要があります。症状を発症してから、実際に治療を受けるまでのタイムロスを削減することが必須なんです。そうした課題感から開発したソフトウェアが「Join」です。

「Join」のシステム概要図
PACS(医療用画像管理システム)などと連携し、必要な医療情報を共有する、医師のためのコミュニケーションアプリ。モバイル端末を介し、医療関係者がリアルタイムにコミュニケーションを取ることが可能。

坂野:「Join」は、チャットアプリ形式のコミュニケーションアプリです。医療機関のシステムと直結しているため、院内で撮影したCTやMRI、X線や心電図などのデータを全てモバイル端末で確認することができます。

どの病院にも専門医が24時間365日体制で常駐しているわけではありません。そうした際に、専門医に診てもらうまで待っていたら、患者さんは命を落としてしまいます。しかし「Join」があれば、瞬時にデータを共有し、専門医の指示を受けながら医師が診療することができるんです。

「Join」のシステムについて話す坂野氏
「Join」があれば、院内に専門医がいない緊急時にも、専門医の遠隔支持で執刀できる

坂野:保険適用をしてもらうための流れですが、医療に関する知識がなく「中央社会保険医療協議会にお墨付きをもらおう」という漠然としたところから始めました。そこで「Join」が医療現場で有用かを議論していただきました。そして新たに保険適用していただくためにプレゼンを行ったんです。

冒頭でも申し上げましたが、「エビデンスを集積し、役に立つと明示する」がこのフェーズに当たります。「役に立つ」は、臨床上の効果と医療経済上の効果の2種類です。

坂野:脳卒中は「時間との戦い」ですから、とにかく治療を早く行えるかが予後に大きな影響をもたらします。実証試験を実施した病院の先生方から「Join」がスムーズな治療に有用であるとエビデンスを提示していただきました。

早期治療は、結果的に生存率や予後の回復に繋がると言われており、それにより入院日数やリハビリ期間が短縮されれば医療費の削減にも繋がると考えられます。このフェーズまで来ることが非常に困難なのですが、プレゼンをしたその日の夕方には紙1枚で「Yes」と結果通知を受け、適用が決まります。

日本初の保険適用アプリ開発以降、アルムが目指す市場逆転の未来

ヘルステック市場と今後のサービス展開について語る坂野氏

坂野:現在は、「Join」以外にもサービスの開発を行っています。「時間との戦い」を克服するために、脳卒中を4つのステージに分け、それぞれにソリューションを提供しているところです。一つは脳卒中が見つかるステージ。二つ目が救急車で運ばれるステージ。三つ目が診断を受けるステージ。そして最後に治療を受けるまでのステージです。これら一つ一つの時間をどれだけ短縮できるかが、患者さんの命、そして予後を左右します。

たとえば、救急車の中で使用するソフトです。119番に電話をし、救急車が来て、当該患者さんの症状を入力すると脳卒中や循環器疾患の重症度を調べることができます。そしてその疾患領域において最善の搬送先病院一覧を救急車から近い順に表示します。

同時に、救急車の中から心電図や血圧のデータを送ることが可能です。事前に正確なデータを共有することで、救急車の到着以前から準備をして待つことができるようになります。

坂野:また、日本だけではなく海外でも事業展開中です。「Join」は現在、アメリカをはじめ6ヵ国で導入されており、中東諸国でも導入作業を行っています。ビジネスモデルが成功すること、そしてソリューションになりうることをさまざまな国で成立させたいからです。

規制も多く、国の動向に左右される医療市場は、参入障壁は低いにせよ成功確率も低い。そのため、特に事業会社はマネタイズを常に意識しなければなりません。世界の医療市場をみると、アメリカが43%を占めており、日本はたったの8%です。数字が示す通り、流通する金額に大きな差があるのです。ポジションを取るためには、アメリカで事業を成功させることが必須だと言えます。

医療機器開発事業は、開発が始まってからイグジットするまでのスケジュールが、およそ8年だと言われています。要するに、マネタイズするまでに8年間を要するわけです。

こうしたことを学ぶことができ、また薬事認証ないしは承認のプロセス、そして製品販売するプロセスを経験できたので、そのノウハウを利活用して新たなサービス開発に取り組み始めています。

医療市場でポジションをとるためのコツについて話す坂野氏
世界の医療市場で勝つためには、アメリカで成功させなければならない

坂野:全てを自社で完備するのは不可能なので、さまざまな業種の企業さんとパートナーシップを組んでいます。新規参入から現在までを振り返り、ファイナンスさえ克服できれば、医療機器の開発も可能だと思っています。

日本は医療機器に関して、8,000億円の輸入超過という現状があります。こうした状況をひっくり返していきたいです。世界を見れば、治験承認を得ている医療機器事業の平均売却単価は300億円を超えます。期間は長いかもしれませんが、それだけリターンが大きい事業でもあります。これまでの流れをより詳しくお話さえていただきますので、ぜひ一緒に、事業を行えるパートナーとしてお声がけいただければ幸いです。

  • b.hatena
  • pocket