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美脚を目指せば、健康になれる。予防に人生をかける若手医師が「スマートヒール」を開発する理由

2018.02.23

Text By
オバラミツフミ
Edit By
長谷川リョー
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2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。当日のカンファレンスをもっとも賑わせた「ピッチコンテスト」では、日本のヘルスケアの未来を担う先進企業が自社サービスについて熱く語った。

本記事では、美脚にフォーカスして予防医療を推進する「スマートヒール」でピッチコンテストのファイナリストに選ばれた、株式会社ジャパンヘルスケア 代表取締役社長 CEO(医師) 岡部大地氏のインタビューをお届けする。

「自分が死んでも多くの人を助けられるのなら幸せ」と悟った中学生時代を経て医師となり、大学時代に国民全員を健康にする社会を実現しようと決めたそうだ。「人生100年時代は、医師でも起業できる」と語るように、現在は医師と起業家の二足のわらじを履き、予防医療領域へと参戦している。なぜ、美脚になることが国民の健康を守るのだろうか?開発の背景と彼のバックグラウンドに迫った。

ジャパンヘルスケアが開発した「スマートヒール」は、モーションセンサーを用いて履いている人の歩き方を可視化し、美脚になるためのアドバイスを音声で行うIoTデバイスだ。医師でもある代表の岡部氏は、起業家として予防医療社会の推進を行っている。

Health2.0ピッチコンテストでの岡部氏のプレゼンの様子
株式会社ジャパンヘルスケア 代表取締役社長 岡部大地氏(ピッチコンテストでのプレゼン)

ピッチコンテストで代表の岡部氏は、ヒールを履いて登壇。自身が「酷いO脚だった」という過去に触れながら、トレーニングや毎日の意識がけで「誰でも美脚になれる」ことを主張した。

ピッチコンテストでは受賞こそならなかったものの、IoTヒールによる美脚トレーニングで予防医療を実現するという会場の予想を裏切るスピーチで注目を集めた。現在も医師として働きながらビジネスに参戦し、予防医療の推進を目指す背景、そして今後の展開を伺った。

すべての国民を健康にしたい——医師を目指したきっかけと、「予防医学に人生を懸ける」と誓った原点

――岡部さんは経営者でありながら、医師でもいらっしゃいます。医師を目指された経緯についてお伺いできますか?

岡部大地(以下、岡部):「人の為に何かをしたい」というのが、僕の根源的な欲求なんです。自分が恵まれていても、周りの人が不幸せなら、本質的な幸せを感じられないと思っていて。自分も、周りの人も一緒にハッピーになれる職業を考えた結果、医師を目指すことにしました。

――具体的に「医師になろう」と決めたのはいつ頃でしょうか?

岡部:中学生の頃だったと記憶しています。仮に僕の臓器をすべて提供して、10人が生きていけるのなら、死んでもいいと思ったことがあったんです。飛行機で「お医者さんは居ますか?」とアナウンスがかかったら、「はい!」と手挙げるような医師になりたかった。要するに、困っている人を救える人になりたくて。

ーー総合診療医になられたのにも、そうした想いがあるのでしょうか?

岡部:そうですね。一つの診療科に特化したスペシャリストではなく、困っている人はどんな人でも手を差し伸べられる医師になりたいと思っていました。「お腹が痛いです」と尋ねられたときに、どうしたらいいのか答えられないのは、僕にとって不本意なんです。

また、現在の事業にもつながるのですが、三重大学医学部に所属しているときに、「自分の人生を予防医学に懸ける」と誓ったんです。すべての人が元気に輝いている未来を作るには、予防医学が不可欠。予防医学を含めて幅広く診ることができる総合診療医を目指しました。

「困っている人を全員助けてあげられる医師になりたかった」と言う岡部氏
「困っている人はどんな人でも手を差し伸べられる医師になりたかった」

ーーなぜ「予防医学に人生を懸ける」と誓ったのでしょう?

岡部:学生時代に透析センターを見学したことがきっかけです。透析を受けている患者さんたちのベッドがズラリと並んでいるのを見て、ショックを受けてしまいました。およそ30万人いる透析患者さんの半分弱は糖尿病が原因で、健康管理を適切に行えば透析を受けずに済んだかもしれないのです。

岡部:人工透析は1人当たり年間500万円もの治療費がかかる上に、患者さんは週3回1日何時間も治療を受けないといけません。そんな状態では自分らしく過ごせないですよね。医師を目指す一人として、大きな違和感を感じました。その空間にいることすら辛くて、一度外に出てしまったほどです。

ただ、この課題を解決することは非常に価値があることだとも思えたんです。これ以上糖尿病患者さんが増えない社会をつくりたいと感じ、糖尿病予防につながる活動を始めました。

ーー具体的にはどのようなことをされたのでしょうか?

岡部:地域のカフェや老舗和菓子屋さんとコラボして、糖尿病予防食をランチで提供していました。あとは、地域限定のインターネットラジオで「不健康な学生が健康について語る」番組を毎週放送していました。

医師に訪れた“LIFE SHIFT”の波。週2日勤務の医師として、ビジネスに参戦

起業家になったきっかけについて語る岡部氏
起業のきっかけをくれたのは、大学時代に経営していたバーで将来を語り合った仲間

ーー医学生時代から色んな活動をされていたんですね。

岡部:起業を意識した経緯にはもう一つあって、大学1年生のときにバーを経営していたんです。先輩が立ち上げたお店を引き継ぎ、学生の間ずっと経営を続けていたその時の経験が、今の自分の根幹を成していると思っています。

ーー経営を学ぶことができたと?

岡部:いえ、人生をかけて自分が何を成し遂げたいか、どう暮らしたいかを掴むことができたんです。経営をしていた仲間たちと毎晩飲みながら「お前が将来やりたいことは何だ?」「それは人のためになるのか?」と意見をぶつけ合っていました。

当時の友人には、ラオスに病院を建てたり、たこ焼きを販売しながら世界一周したり、かなり面白い仲間がいたんです。彼らと過ごした時間が、今の自分をつくっています。

医師としてのキャリアを積み上げるだけでなく、自分の成し遂げたいことはビジネスにした方が達成できるのではないかと考えはじめました。

ーー現在は岡部先生のように医師が起業するケースも徐々に増えています。どのような要因があると思いますか?

岡部:以前は医局に所属していないと働くところがほとんどありませんでしたが、現在は民間の医師派遣会社も多く、さまざまな働き方が可能だからではないでしょうか。リンダ・グラットン著『LIFE SHIFT』に書かれていることですが、現在は“人生100年時代”です。一つの専門だけで60年働くと考えると結構長いと思います。働き方を見直す風潮が、医師の世界にも例外なく訪れているのではないでしょうか。

モデルケースも増えてきて、「医師をしながらでも、多様な働き方ができる」と身を以て感じられるようになりました。こうした環境要因があると思っています。

ーー岡部さんが実際にジャパンヘルスケアを立ち上げた背景をお伺いできますか?

岡部:医師として、ある程度自分で納得できるレベルになれたことですね。いずれは臨床医に限らず、自分が成し遂げたいことを実現するために社会に出たいと思っていました。そのステップに行くための自分なりの線引きが「自分の両親を自信を持って診療できるか」でした。

医師になって4年間が経ち、ようやく自分に「両親を診ても良いよ」と言えたんです。臨床医として働くのを週2日にセーブし、ジャパンヘルスケアを立ち上げました。

美脚にフォーカスし、国民の健康を守る。医師と事業家の顔を持つ岡部大地の挑戦

ーー立ち上げ当初は社団法人だったそうですね。最初は、どのようなことを?

岡部:予防医療を一通りやろうとしていました。ウォーキングレッスンや姿勢講座
、あとはヨガ講座や食事、睡眠に関するイベントも主催していました。普段の生活のなかで病気を防ぐコツを啓蒙していたんです。

そうしたことを継続していくと、「体の使い方」にフォーカスを当てるべきだと気づきました。睡眠や食事が健康に大事なことはみんなが知っていることなので、あえて自分がやる必要はないと思ったんです。しかし、体の使い方について言及している人は少ない。自分がすべきことだと、強く感じました。

ーー体の使い方に注意すると、どのような予防につながるのでしょうか。

岡部:たとえば、歩き方が悪いと疲れやすい体になってしまうんです。僕自身がそもそもO脚だったのですが、そのまま放っておくと腰や膝の痛みを引き起こす原因になります。

僕は医師なので、そのリスクを理解できます。しかし、一般の方はそうではありませんよね。介護や育児で忙しい生活を送っている人などは特に、自分の体を労わる時間すらありません。そうした人たちが、自然に健康になれる環境の必要性を感じたんです。

ーーちなみに、岡部さん自身はどうやってO脚を改善されたんですか?

岡部:シューズにインソールを入れ、ストレッチをし、日々の心がけによって改善しました。他人から指摘されるほど重度のO脚でしたが、現在は改善しています。

Health2.0デモンストレーションにて登壇時に履いていた「スマートヒール」の足元アップ
「スマートヒール」とは、モーションセンサーとBLE(Bluetoothを使用した無線通信のプロトコル)を搭載したヒール型IoTデバイス。ぐらつきやリズムなど5項目から歩き方を点数化。その各項目において、その人の歩き方を解析し、歩き方のコツや意識するポイントなどをリアルタイムに音声で指導する。

ーーご自身の経験を踏まえて開発されたのが「スマートヒール」なんですね。

岡部:予防医療全般に言えることですが、O脚改善は継続的に行わなければいけないんです。「予防すること」はなかなか目的になりにくいので、いかにして継続する仕組みにするかを考えた結果、「美」に注目しました。

「病気を予防する足とはなんなのか?」その答えは、美脚なんです。病気になりにくい歩き方をすると、美脚になります。美脚を目指すと、結果的に病気を防ぐことになるんです。

ーー美脚を目的にすることで、健康を意識せずとも健康になれると。

岡部:おっしゃる通りです。近い例を挙げると、会社の中に健康的な食事を提供する社員食堂があれば、知らないうちに健康になれます。地域に憩いの場があり、ご老人が定期的に集まっていれば、認知症の発症率が下がります。そうした予防の仕組みをつくろうと、「スマートヒール」を開発しました。手軽に美脚になれるサービスがあったら利用する人が増え、意識せずとも健康になれると考えています。

ーー医師のバックグラウンドを活かしつつ、学生時代に思い描いた「医師以外のキャリアで社会に出ること」を実現されているのですね。

笑顔を見せる岡部氏

岡部:今も未来も健やかでいられるのが将来あるべき社会だと思っています。そのためには病気を予防する習慣が必須ですが、その事実を知っているのは、病気に理解のある医師や医療者だけなんです。

予防医療が当たり前の社会をつくることは、双方に理解がある僕に課された使命だと思っています。もちろん、自分のやりたいことです。自分の人生懸けて、実現していきたいと思っています。

岡部 大地Daichi Okabe

株式会社ジャパンヘルスケア 代表取締役社長 CEO(医師)

2012年三重大学医学部卒業後、2015年内科認定医を取得し、総合診療医として現在も診療している。2016年4月から千葉大学大学院で先進予防医学を専攻している。その中で自身も偏平足、O脚で歩き方が汚く、将来の運動器疾患リスクが高いことに気づき、歩き方を可視化して美脚を作るIoT「スマートヒール」のプロトタイプを開発した。2017年6月に株式会社ジャパンヘルスケアを設立し、代表取締役を務める。
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