PEOPLE

ヘルステックの未来をつくる今注目の人やサービスをご紹介

妊活は“禁忌”ではない。人気ドラマ「隣の家族は青く見える」監修 ファミワン・石川勇介氏インタビュー

深田恭子演じる五十嵐奈々と、松山ケンイチ演じる五十嵐大器夫婦が妊活を通して成長する姿を描いたヒューマンドラマ「隣の家族は青く見える」(フジテレビで2018年1月~3月に放送)。妊活に悩む夫婦の共感を呼び、番組公式サイトで募集している体験談には、多くのコメントが寄せられたそうだ。

そんな同番組の監修を手がけた一人の起業家がいるーー株式会社ファミワンの石川勇介氏だ。石川氏は、自身が妊活に悩んだ当事者として、「子供を授かりたい夫婦の未来をともにささえる社会をつくる」をビジョンに掲げ、妊活コンシェルジュサービス「famione」を展開している。

夫婦のすれ違いや、男女間で異なる妊活への理解、葛藤。そうしたすべての悩みを解決すべく、石川氏が目指す世界とは何なのか。“一般的な情報”では解決できず、更に“禁忌”として扱われる妊活の現状、そしてこれからに迫った。

子供ができない憂鬱が、起業の始発点。妊活コンシェルジュサービス「famione」ができるまで

妊活コンシェルジュ・株式会社ファミワン 代表取締役社長 石川勇介氏
株式会社ファミワン 代表取締役社長 石川勇介氏

ーーまずは、石川さんのご経歴についてお伺いさせてください。

石川勇介(以下、石川):ファミワンを創業するまでには、飲食系ベンチャー企業、国内ERPパッケージベンダー企業、国内最大級の医師向け情報提供企業にて会社員をしていました。

ーー今の領域とはかなり異なる経歴からスタートしているのですね?

石川:そうなんです。父親が家業を営んでいて、シャッターの取り付け工事等をしていた姿を幼い頃から見てきました。なかなか大変そうな仕事でしたが、父がする仕事で喜ぶ人たちの姿を知っていたので、自分も誰かに直接サービスを届ける仕事がしたかったんです。

大学時代は経済学部に所属していたため、友人の多くは金融業界へと就職しました。ただ、自分は昔から抱いていた仕事像を叶えるために、飲食業会へと就職したんです。その後も、しっかりとした自社のサービスを持ち、ユーザーに価値を届けていると観点で経験を積んできました。

ーー起業するにあたり、「妊活」を事業に掲げたのはなぜでしょうか?

石川:僕自身、妊活で悩んだ経験があるんです。僕も妻もお酒が好きなので、「新婚旅行では二人でお酒が飲みたいね」と話していました。なので、それまでは子供をつくらず、あえて妊活を先送りにしていたんです。当時、いつでも子供はできるだろうと、かなり軽く考えていました。

ただ、帰国後もなかなか子供ができなかったんです。3ヶ月か4ヶ月くらいは「なかなかできないね」と話していたくらいで、タイミングの問題かと思っていました。しかし、毎月そうしたことを続けていくうちにお互い疲れてしまったんです。配慮のない発言をしてしまったせいで、妻を怒らせてしまったこともありました。

妊活の実体験より、妊活コンシェルジュ事業立ち上げの経緯を話す石川氏

ーーその原体験が現在の事業に紐づいているんですね。

石川:そうです。起業前には医療情報を扱う会社で勤めていたこともあり、原因の調べ方についてはおおよそ理解していたつもりです。ただ、いざ調べてみると怪しげな情報が多かったり、医療に偏りすぎていてしまったり、僕たち夫婦に最適な情報を見つけることができませんでした。

妊娠に悩んでいる人は多いけれど、多くの人は適切な対処について知らないことが多いーー。
自分自身も感じ、実は本当に多くの夫婦が同じように悩んでいるこの課題を解決するため、妊活に取り組む夫婦をサポートするサービスを作ろうと決めたんです。
 
 

夫婦の背中を押してあげたいーー「famione」開発のヒストリー

ーーサービスの立ち上げには、ある種、使命感のような気持ちが?

石川:結果として僕たち夫婦は子供を授かりましたが、やはり妊娠に悩んだからこその当事者意識があります。頼れるサービスがなかなか見つからないこともあり、「どうにかしなきゃ」という使命感が湧きました。

生理周期を測るサービスはいくつもあったのですが、本気で妊娠したいと願う人の悩みを解決するソリューションにはなり得ていなかったんです。病院に行くことも非常に重要ですが、それだけですべてが解決というわけではありません。治療を始める前、そして治療を始めた後も夫婦で取り組めることはたくさんあります。しかし、誰にも相談できず悩んでいる人が多く、その悩みは、インターネットのメディアやブログを見るだけでは解消しきれないんです。

妊活に悩む夫婦のための妊活コンシェルジュサービスについて語る石川氏

ーー妊娠に悩んだ当事者として、石川さんが必要だと感じたサービスはどのようなものなのでしょうか?

石川:まず大前提として、「自分ごととして受け取れる情報」の必要性を感じました。たとえば本を開くと、一般的な情報が山のように書いてあります。ただ、それらは個人に最適化された情報ではありません。

仮説を立てるにも夫婦間で議論をしないといけませんし、医療機関で診察を受けるにも、いったいどの医療機関が自分に合っているのかをしっかりと考えるべきであるにも関わらず、情報は一般論しか出てきません。

個人のブログや口コミを読んで手探りで妊活を進めるのではなく、自分たちが夫婦で何をどう話し合えばいいのかを含め、それぞれの夫婦に合わせたサポートが必要です。

ーーそうして、実際にサービスを開発された?

石川:はい。一番最初は妊活のサポートを月2万円で行い、妊娠できなかったら全額返金するというビジネスモデルで始めました。専門家がアドバイスし、必要に応じて情報やグッズなどを提供していたんです。高額であっても全額返金とすることで、早く本気で「自分ごと」として妊活に取り組むきっかけになってほしいと考えていました。

ただ、サービスはうまく回りませんでした。というのも、利用者の多くはすでに病院に通われていて、体外受精にも挑戦しているような方だったのです。日頃からサプリメントを服用し、漢方や鍼灸なども試されている。なので、月に2万円とはいわず、数十万円使って妊活をされているんです。

そうした方はすでに十分「自分ごと」になっており、「お金がどうこうではなく、妊娠したい」という、かなり強い思いを持っていました。

ネット上では「こうしたら妊娠します」という情報を多く目にしますが、「妊娠できる」という言葉は決して簡単に使っていいものではありません。
そして、僕が提供したかったのも、妊娠するための処方をするサービスではなく、どちらかといえば夫婦で妊活に向き合うために背中を押してあげるようなサービスです。

提供したい価値とユーザーニーズが少しずれていることを感じたので、ほぼ全員のユーザーさんにヒアリングを行い、一旦モデルを改めることに決めました。
 
 

ドラマ「隣の家族は青く見える」が共感を呼んだ理由

妊活コンシェルジュ「famione」について説明する石川氏

ーーそれからはビジネスモデルをどのように変えたのでしょうか?

石川:まずはメディアとコミュニティの形成を行いました。というのも、この領域は当事者や専門家の声を聞くことが非常に難しく、そもそもどんなサポートが適切なのかを深く知る必要があったのです。

経験者の事後の声を集めることはできます。ですが、たとえば妊活をして妊娠した夫婦が実際に苦労した経験を発信しても、自分が妊娠しにくいとまだ知らない夫婦がその情報に関心を向けることはないですよね。

他の例で言うと、例えば生活習慣病になったしまった人は「こうなる前に教えてくれたら生活を改善していた」とよく言うのですが、きっとそんな簡単なことではないと思うんです。一般的な情報だけ教えていても、そうそう自分ごと化はできません。生活習慣病になってしまった後だからこそ、事前のケアが大事だと分かるんです。

そうした観点で、妊活を始める前の方、妊活中の方、妊活を終えた方、そして専門家の方たちにアドバイスをいただきながら改善を繰り返したところ、徐々に理想的なサービスが見えてきました。

ーー当時のコミュニティに対し、ユーザーさんはどのような感想を持たれているのでしょうか?

石川:「共感できる」「前に進むことができた」という声をたくさんいただいていました。たとえば、ブロガーさんであれば自分の妊活経験をスラスラと書くことができるかもしれませんが、多くの方はそもそも発信するのが苦手です。そして、いわゆる「成功体験談の口コミ」だけでは、単なる「押し付け」になってしまうことも多く、実はそこまでニーズがあるわけではないんです。

コミュニティの中では、アドバイザーとして登録している専門家ならではの目線のメッセージが寄せられたり、一つの投稿に対して長文でコメントをしあったりする文化ができていたんです。「そのやりとりを見ているだけでも参考になる」という声も多かったです。

ーー石川さんは、深田恭子さんと松山ケンイチさん主演のドラマ「隣の家族は青く見える」の監修をされているとお伺いしました。視聴者からの共感が高いと言われているのも、サービスを作る上での視点を投影されているからでしょうか?

ドラマ「隣の家族は青く見える」の監修について脚本を並べて説明する石川氏

石川:監修をする際は、掲示板のコメント、そしてユーザーヒアリングで得た知見をもとに行いました。実際の声を反映したからこそのクオリティになっていると思います。ドラマで出てきたシーンはどれも、実際に聞かせていただいた話がベースになっています。
 
 

妊活をポジティブに変えていきたい。ファミワン 石川の挑戦

ーー今後はどのようなサービスを展開される予定でしょうか?

石川:現在、コミュニティなどのサービスをリニューアルし、チャットベースのサポートを提供しています。チャットの中で定期的に問診票やアンケートを送り、それに答えていただくことで適切なアドバイスが届く形にサービスを改善しました。

※リニューアルのプレスリリースはこちら
妊娠を望む夫婦を不妊症看護認定看護師などの専門家がサポート!LINEによる妊活チャットサービスの無料提供を開始します

ーーチャットベースにリニューアルされたのはなぜでしょうか?

石川:妊活を始めたはいいものの、そもそも何を聞いたらいいのか分からないケースも往々にした考えられます。聞きたいことが分かっているのなら、最初にお医者さんや専門家に相談していると思うんです。

何から始めたらいいのか分からない人が、サービスを使う心理的ハードルを最大限下げ、自分ごとにしてもらうという目的で、パーソナルな情報を気軽にやり取りしやすいチャットというスタイルをとっています。

そこでアドバイスをくれるのは、不妊症看護認定看護師や不妊カウンセラー、そして妊活の経験者で現在は NPO法人Fineのピアカウンセラーとして活動されている方などです。

妊活事業の今後の展望について語る石川氏

ーーさまざまな方から偏りなくアドバイスがあるのは心強いですね。

石川:アドバイスが定期的に届くので、徐々に知識がつき、何を考えるべきなのかが次第に分かってきます。すると、夫婦で話し合う機会が増えますよね。また、今年の夏をめどに有料の個別相談機能も展開しようと考えています。企業の福利厚生で使っていただいたり、提携クリニックの患者さんであれば無料で使えたり、仕組みを構築しているところです。

ーーいわゆる「医療」のサポートをする形なのでしょうか?

石川:そうですね。おそらく、ユーザーさんがここで聞きたいのは治療法ではなく、もう少し広い意味でのアドバイスなんです。治療法が最初から分かっていればお医者様に相談されると思いますが、いつどのような検査や治療をするべきか、夫婦間でどういった取り組みをすればいいのか、日頃どういったケアをすればいいのか、といったことで悩まれてしまう方が多いんです。イメージとしては、僕たちとお医者様がパートナーシップを締結して、不妊治療を含めた妊活全般をサポートする形ですね。

妊活は、時間がかかればかかるほど難しくなります。なので、精神的に疲れてしまう方も少なくない。しかしそうしたケアは、医療の本筋ではありません。お医者様に治療に専念していただけるよう、治療を開始する前の段階から最大限サポートを行います。

ーー妊娠などのお話は、日本では時に「禁忌」として扱われることも少なくないと思います。そうした風潮に関して、何かご意見はありますか?

石川:少なからずそうした風潮はあると思います。海外では妊活や不妊治療ももっとオープンになっている国もあります。倫理観や価値観、宗教観が異なるので、卵子提供や不妊治療に関する抵抗感が少ない場合もあります。

ドラマでもそうしたシーンがよく描かれていましたが、日本でもクリニックに通うのが特別なことではなく、必要に応じて周囲に相談できる世の中になればいいなと考えています。また、女性に比べて男性が消極的になりがちな妊活において、サービスを立ち上げた僕が「男性である」意味は大きいと思っていますし、妊活が少しでもポジティブなものになるよう、社会全体を変えていければと思っています。

石川 勇介Yusuke Ishikawa

株式会社ファミワン
代表取締役社長

2006年慶應義塾大学卒業。飲食系ベンチャーのチャイナクイック、ERPベンダーのワークスアプリケーションズ、ヘルスケア領域のエムスリーを経て、2015年にファミワンを創業。
自身が、妊娠に向けた活動=妊活に取り組んでいた際に強く感じた課題を解決するため、”妊活を科学する”をテーマに様々なサービスの企画立案を行う。参加していたOpen Network Lab 15thで最優秀賞を獲得した、夫婦二人の妊活コンシェルジュ「ファミワン」の開発提供をメインに進めている。
医療だけでなく、東京都のスタートアップ支援プログラムであるASACや森永製菓アクセラレーターへの参加や、東京大学との共同研究など、各方面と協力しながら課題解決に取り組む。深田恭子演じる五十嵐奈々と、松山ケンイチ演じる五十嵐大器夫婦が妊活を通して成長する姿を描いたヒューマンドラマ「隣の家族は青く見える」(フジテレビで2018年1月~3月に放送)監修。
  • b.hatena
  • pocket