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精子セルフチェックキット「Seem」で少子化問題に挑むリクルート・入澤諒氏(前編)

2017.06.05 9:45

PHOTOS BY
松平伊織
TEXT BY
長谷川リョー

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アプリ 不妊 少子化
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「妊活・不妊治療は女性だけの問題ではありません」と語るのはリクルートライフスタイルの入澤諒氏だ。同氏は昨年スマートフォンで手軽に精子の濃度や運動率をセルフチェックできる「Seem」を開発。前職では女性の生理日管理アプリのディレクションやプロモーションを行っていた入澤氏は、なぜリクルートに移り「Seem」を作ることにしたのか。「少子化」という日本が抱える社会課題に挑む入澤氏に開発秘話から今後の展望までを伺った。

スマホ一つで精子のセルフチェックができる「Seem」

ーーはじめに、「Seem」というサービスの概要について教えてください。

入澤 「Seem」はスマートフォンで精子のセルフチェックが手軽に行えるサービスです、キットとiPhoneのアプリを使うことで、精子の濃度と運動率を測定することができます。顕微鏡レンズの上に精子を一滴の乗せ、スマートフォンのフロントカメラにセットすることで動画を撮影、アプリのプログラムが自動解析を行うという仕組みです。

ーーどうしても社会の中では、不妊治療といえば男性よりも女性といったイメージが持たれていることが少なくありません。入澤さんはどのようなきっかけでこのサービスを始められたのでしょうか?

入澤 私は2014年11月にリクルートライフスタイルに中途入社しました。前職は女性の生理日管理をするアプリの企画やプロモーションをしていたんです。その頃から妊活や不妊治療に関して女性は一生懸命やっているのに、男性がほとんど何もしていないことに疑問を持つようなりました。またWHOの発表で、不妊の原因の半分は男性にあることが分かったんです。不妊治療專門の先生に話を伺ってみると、女性が1〜2年1人で頑張っても妊娠せず、ようやく男性が検査を受けたところ原因が男性の方にあったことも少なくないという話でした。そこで課題の大きさを認識したんです。

リクルートライフスタイルに入社し、配属されたのが「ビジネス開発グループ」。既存の事業ではなく新しい何かを作ろうということをミッションにしたグループ。「自分の関心とこれまでの経験から何を作るか」を考えたときに生まれたアイデアが「Seem」でした。

ーーということは、「Seem」を作りたくてリクルートライフスタイルに入ったというよりは、部署に来てからこのアイデアを着想されたということですか?

入澤 はい。「新しい事業に挑戦する」ということで、ビジネスアイデアを考えることになりました。もともとヘルスケアに関心がありましたし、先ほどもお話した通り男性が妊活や不妊治療に対して行動を起こしていないケースが多いことに課題を感じていたため、このサービスを着想しました。リクルートライフスタイルでは「人間ドックのここカラダ」という人間ドックや各種検診の検索・予約サイトを運営しヘルスケアに関する事業をやっていますが、それとは全く別でスタートしています。

一人きりで始まった開発から「命が生まれるサービス」と認識されるまで

ーーリクルートライフスタイルでは様々なビジネスを展開されていますが、事業化検討の段階ではビジネスとしてのスケールは問われましたか?

入澤 想定される事業規模としてはじゃらんやホットペッパービューティーに比べればたしかに小さいかもしれません。それでも不妊ないしは少子化は社会課題としてとても大きいですし、そこに一石を投じられる案件としてプレゼンをしました。開発段階でテストを行ったところ、実際に社内で無精子症の人が見つかったんです。「Seem」をきっかけに自分の症状に気づき、病院で治療をしたことで、「Seem」の利用から半年後に奥様が妊娠されました。この事実をみんなが喜んだと同時に、「命が生まれるサービス」として認識されるようになりました。新規事業として社会課題の解決につながっているし、価値があるということで、社内の方向性が揃うことになったんです。もちろん社会貢献だけではなく、事業としても発展させていきます。

ーー具体的に着想から事業化まではどのようなプロセスでしたか?

入澤 リクルートはモノづくりをした経験がほとんどありませんし、社内で類似のヘルスケア事業もありませんでした。なので、はじめはできるかどうかが分かりませんでした。それでもまず、プロトタイプを開発してみることにしました。社内外のパートナーと一緒に専用レンズや解析プログラムも併せて、試作品を作り始めたのがはじまりです。そこからフィードバックを受けながら、しばらくは改善を繰り返していました。

ーーそのなかで一番難しかったことは何ですか?

入澤 いくつかありますが、はじめはレンズの開発。精子を見ることに特化した仕様を決めるために、トライアンドエラーを繰り返しました。最初の方はうまくいかず、全く解析できないこともあったんです。最初の段階は社内では一人きりで開発していたので、そのときはかなり大変でした。

ーー技術的な経験は前職や学生時代にあるのでしょうか?

入澤 学生時代は生命理工学部で、屋上緑地の生態系を研究していました。そこでウェットな素材を扱った実験をずっとしていたため、なんとなくは慣れていたかもしれません。「プレパラートみたいなものを作って、乗せたら動くのが見えそうだ」といった実感があったため、検討はしやすかったです。

ヘルスケア領域のジレンマでは”健康オタク”にしか届きにくいこと

ーー前職の会社にはなぜ入社されたのでしょうか?

入澤 自分が学生だった頃にiPhoneが世の中に出てました。「スマートフォンのアプリやコンテンツで、こんなにも生活が変わるんだ」ということに衝撃を受けたんです。ヘルスケアという分野に関しては当時から関心を持っていたため、ゲームやエンタメではなく生活情報や健康に関する軸で就職先を探していました。そのときに前職の会社が運営する女性の生理日管理アプリの存在を知り、ヘルスケアのBtoC事業として一番大きく、成功しているということで入社を決めました。

ーーどういった業務に従事されていたのですか?

入澤 その、女性向けアプリを運営する事業部に配属になりました。当時はまだガラケーの時代で、スマホに移行をするタイミング。同サービスのスマートフォン向けアプリのディレクションをした後、サービス全体のプロモーションを1年行いました。そのあと同社が遺伝子検査事業を行う子会社を作ったのですが、その立ち上げメンバーを1年間やった後に、リクルートに転職しました。

ーー前職の経験によって知識を得ながら、関心を深めていったということですか?

入澤 昨今ヘルスケア企業は増加していますが、日本においては結局のところ、健康意識が高い人にしか届いていないのが現状です。遺伝子検査を受けている人の多くが元々健康オタクであることも少なくありません。運動もしているし、食事にも気を遣っていて、人間ドックを受ける。そうした人はすでに健康な方が多いので、そこには大きなジレンマがあります。本当に必要な人にサービスを提供できることで、大きなインパクトが出せるところが良かったというのもリクルートを選んだ一つの理由です。

ーー「ヒト・モノ・カネ」が豊富な環境が魅力的だったということですね。

入澤 リクルートライフスタイルでは飲食・旅行・美容などといった幅広い事業領域で、大きな会員基盤を保有しています。こうした基盤をヘルスケアの分野にも生かすことで、影響力を出せるのではないかと考えました。

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入澤 諒Ryo Irisawa

株式会社リクルートライフスタイル 
ネットビジネス本部 プロダクトデザインユニット ビジネス開発グループ

大学卒業後、モバイル向けのコンテンツプロバイダーに入社。
女性向けの健康管理サービスの企画・プロモーションのディレクションや遺伝子検査サービスの立ち上げを担当。
2014年11月にリクルートライフスタイルに入社し、新規事業開発部門に配属。
新規事業として『Seem(シーム)』を立ち上げ、現在はSeem事業全体の戦略策定からUXの検討、プロダクト開発までを担当する。

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