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“孤独の解消”を目指す分身ロボット「OriHime」は、人の生きがいを届けるーーオリィ研究所・吉藤健太朗氏インタビュー

2018.07.06

Text By
小池真幸
Edit By
オバラミツフミ
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学校に行きたくないわけじゃないのに、ストレスで身体が動かない。こんな時、自分の分身がいたらーー。幼少期の引きこもり経験をトリガーに、“孤独の解消”をミッションに掲げる吉藤健太朗氏。オリィ研究所所長として、分身ロボット「OriHime」の開発に取り組む。

たとえ離れた場所にいても、「OriHime」と同じ映像を見て、ボタンを押してモーションを取らせれば、仲間と同じ場所に“いる”感覚を得られる。「OriHime」が分身となることで、遠隔地にいても自分の居場所を失わずに済むのだ。

吉藤氏を“孤独の解消”という壮大なテーマへと駆り立てた幼少期の引きこもり経験、またそれを払拭すべく開発している「OriHime」で何を実現しようとしているのかーー。孤独の解消に必要なインタラクティブなコミュニケーションを、テクノロジーによって一つの心に複数の身体を紐づかせることで実現しようと挑戦する、吉藤氏の半生とこれからに迫った。
 ■目次


「人間は生まれながらにして孤独な存在である」

かつてアルベルト・アインシュタインはそう言ったという。

孤独を癒す、つまり自分以外の人間とつながることは、人間の根源的欲求の一つだ。マズローの欲求五段階説の中にも、所属と愛の欲求(Love and belonging)が存在している。人間は、本質的に一人では生きていけない存在なのだ。人が人として生きていくためには、他の誰かとのつながりの構築が必要不可欠である。

そんな“孤独”という壮大なテーマに取り組んでいる一人のロボット研究者がいる。オリィ研究所所長・吉藤健太朗氏だ。テクノロジーでコミュニケーションの可能性を拡張することで孤独を解消できると信じ、分身ロボット「OriHime」の開発を進めている。

彼はなぜ、孤独という壮大なテーマに挑戦しようとしているのだろうか。また、ロボットを研究・開発することで、いかなる課題を解決しようとしているのだろうか。そんな吉藤氏の挑戦に迫りたい。

「OriHime」が届けたいのは、その場に“いる”感覚

オリィ研究所所長 吉藤健太朗氏
オリィ研究所所長 吉藤健太朗氏

――まず、吉藤さんが開発したロボット「OriHime」についてお伺いできますでしょうか。

吉藤健太朗(以下、吉藤):「OriHime」は、遠隔操作によって、離れた場所にいる人との会話や感情の共有を可能にしてくれる、言わば分身ロボットです。

ロボットが見ている映像を、遠隔地からでもリアルタイムで、かつ鮮明に見ることができます。またスマホやタブレットを通じてボタンを押すだけで、「うんうん」「手を挙げる」「なんでやねん」といった、予め登録されたモーションを取らせることもできます。これにより物理的に離れた場所にいる人でも、その場に“いる”感覚を得られる。まさに「OriHime」がみなさんの分身になってくれるのです。

――ロボットのインターフェースは、なぜ能面のようなデザインになっているのでしょうか? 人の分身であれば、もう少し解像度が高い、人間に近い顔や身体のデザインであることを想像します。

吉藤:「想像力が介入する余地」がある、曖昧なデザインの方が、人々に受け入れられやすいからです。

実は初期の頃は、二足歩行でもっと人間に近いデザインでつくっていましたが、そうなると「その人らしくない」、リアルじゃないところが目についてしまうんです。手の挙げ方や首の振り方などは人それぞれに異なりますが、果たしてその特徴をすべて再現する必要があるのか。情報量が多いほどいいとみんな信じているんですけど、そうではないんです。

「その人に見える」方法を探っていったところ、行きついたのが「能面」でした。能面とか人形浄瑠璃の人形とか、舞台で見るとすごく生きているように我々は見ますよね。つまり、我々には想像力があるのだから、情報量を増やすのではなくて、見ている人の想像力を適切な方向に喚起できるようなデザインにすればいいという結論に至りました。人らしく見せながら、想像の余地を残すように、全体的に丸みを帯びたデザインにしています。

――「OriHime」は、どのようなシチュエーションで活用されているのでしょうか?

吉藤:病院や学校が多いですね。入院していて学校に行けない子どもが、OriHimeで授業に参加したり、一緒に修学旅行に行ったりという例もあれば、ALS(筋萎縮性側索硬化症)に罹患し学校に行けなくなってしまった先生が、OriHimeを活用して卒業式に出席された事例もあります。

あとは、企業でのテレワーク。現在60社くらいに導入されていますが、中でもNTT東日本さんは大々的に導入していただいています。女性社員が多く育児離職もある中で、育児中で出社しにくい女性でも、職場に居場所を感じながらコミュニケーションをとって仕事ができるようになりました。ちなみにオリィ研究所にも、一回も生身で出社したことがない社員がいるんです。難病によって入院や在宅中なのですが、「OriHime」で出社することで、違和感なく研究所内に溶け込んでいます。

30歳までの人生を「孤独の解消」に捧げると決めた日

――「OriHime」を開発しようと思った背景をお伺いしてもよろしいでしょうか?

吉藤:一番のルーツは、幼少期の引きこもり経験です。学校に行きたくないわけではなかったのですが、準備をはじめるとストレスでお腹が痛くなってしまい、家から出られない。さらに、不登校期間が長引けば長引くほど行きづらくなります。家から一歩も出られず、誰ともコミュニケーションを取れない孤独な状況が本当につらかったんです。

Orihime開発のきっかけについて話す吉藤氏

引きこもりの日々が長引くなか、「自分の分身がいれば登校できるのに」と思うようになりました。その経験がトリガーになり、「そもそも心身一体という考え方は固定観念で、一つの心に対応する身体が複数あっても良いんじゃないか」という想いが醸成されました。

最悪今の身体がなくなっても、別の身体で人生を楽しめる社会が理想だと思ったんです。そして現在、インターネット技術の発展とロボット技術の低コスト化によって、当時思い描いた社会の実現可能性が高まりつつあります。

――最初から「OriHime」のような分身ロボットの開発にチャレンジされていたのですか?

吉藤:いえ、高校生のときは「かっこいい車椅子」の開発に心を砕いていました。僕は車椅子のことを、“一人乗りのオープンカー”って呼んでいるんですけど、安全・快適でかっこいい車椅子をつくることで、車椅子に乗ることへの社会的障害を取り除こうしていたんです。

分身ロボットの開発に着手したのは大学に入ってからです。身体を運ぶための車椅子ではなく、心を運ぶための車椅子、すなわち機械の身体を作りたくなったんです。

きっかけは、高校生のときに車椅子の開発実績が注目されて参加することになった「ISEF」(インテル国際学生科学フェア。高校生を対象として毎年開催される、世界最大級の国際科学コンテスト)です。「自分はこの研究をやるために生まれてきた」「自分はこの研究をやりながら死んでいく」と熱弁する海外の同世代の人たちを見て、強烈なカルチャーショックを受けました。自分は車椅子の研究そのものに、ここまでの情熱を注げないと実感したんです。

また、当時は体調があまり良くなく、30歳までしか生きられないかもしれないと覚悟していました。だからこそ、自分が本当に解決したい問題に取り組みたかった。そこで、幼少期のつらい引きこもり経験を原体験とした、“孤独の解消”を人生のミッションにしようと決めたんです。それ以来、ずっとこのミッションを胸にロボット開発に打ち込んでいます。

物理的な距離を越えた居場所をつくるには、“相互の存在伝達”が不可欠

――「OriHime」はその“孤独の解消”のための手段なのですね。

吉藤:OriHimeを介して自分の存在を伝達し、遠隔地からでもそこを自分の居場所だと思えるように、その場所に“いる”感覚を持ってもらいたいーー。

人がその場に“いる”と感じるためには、「自分がそこにいると感じられる」「周りの人もその人がそこにいると感じてくれる」の二点の要素を満たすことが必要と考えました。そのためには、相互にリアクションをとるインタラクティブなコミュニケーションが不可欠になります。

孤独の解消について話す藤吉氏

ーーインタラクティブなコミュニケーションを生み出すためにはどうすれば良いのでしょうか?

吉藤:自分がしたことに対して“リアクション”がある空間づくりが重要です。例えば、教室にカメラを置けば教室内の様子は中継で見ることができますが、自分から友達に話しかけることはできず、当然相手からのリアクションもないですよね。これだと一方的で、自分が透明人間みたいな感覚になってしまいます。

その意味では、たとえ教室で同じ空間にいたとしても、教室の隅で弁当を食べているだけで誰とも会話をしなければ、自分の居場所は感じられません。むしろ、オンラインゲームの方がインタラクティブなコミュニケーションが成立していて、オンラインゲームに居場所を求めている人は結構います。

ーー職場だと、最近はテレワークのためにチャットやテレビ電話が活用されていますが、「OriHime」だと何がどう違ってくるのでしょうか?

「OriHime」で実現したいことは、インタラクティブなリアクションが生まれ、居場所を感じられる空間づくり。それには、従来のチャットツールやテレビ電話を活用したテレワークでは不十分で、それらはあくまでも情報共有用につくられた場所に過ぎません。常にそこに自分が“存在して”、雑談や職場の雰囲気も含めて包括的にシェアしないとインタラクティブにはなりにくいんです。

前提として「OriHime」は、業務効率化ツールとして開発しているわけではありません。解決したいのは、ここが自分の居場所だと思える場所に参加できない状況があることです。会社を居場所と思ってもらいたい企業にとっては、このロボットを導入することで、長期間休んでいる人や出張中の人、介護のために家にいなければいけない人など、いろんな状況の方を繋ぎとめて、会社をちゃんと自分の居場所と感じ続けてもらうことができるはずです。

知的労働だけでなく、肉体労働も代替できるロボットにしたいーー誰もが人の役に立てる社会を実現するために

ーー今後、海外展開のご予定はありますか?

吉藤:実は既に始めていて、まずはデンマークで病院向けに導入しています。デンマークは社会実験に意欲的な国です。モノをつくる産業が発達していない分、他国のモノを導入して社会を変えることにはかなり積極的なんです。独自の評価指数も持っていて、それにより削減できるコストを数値化し、トライアンドエラーをかなりきっちり繰り返す文化があります。そのため、デンマークモデルとして成立するとEU内にいっきに広がったりします。

ーー「OriHime」のように、今までにないような概念のプロダクトと相性が良いのですね。吉藤さんが実現したい世界に向けて、今の「OriHime」に残された課題はありますか?

吉藤:「OriHime」を通じて、プロジェクトマネジメントといった知的労働はできるようになったのですが、肉体労働が代替できない点が課題ですね。なので、主に30代以上でマネジメント経験があったりと、人を動かして仕事ができる人にとっては活用しやすいですが、若い新人のうちはコピーを取りにいったり書類を提出したりといった物理的労働がどうしても出てくるので、そこがまだ代替は難しいのが現状です。

この壁が超えられないと、今僕がアドバイザーとして関わっている特別支援学校の生徒の就職にも活かせません。障害者の中でも、動いたりある程度コミュニケーションのとれる方は、大体すでに就職できているのですが、知的障害があるわけではないけれど身体が動かない方というのは多いんです。彼らが働ける環境をつくりたい。

Orihimeを利用した働き方について語る吉藤氏

働ける人と、働いてもいいよという会社と、働ける手段。この3つをきちんとマッチングしていきたいんですよね。人生における孤独を解消するために一番大切なのは、人の役に立つことです。人間は本質的には社会的な生き物で、自分のためだけには頑張れない。「OriHime」が肉体労働まで代替できるようになれば、そこのマッチングがかなり促進され、人の役に立つ機会を得られる人がもっと増えると思うんですよ。今後はそこの開発により注力し、“孤独の解消”を促進していきたいです。
  
  
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吉藤 健太朗Kentaro Yoshifuji

株式会社オリィ研究所の共同創業者でありCEO。2016年フォーブス「30 Under 30 2016 ASIA」などに選ばれた。株式会社オリィ研究所は2012年に設立。「OriHime」という名のコミュニケーションロボットを製造。自身が長期入院した際、家族とコミュニケーションできなかった経験から様々な経緯をへて人とコミュニケーションするためのロボット開発を行う。現在会社を通しロボット製造だけでなく、ロボットを活用し難病者含む多くの人が仕事をする機会を創出する。OriHimeは、カメラ、スピーカー、マイクを内蔵し、スマートフォン、PC等のアプリケーションでインターネット経由で動かすことができる。
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