PEOPLE

ヘルステックの未来をつくる今注目の人やサービスをご紹介

全力で王道を行くしかない。医師起業家のパイオニア・石見陽氏のHARD THINGS

医師の仕事は、臨床、研究、教育だけではない。実現したいことがあれば、起業家の視点を持ち、「0→1」で事業を創造していかなければいけないーー。そんな想いのもと、医師同士での情報交換やネットワークづくりをする場として開催されているイベント「01 Doctor Initiative」。

本記事では、「医師起業家:過去、現在、そして未来へ」をテーマに2018年11月に開催されたセッションの様子を、ダイジェストでお届けする。ゲスト登壇者は、「01 Doctor Initiative」の発起人の一人でもあり、メドピア株式会社で代表取締役社長 CEOを務める、医師・医学博士の石見陽氏。

自身も医師起業家としてヘルステック業界を牽引する石見氏は、「結局のところ、全力で王道を行くしか道はない」と語ります。サイドビジネスとしてスタートした創業期から、経営者として生きていく覚悟を決め、赤字続きの「暗黒時代」を乗り越えたプロセスまで、医師起業家として「事業づくり」を成功させるための要諦が明かされました。
 ■目次


「医師以外にも収入源が欲しい」サイドビジネスとしてはじめた会社経営

メドピア株式会社は、医師専用コミュニティサイト『MedPeer』を基盤に、医師や医療現場を支援するドクタープラットフォーム事業、オンライン医療相談など一般消費者の健康を支援するヘルスケアソリューション事業を展開している。

創業者である石見氏は、信州大学医学部を卒業後、1999年に東京女子医科大学の循環器内科に入局した。

メドピア株式会社 代表取締役社長 CEO 石見陽氏(医師・医学博士)
メドピア株式会社 代表取締役社長 CEO 石見陽氏(医師・医学博士)

石見陽氏(以下、石見):もともと起業を志向していたわけではありません。臨床医として、専門性を高めていくことだけを考えていました。

しかし、そうした構想は、脆くも崩れ去ることになる。2001年に、医療事故・隠蔽事件「東京女子医大事件」が発生したのだ。事件の余波を受けた石見氏は、東海大学への出向を余儀なくされた。

出向後、臨床から離れて時間的余裕が生まれると、異業種交流会に顔を出すようになった。そこで出会った医療業界以外の人々から多大な刺激を受けた石見氏は、堀江貴文氏に代表されるITベンチャーブームの渦中にあった時流にも後押しされ、株式会社メディカル・オブリージュ(現メドピア株式会社)を創業。時は2004年、石見氏は30歳だった。

最初のオフィスは、新橋にある広さ1.7畳のトランクルーム。会社としての信頼性を担保するため、東京の住所を獲得すべくレンタルした場所だ。当時は、現在のような形で本格的に会社経営を行うことは考えていなかったという。

石見:崇高なミッションやビジョンを抱いていたわけではありません。当時はただ、「医師以外にも定期的に収入源があるといいな」といった程度の気持ちではじめた、サイドビジネスに過ぎませんでした。

医療不信全盛期のさなか、「臨床医には戻らない」と決断

2005年には、最初の事業である、医師人材の送客サービスをリリース。転職を検討している医師が、複数の人材紹介会社に一括登録できるサービスだ。医師は複数サービスに登録する手間を省け、人材紹介会社も転職希望者の情報を手軽に集められる。

当初は創業直後のベンチャー企業ゆえに信頼性を疑われることも多く、人材紹介会社がなかなか取引に応じてくれず苦労した。それでも、なんとか数社との契約をこぎつけると、芋づる式に契約数が増え、月に200万円ほどの売上規模に成長した。

小さな成功を収めた石見氏だったが、当初の予定に反し、「臨床医に戻らず、企業経営に専念する」選択肢も考えるようになる。当時は、医療不信の全盛期。医療事故「大野病院事件」や、過重労働から来る医師の「燃え尽き症候群」が社会問題化していた。

メドピア株式会社 代表取締役社長 石見陽氏(医師・医学博士)

石見:「医療業界の信頼を取り戻し、より多くの患者さんを救えるようになるために、何かしなければ」と思っていたんです。

そんな想いを抱きはじめていた頃、とあるサービスとの出会いを果たす。故・田坂佳千先生が主宰し、約2,500人の医師が参加していたメーリングリスト『Total Family Care』(以下、TFC)だ。

医師たちがフラットな環境で自由に意見交換を行っている場を目の当たりにし、「こういった場があれば医療をより良いものにできるかもしれない」と感銘を受けた。しかし同時に、TFCのシステムに限界も感じていた石見氏は、大きな決断を下すことになる。

石見:TFCは田坂先生がすべてのメールに目を通してコメントする、属人的な取り組みでした。また、非営利活動ゆえに持続可能性も低いように感じたのです。

そこで、「医師をサポートし、多くの患者さんを救う」ための持続可能な仕組みを創り上げるべく、医師専用のコミュニティサイト『Next Doctors(現MedPeer)』を立ち上げることに。同時に、臨床医を週一回、それ以外は事業を通じて医療に貢献していくという決意も固まりました。

「暗黒時代だった」。熱い想いに反し、経営は一向に上向かない日々

医師起業家としての人生を歩む覚悟を決めた石見氏のもとには、「類似サービスとの差別化はどうする?」、「医師が起業なんて博打では?」といった冷ややかな声も寄せられた。しかし、いくら逆風が吹き荒れても、石見氏の決意が揺らぐことはなかった。

まず、「直感」。ちょうど類似のサービスが勃興しはじめていた時期で、「こうしたコミュニティサイトへのニーズ自体は間違いなくある」と確信していたうえ、「とはいえ、建設的に意見交換できるサービスはまだ出てきていない」と感じていたのだ。mixiをはじめとするコミュニティサイトの躍進にも背中を押された。

さらに、ジム・コリンズ著の『ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則』をはじめとしたビジネス書を読み漁るうちに「理念と利益は同時に追求できる」と知り、医療の世界では悪とされがちな利益を追求することへの懸念が払拭された。

何より心に響いたのは、とある先輩経営者からの言葉だ。

メドピア株式会社 代表取締役社長 石見陽氏(医師・医学博士)

石見:「『中途半端』は、最も避けるべき状態だ」と言われたんです。社会課題の解決を目指してパブリックな企業をつくるのか、そうでなければ、ひたすら節税のために利益の圧縮を図るようなスモールビジネスにするのか、その点をはっきりしないと社会に迷惑をかけるだけだと。その言葉を受け、「何としても、医療業界を良くするための仕組みをつくりパブリックな企業を生み出すんだ」と決意を新たにしました。

しかし、そんな想いとは裏腹に、経営が軌道に乗らず苦しむ日々が続いた。新しいコンセプトのサービスゆえに価値が伝わりにくく、ユーザーが一向に増えない。さらにビジネスモデルが定まらず、収益も上がらない。資金繰りから、学会でのビラ配りをはじめとした営業活動、プロダクト開発まで、目が回るほど忙しい日々だった。

石見:どの業務を誰に任せれば良いのかも分からず、人を増やしても僕の業務負担は減らなかった。豊富なビジネス経験を持つ優秀なビジネスパーソンに参画してもらっても、ミッション・ビジョンへの共感を軽視して採用したことが原因で、人間関係のトラブルが発生。赤字は膨らむばかりで、まさに「暗黒時代」でした。

全力で王道を行くしかない。数多くのHARD THINGSを乗り越え、上場へ

暗中模索の状況が続くなか、大手製薬企業や医療メディアとの提携も実現し、ビジネス観点では明るい兆しが見えた。しかし、会社内の雰囲気は相変わらず重苦しかった。当時は東日本大震災後、日本人全体が未来について不安感を抱いていた頃だった。そこで石見氏は、振り出しに戻り、改めて「なぜこの会社で働くのか?」を問い直すことにした。メンバーの一人ひとりに改めて石見氏の想いを伝え、本音で議論したのだ。結果、同じ想いのメンバーだけが残り、社員数は減ってしまったが、組織の空気が変わったのを感じたという。

石見:強い組織をつくるためには、個々のスキルや熱意も大事ですが、何より「ベクトルが合っているか」が大切です。そのベクトルを合わせるために必要なのが、ミッション、ビジョンなんです。

例えば、医療の世界ではミッション、ビジョンについて、医局で議論されることはほとんどありません。なぜなら、「目の前の患者を救う」という、誰の目にも明らかな存在理由と目的があるから。

しかし、会社を経営する場合、チームをまとめるための言葉が欠かせなくなります。そして、こうした理念は、一度伝えても、時間が経つと浸透度が下がってしまうので、経営者が伝え続けることが必要なんです。

2010年には、ジャフコから1.6億円の資金調達も達成した。資金調達の際は、豊富な投資経験を有している投資家サイドとの情報格差を埋めるため、できるだけ周りの経営者にノウハウを聞いて回ったという。何より、「資本政策や契約書の記載条件については、締結後に修正しようとすると膨大な労力と時間がかかるので、慎重に進めるべきだ」と石見氏は語る。

そして遂に、2014年には、東証マザーズへの上場を果たすことになる。その上場に至るまでも、経営者として重大な判断を求められる局面が多々あったという。しかし石見氏は「やるべきことをやる・王道を行く」という軸をぶらさなかった。

メドピア株式会社 代表取締役社長 石見陽氏(医師・医学博士)

石見:結局、全力で王道を行くしかないんですよ。外部環境は常に変わっていますし、小手先のテクニックを使ってもうまくいかない。最善を尽くし続けることが、何よりも大切なんです。

増加の一途を辿る“Doctorepreneur”。領域横断的な課題解決がポイント

石見氏を先駆けとして、ヘルステック領域では、医師起業家–––すなわち“Doctorepreneur”が増えている。現在、健康関連企業が831社あり、うち65企業が10億円以上の資金調達を達成(2018年8月22日、出所:entrepedia)。創業社数、平均調達金額も増加傾向にある。その中でも、50人近くがDoctorepreneurとして活躍する医師たちだ。

メドピア株式会社 代表取締役社長 CEO 石見陽氏(医師・医学博士)

石見:0から1を生み出す際、別々の領域の間をつなぐことが有効なケースが多いです。「医療」と「IT」の間をつないだMedPeerも、その一例。起業に限らず、政治、研究、臨床といった場でも、「事業づくり」の観点を持ち、領域どうしを架橋して課題を解決する「ゼロワンな医師」が増えてくれることを願っています。

石見 陽Yo Iwami

メドピア株式会社 代表取締役社長CEO(医師・医学博士)

1999年に信州大学医学部を卒業し、東京女子医科大学病院循環器内科学に入局。
循環器内科医として勤務する傍ら、2004年12月にメドピア株式会社(旧、株式会社メディカル・オブリージュ)を設立。2007年8月に医師専用コミュニティサイト「MedPeer(旧、Next Doctors)」を開設し、現在10万人以上の医師(国内医師の3人に1人)が参加するプラットフォームへと成長させる。2014年に東証マザーズに上場。
「世界一受けたい授業」や「羽鳥慎一モーニングショー」など各種メディアに出演し、MedPeerに集まる現場医師の声を発信中。
現在も週一回の診療を継続する、現役医師兼経営者。
  • b.hatena
  • pocket