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​ベンチャー企業が陥りがちな「罠」とは?直近7年で約40社のクライアント企業がIPOを果たした弁護士が明かす、IPO準備のポイント

「ヘルステック業界で14年間ビジネスをしていますが、未だに『夜明け』は来ていないという実感を持ち続けています」ーーメドピア代表・石見陽の課題感から生まれた、ヘルスケア業界においてネットワークを構築できる場を提供し、チャレンジする人の背中を押すクローズドイベント「Healthcare Daybreak」。

本記事では、フォーサイト総合法律事務所で代表パートナー弁護士を務める大村健先生をお招きした「Healthcare Daybreak vol.9〜ベンチャー企業がIPOでおさえるべき法的課題~」の模様を、ダイジェストでお届けします。

フォーサイト総合法律事務所は、現在IT企業を中心に、IPOを果たした上場企業数十社と数十社のIPO準備をサポートしており、直近7年で約40社のクライアント企業がIPOを果たした実績を持ちます。数々のベンチャー企業等のIPOをサポートしてきた大村先生は、「IPO準備の大原則は、『やるべきことをしっかりとやり、余計なことはしない』こと」だと語ります。コーポレートから知的財産権まで、上場準備時期のベンチャー企業が陥りやすい罠を、余すことなくお話しいただきました。
 ■目次


IPO準備の鉄則は、「やるべきことをしっかりとやり、余計なことはしない」

2018年にIPOを果たした企業数は、2017年と同数の90社に着地した。東証審査が厳格化していると感じざるを得ないという点が、ここ数年の特徴。以前は、証券審査を通った企業のうち、東証審査で落ちるのは年に2,3社程度だったが、2016年、2017年と20社近くが通過できなかったと言われている。ここ数か月を見ると少なくとも20〜30%の会社が東証審査で落ちているようである。また、上場承認から上場までの間に、不祥事やコンプライアンス等に問題があることが発覚して承認取り消しになるケースも増え、2018年は2011年以降最多のスコアを記録した。

東証審査のなかでも、「人事労務」、「商標」、「経済法」の3点は、特に厳しく見られるポイントだという。

フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー弁護士 大村健先生
フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー弁護士 大村健先生

大村健先生(以下、大村):従前通り、人事労務は重要な論点です。たとえば残業代の未払いがあると、それだけで審査がストップしてしまいます。

また、商標も厳しく審査されるようになりました。基本的に会社名とサービス名は全て商標を取り、取れない場合でも、似た商標を持っている会社から訴えられて負けないかどうか、確認を求められることもあります。

そして、経済法。特に、誇大広告等を防ぐ「景品表示法」、一般的に立場が弱くなりがちな下請を保護する「下請法」に懸念点が見られ、審査を通過できない企業が多いです。

IPOを円滑に進めるための大原則は、「やるべきことをしっかりとやり、余計なことはしない」ことだ。東証審査は、減点方式。上場にかこつけて新たな施策を打っても、審査で加点されることはなく、むしろ論点が増えて、減点材料が増えてしまう。

大村:たとえばM&A戦略を取るにせよ、東証審査という観点から見ると、できれば上場の2期前からは避けたほうがいい。なぜなら、その企業がいくら厳密に上場準備を行なっていたとしても、買収した企業の労務管理等のコンプライアンスが甘いと、審査で問題とされてしまうからです。

上場準備中のベンチャー企業が陥りやすい「罠」

では、上場準備中のベンチャー企業が陥りやすい「罠」とはなにか。

まず、議事録作成。取締役会や株主総会における決議事項等に関しては、必ず議事録がチェックされる。ベンチャー企業では、設立当初は「議事録を全く作っていなかった」というケースがよくあるが、上場準備の観点からは、取締役会、株主総会、監査役会の議事録を漏れなく作成しておかなければならない。

資本政策も重要な論点だ。役職員や株主に反社会的勢力の関係者がいると、それだけで上場できなくなってしまう。さらに、従業員への株式割り当てや、資金調達で新たな株主を加える際も、細心の注意を払う必要がある。

大村:経営陣の内部分裂等に備えて、できるだけ社長が多くの株式を保有することをおすすめします。

IPOに向けて、取締役会、監査役会または監査等委員会等を設置する必要がある。特に配慮すべきポイントが、「常勤監査役の選び方」。審査時のインタビューに対応する必要があるので、事業内容への理解が深い人を選ばなければいけない。そして、意外と見過ごされがちな、以下のポイントも重要だという。

フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー弁護士 大村健先生

大村:まず、週5日勤務が原則です。「週3日行けばいい」といった言説を聞くこともありますが、それだと常勤と言えるか疑問が残ります。となると必然的に年配の方が就任されるケースが増えますが、健康面にも気を配って選定しましょう。実際、審査中に体調を崩され、審査がストップしてしまったケースもあるようです。

そして、経営陣への口出しが多いような、大企業経営者や社長経験者の方はあまりおすすめしません。経営陣と常勤監査役がそりが合わなくなるケースは多く、上場直後に「監査役を解任するにはどうしたらいいですか」という笑えない相談をされることもあります。

また、社外監査役の選定も大事なトピックだ。大村先生は、監査法人、内部監査とのミーティングの際に同じ目線で話せるようにするため、公認会計士を加えることを推奨している。逆に、顧問弁護士との社外監査役の兼務は避けるべきだという。経営者に対するアドバイザーと経営者を監査する立場は、潜在的にコンフリクト(利益相反)が生じるおそれがあるからだ。

不祥事が起きても、程度次第では上場可能。「適切な事後対応」の重要性

会社の機関の選定にもポイントがある。監査等委員会設置会社を利用するのは避けたほうがよいという。なぜなら、初めから会計監査人の設置が必要になり、会社法監査と金融商品取引法監査の両方を行わなければならなくなるからだ。すると、費用も重む上に、会社法監査のスケジュールが会社法で厳格に規定されているから、監査法人との間で何かしらの問題が発生した際、リカバリーが難しくなってしまう。

M&Aについては、先述のように原則としては上場前に行うことは推奨していない。しかし、もし敢行する場合は、上場企業で必要とされているバリュエーションレポートや、各種DD(デュー・ディリジェンス)報告書の取得など、適切な手続きを取ることが求められる。

関連当事者取引についても気を配る必要がある。「役員や主要株主と会社との間の取引は、関連当事者取引に当たるので、原則として解消すべき」だという。また、社長が別の会社の経営メンバーを兼務することは、100%子会社以外はNGと考えるのが穏当である。さらに、資産管理会社は、できるだけ早い時期に創設することを推奨している。

フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー弁護士 大村健先生

大村:資産管理会社に1/3以上の株を移せば、税制上のメリットが活かせます。移す時期が遅ければ遅いほど、株価とそれに伴う税金が上がってしまう可能性が高いので、できるだけ早い時期に実行しましょう。

そして、コンプライアンスに関して。まず、内部通報の外部窓口は設置すべきだという。いきなり内部告発をされてしまうとダメージが大きいためだ。また、インターネット上の書き込みもしっかりとチェックされるので、対策を怠ってはならない。しかし、いくら対策を練っても、意図せぬところから不祥事が起きてしまうことはある。その際は、「適切な事後対応が取れるか」が勝負を分ける。

大村:万が一不祥事が起きてしまっても、程度次第では、しっかりと原因究明をして、関係者の処分を行い、再発防止策を取れば、時期は延びたとしても審査に通過することは可能です。もちろん、問題が起こらずに上場までたどり着くのが理想ですが、諦めなければ、苦労は報われます。

「IPOがゴール」とならないために

ビジネスを推進していくうえで気をつけるべきポイントは、業種によってバラバラだ。ただ、必要な許認可は漏れなく取得しなければならない。たとえば、チャット機能を設けたWebサービスであれば電気通信事業の届出、ヘルスケア関連のビジネスであれば、薬機法上の医薬品制度販売上の許可や薬品製造販売業の許可が必要になる場合がある。

また、冒頭で述べたように、下請法や景品表示法への配慮も求められる。

フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー弁護士 大村健先生

大村:特にヘルスケア系の企業だと、健康食品を薬品であるかのように謳っている点が問題視されるなど、未承認医薬品の広告規制に引っ掛かるケースが多いです。こうした領域のビジネスを展開している場合、特に慎重になる必要があります。

今まで世の中になかったモデルのビジネスの場合は、ビジネスが法令に照らして問題ないかを確認するための法務DD(リーガル・デュー・ディリジェンス)も求められる。また、上場準備期は予実管理も厳密で、証券会社によっては5%の予算からの乖離も認められないケースもあるようなので、注意が必要だ。

そして、ファイナンスについて。上場によって受けられる1番の恩恵は、エクイティ・ファイナンスと言われていて、それはそうかもしれないが、それよりも、上場前にはデット・ファイナンスに関して、オーナー社長など第三者の連帯保証を外すことができる点(むしろ外さなければならない)と上場後にデッド・ファイナンスを行いやすくなるという点の方が重要だ。

ストックオプションは、全体の10%以下で、かつ、税制適格要件を満たした状態で発行することが多い。発行会社及び完全子会社の従業員だけにストックオプション発行する場合は、50人以上であっても金商法上の開示が不要だという点と逆に完全子会社でない場合には開示が必要となってしまう点も見過ごされがちだ。また、ストックオプションの行使による金銭的リターンだけをゴールに働く状況をつくり出さないための工夫も求められる。

大村:べスティングと言われていますが、1年に25%ずつ行使できる、段階を踏む形での行使権付与がおすすめです。また、オーナーの持株比率を維持するためには、有償ストックオプションの発行も有効です。

そして、ストックオプションには、長く働いているということだけで株価が低い時点での予約権が獲得できる「不平等さ」があります。そうした問題点を解消するため、発効以前の株価でストックオプションを発行できる「時価発行新株予約権信託」を行使する企業も増えているんです。

著作権は「アイデアを守る権利」ではない

知的財産権についての配慮も必要だ。冒頭部で触れた商標に加え、特許権についても考慮が求められる。発明に関して、特許戦略をとるか、コカコーラのように一部の人のみぞ知る「虎の巻」戦略をとるか、よく検討しなければならない。ちなみに、商標も特許も、創業前に個人事業主として取得していた場合は、すべて会社に譲渡する必要がある。さらに、著作権についても配慮が要る。

大村:誤解されがちですが、著作権は「アイデアを守る権利」ではなく、「創作的な表現を保護する権利」。引用時は主従関係も含めて出典を明示する必要がありますし、下請けが開発したシステムの場合、著作権は下請けに属するので、譲渡してもらわなければなりません。

そして、人事労務。関連規程の整備や、残業発生時は三六協定の締結と届出が必要になる。最も慎重になるべきトピックは、残業代について。「年俸制にしたら残業代は発生しない」というのは誤りで、就業規則で定められた時間を超えたら残業代は発生する上、残業代がつかない「管理監督者」の範囲もせいぜい執行役員・本部長クラス以上に限られる。

そして残業代未払い、解雇、セクハラ・パワハラなどによる労務紛争は、深刻化するケースが多く、裁判に発展すると東証審査はストップしてしまうケースがほとんどだ。東証審査の実質的基準である「経営活動や業績に重大な影響を与える係争又は紛争を抱えていないこと」に抵触してしまうからだ。

ここまで述べたように、上場にあたっては法律面で配慮しなければいけない点が多い。弁護士を活用する必要があるが、その選定にも配慮が必要だ。

フォーサイト総合法律事務所 代表パートナー弁護士 大村健先生

大村:紛争解決をメインで行う従来型や中小企業型弁護士ではなく、本日お話したようなチェックや整備をサポートしてくれるIPO準備対応の経験と実績が十分にある弁護士、そしてIPO後の金商法や東証規則への対応までサポートしてくれる弁護士に依頼すべきです。弁護士による経験と実績はさまざまなので、例えば、重大な病気に罹患した場合には何十例も手術の経験のある医師に依頼したいと考えるように、IPOに関する経験と実績を確認した上で、弁護士を選びましょう。

大村 健Takeshi Omura

フォーサイト総合法律事務所
代表パートナー弁護士

1974年埼玉県生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。在学中の1996年、司法試験合格。1999年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2011年、フォーサイト総合法律事務所を開設し、代表パートナー弁護士に就任(現任)。
『IPO(新規株式公開)を目指す経営』、『新株予約権・種類株式の実務【第2次改訂版】』、『図解入門ビジネス最新会社法の基本と仕組みがよ~くわかる本』ほか著書・論文多数。