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精子セルフチェックキット「Seem」で少子化問題に挑むリクルート・入澤諒氏(後編)

2017.06.13 8:10

PHOTOS BY
松平伊織
TEXT BY
長谷川リョー

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アプリ 不妊 少子化
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「妊活・不妊治療は女性だけの問題ではありません」と語るのはリクルートライフスタイルの入澤諒氏だ。同氏は昨年スマートフォンで手軽に精子の濃度や運動率をセルフチェックできる「Seem」を開発。前職では女性の生理日管理アプリのディレクションやプロモーションを行っていた入澤氏は、なぜリクルートに移り「Seem」を作ることにしたのか。「少子化」という日本が抱える社会課題に挑む入澤氏に開発秘話から今後の展望までを伺った。

前編はこちら:「スマホ一つで精子のセルフチェックができる「Seem」」

ショックを与えることでしか、人は動かない

ーー健康オタクではない人にどのようにリーチしようとしているのでしょうか?

入澤 本来ヘルステック全般でいえば、価値観を変えるような働きかけが必要です。「Seem」に関していえば、婦人科で知っていただいたり、あとは学会と協力をしながら広めています。前職より「人はショックを与えないと動かない」という実感がありました。たとえば両親や身近な人が病気になることで、はじめて人間ドックに行こうと思いますよね。妊活のはじめの段階で手軽に「Seem」を使っていただくことを目指していたため、アプリのデザインもとっつきやすいものにすることでハードルを下げることを心がけました。

テスト販売を行ったアンケートでは、「『Seem』を使った結果、病院に行った男性」が3割以上という結果に。これはすごい数字です。つまりハードルをできるだけ下げて一度でも使っていただき、必要があれば人は動くということが分かったのですまずは「手軽さ」をポイントに広めてきたいと思っています。もちろん「男性不妊」自体の認知が低いので、この部分に関しては企業、学会、自治体などと協力しながら啓発していきます。

ーーtoCからtoBへの展開も検討されていますか?

入澤 考えてはいます。ただ、まだそこまで企業や自治体側の意識が上がってきていないのが実情です。最近では不妊治療に補助金を出し始めているところも増えてはいますが、結局それは対症療法に近い。本来であればより早い段階で使って気づいてもらうことで、負担の少ない治療で子供ができるといった方向にシフトしていくべきだと思います。これは医療費削減にも言えることで、本来は若いうちから生活改善していくべきですよね。

「Seem」を通じて”男性が参加する妊活”を増やしていきたい

ーービジネスとしてのスケール化はどのような展望で考えているのでしょうか?

入澤 まずは国内で継続して使ってもらえるサービスにしていきたいと考えています。女性は基礎体温を測ったり、排卵日を調べたりします。男性も同じように精子の状態を把握しておくべきだと思っています。「Seem」には変化を追えるグラフ機能があるのですが、精子の状態はとても変動します。上がり下がりするため、一度調べればOKということではないんです。喫煙、飲酒、寝不足やストレスなど生活習慣の影響を受けると言われています。

妊活をしている間は、男性も自分の状態をモニタリングし、女性のタイミングに合わせた生活改善を行う「男性が参加する妊活」があり得るのではないか。「Seem」を通じて男性の文化を変えていきたいです。少子化や不妊の問題は日本に限らず、世界中で問題にありつつあります。今後は国外にも展開していこうと思っていますね。

ーー実際に使われた方の声で印象的だったものはありますか?

入澤 「『Seem』で男性不妊に気付いた」という方から報告をいただいたり、「『Seem』をきっかけに生活習慣に気を遣ったら妻が妊娠した」という方がわざわざカスタマーサポートにご報告をくださったりしました。こうした声を聞くとただ売れたというよりも、新しい生命に繋がったということにとても嬉しい気持ちになります。

ーー付き合っている彼女や奥さんから「Seem」を勧められて使われる方もいますか?

入澤 結構多いそうです。「病院に行って」とは言いづらくても、「Seem」のようなセルフチェックサービスだと手軽に頼めるというユーザーの方が実際にいらっしゃいました。本当は男性側にも原因があったのに女性が一人で1年間治療していた場合、1年という無駄な期間と何十万という費用がかかってしまいます。そのため喜んでくださる病院の先生方もいらっしゃいました。男性不妊の専門は泌尿器科ですが、病院に来てくれさえすれば、やることはいくつかあるんです。これまでなかなか来てくれなかったことに歯がゆい思いをされていたそうで、「Seem」をきっかけに受診してくれれば、男性不妊専門医としてもやることが増えると喜んでくださっています。

「子供を増やす」社会課題に今後も挑んでいく

ーー今後は病院との連携を積極的に行っていく予定ですか?

入澤 「Seem」は医療機器ではなくて、あくまでツール。病院に行かないと解決しない方にはきちんと病院で検査をしていただきたい。医師と相談しながら、どういう風にお伝えするのが一番いいのかということを検討しつつ、今後広げていきたいと考えています。

ーーそうしたことは事前に緻密に練られたのですか?

入澤 かなり気をつけました。医療機器ではないため、パンフレットなどでの表現も、関係各所に事前確認して「この表現であれば大丈夫」としっかりと見ていただきました。「Seem」は、こうした懸念点をクリアにさせておかないと事業としてローンチできないと思っていたんです。また、複数名の先生と意見交換をさせていただきました。先生方はどこに期待をしているのか。そこは常に意識して開発していましたね。

ーー入澤さん個人として「今後こういうことにチャレンジしていきたい」という構想はありますか?

入澤 「男性から主体的に取り組む」という新しい文化を作っていくことです。まずは男性にも文化を広めていきますが、当然女性がいないことには妊娠はできません。女性の側にも晩婚化などの別の問題があります。今後はそうした課題を解決できる事業も検討したいと考えていますが、やりたいことを一言でまとめるなら「子供を増やす」ということです。ただ、「Seem」も一つのツールにすぎません。男性女性の両方を巻き込んでいきながら、今後も事業作りを行っていきたいです。

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入澤 諒Ryo Irisawa

株式会社リクルートライフスタイル 
ネットビジネス本部 プロダクトデザインユニット ビジネス開発グループ

大学卒業後、モバイル向けのコンテンツプロバイダーに入社。
女性向けの健康管理サービスの企画・プロモーションのディレクションや遺伝子検査サービスの立ち上げを担当。
2014年11月にリクルートライフスタイルに入社し、新規事業開発部門に配属。
新規事業として『Seem(シーム)』を立ち上げ、現在はSeem事業全体の戦略策定からUXの検討、プロダクト開発までを担当する。