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キャップスクリニック総院長・白岡亮平氏が語る「エンタメ×医療」の可能性(後編)

2017.06.23 10:12

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長谷川リョー

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小児科
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小児医療を中心とした勤務医として大学病院で従事したのち、2012年に「キャップスこどもクリニック西葛西」を開院させた白岡亮平先生。その後、北葛西(2013年)、代官山、亀有(2014年)、紀尾井町(2016年)とクリニックを多拠点展開させてきた。なかでも「キャップスクリニック代官山T-SITE」は『セサミストリート』と手を組み、エンターテインメントを医療に取り入れる試みのモデルクリニックとしてスタート。2014年には医療だけではなく運動や食のあらゆる側面から健康を促進するため、教育とIT技術重点を置いた「メディカルフィットネスラボラトリー株式会社」を設立した。小児科医、産業医、そして起業家、あらゆる立場から医療業界の革新に挑む白岡先生に話を伺った。

※白岡先生は2017年7月15日(土)にメドピアが開催するイベント「予防医療×テクノロジーの”今”をつかみ”未来”をつくる(MedPeer Healthtech Academy chapter3 )」に登壇する。

前編はこちら:「親戚に医療従事者はいなかった。それでも医師になろうと思ったきっかけ」

医療にエンターテインメント性を取り入れた「セサミストリート・クリニック」とは?

ーー開業されるときから、医師以外の方とのネットワークはコンタクトを取られていたのですか?

白岡 もともと医学生時代から、医学生同士で交流するよりも、他の学部の人と一緒に遊んだり、医療だけではない他の人と情報交換することがすごく好きだったんです。そういったつながりから経営者の方、他のビジネスされている方とは元々交流がありました。2014年に「メディカルフィットネスラボラトリー」を一緒に立ち上げた鶴谷武親も、そうした交流の伝手で紹介してもらった一人です。

ーー「メディカルフィットネスラボラトリー」はなぜ立ち上げられたのですか?

白岡 医療法人は営利を目的にしてはいけないことをはじめ、色々な制限がつく部分があります。また、医療の現状をみていると、保健医療では成り立たなくなってきています。将来の健康形成を見据えたとき、個人が自分の健康にお金を払ってサービスを買う世界が来てもいいのではないかと思ったんです。そこで、医療法人ではできないことをやろうと思い、株式会社を立てることにしました。

ーーただ、どうしても日本においては、ハードルが高いですよね?

白岡 日本だけではなく、健康にお金を使うということは直近で困っていない限り、ニーズが発生し辛いんですね。私たちにとっても障壁となりました。そこで、改めて人は何にお金を払うのかを考え直したんです。楽しい、嬉しい、人の心が動くからそこにお金が発生する。「エンターテインメント性」を健康形成に入れ込んでいき、結果として健康になれればいい。今はそこを目指しています。

ーーエンターテインメント性を取り入れた取り組みというのは?

白岡 これはクリニックの方になりますが、「セサミストリート」と組ませていただき、エンターテインメントをヘルスケアのなかに入れ込んでいく取り組みを始めました。これはニューヨークのNPO法人「セサミ・ワークショップ」と一緒にやっている事業です。そもそも50年ほど前に、貧困層の子供の教育レベルをテレビを通じて上げていくために始まったのが『セサミストリート』ができた経緯。そんな『セサミストリート』のキャラクターをここのクリニックだけではなく、様々な場所で使ってもらえるような会員制プログラムを作りました。

ーー具体的にはどういったプログラムになっているのでしょうか?

白岡 月額制でクリニック側が患者さんに説明する資料や、院内の装飾内装に『セサミストリート』のキャラクターが使えるライセンスを付与します。もし先生方の方でカスタマイズが必要であれば、適宜カスタマイズしていただく。月ごとにこういったコンテンツを配信していくクリニック向けの事業になっています。


(初めてのセサミストリートクリニックとして、3月28日「キャップスクリニック代官山T-SITE」はオープン)

ーー実際にいらっしゃる方の反応はいかがですか?

白岡 医療を受ける子ども・親の心の準備をケアする、いわゆる「プレパレーション」の部分でキャラクターが一緒にお手伝いをしています。それによっていつもだったら泣いているお子さんがちょっと笑顔で入ってきたり、キャラクターをみて少し恐怖心がなくなったりという効果は表れていますね。

ーー子供が泣かなければ、その分お母さんも楽になりますね。

白岡 動画は家でも観れるようになるので、「今日はこういうことをやるんだよ」ということを予めキャラクターを通じて子供たちに伝えておくことができます。そうすると、ワクワクしながら来てくれたり、「エルモもやっていたから、自分も頑張ろう」と思ってくれるんです。こうした子供達の支援につながるのではないかと思っています。

ヤフーと取り組む健康経営支援事業

ーー「メディカルフィットネスラボラトリー」では具体的にどんな事業をされているのでしょうか?

白岡 事業にもいくつか軸があるのですが、メインでやっているのはデータヘルス事業です。企業の健康診断データやストレスチェックのサービスを提供しています。最終的にはそれらのデータを統合し、パーソナルヘルスレコード(PHR)サービスを展開しようと思っているんです。

あとは、企業の健康経営をサポートするような支援ですね。産業医業務と健康経営の施策を一緒に考えることで、それを実践するノウハウを伝えたり、ちょっとしたコンサル業務も部分的に行っています。加えて、六本木では「データフィットネス」というフィットネス事業を行っており、運動のコンテンツをそこで作っていたり、実際にそこでお客様に使っていただいたりもしています。


(六本木「データフィットネス」)

ーー企業の健康経営に向けた施策はどのようなものになっているんですか?

白岡 健康経営に関してはまだまだエビデンスが出ていない状況なんです。論文ベースでは効果が見えつつあるのですが、実際の施策に落とし込むまでのレベルに至っていません。そこで、医学的な観点も入れながら産業医の知見を生かし、アドバイスをしたり、実践の部分をお手伝いしています。単なるコンサルではなく、自分たちがそのなかに入り込んでいき、一緒にやっていくというのがサービスの特徴だと思います。

ーーヤフーさんとやられているんですよね?

白岡 はい、2016年9月に健康経営支援事業を行う合弁会社を設立しました。企業がクライアントですので、働く人のパフォーマンスも評価しなくてはいけません。たとえば有給消化率であるとか、遅刻・欠勤の数であるとか、あとは人事評価ですね。そういったものとの連動性や健康の指標との相関性を見つけるようなデータ解析のお手伝いをしています。

ーー産業医としての仕事は小児科医としての仕事とは異なる領域ですが、従業員の健康という視点で気付かれたことはありますか?

白岡 IT企業の社員の方は若い方が多いので、身体の不調はそれほど多くないのですが、メンタルの不調を訴える方は少なくありません。そこをなんとかケアしたいと思っています。ただ、心と身体はある程度繋がっているものです。運動習慣がなかったり、規則正しい生活が送れていないとメンタルにも影響を与えます。なので、どちらも良くしていくというアプローチが望ましい。すると、良いサイクルが生まれてきます。結局は、予防医学が重要になってくるのです。

ゲーム業界のノウハウが健康形成のヒントになる

ーー医師として起業された白岡先生にお聞きしたいのが、医療従事者以外からメディカル業界に参入してくる方々に期待することです。ビジネスサイドから医療分野に入ってくる方々にどんなことを期待されますか?

白岡 医療業界はやはり少しクローズドな世界のため、正直新しいイノベーションが起きづらくなっています。他の業界や分野にいる人たちは、「なんでこうなっているの?こうすればいいじゃん」といったアイデアをたくさん持っていると思うので、そうした新しい発想は積極的に提案していただけるのではないかと期待します。

ただ、そこはうまくやらないと難しいかもしれません。これまでこの業界を支えてきた功労者の方々もいらっしゃいますので、それを一切否定するのは良くないし、そこを尊重しながら新しいアイデアを浸透させていく必要があると思います。今までの事情や歴史を理解した上で、医療従事者にはない視点を持ち込んでいただくということですね。

ーー「メディカルフィットネスラボラトリー」は医療従事者以外の方の比率の方が多いですか?

白岡 私以外はほぼ医療従事者ではないです。ただし、医療のことを知ってもらうために医療機関の現場には出てもらっています。実際に患者さんと接している場面を体験してもらうことで、感覚が変わるからです。医療現場の肌感覚を持ってもらうことで、良い経験になりますし、新しいアイデアも湧きやすくなるのではないかと考えています。

ーー年齢が若い人ほど医療への関心は薄いと思われます。病気になる前に、医療について関心を持ったもらうような働きかけはどのようにできるでしょうか?

白岡 まさに人の行動変容を起こせるような施策が今の医療業界に求められていると思います。そのためには今まで医療がやってこなかった分野のノウハウが必ず必要になってくるでしょう。今日お話した『セサミストリート』を使った事業の事例はその一例です。若い人にも馴染みがあるであろうジムについて考えても、途中で行かなくなってしまう人が少なくありません。そうした離脱ポイントを考える上で参考になるのが、「ゲーム業界」のノウハウだと思っています。

ーーゲーム業界ですか?

白岡 ゲームの離脱ポイントが実は健康形成の離脱ポイントに似ているんです。仕事が忙しくなったり、困難なことにぶち当たるとジムに行かなくなってしまう。ゲームで考えると、倒せないボスや何度やってもクリアできない場面に出くわすと諦めてしまう。つまり、難易度設定がとても大事になるんです。他にもソーシャルゲームで言われる、「ギルド制」も参考になります。ギルドマスターが「お前すごいよ。一緒にやろう」と仲間を褒めたり、鼓舞することで続いていきます。こうした感覚は医療や健康形成にも生かせるはずです。

※白岡先生も登壇!7月15日開催「MedPeer Healthtech Academy chapter3」申込受付中


詳細・お申込みはこちら

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白岡 亮平Ryohei Shiraoka

医療法人社団ナイズ 理事長
キャップスクリニック 総院長

慶應義塾大学医学部卒業。さいたま市立病院、慶應義塾大学病院などに勤務し、小児医療を中心に地域医療に従事。2012年4月、365日年中無休のキャップスこどもクリニック西葛西を開院。同年7月に医療法人社団ナイズを設立。北葛西、代官山、亀有、紀尾井町にも開院し、医療法人社団ナイズ理事長、5つのクリニックの総院長を務める。2014年12月、メディカルフィットネスラボラトリー株式会社設立。