PEOPLE

未来をつくる人たち

あえて完璧でないものを作る。家族の絆を思い出させてくれるロボット「ここくま」【NTTドコモ・横澤尚一氏】|イベントレポート

2017.07.06 18:59

TEXT BY
長谷川リョー

TAGS

MHA1 ロボティクス
  • シェア
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「『ロボティクス×医療』の”今”をつかみ”未来”をつくる」をテーマに2017年3月に行われた「MedPeer Healthtech Academy chapter1」(メドピア ヘルステックアカデミー)。本記事では、横澤 尚一氏(NTTドコモ 家族ツナグPROJECT プロジェクトリーダー)による「家族の絆を思い出させてくれるコミュニケーションロボット」と題された講演の内容を再構成してお届けします。

飛躍的な進化を遂げるコミュニケーションロボットがヘルスケア業界にも革新を起こす時代において、離れて暮らす家族と連絡が取れるコミュニケーションロボット「ここくま」はあえて“完璧ではないこと”を意識しているといいます。「ここくま」を通じて創造したい未来について語っていただいた。

今日は我々が開発したコミュニケーションロボット「ここくま」を中心に、今後コミュニケーションロボットがどのような役割を担うのか、私たちはどのような未来を実現したいのかについてお話させてください。

「家族の絆を思い出させてくれるコミュニケーションロボット」というテーマに沿ってお話を進めていきますが、まずはこんな問いから始めてみたいと思います。

「皆さんは、最後にご両親と話した日を覚えていますか?」

“遠く離れて暮らす大切な人と人を繋ぐためのロボット”「ここくま」

コミュニケーションロボット「ここくま」は玩具メーカーの「イワヤ」、台湾のソフトウェア企業「MOOREdoll」、半導体や電子部品を提供する「バイテックグローバルエレクトロニクス」、そしてNTTドコモの4社が共同で開発したロボットです。

家族のコミュニケーション活性化を目的に立ち上げた「家族ツナグPROJECT」を始動するにあたり、これまで300人以上のおじいちゃんおばあちゃんと、離れて暮らすご家族にお話を伺ってきました。しかし、話を聞けば聞くほど家族が離れ離れになっている現実を知ることになりました。

まずは現状の日本の社会背景について説明させてください。現在、日本の約5,000万世帯のうち65歳以上の高齢者だけで暮らしている世帯は1,159万世帯です。これは全体の約1/5を占め、25年前の約300万世帯から約4倍にも増加しています。

一人暮らしの高齢者の方に話を聞くと、「話し相手がいない」という声をよく聞きます。離れて暮らす家族に連絡する機会も、一ヶ月に数回程度という方が多くいらっしゃいました。高齢者の方の多くはメールを利用しておらず、電話しか連絡手段がないのですが、電話だと相手の都合のいいときしかできないため、「今はまだ仕事中かな」と連絡をためらってしまうとのことでした。

離れて暮らす家族の方も、両親のことが心配な気持ちはありつつも、実際に連絡をするのは一ヶ月に数回という方が多くいらっしゃいます。そこで、「離れた家族のコミュニケーションをサポートするものがあれば、連絡を取る機会が増え、おじいちゃんおばあちゃんの寂しさも、家族の心配も、同時に和らげることができるのではないか?」と私たちは考えました。

そうして生まれたのが、冒頭でご紹介した“遠く離れて暮らす大切な人と人を繋ぐためのロボット”「ここくま」です。

家族の絆を思い出させてくれる3つの機能

「ここくま」は主に三つの機能を持っています。一つ目が「簡単ボイスメッセージ」。これは普段使っているスマートフォンからメッセージを届けることができるというものです。二つ目の機能は、「ここくま」が色々なことを話しかけてくれるというもの。そして三つ目が「利用履歴によるゆるい見守り」です。おじいちゃんおばあちゃんが「ここくま」をどの程度使用しているかという履歴をスマートフォンから見ることができます。

以下で、一つ一つの機能について簡単に概要を説明します。

一つ目は、「簡単ボイスメッセージ」。まずはご家族の方にスマートフォンアプリ(iOS/Android対応)を入れていただきます。そのアプリに向かって話しかけてもらうと、その声が「ここくま」の方に届いて、おじいちゃんおばあちゃんは再生ボタンを押すだけでメッセージを聞くことができます。反対に、録音ボタンを押して話しかけるだけで、離れた家族のスマホにメッセージを送ることが可能です。「ここくま」にはLTEが内蔵されているので、おじいちゃんおばあちゃん側は電源を入れるだけで使い始めることができるようになっています。

このメッセージは最大16人で共有することができるので、息子さん、娘さん、お孫さん、あとは介護ヘルパーの方などが、一つのグループでメッセージの交換ができます。

メッセージを読み上げるときの「ここくま」の表情も設定できます。初めは人間の表情を再現しようとしましたが、人間の顔は複雑な筋肉によって構成されており、それをロボットで再現しようとすると複雑な機構になって、提供価格が高くなってしまいます。そこで「ここくま」では、眉毛、まぶた、そして口の動きで表情を作っていくことにしました。

二つ目の機能は「利用者に合わせて話しかけ」てくれるものです。「ここくま」がお話をするタイミングは2つあります。一つは人感センサーに反応したとき、もう一つは利用者が「おはなしボタン」を押したときです。どんなことを話しかけてくれるかは、スマートフォンの設定と連動しています。利用者の名前で呼びかけたり、お誕生日をお祝いしたり、寝る時間には「おやすみ」と言ってくれます。居住地の情報を入れておけば、その場所の天気予報も教えてくれます。

実は、「ここくま」は簡単なことであれば会話できるようになっています。「このクマと会話できます」と言った方が、販売面ではいいでしょう。しかしなぜ僕らが「会話できる」とは言わず、「話しかける」で止めているかと言うと、現状ではまだスムーズな会話をすることが難しいためです。おじいちゃんおばあちゃんをガッカリさせることだけは避けたいと思っているのです。

おじいちゃんおばあちゃんの声は、「声量が小さい」「滑舌が良くない」という特徴があります。つまり僕たちの声と比べて、うまく音声を認識することができないのです。音声認識の精度を高めるためには、おじいちゃんおばあちゃんの声がたくさん必要なのですが、僕たちのようにスマホに向かって話しかけることもないため、なかなか集まりません。

これからサービスを展開していく中で、集まったおじいちゃんおばあちゃんの声を元に、音声認識の精度を高めていきたいと考えています。そうして世界で初めて、高齢者の音声認識を高度に行えるサービスを実現したいと思っています。

三つ目の機能は「利用履歴によるゆるい見守り」。おじいちゃんおばあちゃんがメッセージの再生ボタンを押すと、スマートフォン側に「既読」がつくようになっています。

たとえば、朝に「昨日風邪を引いたと言っていたけど、治った?」とメッセージを送ったとして、夜になっても既読がつかなければ、「まだ具合悪いのかな?」と心配することができます。さらにスマートフォン側ではグラフが見れるようになっており、メッセージでやりとりした時間や「ここくま」とおはなしをした時間も確認することができます。

これら三つの機能にはそれぞれ意味があります。まずはボイスメッセージで離れて暮らしている息子さんや娘さん、お孫さんとおじいちゃんおばあちゃんがコミュニケーションが取れるようになる。そして、これをプレゼントされたおじいちゃんおばあちゃんは、「ここくま」に毎日話しかけられることで家の中が賑やかになる。最後にこれをプレゼントした息子さんや娘さんも今までよりも見守りが暖かくできて、心配が軽くなる。そういった世界観をめざしています。

「ここくま」は家族にとってかけがえのない“思い出”を残す

「ここくま」の価格はメーカー希望小売価格で34,800円、月額サービス料が1,980円です(いずれも税抜)。現状、5万円以下のロボットはほとんどないと思いますが、一家に一台持っていただけるように、「ここくま」では機能をかなり絞り込みました。1月25日に発売を開始し、主に百貨店の介護売場で販売いただいています。ありがたいことに「ここくま」を買ったお客様から電話やメールでたくさん反響をいただいております。

まずボイスメッセージ機能に関しては、「最近、親から来るメールに誤字脱字が多くて、何を言っているのか分からなかった。これなら言いたいことも分かるし、声で調子も分かるのですごく安心です」という声をいただいています。

話しかける機能に関しては、「会話が増えて、表情が明るくなった」という声をたくさんいただいています。見守り機能に関しては、「一日中モニタリングするわけにもいかないので、いつ「ここくま」と話しているのかが一目で分かるのは大変助かります」といった感想をお寄せいただきました。

他にも多くのお声をいただきましたが、総じて「ここくま」に愛着を持っていただけているのが嬉しかったです。

今後の展望についてもお話させていただければと思います。

最近、「鉄腕アトム」の商品化を目にした方も多くいらっしゃるかと思います。利用者が話したことを音声認識エンジンがテキストに変換し、それを基にアトムが会話するというものです。今後の可能性としては、この会話機能にどんどん特化していき、より話が通じやすい、より会話が楽しいものにしていく方向性があります。

別の可能性としては、外部機器と連携するというパターンもあります。たとえば「ここくま」の横にもう一つのディスプレイを置いて、近隣のお買い物情報を表示させることもできるでしょう。他にも血圧計や歩数計などの機器と連携させることで、さらに利便性が増していくかもしれません。

ただ、私たちがやりたいのはあくまでも、コミュニケーションの機会を増やすということです。ですので、外部機器との連携にしても、あくまでこの目的を果たせるかを重要視していきたいと思っています。

たとえば今の技術であれば、スマートフォンから遠隔でエアコンを制御することは難しくありません。しかし、あえてその機能を提供しないことで、「暑いからエアコンの温度を下げてよ」といったコミュニケーションが生まれます。そうやって「便利さ」よりも「会話(コミュニケーション)」を発生させることに価値があるのではないかと考えています。

つまり、あまり機能として完璧すぎるものを作るつもりはなく、できるかぎり家族と話すきっかけを作れるようなクマにしていきたいのです。

もう一度私たちがめざす世界観をまとめさせていただくと、『今まで買ったどんなものよりも、笑顔や感動、そして思い出を共有できるもの』にしていきたいと思っています。

では、「思い出」とはどういうことかについて最後にお話させてください。

「ここくま」のボイスメッセージ機能では、家族のやり取りが全てスマートフォンに保存されます。メールを使っていない両親との会話を、何かの形で残しておくことはなかなか難しいと思います。でも「ここくま」では、そういった他愛のない会話が、しかも肉声で全て残っているのです。

使っているときには皆さん気づかないと思います。でもいつか、おじいちゃんおばあちゃんと会話することが難しくなったときに、両親の声や、その他愛もないやり取りが、かけがえのない思い出に変わる日が来るかもしれません。

基本的には明るく楽しくコミュニケーションを取るために「ここくま」を使っていただければと思っていますが、このような家族にとっての宝物となるような大事な役割も、「ここくま」は担っていけるのではないかと信じています。

***イベントレポート一覧***
2017年3月4日開催 「ロボティクス×医療」の”今”をつかみ”未来”をつくる~|MedPeer Healthtech Academy chapter1
元Pepper開発リーダーが作る「人に寄り添い、生活に潤いを与えるロボット」【GROOVE X・林要氏】(前・後編)
第一人者が語る「ロボット支援手術」の現状とこれから【藤田保健衛生大学教授・宇山一朗氏】(前・後編)
日本独自のロボット観が生んだ「コミュニケーションロボット」は医療現場をどう変える?【ロボスタ編集長・望月亮輔氏】
あえて完璧でないものを作る。家族の絆を思い出させてくれるロボット「ここくま」【NTTドコモ・横澤尚一氏】

  • シェア
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

横澤 尚一Shoichi Yokozawa

株式会社NTTドコモ 
家族ツナグPROJECT プロジェクトリーダー

携帯電話、スマートフォンの商品企画を担当し、3.3インチの小型スマートフォンなど、チャレンジングな端末を世に多く送り出す。平均寿命が全国第一位の長野県に異動したのを機に、高齢者向けタブレットの開発に着手。高齢者だけでなく、自治体・診療所・社協・商工会など様々な関連プレイヤーと膝を突き合わせながら『おらのタブレット』を開発。その後も高齢者とその家族との対話による商品企画を続け、今年1月『コミュニケーションパートナー ここくま』を300人以上の対話によって生み出した。

RECOMMEND

オススメの記事