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【第2回】米国「遠隔診療」の今から日本は何を学ぶか

2017.08.23 9:00

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淺野 正太郎

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Health 2.0 海外 遠隔医療
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2017年12月5-6日に開催予定の「Health 2.0 Asia – Japan 2017」。日本開催第3回目となる今年は「Platform Arises」と題して国内外の先進事例を多数取り上げます。本連載は、当日の参加者ならびにヘルステックに関心を寄せる方々に向けて、「米国市場から学ぶヘルステックの“今”と“未来”」と題した連載を毎週お届けします。

2週目となる今回は、日本で昨今ヘルステックの代名詞のように取り上げられている「遠隔診療」についてお伝えします。

≫初回記事はこちら

米国でも期待の高い遠隔診療

もともとヘルステックへの期待は、トレードオフ(あちらが立てばこちらが立たずの関係)と従来から言われていた、医療の「高クオリティ」「高アクセス」「低コスト」の3つをテクノロジーによって同時に実現することができるのではないか、という発想に端を発します。その意味では、米国は医療の「アクセス」「コスト」が壊滅的な状況にある中で、ITによって時間と距離の制約を解消する遠隔診療への期待は当然の流れと言えます。

また、米国では医療機関や医療者も資本主義の競争原理の中にあり、多くの場合が自らマーケティングをして患者を獲得せねばなりません。こうした状況からしても、遠隔診療は病院や医師の認知を高め、空いた時間を埋めて稼働率を高める格好のツールとして期待を集めていました。

米国では早くも遠隔診療サービスの総括が始まっており、疾病ごとの評価やコストの観点から賛否両論が展開されています。今月ウィスコンシン大学の研究結果で、遠隔診療サービスは外来患者数の増加に寄与はしたが、医療者が逆に忙しくなり結果的に初診数が減ってしまっているという発表がありました。まだ新しいツールとしての過渡期であり、米国でも遠隔診療サービスが市場の期待に応えきれているわけではないという実情が伺えます。

ピークアウトしつつある遠隔診療への投資


(出典:https://www.cbinsights.com/research/telemedicine-startup-funding/

CBInsights社の上記調査によると、グローバルでの遠隔診療スタートアップへの投資額・投資件数が共に2017年に入ってから低下しています。

2017年4月時点のトレンドでは、2017年は158M USDでの着地が予想され2016年の362M USDから大幅に減り、件数ベースでも65件の着地予想で昨年71件よりも少ない数字となりそうです。国別の内訳までは公開されていませんが、米国市場の占める割合が最も高いと思われ、米国では2015-2016年をピークに今後減少していくと思われます。

しかしながら注目したいのは、遠隔診療への投資が数年にわたって投資額・件数ともに資金を集め続けてきたことです。既に業界には共に2015年に上場に至ったTeladocとTelehealthcareというリーディングプレイヤーが存在するにもかかわらず、毎年多くの遠隔診療スタートアップが生まれ、資金調達に成功してきました。

2017年6月23日付のBecker’s Hospital Reviewの記事で、米国では遠隔診療を提供する企業は220社以上との報告があります。かなりのレッドオーシャンの様相を呈しているとも言えますが、各社とも少しずつビジネスモデルやプロダクトへ異なる工夫を凝らしており、新たに生まれた「ITを活用した遠隔での診療行為」というフロンティアにおいて、現在進行形で様々な試行錯誤が展開されています。上記の記事に取り上げられている顔ぶれは現時点で最も網羅性の高いプレイヤーリストです。

日本の遠隔診療に在り方について

日本でも昨今、規制の考え方が変わってきていることで注目を集めていますが、この辺りはこちらの加藤先生のブログに詳しい言及がありますので、ご興味ある方はご参照下さい。

私見ですが、日本の医療における「アクセス」「コスト」はともに既に高い水準にあるため、他国で実現されているほどのインパクトはないと見ています。日本では当たり前の「全国どこの医療機関でも、同じ価格で、いつでも立ち寄りたいときに受けられる」という医療体制を実現できている国は希少です。

日本の遠隔診療サービスは、まず利用シーンを区切って一定のニーズを捕まえていくことになると思います。例えば、糖尿病のように定期的な診察/処方が必要で治療の継続率が課題となるケース、介入頻度が高い方が良い効果が見込まれる禁煙外来、英語ではunmentionablesと呼ばれるような性病などの口外しにくい疾患などのケースが想定されます。

繰り返しになりますが、米国で存在感の高いDr.OnDemandやAmericanWellのような「アクセス」「コスト」の提供に注力したモデルは日本では成立しにくいでしょう。米国の遠隔診療プレイヤーを参考にするならば、医療提供者側のリソース配分に寄与するようなモデルにこそ注目したいと思います。

まだ日本にない遠隔診療サービスの一例

まず、HealthTapというシリコンバレー発のスタートアップをご紹介します。

同社は、もともとユーザーが自らの健康問題や疾病について医師にアドバイスをもらえるQ&Aサービスとしてスタートしました。現在はQ&Aサービスから進化した遠隔診療サービスとして注目を集めています。

仕組みとしては、まずユーザーがオンラインで質問をすると医師が24時間以内に回答します。その回答は「ユーザーからの満足度レーティング」「他の医師からの評価(peer review)」によってランク付けされライブラリに格納されます。

そしてまた別のユーザーが似た質問をした場合に「あなたの知りたい質問の回答はこれでは?」と表示され、それでも解決しない場合は新規に医師が回答を試み、それでも解消しない場合は医師とのテキストチャット(日本でいうLINEのような機能)を選択できます。まだそれでも解消しない場合はビデオチャット、専門医への紹介、救急への連絡、という構造になっています。


(出典:https://www.healthtap.com/what_we_make/overview

医療者に優先度の高い医療行為に専念してもらうことを企図し、また医療コストを意識した構造を取っているサービスとして日本でも試してみる価値のあるモデルではないでしょうか。

ITサービスの観点からも、Q&Aサービスのレーティングの蓄積は人工知能の学習データとしても期待できます。同社は既にDr.AI というサービスも提供開始しています。今後も注目していきたい遠隔診療サービスです。

次に、Call9というニューヨーク拠点のスタートアップのご紹介です。

同社が提供するのは、ITを活用した介護施設向けの救急医療です。具体的には、skilled nursing facility (SNF: 高度看護施設)と呼ばれる、日本でいう所の介護老人保健施設〜介護療養型医療施設にあたる施設に展開しています。

施設内の高齢者に何らかの健康上のイベントが発生した際に、現地の看護師がベッドサイドのタブレットで同社の遠隔診療アプリを起動し、遠隔地に待機している救急医と連携をとって迅速に対応することを可能としています。心電計、心電図、エコーなどの機器との連携もしているようです。医療者to医療者の遠隔医療ツールと言うべきかもしれません。

従来の911(日本での119)に変わるサービスとして開発され、SNF施設からの救急車出動を50%削減したという成果が同社ホームページで紹介されています。主な収益源はSNFからサブスクリプション型の利用料をとるB2B2C型の遠隔診療サービスです。

ベッドサイドの看護師と遠隔地の医師が連携をとる遠隔診療であるため、医療の質にどの程度の影響が出るか慎重な検討は必要ですが、日本においても医療者の限られたリソースを鑑みれば検討の価値のあるサービス形態ではないでしょうか。

次回は、遠隔診療とも近しいメンタルヘルス領域に関わる米国トレンドとスタートアップについて取り上げます。

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淺野 正太郎Shotaro Asano

Health 2.0 Asia - Japan 2017 マネージャー
日本医療機器開発機構 事業開発ディレクター

一橋大学法学部卒業。リクルートホールディングスにて国内の営業/企画職を経て2012年より海外投資部門に従事。Recruit Strategic PartnerのUS拠点立ち上げ、及びNoom・Fitmob・eWeLL・メドケアといったヘルステックベンチャー投資を担当。現在は日本医療機器開発機構にて医療機器/ヘルステック事業開発に携わる。