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【第3回】“メンタル疾患大国”米国でのメンタルヘルス・スタートアップの今

2017.08.30 16:00

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淺野 正太郎

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Health 2.0 メンタルヘルス 海外
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2017年12月5-6日に開催予定の「Health 2.0 Asia – Japan 2017」。日本開催第3回目となる今年は「Platform Arises」と題して国内外の先進事例を多数取り上げます。本連載は、当日の参加者ならびにヘルステックに関心を寄せる方々に向けて、「米国市場から学ぶヘルステックの“今”と“未来”」と題した連載を毎週お届けします。

昨今、日本のメディアで「メンタルヘルス」の話題を目にすることが増えました。「働き方改革」や「健康経営®」と合わせて注目度の高いキーワードと言えそうです。そこで今回は、米国におけるメンタルヘルス領域のヘルステック動向についてお伝えします。

メンタル疾患大国の米国

米国では、年間で成人の5人に1人が精神上の何かしらの疾患を患っていると言われています。また25人に1人、約1,000万人近くの国民が深刻な精神疾患を抱えており、メンタル疾患大国です。


(出典:https://www.nami.org/NAMI/media/NAMI-Media/Infographics/GeneralMHFacts.pdf

この理由についてはより相応しい専門家の方にお任せしたいところですが、端的には、貧困者や退役軍人、薬物依存者など、精神疾患を負いやすい人口が日本よりも多いという社会的背景や、一定の収入がある就業者であっても「解雇」が日常的に発生しているという職場環境の不安定さや競争からくるストレスが影響しているものと思われます。

患者が多いため、精神疾患に対応する医療者も多いのが米国です。ざっと米国労働局の数字を拾うだけでも35万人弱の専門医療者が存在します。
精神科医 24,820人
心理学者 173,900人
その他 139,820人

メンタルヘルス市場は投資家の期待を集めつつ勝ちパターンを模索中


(出典:https://www.cbinsights.com/research/funding-mental-health-startups/

CBInsights社の上記調査によると、グローバルでのメンタルヘルス関連スタートアップへの投資額は、2017年に入ってから初めて低下に転じました。しかしながら、投資件数では今年も過去最高を更新し、32件での着地が見込まれています。まだアーリーステージの資金調達が中心のセクターであり、レイターでの調達額の大きなディールが少ないことが伺えます。投資家の期待は集まっているものの、まだ勝ちパターンが確立していない領域です。

ちなみに本チャートの「メンタルヘルス」の定義は、「感情的、心理的、社会的なWell-being(健康状態)の問題にテクノロジーを適用している企業で、例えば、うつ病、不安障害、摂食障害、PTSD、薬物乱用などを含む」とあり、広い範囲を指しています。

メンタルヘルスと一言で括ってしまいがちですが、この領域は多様な症状の集合体でもあり、オンラインビジネスでのスケール展開は実は難しい領域であることもレイター案件が少ない理由ではないかと思います。

この領域で私が注目している企業は以下です。

(Cognoa, Lantern, Talk Space, Ginger io, Kip , Pear Therapeutics, Akili Interactive Labs, Meru Health, Big Health, Headspace, Lyra Health, Silver Cloud Health, Spring, Workit Health, Simple Habit, Sync Project, Shine, somatix, regroup Therapy)

この中から「Lantern」、「Pear Therapeutics」の2社をご紹介します。

注目の米国メンタルヘルス関連スタートアップ2社

Lantern」は認知行動療法をアプリ化したオンラインサービスの代表格です。

「Improve your emotional health」をテーマとしており、重篤な精神疾患ではなく、その手前のストレスマネジメントや不安感との付き合い方を学べるサービスです。日々のエクササイズをこなしていくだけではなく、有資格者から構成される専属コーチからのフィードバックやチャット機能もあります。

同社によれば、対面よりもインターネットによる介入のほうが不安障害とストレス効果については良い治療効果が見込めるとのこと。スタンフォード大学、ペンシルベニア州立大学、ワシントン大学などの研究者と共同研究をして進めており、予防効果には信憑性がありそうです。

課金形態は月額利用料$49のサブスクリプションです。法人利用もありますが金額は公開されていません。日本でも流行りの「レジリエンス」を高める効果も見込まれるので、日本での健康経営®に向けたサービスの一つの形としても面白い形態だと思います。ユーザーの対象範囲が広くとれるため、遠隔医療サービスのように大企業や保険会社との提携が進みやすい可能性もあります。

一方で、同社に限らず認知行動療法を用いたアプリには、一部の軽い症状ですら有効性が立証しにくいという課題も残っています。治療効果を科学的なエビデンスをもとに説明すること、特にプラセボ効果との切り分けはまだ難しい領域ではないかと思います。それが一つの理由かと思いますが、認知行動療法を用いたアプリで「医療機器アプリとしての認可」を得た事例はまだありません。

ここで、医療機器アプリについて少しご説明します。米国では医薬品や医療機器の認可をFDAという行政機関が担っています。ソフトウェアやアプリも、このFDAの証可・承認を得ると医薬品や医療機器と同様に治療効果が公に認められたことになり、その実例も糖尿病領域のWelldocをはじめとして複数存在します。

当然、アプリでも保険償還の対象になります。このハードルを超えるのは非常に大変なので、逆に参入障壁となり、医薬品・医療機器のようなビジネス機会を獲得することが可能です。米国では医師が「アプリを処方する」というシーンが始まっており、メンタルヘルス領域での挑戦もいくつも登場しています。

次の「Pear Therapeutics」は、メンタルヘルス領域における医療機器アプリの急先鋒として注目しています。

同社のアプローチは、精神疾患の領域で1疾病に対して1プロダクトを作ります。必ずしも疾病人口の多いものからではなく、科学的エビデンスを示しやすいものから取り組んでいる印象です。

彼らが先行して取り組んでいるのは、薬物乱用・依存やオピオイド系鎮痛剤の中毒者の行動変容サポートのサービスです。日本人には少し馴染みのない領域ですが、昨年のWIREDの記事を参照いただくとイメージが湧きやすいと思います。

また、Combat-PTSDと呼ばれる主に軍人向けの心的外傷後ストレス障害の症状に対するプロダクトでは、VRを組み合わせて症状緩和にアプローチするという実証実験に取り組んでいます。「VRアプリが処方される」未来もそう遠くはありません。


同社WEBサイトより)

同社は、自社プロダクトの開発進捗を公開しており、それぞれプロトタイピング、実証実験、医療機器申請・保険償還のどの段階かを示しています。


(出典:https://peartherapeutics.com/pipeline/

米国のメンタルヘルス領域は、医療専門家とユーザーを繋げるマーケットプレイスや遠隔診療サービスからスタートしましたが、今や治療効果を出せるかどうかの競争になってきています。

次回は、今回少し触れた医療機器アプリに関わる米国トレンドとスタートアップについて取り上げます。

***本連載の過去記事***

【新連載】米国市場に学ぶヘルステックの“今”と“未来”
【第2回】米国「遠隔診療」の今から日本は何を学ぶか

***イベント告知***


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淺野 正太郎Shotaro Asano

Health 2.0 Asia - Japan 2017 マネージャー
日本医療機器開発機構 事業開発ディレクター

一橋大学法学部卒業。リクルートホールディングスにて国内の営業/企画職を経て2012年より海外投資部門に従事。Recruit Strategic PartnerのUS拠点立ち上げ、及びNoom・Fitmob・eWeLL・メドケアといったヘルステックベンチャー投資を担当。現在は日本医療機器開発機構にて医療機器/ヘルステック事業開発に携わる。