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【第4回】米国で増加する「治療アプリ」

2017.09.06 17:10

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淺野 正太郎

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Health 2.0 治療アプリ 海外
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2017年12月5-6日に開催予定の「Health 2.0 Asia – Japan 2017」。日本開催第3回目となる今年は「Platform Arises」と題して国内外の先進事例を多数取り上げます。本連載は、当日の参加者ならびにヘルステックに関心を寄せる方々に向けて、「米国市場から学ぶヘルステックの“今”と“未来”」と題した連載を毎週お届けします。

前回、メンタルヘルス領域のヘルステックについて取り上げた際に、医療者と接点が持てるサービスや認知行動療法を体感できるサービスの先に、ソフトウェア単体で「治療効果」を提供することを企図したサービスが登場していることをお伝えしました。

日本でも先月CureApp社による「禁煙」領域での治験が10月から開始予定と話題になりました。スタートアップが治験に挑戦するという事象に関心が集まっています。

今回は、治療/治療補助アプリを理解する上で避けては通れない、医療機器の概要と米国での状況についてお伝えします。

医療機器は行政機関によって管理・監督されている市場

まずは医療機器について簡単にご説明します。医療機器は英語で言うところのMedical DeviceもしくはMedical Equipmentにあたり、主に治療機器と診断機器の二種類に分かれます。

治療機器は例えば、心臓のペースメーカーや縫合糸、コンタクトレンズなど患者の症状を改善するために使用される機器・用具をさします。診断機器はMRIや超音波画像診断装置(エコー)など、医療者が患者の症状を正しく診断するために使用する機器・用具をさします。より詳しい定義や市場動向についてはこちらのブログ「簡易版:医療機器産業の全体像(国内外の医療機器産業の動向)」にまとまっています。

これらの医療機器は行政による管理・監督がされており「不具合が起きた場合の人体へのリスク」のレベルによって分類されています。日本の場合は「独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency、以下PMDA)」がその承認・認証を行っており、米国では「食品医薬品局(Food and Drug Administration、以下FDA)がその業務を担っています。

日本の場合はクラスIからクラスIVに分かれています。また保険償還の対象の前提として医療機器の承認・認証は必須です。


(出典:https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/about-reviews/devices/0013.html

米国の場合はクラスIからクラスⅢに別れており、基本的な考え方は同じです。

米国では7年前に医療機器アプリ第一号が登場

米国では2010年に早くも、Welldoc社の「BlueStar」という糖尿病患者向けの治療補助アプリが医療機器としてFDAからクラスⅡの承認取得を得て、大手民間保険会社に保険償還の対象として承認されました。これは一定のクラスタに対して糖尿病治療の改善効果が治験を通じて証明されたという快挙でした。

一部の医療機関に限られた話ではありますが、医療機器に付属するアプリではない、「単体のモバイルアプリ」の医師による処方はこうして7年前に実現されています。


(出典:https://www.welldoc.com/product/bluestar)

治療/治療補助アプリには従来医療よりも低コストで同等の治療効果が見込めるという期待感から、FDAは2013年に「Mobile Medical Applications(MMA)」というガイダンスを公開し、「医療機器に該当しないアプリ」、「医療機器に該当するかもしれないが低リスクなので規制の有無がFDA判断となるアプリ」、「医療機器に該当するアプリ」、の明確な線引きを行いました。

ここから治療/治療補助アプリへのピボットを含めて、数々のスタートアップが同領域に挑戦するきっかけとなりました。さらにそのスキームは2016年10月にアップデートされ、「Software as Medical Device(以下SaMD)」という名前で臨床評価のガイドライン草案を公開するに至っています。


(出典:https://www.fda.gov/downloads/MedicalDevices/DeviceRegulationandGuidance/GuidanceDocuments/UCM524904.pdf

このあたりの動向は笹原英司氏の連載に詳しく記載されていますので参照ください。ちなみに、日本でも2014年の薬事法改正(現、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 ※通称:薬機法)により、単体のソフトウェアが医療機器として同法の対象となっています。

増加する治療/治療補助アプリ領域への投資

米国では、2017年に入ってからSaMDを含む治療/治療補助アプリ効果を企図するプレイヤーへの投資が増加しています。これらは米国ではDigital Therapeutics もしくはDigital Therapyと総称され、RockHealthのレポートでも図の右下に「2017年上半期のトップカテゴリー」として取り上げられています。


(出典:https://rockhealth.com/reports/2017-midyear-funding-review-a-record-breaking-first-half/

概念としては主に、「医療機器とのデータ連携・管理を簡便にするC向けアプリ」、「SaMDの治療/治療補助アプリ」、「SaMD対象外だが予防効果を認められて保険償還されているアプリ」、「SaMDを企図して実証実験中のアプリ」、のすべてを含んでいます。バズワードになりかけているため、Digital Therapeuticsを標榜するプレイヤーすべてに治療効果が保証されているとは限らない点に注意が必要です。

なお、現在のDigital Therapeuticsは「患者の行動変容」を生み出すことで治療効果を狙っているものが多数といってよいでしょう。上述のWelldocや前回ご紹介したPear Therapeuticsもその一例です。
企業例はWikipediaのList of digital therapeutics companiesにまとまっているものがあるので、そちらが参考になります。

治療/治療補助アプリにスタートアップが挑戦する意味

治療/治療補助アプリが真っ当にサービス提供を行うには、医療機器としての承認・認証は必須だと思います。健康増進よりも踏み込んで患者に介入する場合は、すべからく科学的根拠(エビデンス)に基づく治療効果を説明できなければ、課金はもちろんのことプロダクトリリースすらも危険です。

当然といえば当然なのですが、ベータ版をいち早く世に出して素早く修正していくWebサービス的な事業立ち上げとは根本的に真逆の思想が求められるのが「治療/治療補助アプリ」の領域と言えます。

医療機器業界が長年培ってきた安全性を担保するスキームは、アプリ開発にも当てはまって然るべきですが、このことは他業界のWebサービス立ち上げ以上に多くのハードルが存在することを意味します。この点についてはこちらのブログ「【保存版】医療機器の開発プロセス・事業計画とその全体像」)にまとまっていますので参照ください。

治療効果を示すための治験プロトコールのデザインや販売承認取得などの薬事戦略・保険償還戦略は、その領域だけで専門コンサルタントが多数存在します。地道な申請対応や専門性が求められることは言うまでもありません。
また、これらにかかる時間・資金の不確実性も織り込んで緻密に資本政策を設計せねばなりません。さらに薬事承認の先には一定の参入障壁が出来上がることになるものの、それでも一定の処方量を担保するためには継続的なマーケティングも必要になってきます。

治療/治療補助アプリは、まさにこれらハードルをすべて越えていこうという非常に骨太なチャレンジです。これができる経営チームはごく少数に限られます。大手企業が慎重にならざるを得ない領域での野心的な取り組みとして、大いに期待したいと思います。

次回は、米国でヘルステックが盛り上がった背景にある規制や社会動向について取り上げます。

***本連載の過去記事***

【新連載】米国市場に学ぶヘルステックの“今”と“未来”
【第2回】米国「遠隔診療」の今から日本は何を学ぶか
【第3回】“メンタル疾患大国”米国でのメンタルヘルス・スタートアップの今

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淺野 正太郎Shotaro Asano

Health 2.0 Asia - Japan 2017 マネージャー
日本医療機器開発機構 事業開発ディレクター

一橋大学法学部卒業。リクルートホールディングスにて国内の営業/企画職を経て2012年より海外投資部門に従事。Recruit Strategic PartnerのUS拠点立ち上げ、及びNoom・Fitmob・eWeLL・メドケアといったヘルステックベンチャー投資を担当。現在は日本医療機器開発機構にて医療機器/ヘルステック事業開発に携わる。