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【第7回】ヘルスケアとブロックチェーンの最前線(後編)

2017.09.29 10:30

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淺野 正太郎

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Health 2.0 ブロックチェーン 海外
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2017年12月5-6日に開催予定の「Health 2.0 Asia – Japan 2017」。日本開催第3回目となる今年は「Platform Arises」と題して国内外の先進事例を多数取り上げます。本連載は、当日の参加者ならびにヘルステックに関心を寄せる方々に向けて、「米国市場から学ぶヘルステックの“今”と“未来”」と題した連載を毎週お届けします(連載一覧はこちら)。

昨今、経済ニュースでビットコインが取り上げられる機会が増えてきました。米国ではビットコインに使われているブロックチェーンという技術が多様な業界に転用可能ではないかと注目を集めています。ヘルスケア領域でもブロックチェーンを活用した様々な取り組みが登場しています。

今回は前回に引き続き「ヘルスケア×ブロックチェーン」の最新動向について、この分野でのフロントランナーと言えるスタートアップ2社の個別事例にフォーカスしてお伝えします。

もっとも期待されている「個人の医療データ保護と相互運用性」の領域


(出典:Blockchain Technology in Global Healthcare, 2017-2025(Frost & Sullivan)

前回ご紹介しているマップの右上部分に、現在ブロックチェーン導入の挑戦がされている以下の3領域が、スタートアップ名とともに紹介されています。

1.健康データの連携とID管理(Health Data Exchange and Identity Management)
2.医薬品サプライチェーン、スマート資産管理、IoMT*(Drug Supply Chain, Smart Asset Management, and IoMT) 
3.保険請求および支払いサイト管理、決済サービス(Insurance Revenue Cycle Management and Payment Service)

*IoMT:Internet of “Medical” Thingsの略称

中でも最もスタートアップ件数が多いのは「1」です。これは換言すると「個人の医療データ保護と相互運用性」ということですが、具体的に実現しようとされている内容を「PokitDok」というスタートアップの例を通じてお伝えします。

WEBサイトからヘルスケアAPIプラットフォームへと進化を遂げたPokitDok

PokitDok」はヘルスケアAPIプラットフォームを提供する米国のスタートアップで、昨年の「Health 2.0 Asia – Japan 2016」でも登壇しましたが(参考記事はこちら)、2011年に「医療の比較サイト」として創業されました。

米国で100万件を超える医療ヘルスケア関連サービスを一般ユーザーが比較・閲覧できるWEBサービスとしてスタートした後、医療費の価格比較にフォーカスし、現在は主にヘルステック事業者や病院・保険会社のIT部門向けのAPIプラットフォームに進化しています。


https://pokitdok.com/

彼らが解決している課題は、バラバラに管理されている医療・健康・保険に関する個人情報の連携・相互運用性です。また、ヘルステック事業者向けに医療ヘルスケア・アプリの開発時間を短縮できるソフトウェア開発環境の提供も行っています。

例えば、日本には存在しない問題ですが、米国にはEligibilityというものがあります。「この患者が加入している保険で、この医師にかかることができるか」という適格性をリアルタイムに確認するには、従来では医療事務員が保険会社に電話をし、FAXもしくはWEB上で確認するという作業を行う必要がありました。

同社は、リアルタイムにデータにアクセスして認証を自動化することによって、この膨大な手間(=人件費)を削減しています。日本でも、保険証番号の誤記入による保険請求の返戻は存在しますので、この点で同サービスの思想は適用可能でしょう。

ヘルスケア産業に最適化されたブロックチェーン技術

「PokitDok」はこの他にも、医師が処方箋を出す際に、即時に患者の保険を調べて医薬品の値段を確認し、患者に価格説明してから出せるようにする機能も提供しています。

筆者も在米中にこの機能の必要性を経験しています。2014年に遠隔診療プレイヤーの大手であるDr.OnDemandで皮膚疾患用の軟膏を処方してもらったとき、処方箋が自宅の最寄りの薬局に電子的に送られピックアップできるようになっているまでは良かったのですが、カウンターで初めて$700することを知り仰天したことがあります(筆者加入の保険適用外でした)。

同様に、薬局の棚に並んでいる「処方されたけど購入されない」医薬品の山を眺めて、米国の医療の無駄を実感したことを覚えています。現在はDr.OnDemandもPokitdokのAPIを使い、医師が即時に患者に「価格を説明した上で処方箋を書く」ということを実現しています。

このような相互運用性を実現するには、各種セキュリティ規制やガイドラインに準拠した運用体制をしいていることは当然ながら、そのベースにブロックチェーンを使ったデジタル署名、分散型暗号化ストレージなどの技術が使われています。

同社はこれらの技術ノウハウを開発しており、DokChainというヘルスケア産業に最適化されたブロックチェーン技術として発表しています。他社のサービスも、基本的に実現していることは類似しているものが多いようですが、先んじて自社ブロックチェーン技術の開発を白書として公開しているなど、フロントランナーと言えそうです。引き続き、注視していきたい企業です。


https://dokchain.com/

医療に関わる「モノを管理する」ブロックチェーン

前述のマップの「2」(医薬品サプライチェーン、スマート資産管理、IoMT)は、「1」「3」と異なり、モノを管理するブロックチェーン活用法です。個人の医療データというよりは、医薬品のトレーサビリティやIoMTのセキュリティを主事業としています。そのスタートアップ事例として、ここではiSolveが開発した「BlockRx」を取り上げます。

ブロックチェーンは医療に限らず、すべての産業のサプライチェーン(原材料から最終製品に至るまでの製造と物流の一連の繋がり)の可視化と処理の効率化に劇的な変化をもたらし得ます。

現在、サプライチェーンの各工程は別々のデータや台帳で管理されているので、最終製品に「各工程の履歴」のすべてを漏れなく紐付けてデータ管理することは事実上ほぼ不可能に近い状態です。ブロックチェーンは「改ざん不可能な公開された台帳」であるため、どこか1社が台帳を占有・改ざんすることはできず、かつ、前述のeligibilityの例のように電話、FAX、emailなどで逐一確認をとるような手間を一掃できる可能性があります。

かなり大掛かりな仕組みになるため、スタートアップというよりはグローバル大手企業によるプロジェクトとして実装されるのではないかと見ています。IBMも動き始めている一社のようです(参考記事はこちら)。

医薬品の世界は、物流だけをとっても「人間の健康に直結する」「国をまたいで売買される」製品であるが故に、管理コストが非常に大きな業界です。具体的には、在庫管理、リコール発生時の対応、各国でのコンプライアンス遵守、等が挙げられます。

「BlockRx」はまだ実証実験中の段階ですが、医薬品サプライチェーンに特化したプロダクトとして注目されています。同社はInitial Coin Offering (以下、ICO)と呼ばれる、ブロックチェーンによる「株式」でも「通貨」でもない新たな資金調達方法をとっていることも興味深いです。ICOに関しては以下の記事が参考になります。

※参考記事:「ブロックチェーンを用いた資金調達法「イニシャル・コイン・オファリング」はIPOを代替するか」(WIRED)

「BlockRx」はすでに数多く出てきたICO銘柄の中でも、初の医薬品業界の案件として歴史に名を刻もうとしています。大手企業がスタンダードになるか、新たな資金調達方法を駆使したスタートアップがスタンダードになるか、引き続き注目したい領域です。


https://www.blockrx.com/

次回は、「音声AIとヘルスケア」についてお伝えしていきます。

***本連載の過去記事***

【新連載】米国市場に学ぶヘルステックの“今”と“未来”
【第2回】米国「遠隔診療」の今から日本は何を学ぶか
【第3回】“メンタル疾患大国”米国でのメンタルヘルス・スタートアップの今
【第4回】米国で増加する「治療アプリ」
【第5回】米国ヘルステック興隆の環境要因と展望
【第6回】ヘルスケアとブロックチェーンの最前線(前編)

***イベント告知***


詳細・お申込みはこちら<早期割引第2弾は10月29日〆>

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淺野 正太郎Shotaro Asano

Health 2.0 Asia - Japan 2017 マネージャー
日本医療機器開発機構 事業開発ディレクター

一橋大学法学部卒業。リクルートホールディングスにて国内の営業/企画職を経て2012年より海外投資部門に従事。Recruit Strategic PartnerのUS拠点立ち上げ、及びNoom・Fitmob・eWeLL・メドケアといったヘルステックベンチャー投資を担当。現在は日本医療機器開発機構にて医療機器/ヘルステック事業開発に携わる。