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VRは医療の“暗黙知”を解消する。現役医師らが挑む、VRによる医療革命

2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事では、モデレーターに久保田瞬氏(株式会社Mogura 代表取締役社長/Mogura VR 編集長)を、パネリストに國光宏尚氏(株式会社gumi 代表取締役社長)をお招きして行われたトークセッション「VRはもはや現実である」をダイジェストでお届けします。

FacebookやGoogleに代表される世界的企業をはじめ、日系大手企業が熱い視線を注ぐ「VR」。現在は医療領域への応用も活発になっています。本トークセッションでは、現役医師を含む4名のゲストをお招きし、医療とVRがもたらす“医療革命”について議論されました。属人的な医療スキルを明文化する取り組みや、患者の恐怖感を解消する方法など、VRがもたらす“旧医療”のアップデートにまで話は及びます。

※セッション登壇者
・久保田 瞬(株式会社Mogura 代表取締役社長/Mogura VR 編集長)モデレーター
・國光 宏尚(株式会社gumi 代表取締役社長)パネリスト
・原 正彦(株式会社mediVR 代表取締役/医師)デモ
・松村 雅代(株式会社 BiPSEE 代表取締役 CEO/医師)デモ
・杉本 真樹(Holoeyes株式会社 取締役COO/医師・医学博士)デモ
・Ege Jespersen(Gonio VR CEO)デモ

医師視点で考えるVRの利用価値とは?現役医師らがVRサービスを立ち上げた背景

久保田瞬氏、國光宏尚氏
(左より)久保田瞬氏、國光宏尚氏

久保田瞬(以下、久保田):モデレーターを務めます株式会社Moguraの久保田です。国内最大級のVR専門メディア「Mogura VR」を運営しており、VRとARが他分野と連携する支援を行っております。

本日は、パネリストに株式会社gumiの國光宏尚氏をお迎えし、「VRはもはや現実である」と銘打ったトークセッションを行わせていただきます。

國光宏尚(以下、國光):株式会社gumiの國光と申します。弊社はモバイルゲームを主軸に事業を展開していますが、一昨年前からVRとAR事業に注力しているところです。本日は、医療とVRがどういったビジネスを創出できるのか、そして医療業界にどのような変化を起こせるのかを議論できればと思っています。

久保田:私と國光さんは医療の専門家ではありませんが、世界のVR事情に精通しています。この後に自己紹介をいただくゲストの方々は、すでに医療とVRを掛け合わせたビジネスを展開されている方々です。医療の知見を踏まえながら、VRの可能性を探っていければと思います。それでは、ゲストの方々に簡単に自己紹介を行っていただきましょう。

杉本真樹氏
Holoeyes株式会社 取締役COO(医師・医学博士) 杉本真樹氏

杉本真樹(以下、杉本):Holoeyesの杉本です。VRやAR、MR(Mixed Reality:VRとARの上位概念)を用いた医療を模索しています。たとえば、ヘッドマウントディスプレイを身につけ、動脈や静脈、臓器を3Dで目の前に映し出します。すると立体的に体の構造を捉えることができ、医師のトレーニングに応用できるんです。

また、患者さんに自身の体の状態を3Dで見せながら分かりやすく説明することもできます。医師業務に従事する傍ら、より良い医療の開発を目指しているところです。

Ege Jespersen氏
Gonio VR CEO Ege Jespersen氏

Ege Jespersen(以下、Jespersen):Gonio VRのEge Jespersenです。私たちは、関節痛を和らげるリハビリテーションのプラットフォームを開発しています。まずは関節の可動域を測定し、痛みが出ない範囲を特定。その上で、VRゲームを用いながら楽しくリハビリに取り組むことができます。

リハビリを行う理学療法士の方は、患者さんがどういった挙動をした際に体が痛むかが分かりません。しかし弊社のサービスを使えば、初めから痛まない範囲を特定できるので、無理なくリハビリができるんです。理学療法士にとっても、患者さんにとっても価値のあるサービスだと思っています。

松村雅代氏
株式会社BiPSEE 代表取締役(医師) 松村雅代氏

松村雅代(以下、松村):BiPSEEの松村と申します。心療内科医をしながら、VRを用いて医療に対する不安や怖れを軽減するデバイスを開発しています。現在リリースを控えているのが、子どもの歯科治療向けサービスです。

2Dのヘッドマウントディスプレイを身につけ、アニメーションなどを放映することで、治療中の恐怖心を軽減します。

原正彦氏
株式会社mediVR 代表取締役(医師) 原正彦氏

原正彦(以下、原):株式会社mediVRの原と申します。弊社は、VRを用いた運動リハビリテーションシステムを開発しています。従来のリハビリには、定性的でざっくりとした評価基準しかありませんでした。そこで、リハビリの目標値の定量表示し、達成度も定量的に評価できるコンテンツを開発したんです。

個々の患者さんに応じたリハビリを提供することで、医療のより良い形を提案していければと思っています。

名医への依存がなくなる。VRが“旧医療”にもたらすイノベーション

久保田:既に、医療とVRの連携が進んでいるんですね。医療とVRを掛け合わせた事業を立ち上げた背景をお伺いさせていただけますか?

杉本真樹氏とEge Jespersen氏
医療の”暗黙知”をテクノロジーが標準化する

杉本:医療には“暗黙知”が多いんです。まるで大工の棟梁が「俺の背中を見て育て」と言っているようなもの。ただ、それでは手技が属人的な腕や知識に依存してしまいます。

どうすれば属人的な手技レベルを定量化できるか考えた結果、手技の過程を三次元で捉えることが有用だと気づいたんです。たとえば、手術の動きを三次元的に記録する。数値化し、評価できれば、AIがディープラーニングによって“腕の良い手技”が定量的に分かるんです。

:杉本先生のおっしゃる通りです。手術に限らず、リハビリも理学療法士のスキルによって、改善の度合いが大きく変化します。いわゆる“職人技”を持った人だけが優れた医療を提供できるので、いつまで経っても治療を標準化できないんです。

杉本:最近は家を病院のように機能させる「ソーシャルホスピタル」という取り組みが進んでいます。例えば、患者さんがわざわざ病院に来なくても、家の中で健康診断ができるようになる。VRやAI を用いて、医療が家庭内である程度行える世界も近い。特にリハビリが標準化して自宅で行えたら素晴らしいですよね。

”個人の治癒力”について語る松村雅代氏
VRの没入感が、患者の恐怖心を和らげる

松村:杉本さんがおっしゃった「ソーシャルホスピタル」とつながりますが、私は薬や医師に依存しない医療に興味がありました。「お薬があってよかった」「先生に出会えてよかった」とよく聞きますが、そうした医療のあり方が、個人の治癒力を奪ってしまっているように感じたんです。

そこで、私なりの方法で個人の治癒力を引き出す方法を考えていました。すると「小児の歯科医師は大変なんです」といった声を聞くようになりました。痛みや恐怖感から子どもが泣き叫び、押さえつけなければ治療ができないそうなんです。

定期的に歯医者に足を運びながら、自分でもしっかりとケアをしながら歯の健康を維持するにはどうしたら良いのでしょうか?そうした疑問の解決策に、現在リリースを控えているサービスが生まれました。

久保田:Jespersenさんはいかがでしょうか?

Jespersen:私の人生のミッションは「多くの人を助ける」ことです。ソフトウェアを開発すれば、そのミッションを果たせるのではないかと考えました。また、世界中の人を助けるには、人が使いたくなるようなものではないといけません。

ユーザーに「楽しい」と感じてもらえるように、現在のように遊びながらリハビリができるサービスを開発しました。

國光:MRIなどに恐怖心がある方にもVRは有効だとよく聞きます。歯科治療も、VRを利用すれば恐怖心をなくすことができるのでしょうか?

松村:はい。VRの没入感が、恐怖心を和らげてくれるんです。大人の方でも「リラックスして受けたい」とVRを用いた歯科治療を希望する人が増えています。

杉本:一度軍人の病院に足を運んだことがあります。戦争の恐怖からPTSDになってしまった方の精神的なリハビリを行う病院で、VRを使用していました。そこでは、精神的安寧を誘導するコンテンツではなく、戦争中の映像を流すんです。繰り返し戦争の映像を流すことで、戦争に慣れる。そうして恐怖心を取り除くのだそうです。

海外では戦争が起こることも少なくないので、軍人が精神病に罹ってしまうことが少なくありません。そうした背景から、特にアメリカでは、VRはすでに医療デバイスとして注目を集めています。

松村:日本では、トラウマの克服に有用かもしれませんね。たとえば職場でパワハラを経験した方は、会社に近づくことでさえ恐怖を感じるかもしれません。そうした際に、最寄りの駅から会社に行くまでの経路をVRで見れば、恐怖心を拭えるのではないかと思いました。

医療におけるVRの有用性はどこか?
医療におけるVRの有用性はどこか?

國光:海外のVR事情をいくつかみてきたのですが、大きく3つの活用事例があると思っています。1つは先ほどお話しされていたシミュレーション系、2つ目は手術の訓練、そして3つ目は杉本先生が取り組まれている体内を3Dで可視化することです。

本日話題に上がっていないものでいうと「手術の訓練」がありますが、実際に有効なのでしょうか?

杉本:そうですね。VRが有用な点は「場所の障壁を越えて全員が共通言語を持てる」ところです。手術のレクチャーは、知識や手腕の差によって共通理解ができないことも少なくありません。しかし、仮想現実の中で3D映像を使用しながらレクチャーを行えば、誰もが理解することができます。

また、離れていても、ヘッドマウントディスプレイを介し、誰もが共通の空間を共有することができます。長い時間をかけて習熟する必要があったことも簡単に理解でき、場所の制限を解消できることにVRの有用性があるんです。

デバイスに依存するな。民主化するVRはソリューションであるべき

久保田:VRと医療を掛け合わせた事業はまだまだ黎明期ですが、最後に、今後の展望をお伺いさせてください。

:現在開発しているデバイスを、医療機器として販売していこうと考えています。その第一段階として、現在安全性の試験を行っているところです。1年半後のリリースを目指しています。

松村:私たちが開発しているデバイスは、まさにリリースを目前に控えています。現在はパイロット・スタディ(マーケット調査に使用すること)の段階なのですが、来年3月を目処にローンチできる予定です。

リリース後は私の専門分野である心療内科分野を応用し、自立訓練などにも生かしていきたいと思っています。

Jespersen:ハードウェアが急速に進歩していますが、私たちはソフトウェアファーストで開発を進めていきたいと考えています。ユーザーに「楽しい」と感じてもらえる体験を構築できれば、自宅でもリハビリをしてもらえるでしょう。ソフトウェア設計にリソースを割き、臨床応用できるよう努めていきます。

松村:私は冒頭でもお話ししましたが、まずはより良い医療の開発を目指します。その上で注目しているのはモバイルです。AppleはARに本格対応したiOS11のフレームワーク「ARKit」を開発していますし、Googleも空間をリアルタイムに3Dマッピングするスマートフォンベースの技術「Tango」を開発しています。誰もがVRやARを使う時代になるのではないでしょうか。

國光:たしかに、VRデバイスも価格が民主化していますよね。Oculusが販売するデバイスも、2年程度で価格が10分の1程度まで下落しています。

久保田:来年にはコードレスのVRも販売されると聞いています。敷居が低くなり、より身近な存在になりそうです。

全員でセッションする写真
VRの敷居はますます低くなるが、どのように使うかが問われる

杉本:今回の標題は「VRはもはや現実である」ですが、現実というよりは「アクチュアリー」だと思っています。既に実在しているものなんです。たとえば、コップは水を入れて初めてコップになります。VRも同様に、どう使うかが問われています。

世の中にある課題をVRで解決したり、既存のサービスをより魅力的にしたり、手段として使用することが大切だと思っています。

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