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現役VCが語る、資金調達ノウハウ。投資に値するヘルスケアベンチャーとは? - 小林正典 × 白井健宏 × 高宮慎一 × 五嶋一人

2018.01.26

Text By
梶川奈津子
Edit By
長谷川リョー
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横尾涼
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2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事では、過去に数々のスタートアップでCFOを兼務し、累計20億円以上の資金調達を行ってきたトリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 日本支社長 小林正典がモデレーターを務めたトークセッション「激論!スタートアップ資金調達ノウハウ」をダイジェストでお届けします。

パネリストには、世界各地のデジタルヘルス事業への投資に注力する、白井健宏氏(株式会社アイティーファーム ジェネラルパートナー)、シードからレイターステージの数多くのベンチャー投資に従事し、ハンズオンで投資先の経営戦略の推進を支援する高宮慎一氏(株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー Chief Strategy Officer)、そしてベンチャーキャピタルやDeNAなどの事業会社で数々のベンチャー投資やM&Aに携わり、一昨年にファンドを立ち上げた五嶋一人氏(株式会社iSGSインベストメントワークス代表取締役 代表パートナー)の3名を迎えました。

本セッションでは、3名の投資家から、ヘルスケアのスタートアップに出資する際の判断基準や大事な観点、そして今後のヘルスケア領域において、特に成長を期待するビジネスモデルについて語っていただきました。

「カスタマーの健康にどれだけ寄与するか」を考え抜かれた事業だけが、投資に値する

小林正典(以下、小林):ひとくちに「ヘルスケア」といっても、病気の予防から治療、さらには介護領域まで多岐にわたります。そこで、まずは皆さんが投資先として捉えている「ヘルスケア」領域や、その投資先を選んだ基準について教えてください。

IT-Farm白井氏、Globis高宮氏、iSGS五嶋氏
(左から)白井健宏氏、高宮慎一氏、五嶋一人氏

白井健宏(以下、白井):これまで注力的に投資を行ってきた「コンピューターテクノロジー」が、ヘルスケア領域で活用されている領域に注目しています。いくつか例を挙げると、ウェアラブルデバイスで患者の健康状態に関する画像データを取得する技術や、そのデータを解析する技術、症状を識別するセンサリング技術などです。

高齢化が進む日本では、1人の患者がいくつもの慢性病を併発するケースが多く見受けられます。そのため、症状を識別するセンサリング技術に関しては、特にポテンシャルがあると思っています。

高宮慎一(以下、高宮):弊社は投資をする際に、資金提供をするだけではなく実務面にハンズオンすることを大事にしています。ヘルスケア領域では、企業が商品開発のための基礎研究を終え、プロトタイプが固まったフェーズで投資を開始するケースがほとんどです。投資と並行して、ビジネスモデルやマーケティングをブラッシュアップするためのアドバイスを行っています。逆に、創薬など事業価値が医療的知見に依存するビジネスは専門性が高く、私たちのバリューを発揮するのが難しいため投資は行いません。

また、医療業界はビジネスモデルが複雑です。サービスの受益者だけでなく、国がお金を負担するケースがままあります。しかし事業をスケールさせる観点では、シンプルなビジネスモデルの方が望ましい。なので、予防医療を目的としたフィットネス事業などに注目しています。「カスタマーが、提供された価値に対してお金を払う」というシンプルなバリューチェーンだからです。

五嶋一人(以下、五嶋):デバイスを通じて人の身体から健康状態のデータを取得し、活用する事業に注目しています。ビッグデータビジネスは、遠隔医療や製薬会社に販売するなど、さまざまな事業に利活用できるからです。

また投資を行う際は、「サービスの受益者である個人が扱いやすいか」も判断基準です。日常的に扱われている絵が描けなければ、サービスが普及するとは思えません。たとえば医療機器なら、「医療機器認定」が取れているものに対して優先投資します。医療現場で使用できなければ、そもそもビジネスとしてスケールしないので。

“実現可能性と熱意”で投資家を巻き込め。ヘルスケアベンチャーの資金調達方法

トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社_小林正典氏
トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 日本支社長 小林正典氏

小林:ヘルスケア領域のスタートアップは、初期の段階で基礎研究などの開発費用がかさむ一方で、その費用対効果が実証しづらい。なので、資金調達に相当苦しむ傾向があります。VCの皆さんが投資判断をする際の条件があれば、ぜひアドバイスを頂けないでしょうか。

五嶋:シード期の投資判断に関しては、絶対的な判断基準が2つあります。まず1つは、プロダクトの実現可能性を示せること。仮にプロダクトが完成していなくとも、投資家に対して「あとは開発のための資金と時間さえあれ、実現可能なプロダクトである」と確信させる説明をしましょう。

2つ目は、そのプロダクトがマーケットのニーズを満たすかどうか。起業家が世の中に対して「こう変わるべき」と強い想いがあるにも関わらず、肝心のカスタマーに対して「どのような価値を提供したいのか」が明確に描けていないケースが多いと感じます。

globis高宮氏
資金調達は「ユーザーのニーズに即しているか」が実証できてから

高宮:ビジネスの基本は、カスタマーが求める価値を提供することですよね。特にベンチャーの場合は、開発の初期段階からプロトタイプがユーザーのニーズに即しているか常々振り返りましょう。資金調達は、それが実証できるようになってからです。

また資金調達は、計画的に実行できるよう段取りを組んでおくことが肝です。投資家と「いつ、どのくらいの資金が必要になるのか」をすり合わせておき、段階的に資金調達を行っていきましょう。

白井:高宮さんの仰る通りです。シード投資を決める際も、その事業のマイルストーンに納得できるかが大事です。仮に即時的な収益化が難しくとも、「そのプロダクトが世の中に出たとき、どのような成果があり、それに対して誰がお金を払うか」というバリューチェーンは説明できるようにすべきです。

小林:私たちの会社では、VCからは「資金調達を受けた後、1年程度は事業に集中すべき」と言われたものの、想像以上のスピードで資金がなくなってしまいました。創業から現在まで、ずっと資金調達を続けている状況です。こうした場合どのように投資家と相談し、資金調達をするべきでしょうか?

IT-Farm白井氏、Globis高宮氏、iSGS五嶋氏
投資家が考える資金調達のタイミングと必要なエレメントとは

五嶋:投資を決める際には、その企業が資金調達をすることで、計画的に事業のPDCAをまわせるかどうかを確認したいです。具体的な判断材料は、3つあります。1つは、前回までの資金調達によって得られた成果。何のために資金調達をし、結果として何ができて、できなかったのか。2つ目は、その成果によって企業の市場価値が向上したかのかどうか。3つ目が、次の目標設定がある前提で投資を求めているかどうか。

高宮:資金調達を相談される段階で、必ずしもプロトタイプの売上まで実証されている必要性はありません。しかし、どのような仮説をもとに事業開発を進めているのかは最低限押さえておきたい。再現性をもって新しい成果を得たり、論理的に仮説を構築できるかどうかは知りたいところです。

五嶋:また、当初のマイルストーン通りに開発が進まない場合、投資家に対して「どう軌道修正したいか」を明確に説明できるかが重要です。企業側が実現したいことと、投資家側が出資できる資金額の兼ね合いで、事業の軌道修正をすることになりますから。

そこで収益性はもちろん、それ以上に「何を実現したいのか」を熱く伝えて、うまく仲間として巻き込んでいきましょう。また投資家を巻き込んでいくために、普段からこまめに事業開発の進捗を共有しておくことも大事です。たとえば、「想定外で、今こんな状況になってしまった」といった失敗も、積極的に開示してほしい。信頼関係が醸成されるだけでなく、クリティカルな問題が起こる前に助言ができます。

白井:状況をこまめに伝えてくれれば、その局面に応じて専門家をアサインすることもできます。一時的な出資、資金調達のマイルストーンの再設計をすることもできるので、日頃から信頼関係を築くよう努めるべきですね。

ヘルスケアビジネスで日本は世界的優位に立てるか?ドメスティック企業が世界で勝つ秘訣とは?

小林:日系のヘルスケアベンチャーがグローバルでの事業展開を行う際に、成功するための秘訣があれば教えてください。

IT-Farm白井氏
各国の共通課題を解決するビジネスは横展開しやすい

白井:ヘルスケアに関しては、各国共通の課題があります。だからこそ、共通課題を解決するビジネスは各国で横展開できる可能性が高い。たとえば、高齢化やそれに付随したサポート、医療費の増大など。展開するときに重要なことは、国別で協働するパートナーの選定です。ヘルスケア領域は、国の行政による規制や政策の違いが密接に影響します。その国ごとの状況に鑑みて、戦略的に戦略産業を担う大手企業や有力な投資家と組むことが必要でしょう。

高宮:秘訣は2つあると思います。1つは、グローバル展開することで、より事業価値が高まるビジネスを創出すること。たとえば、健康状態のデータを取得する事業は、事業展開する国が増えるほどサンプルのバリエーションが増えます。すると、データ自体がアセットとしての価値が高まるほか、それを蓄積することで、データを解析するAIの精度を向上することもできる。2つ目は、グローバル展開するにあたっての開発コストが低いエリアを選ぶこと。たとえば、規制条件が似ているなど、外部環境の共通項が多い国を戦略的に選びましょう。

小林:仰るとおり、ヘルスケア事業は展開エリアの政策に強く影響を受けるビジネスです。投資家の皆さんが、将来の国内の投資先を考えるなかで、特に動向を注目している分野はありますか?

4人でのセッション風景
投資家にとって、今一番ホットなヘルステックの分野は?

白井:弊社はテクノロジー領域に強みがあるので、遠隔医療に最も注目しています。

高宮:遠隔医療が解禁されると、医療機関にもSaaS等のシステムが導入され、医療に関する業務プロセスやデータ活用も大きく変化すると思われます。一方、予防医療の領域におけるヘルスケアビジネスは、フィットネスクラブなどカスタマーの趣味としても活用されそうなサービスが一般的になるのではないでしょうか。

五嶋:私も今後の超高齢社会においては、フィットネスやスポーツが予防医療として認知され、事業価値が増していくと考えています。日本は世界の中でも、急速に高齢化が進んでいるので、日本で成功したモデルはグローバルで展開できるポテンシャルがあると思っています。

高宮:最近は、政府にも規制緩和の動きが見られるなど、既存の硬直化した商流にブレイクスルーしつつあります。ヘルスケア業界は新しい商慣習をゼロからつくるフェーズなので、民間の中でも、大手とベンチャーが一丸となって業界を変えていけるのではないでしょうか。

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