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競技からQOL向上へ。テクノロジーで生まれるスポーツの新たな意義とは?

2018.03.30

Text By
ササキノゾミ
Edit By
半蔵門太郎
Photos By
松平伊織
  • b.hatena
  • pocket
2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事では、モデレーターにスクラムベンチャーズ パートナーの外村 仁氏をお招きして行われたトークセッション「テクノロジーで健康/スポーツ体験を向上させる」をダイジェストでお届けします。

健康になるために運動は大事。しかし、わかっていても体を動かせずにいる人は多いのではないでしょうか。テクノロジーは、人びとを思わず運動に向かわせる「仕掛け」を創出する可能性を持っています。本トークセッションでは幅広い領域のゲストをお呼びし、テクノロジーとスポーツの関わりについてディスカッションを行いました。

※セッション登壇者
・外村 仁(Scrum Ventures Partner)モデレーター
・中嶋 耕平(ハイパフォーマンスセンター 国立スポーツ科学センター メディカルセンター 整形外科/医師)パネリスト
・為末 大(一般社団法人アスリートソサエティ 代表理事)パネリスト
・鈴木 啓太(AuB株式会社 代表取締役)パネリスト
・中島 正雄(株式会社Xenoma Co-Founder & 取締役e-skin事業部長)デモ
・高萩 昭範(株式会社Moff 代表取締役)デモ
・徳田 雅敏(株式会社NTTデータ技術革新統括本部 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ 主任)デモ

元アスリート×エンジニアがスポーツビジネスにもたらすものとは?“結果”にこだわらない新しいスポーツの在り方

外村仁(以下、外村):サンフランシスコから参りました、スクラムベンチャーズの外村と申します。本日のテーマは「テクノロジーで健康/スポーツ体験を向上させる」。テクノロジーがスポーツを盛り上げ、人々の健康に寄与していくにはどうすればいいか、ディスカッションを通して探っていきたいと思います。ディスカッションに入る前に、まずはパネリストのみなさんに自己紹介をしていただきましょう。

中嶋耕平(以下、中嶋耕):国立スポーツ科学センターの中嶋と申します。普段は医師として国立スポーツ科学センターで研究を重ねています。テクノロジーは運動能力を向上をさせる要素として、今後注目すべき領域です。個人的にもデータ収集の能率を上げるテクノロジーに関心があります。

(左)First Compass Group General Partner/Scrum Ventures Venture Partner 外村仁氏 (右)ハイパフォーマンスセンター 国立スポーツ科学センター メディカルセンター 整形外科(医師) 中嶋耕平氏
(左)Scrum Ventures Partner 外村仁氏
(右)ハイパフォーマンスセンター 国立スポーツ科学センター メディカルセンター 整形外科(医師) 中嶋耕平氏

中嶋:従来のスポーツは、結果にこだわる“競技力”を重視する傾向にありました。しかし、今後は「健康」「体作り」といった文脈で盛り上がっていくのではないかと考えています。高齢化が進む中で、「健康にいい」スポーツが活気を帯びていくのではないでしょうか。

為末大(以下、為末):一般社団法人アスリートソサエティの為末です。2012年に現役を退いた後、自らプロジェクトを推進する一方で、スポーツベンチャーのサポートを行っています。スポーツを通したさまざまな活動をつなげる“ハブ”として、スポーツが人々の幸せに寄与できるような活動を推進しています。

一般社団法人アスリートソサエティ 代表理事 為末大氏
一般社団法人アスリートソサエティ 代表理事 為末大氏

為末:活動の一環として、私は「国民幸福度世界一」と呼ばれるブータンのスポーツ大使をしています。ブータンにいるときに考えさせられるのが、「人間の幸せ」です。ブータンに暮らす人々の平均寿命は60歳ほどですが、多くの人が“幸せな最期”を迎えていることが印象的でした。対照的に、日本は寿命こそ長いですが、病気で苦しみながら死を迎える人も少なくない。

人間は幸せになるために生まれたにも関わらず、寿命を伸ばすことが幸せにつながっていないーー。私は、身体的に健やかであっても精神的な充足がなければ、本当の意味での“幸せ”は訪れないのではないかと思っています。そして、“心の充足”は今後先進国が向き合っていかなければならない大きな問題といえるでしょう。私は、スポーツの観点から、人々の幸せにつながる機会を提供していきたいと考えています。

鈴木啓太(以下、鈴木):AuB株式会社の鈴木です。2016年に、16年間のプロサッカープレイヤーとしての現役生活に幕を下ろしました。引退直前にAuBを立ち上げ、現在はアスリートのうんちをサンプルに腸内細菌の研究をしています。研究で得られた知見は、いずれ一般の方々に還元しようと現在様々な企業と組んでビジネスモデルを構築しています。

AuB株式会社 代表取締役 鈴木啓太氏
AuB株式会社 代表取締役 鈴木啓太氏

鈴木:なぜ私がうんちに着目したのか。それは現役時代の私のコンディショニング方法に起因しています。私は現役時代、自らの排泄物を観察することで健康状態を把握していました。当時の健康管理としてはかなり異質な手法でしたが、感覚的に自分のコンディショニングと関係があると思い、これを明らかにしてアスリートに還元したいと感じたのがきっかけです。

プロスポーツ界では、個人に合わせた食事やコンディション管理が重視され始めています。しかし、その方法は確立されていません。私は「腸内細菌」を通じてアスリートのパフォーマンス向上に貢献していきたいと考えています。

株式会社NTTデータ技術革新統括本部 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ 主任 徳田雅敏氏
株式会社NTTデータ技術革新統括本部 技術開発本部 エボリューショナルITセンタ 主任 徳田雅敏氏

徳田雅敏(以下、徳田):NTTデータの徳田です。私たちは、着ているだけで心拍数や心電波形などの生体情報を検出できる機能素材「hitoe」の開発をしています。心臓の動きによって発せられるわずかな電気信号をキャッチし、スマートフォンやタブレットへ送信するのです。従来のウェアラブル機器では表示することのできなかった「心電波形」を表示できるのも「hitoe」の大きな特徴です。

ここで、アメリカの「インディカーレース」で行われた「hitoe」の実証実験をご紹介します。ドライバーの胸と右腕にhitoeを装着していただき、走行時のドライバーの生体情報を取得しました。どこで右腕に力が入り、抜けるのか。今まではドライバーの感覚に頼っていた部分がデータではっきりと見えるようなりました。データが集まることで、より戦略的にパフォーマンスの向上が図られるのではないかと考えています。

中島正雄(以下、中島):株式会社Xenomaの中島です。私たちは、全身の動きが計測できる衣服型ウェアラブルデバイス「e-skin DK」を開発しています。「e-skin」の大きな特徴は着心地の良さです。計測ができるにも関わらず、みなさんが普段着るようなシャツと同じような着心地を実現しました。付属の「e-skin Hub」を取り付けることでPCと接続します。

株式会社Xenoma Co-Founder & 取締役e-skin事業部長 中島正雄氏
株式会社Xenoma Co-Founder & 取締役e-skin事業部長 中島正雄氏

中島:e-skinの内部には伸び縮みを計測するセンサーが内蔵されています。最近ではこのセンサーを利用し、モーショントラッキングができる「e-skin DK」を発表しました。現在は「e-skin DK」を利用したフィットネス系ゲームアプリを開発中です。これからはスポーツだけでなくアパレルやゲームなどに「e-skin」の技術を還流し、人々の健康意識の向上に寄与していきたいと考えています。

高萩 昭範(以下、高萩):株式会社Moffの高萩と申します。私たちは腕時計型ウェアラブル端末「Moff Band」を活用し、高齢者のリハビリを幅広いフェーズで支援できるサービスを提供しています。代表的なサービスが「モフ測」と「モフトレ」です。

株式会社Moff 代表取締役 高萩 昭範氏
株式会社Moff 代表取締役 高萩 昭範氏

高萩:「モフ測」はリハビリを受けている患者さんの体の動きを計測し、3Dモデルでフィードバックするサービスです。「モフ測」で得た評価結果をもとに「モフトレ」でトレーニングのプランニング、提供を行います。運動の進捗を「見える化」し、リハビリを楽しんでもらうことで、機能訓練をより効果的に進めることが可能です。現在、モフ測は病院・デイケア、モフトレはデイサービス・老人ホームを中心にご利用いただいています。

「楽しさ」こそが全ての根源。従来のスポーツのイメージ「苦痛」の払拭のためにテクノロジーができること

外村:それでは、トークセッションに入っていきたいと思います。テクノロジーが、スポーツを通して人々の生活や健康に寄与する可能性について探って行きたいと思います。

高萩:一番大きなポイントとなるのは「楽しさ」です。いくら最新鋭のテクノロジーを駆使したセンサーで「あなたの状態はXXです」と伝えたところで、味気ないしつまらない。これでは長続きしません。思わず動いてしまうような運動を誘引する仕組みが必要です。

テクノロジーがスポーツを通して人びとの生活を健康にするには?
テクノロジーがスポーツを通して人びとの生活を健康にするには?

外村:人びとの行動を変えたサービスの例に『Pokémon GO』があります。普段全く運動する気の起きない人のモチベーションになりました。また、「楽しい」以外にも「ラクである」こともポイントになるのではないかと思います。ウェアラブルであることでわざわざ持ち運ぶ・身につける手間が省けるのは一気にハードルを下げることになるでしょう。

中島:元々、「服を着ない人はいない」という当たり前の事実から「e-skin DK」の着想を得ました。ウェア形態のメリットは、当たり前のように着ているだけで、人体のあらゆるバイタルデータを取得できることです。これからバイタルデータを取得していき、最終的にはビッグデータ研究に一枚噛めればと思っています。

徳田::ウェアラブル端末にもさまざまなタイプがありますが、「hitoe」はさらに「ウェア」の形態にしたことで、脈拍のみならず心電波形を取ることが可能になりました。心電波形はフィジカルだけでなく、メンタルの機微まで細かく観察することができる点で画期的です。緊張やリラックスの度合いが可視化できるので、プロアスリートのコンディショニングにも貢献できるのではないかと考えています。

テクノロジーとスポーツの融合が、これまでの健康・スポーツの概念を変える。必要なのは両者をつなぐ「箱」

テクノロジーとスポーツをどう融合していくか?
テクノロジーとスポーツをどう融合していくか?

外村:最後に、テクノロジー側とアスリート側、双方が互いに期待することをお聞かせいただけますでしょうか。

高萩:高齢者の方々と接していて、若いうちからの運動習慣が老後に大きな影響を及ぼすことを感じます。高齢になってから運動習慣をつけたとしても手遅れなケースは多い。なので、若いうちから運動をしたくなるような盛り上がりをアスリートを中心に作っていってほしいですね。若い世代がスポーツにコミットすることが超高齢社会のソリューションの1つになるのではないかと思っています。

中島:ウェアラブルデバイスも進化を遂げ、昔に比べて現場にマッチしたスタイリッシュなものになってきています。これからどんどん現場での受け入れを進めていきたいです。

為末:私の感覚ですが、アスリートはテクノロジーを好まない傾向もあります。これから数多くのテクノロジーがスポーツに入っていくためには、「箱」となるプラットフォームを用意することが必要です。すると、スポーツはより進歩するのではないでしょうか。

鈴木:選手のコンディショニングを向上させるためには、腸内細菌だけの研究では事足りません。血液や尿、心拍など、さまざまな要素が必要です。これから、さまざまな研究領域の方々と関わっていくなかで、新たなヘルスケアのソリューションを提案していきたいですね。

為末:「スポーツ」の語源になったのはラテン語の「Deportare」。この言葉にはスポーツだけでなく「詩を詠む」、「歌う」といった意味も含まれています。これからのスポーツは表現やアートなどに世界を広げていくのではないでしょうか。スポーツを通した自己表現をする未来に、新たなビジネスチャンスがあるのではないかと思っています。

外村:スポーツ選手が培った経験とテクノロジーをマッチングすることで、既存の健康・スポーツの概念や体験に新たなイノベーションをもたらすことが可能なのではないでしょうか。その両側のメンバーが壇上にそろって、みなさんの前で仲良しになれたという素敵なセッションだったと思います。今日をきっかけとして新しいソリューションやビジネスがここから生まれればとても嬉しいですね。みなさま、本日はどうもありがとうございました。

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