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遠隔診療は“旧医療”をいかにアップデートするか?医師と民間企業のキープレーヤーが語る

2018.04.05

Text By
オバラミツフミ
Edit By
長谷川リョー
Photos By
松平伊織
  • b.hatena
  • pocket
2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事ではモデレーターに加藤浩晃氏(京都府立医科大学 特任助教)、パネリストに原聖吾氏(株式会社情報医療 代表取締役)、武藤真祐氏(医療法人社団鉄祐会 理事長)を迎えたセッション「遠隔診療の進歩」をダイジェストでお届けします。

セッションの最後に、加藤氏は「自分が重篤な病気を患ってしまったとき、医療はどのような姿になっていたら理想的でしょうか」と問いかけました。皮肉なことに、医療は“自分が病気になって初めて”その尊さを知ることになります。常日頃からリスクを考え、適切な対処が取れるよう理解をしておくことが重要です。

「変革が難しい」とされてきた医療領域も、現在は民間企業が参入し、医師に頼らない医療の実現へと歩みを進めています。本セッションで語られた“遠隔診療の進歩”から、未来のあるべき医療の姿を考えていきます。

※セッション登壇者
・ 加藤 浩晃(京都府立医科大学 特任助教/デジタルハリウッド大学大学院 客員教授/一般社団法人iEducation 代表理事/医師)モデレーター
・原 聖吾(株式会社情報医療 代表取締役/医師 )パネリスト
・武藤 真祐(医療法人社団鉄祐会 理事長/株式会社インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役 会長/医師 )パネリスト
・眞鍋 歩(メドピアグループ・株式会社Mediplat/医師) デモ
・坂野 哲平(株式会社アルム 代表取締役社長)デモ
・炭竃 辰巳(サン電子株式会社 AceReal事業部 執行役員 事業部長)デモ

民間企業が参入する遠隔診療領域には、4つのセグメントがある

京都府立医科大学 特任助教/デジタルハリウッド大学大学院 客員教授/一般社団法人iEducation 代表理事 加藤浩晃氏(医師)
京都府立医科大学 特任助教/デジタルハリウッド大学大学院 客員教授/一般社団法人iEducation 代表理事 加藤浩晃氏(医師)

加藤浩晃(以下、加藤):モデレーターを務めます、京都府立医科大学の加藤と申します。本日は株式会社情報医療 代表取締役の原聖吾先生と、医療法人社団鉄祐会 理事長の武藤真祐先生、そしてデモに3名のゲストをお迎えし、ヘルステック業界で話題となっている「遠隔診療」についてお話をさせていただきたいと思います。

まずは、簡単に私の自己紹介をさせてください。浜松医科大学医学部を卒業後、眼科医として10年間医療現場に立ちました。その際にDtoD(Doctor to Doctor)領域で遠隔診療アプリなどの開発に従事し、その後、厚生労働省に1年半ほど出向しました。現在は臨床現場で眼科医をしながら、遠隔診療や人工知能など、デジタルヘルス領域で事業サポートに従事しています。

株式会社情報医療 代表取締役 原聖吾氏(医師)
株式会社情報医療 代表取締役 原聖吾氏(医師)

原聖吾(以下、原):株式会社情報医療の原聖吾と申します。東京大学医学部を卒業して医師としてキャリアを積んだ後、2年前に会社を立ち上げました。医師から起業家へと立ち位置を変えていますが、一貫して医療の仕組みをより良いものにすることが私の根元にあります。

現在は人々が健康になる社会を創ろうと、DtoP(Doctor to Patient)領域で事業を立ち上げています。本日の議題にもなっている遠隔診療も我々が取り組んでいる事業領域です。本日は、よろしくお願いいたします。

医療法人社団鉄祐会 理事長 株式会社インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役 会長 武藤真祐氏(医師)
医療法人社団鉄祐会 理事長 株式会社インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役 会長 武藤真祐氏(医師)

武藤真祐(以下、武藤):みなさん初めまして。医療法人社団鉄祐会理事長の武藤真祐です。東大病院、三井記念病院にて循環器内科医として勤務した後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに転職し、コンサルタント業務に従事しました。

退職後は在宅医療のクリニックを立ち上げ、現在は5つのクリニックを運営しております。最近はシンガポールでも在宅医療を展開しており、アジアを中心にデジタルヘルス領域でプロジェクトを進めています。

加藤:これからデモを交えて遠隔診療の進歩についてトークセッションを行う上で、一度遠隔診療について情報を整理させてください。そもそも遠隔診療がヘルステック業界で話題に上がるようになったきっかけは、厚生労働省が2015年の8月に「情報通信機器を用いた診療について」の解釈を示す「事務連絡」を出したことが挙げられます。事実上、遠隔診療が解禁されたと解釈される発表をしたのです。

そこから遠隔医療領域に民間のプレーヤーが参入するようになりましたが、大きく4つのセグメントに分けられます。まずは対面からオンラインに変化した「診療」です。続いては、医師が遠隔診療では識別できない症状を、同じ医師に相談するDtoD領域。3つ目は、実際の診療とは異なり、患者さんが医師に症状の相談をする「非医療」領域。最後が、AppleWacthなどを用いて、自宅で症状をチェックして遠隔診療につなげるデバイスの領域です。

本日は、4つのセグメントの中から健康相談を手がけるMediplat(メドピアグループ)の眞鍋歩さん、DtoDコミュニケーションをメインに事業展開を行うアルムの坂野哲平さん、デバイスの開発を手がけるサン電子の炭竃辰巳さんをお招きいたしました。

変革困難な医療現場をテクノロジーで照らす民間企業のキープレイヤーたち

株式会社Mediplat(メドピアグループ) メディカルアシュアランスチーム チームリーダー 眞鍋歩氏(医師)
株式会社Mediplat(メドピアグループ) メディカルアシュアランスチーム チームリーダー 眞鍋歩氏(医師)

眞鍋歩(以下、眞鍋):Mediplatの眞鍋と申します。私たちはオンライン健康相談サービス「first call」を展開しております。「first call」は、24時間365日休みなく医師に相談ができるサービスです。

相談の形式は2つあり、1つはチャット相談です。また、テレビ電話で相談をすることもできます。小児科、産婦人科、精神科、内科など、ほぼ全ての科目において相談可能なのが「first call」の特徴になっています。

医療業界は人の命を預かる仕事ですから、なかなか変革が難しい。しかし今の医療が全ての人にとってよりアクセスしやすく、より便利なものになっていけば、きっとより良い社会になるのではないかと思っています。一人一人が気軽に相談できる医師を持つ、そんな未来の医療を作ることが私たちの目標です。

株式会社アルム 代表取締役 坂野哲平氏
株式会社アルム 代表取締役 坂野哲平氏

坂野哲平(以下、坂野):株式会社アルムの坂野です。私たちは医療機関のPACSシステムと連携した医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」を提供しています。「Join」は、日本初の保険適用アプリであり、院内で撮影したCTやMRI、X線や心電図などのDICOMデータをモバイル端末で確認することができます。

「Join」は瞬時に関係者間でデータを共有できるため、例えば、救急時等に若手の医師が遠隔にいる上級医師等に医用画像を共有しながら相談し、診療を行うことが可能になります。1分1秒を争う救急医療現場で、1つでも多くの命を救うべく、医療業界をテクノロジーの力で変革しています。

サン電子株式会社 AceReal事業部 執行役員 事業部長 炭竃辰巳氏
サン電子株式会社 AceReal事業部 執行役員 事業部長 炭竃辰巳氏

炭竃辰巳(以下、炭竃):サン電子の炭竃と申します。私たちは、さまざまな業界における人材不足を解消するべく、より安全に、より正確に、より効率的に業務を遂行するためのソリューションを提供することを目標に掲げています。

本日ご紹介させていただくのは、ARスマートグラス「AceReal One」です。「AceReal One」はヘルメットに装着することができます。救急医療において、救命士の方が「AceReal One」を装着して現場対応することをイメージしてください。

「AceReal One」には高解像度カメラが付与されているため、医師の方に実際の現場の映像を送ることができます。医師の方は救命士の方が見ているシーンを大画面で見ることができるので、適切な応急指示をしていただくことが可能です。

また必要に応じて、ARで必要な情報を空間上に配置しながら、現場の救急活動に専念していただけます。加えて、撮影した映像はエビデンスとして記録を残すことも検討中です。こうしたデータは人材教育のコンテンツとしても利用可能になるため、医療業界を問わず大きなイノベーションを起こしていけるのではないかと考えております。

ヘルステックビジネスに参入する前に押さえておくべき“3つの視点”

加藤:みなさん、ありがとうございました。私自身、ヘルステックビジネスを展開する上で、注意すべき点が3つあると思っています。「医療の現場感」、「医療の制度」、「ビジネス視点」です。その3点に留意した上で遠隔診療についての議論を進めていきたいと思うのですが、実際に医療現場に立つ武藤先生は、遠隔診療が今後浸透していくとお考えですか?

武藤氏がオンライン診療について話している様子

武藤:私たちは「オンライン診療」と呼んでいるのですが、一般的に「遠隔診療」と聞くと、以前は離島や僻地で医療を行うといったニュアンスが強かったと思います。しかし最近は、インターネット環境が整備されたことやデバイスの発達により、オンラインをベースにした医療が充実してきています。

オンライン(遠隔)診療は大きく外来と在宅に分けられますが、我々が手がける在宅に関しては、非常に大きな可能性があると思っています。患者さんに医療知識がなかった場合、電話でのコミュニケーションでは、医師へ的確に症状を伝えるのは困難です。しかし高度なデバイスを利用すれば、医師が適切な判断を下せるため、有事の際に正しいアプローチができるのです。

在宅診療でオンライン診療が浸透していけば、普段から在宅診療に従事する医師の物理的普段が減るだけでなく、患者さんの状態を把握しやすくなることで、提供する医療の質もさらに高まる可能性があります。患者さんとそのご家族もより安心できると考えます。

:武藤先生のご意見に付け加えると、遠隔診療は外来の継続治療にも大きな影響を与えられるのではないかと思っています。今年(2017年)の6月のアレルギー学会で発表させていただきましたが、長期間継続して治療を行わなければ完治しないスギ花粉症の「舌下免疫療法」に、オンライン診療の有用性が期待されます。対面だけで診療している場合は、治療継続が8割程度ですが、オンラインも組み合わせて治療をした場合、9割以上の患者さんが継続治療したという結果が出ました。

眞鍋氏が温欄健康相談のサービスについて話している様子

眞鍋:僕たちが提供するオンライン健康相談サービスは、遠隔医療の括りの一つではありますが、診療以前の「予防医療」にフォーカスしたサービスです。私自身が医師として、忙しさのためになかなか病院に行けず、重症化してから病院で診察を受ける患者さんを見てきたので、もっと早い段階で相談にのってアドバイスがしたいと感じていました。

「first call」が病院と患者さんの間に入るプラットフォームとなることで、日常的な予防・セルフケアの方法や、病院受診のアドバイスを行うことができます。
 
 

DtoPとDtoDの両輪にフォーカスを当てれば、より良い医療が実現する

加藤:DtoP領域でのお話を伺った上で、DtoDについてもお話をお伺いさせてください。坂野さんに質問ですが、医師と医師のコミュニケーションは、オンラインによって今後どのように広がっていくのでしょうか?

DtoDとDtoPについて話す坂野氏

坂野:大前提として、各疾患における専門医の数は世界中どこを見渡しても足りていません。私たちはそうした状況において、医師の方々がコミュニケーションを取り、相互に連携できる環境をつくることをミッションに掲げております。

しかし、ある医師が専門外のことを専門医に尋ねたところで、回答する医師へのフィーはほとんどないのです。医師の善意だけが、医療連携を実現しています。DtoP領域は現在注目を浴びていますが、DtoD領域でも尽力する医師にスポットライトが当たるような制度を構築していかなければならないと思っています。

加藤:ありがとうございます。DtoDに関しては、近い将来で診療報酬が加算されるべきだと個人的にも捉えております。

トークセッションの最後に、炭竃さんにも一つ質問をさせてください。2018年の診療報酬改定によって、医療をセグメントに据えていなかった企業も新たに参入してくるかと予想をしているのですが、そもそもサン電子さんが医療領域に参入した経緯をお伺いできますか?

DtoDとDtoPについて話す炭竃氏

炭竃:「AceReal One」は業界を問わず利用していただいているのですが、まず前提として業務を支障なく遂行していただくことを使命にしております。そうしたなかで医療業界の方にご相談をいただく機会も多々あり、医師の方が判断を下す際に、非常に意義のあるサポートをさせていただけるのではないかと思ったんです。

バックグラウンドが医療にあるわけではないので、今後は医師の方々と連携することで、より良い医療の実現に努めたいと考えています。

加藤:ありがとうございます。本日お越しの皆さんに想像していただきたいのですが、自分が重篤な病気を患ってしまったとき、医療はどのような姿になっていたら理想的でしょうか。

デバイスがさらに発達し、自分の体の状態がより詳細に把握でき、病院に足を運ばなくとも治療可能な社会になっていてほしいと私は思います。遠隔診療は、そうしたより良い医療の実現に、寄与するはずです。

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