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【Health 2.0・上田悠理】ヘルステックの新しいスタンダードは”Value-Based”┃HIMSS18に行ってきた―vol.3

2018.04.09

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上田悠理
  • b.hatena
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2018年3月5日~9日の4日間、ラスベガスにて、世界最大のヘルスケアITのカンファレンス「HIMSS18」が開催されました。初参戦した私(上田悠理)筆者が、現地で医師として、そしてヘルステックに携わる者として感じたことをお伝えしていくべく、皆様にお付き合い頂いております。

さて、今回はトピックに挙げられていた、様々なキーワードについてご紹介します。何せ数百からなるセッションの数々。そのカテゴリーだけでもたくさんですが、私が気になったものを重点的に・・・

※関連記事はこちら!
【第1回】
【Health 2.0・上田悠理】医療×ITの最先端!HIMSS18に行ってきたーvol.1
【第2回】
【Health 2.0・上田悠理】元GoogleCEOが見る医療ビッグデータビジネス、その先は┃HIMSS18に行ってきた―vol.2

Evidence-Basedはもう古い!? Value-Basedの考え方

病院内に、EHRシステムを始めとする様々なテクノロジーが進出してきました。そこで蓄積したデータを使ってソリューションを提供する方向に向かっているのは前回述べたところ。

では、その「ソリューション」ってどんなものでしょう?

例えば、解析したゲノムを元に癌などの疾患リスクを予想し、予防的治療をする、など。ポピュラーな例では、女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが乳がん予防として両側乳房切除を受けたのは議論になりました。

さて、医療業界では、EBM(Evidence-Based Medicine、根拠に基づいた医療)は基本的な考え方として定着しています。エビデンスに基づいた治療でないと、妥当な治療とは認められないわけです。(思い付きで治療されたら、患者さんもいい迷惑ですしね)。EBMが第一主義だったのです。

けれど、EBMはもはや「当たり前の前提」になっています。今、対策すべきなのは、その治療がいかに効果的・効率的であるか、ということ。つまり“Value-Based Care”なのです。

Value-Based Modelとは、元々保険会社による医療費の還付の際に試算される、Fee-for Service Model(一つの処置に対していくらの還付、という治療毎に計算する方式、日本の保険点数も基本はこの考え方)に対する概念です。量で加算するFee-for Service Modelに対して、質(効果、効率。入院期間の短縮など)を元に算出する方式のことを指します。
これをヘルステックに当てはめると、そのサービスにエビデンスがあるのは前提条件。そのサービスを使って、「いくら」医療費が削減できたか?に価値が出てきています。(これを試算するアルゴリズムも今後必要になってきますね!)

Value-Based-Careの概念図
“Value-Based-Model”では、エビデンスがあるのはもちろん、質とコストの両方が問われる

例えば、糖尿病の患者さんが、数値が悪くなって入退院を繰り返すのって経済的ではないですよね。そこで、一度入院した患者さんに、生活習慣管理アプリや遠隔問診サービスを導入することで、再入院を減らすわけです。「再入院予防」(=重症化予防)は、日本では意外と見落とされがちですが、わかりやすいValue-Based Serviceの指標になっています。
(実は、日本でも重症化予防に取り組んでいるスタートアップさんがいるので、いずれご紹介しますね!!)

Value-Basedなサービスに必要なのは最先端の技術じゃない

ただ、このValue-Basedなサービスは、最近のトレンドではあるものの、技術的に「最先端」である必要はないんです。

例えば、会社の健康診断で「糖尿病」だとわかり、外来で詳しく検査をしたら、合併症で腎臓も悪そうだと発覚した方がいるとします。そうなれば当然入院して、治療もします。そして、ある程度数値が改善したら退院。自宅で食事と運動に気を付けながら、数か月に1回外来を受診することになります。でも、数か月に1回の外来だけではあまり抑止力になりません。ランチはやっぱり、かつ丼大盛がいいんです。

そこでITサービスの登場です。食事管理アプリや運動記録デバイス、遠隔の栄養相談サービスなど。これで改善がなければ、数値は以前に逆戻り…。再入院(主治医のお説教もあるかも)となり、Value-Based Careは失敗となります。

その成否を分けるのは何なのでしょうか。もちろん患者さんが使いたくなるようなUIのアプリや、遠隔医療のモデルがあればベターですが、今あるサービスでも十分できそうじゃないでしょうか?

ただ、一つだけ。Value-Based Careに必須で、今はまだほとんど実用化されていない概念があります。それは、データの“Interoperability(相互運用性)”です。

“Interoperability”ってナニモノ!?

ちょっと長い単語なのですが、分解すると単純明快で、「Inter(相互に=Interact)-opera(運用=operate)-bility(能力=ability)」です。

上述の例で見てみると、ひとりの患者さんに対して、健診センター、クリニック、急性期病院、アプリなどのサービス提供者と、様々な人が関わっています。けれど、各々が好き勝手に患者さんのデータを管理して、他の人と共有しなければどうなるでしょう?

健診センターからクリニックに、その患者さんが糖尿病を疑った数値のデータが届かなかったら。そもそもなぜクリニックに受診したのか不明である上に、もう一度検査をする必要があります。また、入院していた病院を退院する際に、サービスの提供者に情報が伝わらなければ、その患者さんの問題は食事なのか、運動なのか良くわかりません。場合によっては不適当なサービスを導入して、結果再入院防止にならない、といったことが起こり得ます。

それって全然Value-Basedじゃない!!

つまり、Value-Based Careの肝は、最先端のテクノロジーではなく、既存の利害関係者間での情報共有=Interoperabilityなんです。HIMSSカンファレンスにおける展示の特徴の一つが、まさにこの“Interoperability”の活用事例のデモンストレーションです。

電子カルテの会社、医療機器メーカー、遠隔診療の団体、栄養士のサービス、地方自治体などが、いかにデータ連携をしているのか。実際の連携の例をライブで体感できるこのセクションは圧巻でした!

Value-Based CareのShowcaseでは、Academy of Nutrition and Dietetics, AHRQ, AllianceChicago, Brightree, CDC, Epic, GE, Infor, Netsmartの9団体が実際にデータ連携している事例を見ることができました。企業だけ、病院だけではない連携の重要さを実感できたのはすごくおもしろかったです。

関連した各医療サービスで、個人情報を連携して使用できるようになっているシステムのデモ
病院・企業問わず医療に関連するサービスが、個人情報を連携して利用できるようになっているシステムのデモンストレーション。

第1回目の導入でも言及しましたが、本当にDATA, DATA, DATA!!です。目に見えないものに重要度が移っており、抽象的で思考の迷路にはまりそうですね…。

さて、次回も引き続き、私が気になったキーワードを取り上げていきたいと思います。しばしお付き合い下さいませ!!

上田 悠理 Yuuri Ueda

医師/メドピア株式会社 Health 2.0 Asia – Japan 2017統括ディレクター

早稲田大学法学部を卒業後、岡山大学医学部に編入し医師免許を取得。形成外科・訪問診療医として、在宅高齢者の褥瘡管理に携わる。臨床を継続する傍ら、2017年4月よりメドピアが主催するHealth 2.0 Asia – Japan統括ディレクターに就任。臨床現場で感じるニーズと、テクノロジーで可能なこととの間に大きな隔たりを感じており、この壁を破壊するべく、ヘルステック領域のカンファレンスHealth 2.0 Asia – Japanの統括を中心に活動している。
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