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世界の認知症研究からみる、「認知症予防」の最新トレンド―ジョー・バギース医学博士

世界の認知症研究からみる、「認知症予防」の最新トレンド――ジョー・バギース医学博士
2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事では、ニューヨークの医科大学で20年間、認知症をはじめとした老齢学を研究するJoe Verghese氏を迎えたキーノート「認知症のリスクを予測する:科学・医療・技術」をダイジェストでお届けします。

70歳以上人口において、2番目に多数を占める障害疾患といわれる「認知症」。超高齢社会の日本では、今後も患者がますます増えることが予想されます。認知症は、数年をかけて徐々に発症に至るケースがほとんど。Joe氏は、だからこそ「日頃から身体の小さな変化を捉え、発症リスクを特定しておくことが大事だ」といいます。

20年にわたり世界の症例と向き合ってきたJoe Verghese氏が、最新の研究結果を踏まえながら、認知症の効果的な予防法を語ります。

患者の教養を問わない“万国共通”の認知症検査法「PMIS」

アルバート・アインシュタイン医科大学教授(医学博士) Joe Verghese氏
アルバート・アインシュタイン医科大学教授(医学博士) Joe Verghese氏

Joe Verghese(以下、Joe):私は、ニューヨークの医科大学で20年間「老齢学」の研究をしています。主に高齢者の多岐にわたる問題をテーマに、たとえば認知症やフレイル(虚弱、老衰)、転倒の問題などを扱ってきました。また、研究で得た知見を医療現場に活かし、認知症を特定する検査法などを開発しています。

私は検査法を開発するときに、大事にしていることが3つあります。まず、すべての患者に適用できるよう費用を安価に抑えること。そして、トレーニングを受けた人でさえあれば、たとえ医師でなくとも誰もが実施できること。最後に、患者の教育レベル(言語・数学能力)を問わず、誰もが受診可能であること。

こうした考えに至った経緯には、私が数年前にインドで認知症の研究を始めた頃があります。当時出会った患者は、教育機会に恵まれない方がほとんどでした。彼らの識字力を前提条件とした検査法を考案する必要があったのです。そこで開発したのが、「画像記銘力障害スクリーニング(Picture Memory Impairment Screen、以下PMIS)」という写真を使用した検査法です。

PMISに関するスライドを前に話すJoe氏

Joe:事前にさまざまな写真を用意し、患者には、お題に従って該当する写真を選んでもらいます。たとえば「交通手段はどれですか?」と質問をし、該当する写真を指してもらう。そして数分後に、「先ほど見た写真を思い出せるかどうか」を確認します。

その検査を繰り返し、連続して3つ以上の写真を思い出せなかった場合は、認知症のリスクがあるといえます。検査の精度も高く、10人中9人は正しく症状を特定することができるのです。

ちなみに、PMIS以外の主な検査方法として、「ミニメンタルステート調査(MMSE)」が一般的に知られています。しかしMMSEは、図形描画や文章を書く作業が伴うため、患者の教育レベルが低い場合には症状を特定しづらい懸念があります。また、予測率が約60%と精度があまり高くありません。
  
   

「物忘れ」と「歩行速度の低下」が気になり始めたら、まずは認知症を疑ってみるべき

認知症のリスクに関して話すJoe氏

Joe:認知症の大半は、数年単位の時間をかけ、徐々に発症に至るケースがほとんどです。なので、特に高齢者は日頃から身体の小さな変化を捉え、認知症のリスクを特定しておくことが大事です。

直近10〜15年の研究では、認知症の前兆とされる症例が明らかになっています。たとえば、認知症の自覚症状がなく、日常生活に支障はない方の場合でも、「軽度認知障害(MCI)」になっている可能性があります。

また、認知症が発症していない高齢者の方でも、物忘れが激しく、かつ歩行速度が遅くなった場合には「運動認知リスク症候群(MCR)」であると考えられます。こちらは発症例が多く、以前17ヶ国・2万6,000人の成人を対象に行った調査では、10人のうち約1人がこの運動認知リスク症候群であることが判明しました。

また東京でも同様に、認知症リスクに関する研究を行ったことがあります。認知症患者の介護に1年以上携わった方(看護師やセラピストなど)を対象に、高齢者の転倒についてヒアリングをしました。そこで判明したことは、やはり「認知症を患う高齢者は、歩行中に転倒するリスクが高い」ということ。全員のケアをしていたら、莫大な費用がかかります。

しかし、認知症を患ったすべての高齢者が転倒するとは限りません。転倒リスクが高い患者のみをターゲットにし、かつ彼らの転倒を防止するコストを削減すれば、結果的に大幅な介護費用が節減できるということになります。こうした結果を受け、私は数ある認知症の前兆のなかで、特に高齢者の歩行機能の改善に着目するようになりました。
   
    

世界各国の研究結果にみる、多様な認知症予防法

Joe:先ほどの調査のように、歩行能力と認知機能には密接な関係があります。たとえば思考や情報処理といった認知の遂行能力が低下した場合、歩行能力に影響を及ぼすことが分かっています。

では逆説的に、認知機能を改善することで、たとえ運動せずとも歩行能力を改善することができるのではないか。そう考えた私は、実証実験を行いました。被験者は24人。12人には、ブレインゲームを週3回・3ヶ月間行い、継続的に脳を活性化させてもらう。残りの12人には、対照群として通常どおりの生活を行ってもらいました。

3ヶ月後に測定を行った結果、ブレインゲームで継続的に脳を活性化していた12人は、歩行スピードが約15%改善していました。一方、対照群の12人も若干の変化はあったものの、顕著ではありませんでした。非常に座りがちな生活を行う人でも、脳を活性化するだけで歩行機能を改善することができると判明したのです。

スライドの前で話すJoe氏

Joe:他にも、世界各国では様々な認知症予防策が研究されています。特に「社交性」は、直近12年ほど注目されているテーマであり、世界各国から実証結果が報告されています。

たとえば2000年にはスウェーデンから「高齢者のなかでも、特に社交的な人たちには認知症患者が少ない」という研究結果が出ました。それから、タイの研究では「特に友人と交流することで、より認知機能が維持される(家族との交流は、あまり効果がない)」という結果も出ています。

また、イギリスの研究では「性別によって、認知機能の維持に効果的な交流相手が異なる」とされており、「男性は配偶者、女性は友人とのインタラクションがあると認知機能が維持されやすい」との結果が出ています。

さらに、アメリカや日本の研究機関では「認知症予防の活動として、特にダンスが効果的である」という結果も出ています。このように、認知症予防においては、社交性がひとつのキーワードであり、エイジングケアの秘訣といえるでしょう。

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