TREND

国内外のヘルステックの最新トレンドを知るための情報をお届け

デジタルヘルスは“ゴールドラッシュ”ではない。ユーザーに使い続けられるアプリケーションの本質とは?

2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事では、VSee創業者のMilton Chen氏を迎えた「Keynote:遠隔診療~米国におけるトレンドと課題~」をダイジェストでお届けします。Chen氏が開発を手がける「VSee」は、NASA 国際宇宙ステーションで宇宙飛行士が毎日診療を受けるための遠隔医療水準を満たす遠隔医療ソフトウェアとして認定され、1,000を超える企業や機関で導入されています。

近年急速な勢いで市場拡大するデジタルヘルスマーケットでは、次々にアプリケーションが開発されては、人々に忘れ去られていきます。Chen氏は、こうした市場の膨張に対して「ゴールドラッシュだと捉えられている」と警鐘を鳴らしています。Chen氏が語る、長く使い続けられるアプリの共通点と、日本における遠隔診療の課題とは?

医療の課題は「医師不足」ではなく「市場不足」

VSee Lab, Inc CEO Milton Chen氏
VSee Lab, Inc CEO Milton Chen氏

Milton Chen(以下、Chen):VSee社のCEOをしておりますMilton Chenと申します。Vsee社は遠隔医療のプラットフォーム「VSee」を提供する創業から10年の会社です。

本日は弊社が提供する2つのサービスと、日本における遠隔医療の現状と課題についてお話しさせていただきます。まずは、遠隔医療のプラットフォーム「VSee」についてお話しさせてください。

「VSee」は、弊社が提供する無料ビデオ通話アプリです。複数人との同時対話に対応しており、接続しているユーザー全員の映像を見ながら、音声通話やテキストチャットを行うことができます。

クリックひとつであらゆるアプリケーションを共有できる手軽さに加え、高度なセキュリティを持ち合わせていることが特徴です。非常にシンプルなインターフェースを採用しているので、いずれの機能も使い方は容易。「VSee」は、宇宙飛行士が毎日診療を受けるNASA 国際宇宙ステーションでの遠隔医療水準を満たすソフトウェアとして認定されています。さらに、VSeeの技術を利用している企業・機関は MDLIVEやInternationalSOS、Dell、 Lenovoなど1,000社を超えております。

既存の遠隔診療では、ビデオでのコミュニケーションで遠隔診療をするのは難しかった。しかし、「VSee」はそうした困難を克服することに成功しています。在宅でも、高齢者や慢性疾患の患者さんが自宅で健康診査を受けたり、血糖値等のデータを採ることができるのです。

イラクやシリア、アフリカ、ソマリアなど、医療施設がない地域でも、遠隔診療によって治療が可能になります。そういった地域では、スーツケースに入ったインスタント医療記録システムをレディーキットとして使用して対応しています。

2つ目のサービスは、「This American Doc」です。近年世界では、アメリカを中心に医師不足が叫ばれています。しかし本当に不足しているのは、医師ではなく「市場」です。医師の労働時間をより小さく分割して市場に提供することができたならば、医師不足は解消されるでしょう。

それを可能にするのが医師のスタッフィングを行うオンラインプラットフォーム「This American Doc」です。遠隔地の小さいクリニックの人手不足、あるいは大きな病院での休日の人手不足などに対応するために、さまざまな医師や専門分野のドクターをマッチングすることができます。効率の良いスタッフィングは、医師不足の解消につながるでしょう。
    
    

デジタルヘルスは“ゴールドラッシュ”なのか?専門家視点で見る医療市場の現在と未来

デジタルヘルスの近況について話すMilton氏

Chen:続いて、デジタルヘルスの近況についてお話させていただきたいと思います。みなさんは江戸時代に傷薬として用いられていた軟膏「ガマの油」をご存知でしょうか。万能薬として有名で、これを使えばどんな病気も治ると言われていました。現在医療領域では、「デジタルヘルス」がガマの油のように捉えられています。

これまでに25万ものアプリケーションがデジタルヘルス領域で開発されているのは、この領域がまるでゴールドラッシュのように考えられてしまっているからなのです。

今では経費を節減し、安価で質の低いサービスを提供する事態が発生してしまっています。もちろんデジタルヘルスには素晴らしい可能性がありますが、光あれば影ありということで、慎重な姿勢を持つことが肝要になります。

デジタルヘルス市場が巨大化していくに連れ、開発されるアプリケーションも増えていきます。しかし、そのほとんどは2年も経たずに忘れられてしまうのです。

Chen:では、その中で生き残っていくために必要な条件は何なのでしょうか?答えは、デザインにあります。その理由は、「Snapchat」や「LINE」など、数多くのユーザーに利用されるチャットアプリを見ればよく分かります。双方に共通するのは2種類の“デザインの良さ”です。

1つは、一般ユーザー・患者さんにとっての“デザインの良さ”。どのアプリもユーザーインターフェースは似ていますが、デザインに若干の差があり、人々はその細かな部分に注目しているのです。利用しにくいデザインのアプリケーションは、世代に関係なく敬遠されます。

高齢者には技術やITの話は伝わりにくいという声をよく聞きますが、そんなことはありません。高齢者だからITを苦手としているのではなく、要はデザインの問題なのです。

もう1つは、医師にとっての“デザインの良さ”です。患者さんはデジタルヘルスを比較的受け入れ安いですが、医療従事者がそうだとは限りません。デジタルヘルスを導入することによって自身のサラリーが上がらないのであれば、導入する意義を見出せない人が多いのです。つまり、医療従事者の生産性を上げるデザインであることが必要なのです。

ふたつの“デザインの良さ”を満たすことで、何年経っても忘れられられることのないデジタルヘルスアプリケーションを作ることができるのではないでしょうか。
     
    

医療課題解決に向け、日本における“遠隔医療のブループリント”を語る

日本の遠隔医療の課題について話すMilton氏

Chen:最後に、日本の遠隔医療の課題についてお話しさせていただきます。

世界各国には医療制度が未発達の国が数多くありますが、そうした国に比べ日本は非常に恵まれた環境にあります。たとえば医療制度が整っていないフィリピンでは、人口の約半分が医師免許を持ったドクターに会うこともなく亡くなっていくのです。離島が多い土地柄が原因の1つですが、遠隔医療がこの現状を改善していくでしょう。医師・医療従事者の教育に力を入れ、デジタルヘルスを理解できる人材を育てれば、ますます医療が進歩していくはずです。

一方日本は、医療制度自体が発達しており、非常に恵まれた環境にあるといえます。そうした日本が次のフェーズへ到達するために必要なことは、病院中心型から分散型のケアモデルへと移行することだと考えています。

分散型とは、訪問介護や在宅診療を指しています。訪問介護は長年に渡って行われてきたかと思いますが、これからは費用対効果性があり、デザインに優れていることがポイントになっていくでしょう。

  • b.hatena
  • pocket