TREND

今を見つめる

医療における個人情報はどう管理・活用されるべきか?ブロックチェーン時代の健康の“共創”に向けて

2018.06.05

Text By
小池真幸
Edit By
オバラミツフミ
Photos By
横尾涼
  • b.hatena
  • pocket
2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事では、パネリストにクロサカタツヤ氏(慶應義塾大学 特任准教授 / 株式会社企 代表取締役)、信朝裕行氏(内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 政府CIO補佐官)、
比嘉靖氏(沖縄県医師会 情報システム担当理事 / 東部クリニック院長)をお招きして行われたトークセッション「個人情報は誰が守り、いかに管理するか」をダイジェストでお届けします。

医療におけるデータ活用が進展する昨今、診断情報・健康情報など個人情報の管理主体・方法についての議論がますます重要性を増しています。それぞれ別の立場から医療情報管理に取り組まれている3人のパネリストに、医療における個人情報管理の難しさや、いまホットなブロックチェーン技術の活用方法を語っていただきました。

※セッション登壇者
・クロサカ タツヤ氏(慶應義塾大学 特任准教授 / 株式会社企 代表取締役)
・信朝 裕行氏(内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 政府CIO補佐官)
・比嘉 靖氏(沖縄県医師会 情報システム担当理事 / 東部クリニック院長)

個人情報の“保護”から“活用”へ。官民データ活用推進基本法の意図とは

クロサカタツヤ(以下、クロサカ):本題に入る前に、一つ質問です。今朝(2017年12月6日)の日本経済新聞を読まれた方はいらっしゃいますか?

慶應義塾大学 特任准教授 / 株式会社企 代表取締役 クロサカ タツヤ氏
慶應義塾大学 特任准教授 / 株式会社企 代表取締役 クロサカ タツヤ氏

表題に「個人データ独占に風穴」とあります。データポータビリティー(※)の概念を日本でも取り入れようという話がされています。

※個人に由来するデータを保有する事業者に対して、各個人がデータの閲覧や他の企業への譲渡をいつでも要求できる権利

GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)をはじめ、巨大企業によるデータの寡占を防ぎ、多様なサービスが育つ競争環境を整備する狙いがあるようです。

このデータポータビリティーの考え方を医療に適用すると、「EHR(Electronic Health Record)」「PHR(Personal Health Record)」の議論に行き着きます。医療機関起点のEHRと、患者起点のPHRで、アプローチは異なりますが、いずれも最終的には個々の医療施設を横断して医療・健康情報を共有・蓄積することなので、これらを推進するためにはデータポータビリティーの導入が不可欠。データポータビリティーが認められないと、データが個々の医療施設に分散してしまうからです。

本日は、こうしたデータポータビリティーの機運の上昇も念頭に置きつつ、医療におけるデータ活用が進展するなかで、診断情報や健康情報といった“個人情報”を、誰がどのように管理すべきなのかを議論します。いまホットなブロックチェーン技術の活用方法についても触れる予定です。

内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 政府CIO補佐官 信朝 裕行氏
内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 政府CIO補佐官 信朝 裕行氏

信朝裕行(以下、信朝):医療におけるデータ活用については、国や医療従事者の間でさまざまな議論が発生しています。たとえば情報通信技術の応用、国が保有する官民データの取り扱い、パーソナルデータストア(ユーザー主導で個人情報を管理できる仕組み・サービス)などです。

議論の活発化を背景に、2016年に官民データ活用推進基本法が公布・施行されました。もともと改正個人情報保護法をはじめ、データ保護の機運は高まりをみせていましたが、保護だけでなくデータ活用も促進する意図で制定された法律です。

法律によって大きく変わったポイントは3つ。①行政手続きを対面署名ファーストからオンラインファーストへ、②国および地方公共団体が保有するデータを第三者が活用できるオープンデータに(個人および特定の事業者の利益を毀損しない範囲で)、③本人同意を前提としたパーソナルデータの活用推進です。

クロサカ:特に3つ目は重要ですね。情報銀行やパーソナルデータストアといった仕組みを整え、個人情報のさらなる活用を推進する狙いが見てとれます。

また、データ活用に興味がある医療従事者の背中を押す意図もあったと思います。実は医療・健康情報を活用しようと思っても、法律が複雑すぎて諦めてしまうケースが多いのです。

医療業界は、個人情報保護にかかわる法律や条例が計2,000個程度ある「2,000個問題」に陥っています。行政機関個人情報保護法、独立法人個人情報保護法に加えて、各自治体がそれぞれ定めている条例にも従わなければいけないのです。いくら医療・健康情報活用への意志があっても、入口でつまずいてしまうでしょう。

沖縄県医師会 情報システム担当理事 / 東部クリニック院長 比嘉 靖氏
沖縄県医師会 情報システム担当理事 / 東部クリニック院長 比嘉 靖氏

比嘉 靖(以下、比嘉):官民データ活用推進基本法を制定することで、ルールの複雑さに圧倒され、二の足を踏んでいた人たちのチャレンジを後押ししているのですね。

さらにもう少し本質的な話をすると、どのレベルのデータをオープンにするのかの線引きが1番の課題だと思っています。「個人および特定の事業者の利益を毀損しない範囲」の認識のすり合わせが難しいでしょう。加えて、福祉や健康診断のデータも医療行為の参考になるので、どの範囲のデータまで医療に活用するのかの選定についても、まだまだ議論の余地があります。
    
 

ポイントは“先走りすぎないこと”。患者・医療従事者を巻き込んだ健康の共創のために

信朝:なかなか厄介な問題ですね。そもそも医療・健康情報の管理主体についての議論が難しいのは、ステークホルダーが多くて複雑だからです。

医療にまつわるデータは大きく分けて3種類あります。①個人由来のデータ、②レセプト由来のデータ、③EHR由来のデータの3つです。

①は、ウェアラブルデバイスなどで本人が意図的に取得しているデータを想像してもらえると分かりやすいでしょう。②は厚生労働省を中心に議論されていて、特定健診の情報をマイナンバーポータルで本人に還流させる仕組みが検討されています。③については、EHRの情報を個々人がPHRとして活用できるように還元する動きがあります。

こうした各ステークホルダーが複雑に絡み合っているので、医療情報は管理が難しいのです。そんな困難な状況において、比嘉先生は「おきなわ津梁ネットワーク」を通してEHRに取り組まれています。運用で苦労した点はありますか?

比嘉:各病院ごとにセキュリティポリシー、電子化へのスタンスが違う点に苦労しました。「患者さんや医療業界の進展のためなら協力を惜しまない」スタンスの病院がある一方、「電子化なんて絶対にダメだ」という病院もあるんです。

結局、コツコツと説得していくしかなかったですね。EHRを推進することで、患者さんやコミュニティにどんなメリットがもたらされるのかを、適切に噛み砕いた形で伝えていくしか方法はありません。誰も読まないような規約に、形だけのサインをしてもらっても意味がないので、しっかりと本質を理解した上で納得してもらわなければいけないのです。

クロサカ:その結果、どのくらいの規模感になったのでしょうか?

比嘉:3万5千人です。沖縄県民140万人のうち、2.5%ほどですね。現場で一人ひとりにご説明し、登録してもらうのは非常に労力がかかります。地道な積み重ねを続け、少しずつ規模が拡大している段階です。

さらなる拡大のためのポイントは、“先走りすぎないこと”だと思っています。データリテラシーやセキュリティ意識が高くない方も少なくないので、そういった方に最先端テクノロジーの説明をしても逆効果。あまり遠い存在に感じてしまうと、かえって近寄りがたくなってしまいます。現場の方々が置いていかれないように、徐々にステップを踏みながら説得することが大事です。

信朝:誰もが理解できる形で推進されているのですね。その際、患者さんと医療従事者が十分に話し合うこともポイントだと思います。どの情報を記録してどの情報を記録しないのか、都度膝を突き合わせて話し合いながら、納得感のあるかたちで“健康”を共創していくことが求められるのでしょう。
    
   

個人情報の取得・活用は、手段であって目的ではないーーブロックチェーン時代の医療

クロサカ:ただ情報をデータ化すればいいというわけではなく、情報の記録方法についての議論も必要なわけですね。情報の記録方法としては、昨今ブロックチェーン技術が盛り上がっています。医療での活用方法については、どう思われますか?

信朝:率直に言うと、医療データをそのままブロックチェーンに乗せるのは難しいと思います。ブロックチェーンがトレーサブル(追跡可能)であるがゆえに、公開すべきでない情報まで公開されてしまうからです。

よって医療においては、データそのものではなく、作成・閲覧・活用履歴を管理するシステムとしてブロックチェーン活用が推進されています。こうした管理システムが機能すればセキュリティが高度になり、プライバシーの漏洩リスクを限りなくゼロに近付けられます。

“ブロックチェーン大国”として知られるエストニアでは、有名な俳優さんが入院していた際に、別の病棟の看護師が彼の病歴を閲覧した履歴がブロックチェーンで明らかになり、その看護師が厳しく処罰された例もあります。

クロサカ:絶対的な価値観が必要なセキュリティと、個別評価が重要になるプライバシーの両立は、当たり前のように見えてとても重要なことです。こうした新しいテクノロジーが出てきたときに、その重要性を踏まえながら、「どこに使うか/使わないか」という距離感の取り方もまた重要になってきます。テクノロジーの進展スピードは世の中の理解スピードよりも速い傾向にあるので、そのテクノロジーをどう現場に入れ込むのかを考えなくてはいけない。

医療におけるブロックチェーンについて語る三人

比嘉:システムコストの問題も解決しなければいけません。現状の情報管理システムだとコストがかかり過ぎます。

信朝:ブロックチェーンにせよPHRにせよ、個人情報の取得・活用はあくまでも手段であって目的ではないことを忘れてはいけません。一人ひとりに合わせたきめ細かい提案を通じ、医療・ヘルスケアの質の向上を追求するという目的を見失わないようにしましょう。

医療業界は動きがゆっくりなところもあると思うのですが、この「Health 2.0」のようにコミュニティを形成して議論を進めることが大事です。
            
          


イベント告知

本記事のセッションが行われた、世界最大規模のヘルステック・カンファレンス「Health 2.0 Asia – Japan」。開催4回目となる「Health 2.0 Asia – Japan 2018」が12/4,5に開催!

8/26まで早期割引で参加料がお得です。まずは公式サイトで詳細をチェック!

Health 2.0 Asia – Japan 2018
「Health 2.0 Asia – Japan 2018」公式サイト

  • b.hatena
  • pocket