TREND

国内外のヘルステックの最新トレンドを知るための情報をお届け

「医師起業家にしかできないこと」ー“最先端の医師たち”

2017年12月5日から6日にかけて渋谷ヒカリエで行われた、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2017」。

本記事では、モデレーターに池野文昭氏(MedVenture Partners 株式会社 取締役)、パネリストに石見陽氏(メドピア株式会社 代表取締役社長)、中山俊氏(アンター株式会社 代表取締役)、松村雅代氏(株式会社BiPSEE 代表取締役)、佐竹晃太氏(株式会社CureApp 代表取締役)をお招きして行われたトークセッション「『最先端』の医師たち」をダイジェストでお届けします。

さまざまなテクノロジーが進化している昨今、「医療業界でインパクトをもたらせるのは、患者のことを分かっていて、かつ事業も経験している経営者だ」と池野氏は話します。今回は医師兼経営者の4人のパネリストに登壇いただき、医療×テクノロジーの可能性や医師による起業について話をお聞きしました。

※セッション登壇者
・池野 文昭(MedVenture Partners 株式会社 取締役チーフメディカルオフィサー)モデレーター
・石見 陽(メドピア株式会社 代表取締役社長 CEO)パネリスト
・中山 俊(アンター株式会社 代表取締役)パネリスト
・松村 雅代(株式会社BiPSEE 代表取締役)パネリスト
・佐竹 晃太(株式会社CureApp 代表取締役)パネリスト
 ■目次

   
   

“最先端の医師”たちが、医師と起業家の二足の草鞋を履く理由

池野文昭(以下、池野):10年程前まで、「医師が起業するのはいかがなものか」という風潮がありました。しかしここ数年で風潮が変化し、「医師こそ起業するべきだ」と考えられるようになっています。

MedVenture Partners株式会社 取締役 チーフメディカルオフィサー 池野文昭氏(医師)
MedVenture Partners株式会社 取締役 チーフメディカルオフィサー 池野文昭氏(医師)

私を含め、4人のパネリストの皆さんはヘルステック領域で起業しており、かつ医師免許を持っています。まずは、皆さんから簡単な自己紹介と会社の説明をお願いします。

石見陽(以下、石見):メドピア株式会社の石見陽です。簡単に事業内容を説明しますと、医師同士で薬の口コミ評価を共有したり症例の相談ができる、医師専用のコミュニティサイト「MedPeer」を運営しています。会員は現時点で10万人で、医師の3人に1人に加入していただいています。創立から14年が経過し、3年前(2014年)に東証マザーズに上場しています。社員数はグループ会社を含め90名程度です。私自身、週に1日は、一般内科の外来で医師業務に従事しています。

中山俊(以下、中山):アンター株式会社の中山と申します。Doctor to Doctor(以下、DtoD)のQAアプリケーション「AntaaQA」を運営しています。「AntaaQA」は、医師が医療現場で悩んだときにアプリ上で相談すると、他のドクターが回答をくれるサービスです。臨床は週2日。起業したのは昨年の6月で、社員は3名です。

松村雅代(以下、松村):株式会社BiPSEEの松村雅代と申します。歯科治療に対する不安を軽減し、スムーズな治療をサポートするサービスを展開しております。具体的にはVRゴーグルを治療中に患者さん、特にお子さんに着けて頂きます。治療器具等が視界に入らず、治療にベストな頭のポジションになったときにだけ、映像が展開される仕組みを作っています。創業は今年7月。臨床は週1回、心療内科の診療を続けています。

株式会社BiPSEE 代表取締役 松村雅代氏(医師)
株式会社BiPSEE 代表取締役 松村雅代氏(医師)

佐竹晃太(以下、佐竹):株式会社CureAppの佐竹と申します。弊社は院外・在宅の時間も患者様にアプリによる治療サポートを行うことで、通院と通院の間の空白を埋める、新しいコンセプトの「治療アプリ®︎」を開発・展開しています。さまざまな疾患に対してソフトウェアが治療のガイダンスを出すことで、病気の治療効果を臨床的に出す取り組みをしています。創業は2014年7月で、社員はアルバイト含め30名程度です。臨床は週1回行っています。

池野:ありがとうございました。それではまず、ビジネスを始めた理由をお聞かせいただけますか。医師だけでも十分食べていける状態で、なぜあえて起業家になられる道を選んだのかお伺いさせてください。

石見:私が起業した2004年当時は、「1円で起業できる」と言われていた時代で、サイドビジネスとしてスタートしました。しかし事業を展開する途中から、医療訴訟件数が増加の一途を辿る中で、一般の方が医療に抱く不信感をひしひしと感じ始めたんです。何かを変えなきゃいけないと、自分が臨床を続ける他に社会に貢献できる道はないのかなと思い始めました。

その頃、社会的な課題に対してビジネスやマネジメントのスキルを応用し、収益を確保しながら継続性をもって問題の解決に取り組む「ソーシャルアントレプレナー」が注目されていて、医師もそうした立場になってもいいのではないか?と考え、本格的にビジネスでチャレンジすることを決めました。

中山:僕は「なんでも診れるお医者さんになりたかった」のが起業のきっかけです。出身が奄美大島なので、まさに「島のお医者さん」を目指していました。ただ、医師になってから最初の3年で整形外科医をやっていたら、骨折しか診れないお医者さんになってしまっていたんです。

アンター株式会社 代表取締役 中山 俊氏(医師)
アンター株式会社 代表取締役 中山 俊氏(医師)

糖尿病の薬などが新しくなっていくなかで、自分は一つの領域でしか価値を発揮できていない。そこに課題を感じ、解決するためのサービスを作ろうと決め、起業をしました。

池野:自分が直面した問題に対して解決する手段を考えていたら、ビジネスにした方が早いと考えられたのですね。続いて、松村さんお願いいたします。

松村:私はもともと医師ではなく、リクルートで営業をしておりました。そもそも医師に対して不信感を持っていたところがあり、医師ではない立場から医療の世界を変えたいと思うようになったんです。そうした意図で、アメリカのビジネススクールに入学しました。

医療コンサルティングで事業を起こしたいと考えていましたが、医療的なバックグラウンドがなければいけないと思い立ち、学士編入試験を経て岡山大学医学部を卒業し、医師になっています。

さらに去年の4月にVRデザイナーやプログラマー、歯科医師に会う機会があり、VRを使うことで患者と医師との関係に新しい展開が生まれる可能性に気づき、会社を始めた次第です。

佐竹:私はアメリカの大学院に在学している際に、『アプリケーションを使った治療』という論文を読んだことがきっかけでした。ソフトウェアを使うことで、臨床上しっかりと治療効果が出せるという趣旨で、全く新しい治療ツールの可能性に大きな衝撃を受けました。ぜひ、広く世の中に普及させていきたいと考えたんです。

株式会社CureApp 代表取締役 佐竹晃太氏(医師)
株式会社CureApp 代表取締役 佐竹晃太氏(医師)
    

「MDには投資しない」がシリコンバレーの定石。医師×起業家の苦悩

池野:シリコンバレーでは、キャピタリストが絶対投資してはいけない企業として「患者を診ているメディカルドクター(以下、MD)がCEOのベンチャー」が挙げられます。組織がある程度の規模に成長したときに、(臨床を続けたままでは)あまりスケールするとは考えられていないのです。経営やマネジメントなど、組織の長となることの苦労、そしてその苦労をどう乗り越えてきたかを教えていただきたいです。

メドピア株式会社 代表取締役社長 石見陽(医師)
メドピア株式会社 代表取締役社長 石見陽(医師)

石見:僕、引退したほうがいいですかね(笑)。

質問にお答えすると、マネジメントする人数によって必要なリーダーシップは違うと思っています。登壇者の中では弊社が社歴が一番長いので、そういった意味ではさまざまな経験をしてきているかと思います。

組織の人数が1〜10人、10~30人、30~50人、そして100人以上と区切ると、医師に限らず、0〜1の立上げから、100人や1,000人以上を抱える組織まで連続的に成長させられる経営者は、そう多くないでしょう。

弊社は現在90人以上の社員がいますが、ここから更なる拡大に向けてはチャレンジだと感じています。また、経営を何年続けても、楽になったことは1度もありません。資金繰りが大変なときもあれば、サービスができないこともある。人で悩むときももちろんあります。

池野:14年もCEOということは、石見さんは医師というより、もはやCEOですね。中山さんはいかがでしょうか?

中山:僕は週2で臨床を行いながら、会社では医師のリアルなコミュニティを作っている段階です。参加者が1,000人弱いるため、医師が持つ知識を集約することで、サービスを成長させています。僕自身も医師であることから、ユーザーや参加するドクターの信頼を醸成することができていると思います。

しかし投資家の方には、「中山さんは医師ですか、それとも経営者なのでしょうか?」と問われるのです。「このフェーズはいつ変わるだろうか?」と、いつも感じていますね。

医師起業家について5人で話す様子

池野:ビジネスや経営ができる優秀な人をパートナーにつけられればいいと思います。DtoDのビジネスを展開する上で、現場から抜けるのはマイナス要因になりかねないので、今後事業拡大をしていくにあたり、経営が得意な友人を「一緒にやろうぜ」と巻き込んでしまうのが正解なのかもしれません。佐竹先生の会社も大きな所帯になりつつありますが、いかがでしょうか?

佐竹:人数が増えれば増えるほど、新しいチームワークが求められるのを、日々感じています。それまで阿吽の呼吸でプロジェクトが進んでいたのに対し、人が増えると、必ずしもそうはならないのです。

ドクターの起業は0~1の後が難しいことも実感していて、幹部にはビジネスサイドやテクノロジーの部分など、私が持っていないスキルを持つ人を仲間に入れることで、彼らから日々学ばせてもらっています。

池野:先ほどお話ししたシリコンバレーの定石についてですが、実はもう一つお話があります。MDがCEOでEXITした経験を持つ起業家は、次も絶対に成功すると言われているんです。

病気のことも、医療現場のことも知っている。なおかつ、経営に関する知見があるからです。
      
      

医療のテクニカルチャレンジは、“最先端の医師たち”によって引き起こされる

池野:日本で患者さんを診る治療デバイスを作る際は、多くの人が「医師会との関係性」について言及しています。それに対して、ご意見はありますか。

石見:弊社は医師をプラットフォーム化していくビジネスなので、医師会との関係は肝要です。会員数も相当な数になり、社会的責任をより一層感じているので、医師会の方にまずは弊社を知っていただく活動をしています。

中山:私たちの事業はドクターネットワークですので、医師会との関係は大切ですし、自治体との関係性も大切だと思っています。

松村:VRを医療に応用するビジネスモデルに対し、「本当に大丈夫なの」とご心配される方もいらっしゃいます。そのため臨床結果を残していく、データを出していく、「これはエビデンスベースですよ」と打ち出していくことに注意を払っています。

佐竹:弊社は医療機器を扱っているので、薬事承認など、しっかりと承認を受けることが重要です。患者さん視点でも有益で、医師視点でも新たな医療を創造することになると考えての起業なので、各ステークホルダーの方々にも共感いただきたいと思って活動しています。

今後の事業展望について語る池野氏

池野:遠隔医療が一つの例ですが、医療も変化しつつあります。そうしたターニングポイントで、誰が上申するかといえば、やはりみなさんのような、患者を知っていて、かつ事業を展開する“最先端の医師”たちなのではないかと思います。

日本の制度を変える意味でも、社会に対してかなり責任があると思います。ぜひとも、皆さんには頑張っていただきたいと思っています。

  • b.hatena
  • pocket