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その“エビデンス”は本当に正しいか?ーーUCLA助教授・津川友介医師が解き明かす、医師と食事の選び方の真実

「ヘルステック業界で14年間ビジネスをしていますが、未だに『夜明け』は来ていないという実感を持ち続けています」–––メドピア代表・石見陽氏の課題感から生まれた、ヘルスケア業界においてネットワークを構築できる場を提供し、チャレンジする人の背中を押すイベント「Healthcare Daybreak」。

本記事では、2018年4月に発売され10日で10万部を突破した大ヒット本『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』の著者でもある津川友介氏をお招きした「Healthcare Daybreak vol.5」の模様をダイジェストでお届けします。

医師でありながらUCLA助教授として医療政策学・医療経済学の分野で研究を続ける津川氏。「エビデンスに基づかない誤った情報が氾濫しており、健康になるための正しい選択が難しくなっている」と指摘します。著書で紹介された内容に沿って、「医師」選びから「食事」選びまで、エビデンスを使いこなした情報選択についてお話しいただきました。
 ■目次


科学的根拠のない“エビデンス”が流布している。「信頼性」を見極める判断軸とは

カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教授 津川友介氏
カリフォルニア大学ロサンゼルス校 助教授 津川友介氏

津川友介(以下、津川):UCLA助教授の津川と申します。本日は、拙著『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事(以下、『究極の食事』)』をお読みいただき、この場にお越しいただいた方も多いのではないかと思います。本の中でも解説していますが、私は「エビデンス」、つまり科学的根拠に基づいた研究を行うことを、何よりも大切にしています。本日は、そんな「エビデンス」に基づく意思決定方法についてお話しできればと思います。

「エビデンス」は医療の世界では前から良く知られたコンセプトでしたが、医療以外では認知度は高くありませんでした。しかし、3年ほど前から世間的にも認知が進み、今では一般の方でもこの言葉の意味を知っている人が多くなりました。エビデンスは、もともとは1990年代の初頭に医学の世界で使われ始めた言葉です。

先述の通り、エビデンスの本来の意味は精緻な研究から導き出される「科学的根拠」です。しかし、近年では単語自体のキャッチーさから、とてもエビデンスとは呼べないようなものにも用語が当てられる傾向があります。

医療関係の方はご存知かと思いますが、エビデンスには階層があり、弱いものと強いものがあります。最も弱いエビデンスとされているのが、個人や専門家の経験に基づいた意見です。もちろん専門家が論文などに掲載された科学的なデータを元にアドバイスしていることは信用できます。しかし、専門家や医師が、データではなく自分の経験のみに基づいて主張していることは、最も信頼性が低いとされています。

その一方で、最も強いエビデンスとされているのが、「メタアナリシス」の手法で導き出されたものです。これは世界中の研究を統計学的に取りまとめる手法で、情報の信頼性を保つためのルールが2つ定められています。それは、「選り好みをせずに、あらゆる研究結果を集めてきて統合しなければいけない」ことと、「客観性を保つために、1人ではなく2人以上が研究の厳格な基準で評価しなければいけない」ことです。

この2つのルールに基づいたメタアナリシスのエビデンスは、あらゆる段階のエビデンスの中でも最も信頼性が高く、『究極の食事』でご紹介している研究の多くはこの手法を用いたものです。

既存の「常識」は間違いだらけ。エビデンスによって明かされる、医療のウソ・ホント

津川:続いて、「エビデンス」を医師選びにどう活かせばいいのかをご説明します。

まず前提として、少なくとも医療費においては、どの病院に行くかよりも、その病院でどの医師に診てもらうかの影響の方が大きいことが分かってきています。私が以前行なった研究の結果、病院間の医療費の違いよりも、同じ病院における医師間の医療費のばらつきの方が大きいと明らかになりました。同じ病院内でも、担当医師によって検査の回数や薬の処方量、すなわち医療の提供量に差があるのです。

ちなみに、医療の提供量が多ければ質が高いというわけでもなく、患者が死亡するリスクや、退院後に再入院してしまうリスクは、医療費が高い医師と低い医師で違いはありませんでした。適切な医療を提供できていないことで、むしろ追加の検査回数や治療が増えている医師がいるからかもしれません。評判の良い病院を受診したとしても、担当医師によっては適切ではない治療を受けてしまうことがあるのです。

その前提を押さえたうえで、正しい医師選びについてお話します。医師選びにおいて大切なのは、担当医師が女性や年齢的に若い人だったとしても、見た目や先入観で勝手に能力を判断しないことです。

これは私の研究ですが、内科医にかかる場合、男性医師よりも女性医師にかかったほうが患者の死亡率が低いことが明らかになっています。

原因を深掘りすると、これは過去の研究結果で報告されていることですが、女性医師のほうが男性医師よりもガイドラインをしっかりと守り、患者一人ひとりに時間を割いて向き合っているからだと判明しました。

医師選びとエビデンスについて語る津川氏

津川:もうひとつ、一般的なイメージからすると意外に感じられる研究結果があります。内科医の年齢ごとに患者の死亡率を調べたのですが、なんと担当医の年齢が若いほど患者の死亡率が低い傾向にありました。

私が研修医のときもそうでしたが、若い医師は見かけだけで実力がなさそうだと判断されやすく、不安がられる患者の方が多いように感じます。しかし、現実にはむしろ真逆の結果が出ているんです。

医学教育は、実はかなりのスピードで進歩しています。数十年前の医学生が受けていた教育と現代の医学生が受けている教育では、内容はまったく別物。よって、最新の研究結果に基づく教育を受けた若い医師の方が、適切な治療を施せる傾向にあるのです。実際に、医学教育に「エビデンス」の概念がなかった60代以上の内科医のデータを見ると、患者の死亡率は高まっています。

なお、ここまでお話ししたのはあくまで内科医の場合です。外科医については内科医とは反対の研究結果が出ていて、執刀医の年齢が高いほど死亡率が下がることが分かっています。内科医は知識さえあればデータから正確な判断を下せる一方で、外科医は経験に基づく確かな技術なくして、手術を成功させることができないのです。

ちなみに、外科医における性差に関しては、統計的に有意なデータは得られませんでしたが、どちらかといえば女性医師のほうが患者の死亡率が低い傾向が認められました。
  

“ブーム”の糖質制限を正しく理解しているか?果物は良くてフルーツジュースがダメなわけ

津川:「エビデンス」は、医師選びだけではなく、食事選びにも役立ちます。食事選びにおいて大切なのは、栄養至上主義的な考え方から脱却することです。

世間では糖質制限がブームのようで、健康を意識して意図的に炭水化物の摂取量を減らしている方をよく見ます。しかし、安易に炭水化物を避けるだけでは、適切な効果は得られません。なぜなら、炭水化物のなかにも健康に良いものと悪いものがあるからです。

まず、健康に良いのは精製されていない「茶色い炭水化物」です。全粒粉、玄米、そば、大麦などがこれにあたり、摂取量が多い人ほど心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病などのリスクが低いと報告されています。そして、健康に悪いのは精製された「白い炭水化物」です。これは白米や小麦粉製品などのことで、食べれば食べるほど糖尿病のリスクを高めるとされています。

津川:つまり、炭水化物であっても「精製されていないもの」であれば健康に良い可能性が複数の研究で指摘されています。糖質制限をして、魚や野菜、果物など健康に良い食品だけ摂取することができれば、それはもちろん健康的な食事だと思います。しかし、多くの方は、お腹が空いてしまうので、このようながまんさせる食事法は長続きしないのではないかと思っています。

なので、健康のためを考えるのであれば、むやみに炭水化物を制限するのではなく、まずは白い炭水化物を減らして茶色い炭水化物に置き換える食事法が効果的だと考えます。これだったら無理なく継続できる人も多いと思います。糖質制限にまつわる研究では、そもそもこの2種類の炭水化物を区別されておらず、しばしば一緒くたに扱われていることは問題だと思います。

また、糖質制限を薦める記事のなかで「赤い肉を食べるのが効果的だ」といった記述を見かけたことがありますが、これには注意が必要です。赤い肉はたしかに血糖値を上げにくいですが、大腸がんのリスクを高めますし、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高くなるという研究結果もあります。「痩せることさえできればがんになっても良い」と考える人は少ないと思います。つまり、血糖値だけを見ていればプラスだったとしても、健康に与える総合的な効果がマイナスなのでは健康的な食事とは言えないと思います。

このように誤った情報が信じられてしまう背景には、食品に含まれる成分だけを基準に判断されている問題があります。

たとえば、「フルーツジュース」が糖尿病のリスクを上げることを示すエビデンスがあります。しかし、フルーツジュースの元となる「果物」はむしろ糖尿病のリスクを下げるということが複数の研究結果が報告されています。もちろん果物には果糖が含まれるので、量計算をすれば確実に糖質は増えているはずですが、エビデンスを見る限りは食べても太ることはないし、食べている人ほどむしろ糖尿病のリスクが低いと報告されています。

最近では、世界の専門家の間では、含まれる成分はさして気にする必要がなく、どの食品を選ぶかにこそ焦点を当てるべきだと考えられるようになってきています。リコピンを摂取することが健康に良いのではなく、トマトでも他の野菜でも良いので、「野菜」を食べることが健康に良いのです。
  

刹那的な快楽は、苦しみの期間を増幅する。一食ごとの積み重ねを意識し、健康を維持せよ

津川:当たり前ですが、私たちの身体は食べたものからできているのですから、食事が健康に与える影響は決して小さくありません。

にも関わらず、毎回の食事自体は小さな選択であるがゆえに、健康への影響が軽視されがちです。1日に3回と意思決定が求められる機会が頻繁なうえに、「食べたいものが決められないから、今回は食事はやめておく」と判断するわけにもいきません。よって、一つひとつの選択を熟慮し切れないのではないでしょうか。

食中毒のような例外を除いて、一回の意思決定で大幅に健康を損なうことはありませんが、間違った選択の積み重ねによって、徐々に病気のリスクは高まっていきます。逆にいえば、日々の意思決定をおざなりにしなければ健康へ近づけるので、正しい知識を身につけて食事習慣を矯正することは、最も身近で最も効果的な「健康法」であると捉えることもできます。

このような健康になる方法を説明すると、「太く短く生きるつもりだから、好きなものを食べたい」と言われることがあります。しかし、刹那的な快楽を追い求めて不健康な食生活を続けていると、結果的に苦しみを味わう時間が長くなってしまうおそれがあります。「死」を突然やってくるものだと捉えている方も多いですが、脳梗塞になって身体の自由がきかなくなったり、病気にかかって長い期間をかけて亡くなっていく方も少なくありません。残念ながら「太く短く生きる」ことができるかは分からないのです。

私が『究極の食事』を執筆した理由は、一般の方の食事や健康にまつわるリテラシーを高めていただきたいと思ったからです。
読み終わられた本を譲ってもらったり、図書館で借りていただくかたちであったり、どのような形でも良いのでより多くの方にお読みいただき、一人でも多くの方が病気で苦しむことなく健康的な人生を送れるようになることを切に願っています。

津川 友介Yusuke Tsugawa

カリフォルニア大学ロサンゼルス校助教授(医療政策学、医療経済学)

ハーバード公衆衛生大学院にてMPH(公衆衛生学修士号)、ハーバード大学で医療政策学のPh.D.を取得。専門は医療政策学、医療経済学。ブログ「医療政策学×医療経済学」で医療に関するエビデンスを発信している。
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