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世界、そして日本で起きている「ヘルステックの新潮流」–––Health 2.0 Asia – Japan 上田悠理

ブロックチェーン、VR / AR、IoT–––こうした最新テクノロジーが、ヘルスケア業界にも浸透しつつある。続々と新たな技術やサービスが世に普及していくなかで、現在のヘルスケア業界では、どういったトピックがホットなのだろうか。

最新トレンドを探るべく、2018年12月4・5日にメドピアが開催するヘルステックのグローバルカンファレンス「Health 2.0 Asia – Japan 2018」(以下、Health 2.0)の統括ディレクターを務める医師・上田悠理氏にインタビューを行なった。海外のヘルステックカンファレンスにも多数登壇する上田氏が注目する最新トピックから、今年のHealth 2.0のイチ押しプログラムまで、ヘルスケアシーンの最前線に迫った。
 ■目次


GoogleやAmazonも名乗りを上げる、ヘルスケアデータの一元化

ーーHealth 2.0の統括ディレクターとして、日本と海外のヘルスケアシーンの最前線に立ち続けている上田さんに、最新のトレンドについてお伺いしたいです。最近はどういったトピックが注目を集めているのでしょうか?

上田:まず、ヘルスケアデータの「電子化」とデータの「連携」は、引き続き注目を集めています。

個々人の医療情報や身体情報をデータ化しようとする動きは、全世界的に進展しつつあります。行政サービスの99%がオンラインで完結する“電子国家”エストニアをはじめ、フィンランドなどでも政府主導でヘルスケア情報のデータ化が推進されています。

メドピア株式会社 Health 2.0 Asia – Japan 統括ディレクター/医師 上田悠理氏
メドピア株式会社 Health 2.0 Asia – Japan 統括ディレクター/医師 上田悠理氏

上田:また近年は、「電子化」したデータを、あらゆる医療機関が参照できるように「連携」する機運も高まりつつあります。

現状、個々人のヘルスケアデータは、それぞれの病院や個人に分散しています。つまり、病院に来た患者さんが「どういった健康状態で、いまどういった薬を飲んでいるのか」といった情報は、すべて自己申告に依存してしまっているんです。お薬手帳に服薬履歴が残っていても、忘れてしまったら意味がありませんし、患者さんが自らのデータを意図的に隠すことすらできてしまいます。

ーーそうした状況では、医療機関が適切な治療を施すことが難しくなりますね。

上田:そもそも、自分自身のヘルスケアデータを自分で管理できない、更には一元的に持ち運べないというのは高度にIT化され、モビリティに重きを置いた現代社会に合致しません。適切な治療を施すためにも、患者さんの医療データや身体データが、あらゆる医療機関で正しく連携されている必要があります。

データの一元化については、政府主導で進められていることが多い印象ですが、GoogleやAmazonといった企業も名乗りを上げ、元々彼らがもつ人間の行動を中心とした膨大なビッグデータに、人間の身体情報も加えて一元化していこうという動きはあります。

ーーそうした世界的なトレンドに、日本はどの程度キャッチアップできていますか?

上田:遅れ気味ですね。電子カルテの普及率ですら未だ4割程度。今後は、「電子化」のみならず、「連携」を視野に入れた全体としての仕組みづくりが必要となります。データの統合については、厚労省が推進するデータヘルス計画があり、2020年から本格稼働を目指されているので、その進捗にも注目したいところです。

データはインフォメーションにしないと意味がない。進むアカデミアと企業の連携

ーーそうしたデータ関連の動きについては、産官学での連携も必要かと思いますが、そのあたりは今どうなのでしょうか?

上田:アカデミアと企業の連携は、今すごくアツイと思っています。その前提となる世界的な流れとして、データをただ集めるだけのフェーズは終わり、データから何が導き出されるかという、その先の「ソリューション」に関心が向き始めているというのがあります。

HIMSS(Health 2.0の親団体)のCEOであるHal Wolfが先日「データは“インフォメーション”にしないと使えない」と話していました。企業は各々のサービスを通じて、例えばライフログなどのデータを蓄積してきていますが、その集めたデータに意味・方向性を持たせてあげないと、So What?になることに皆が気づき始めています。

ーーそこでアカデミアとの連携が出てくるのでしょうか?

上田:そうですね。データを解析すれば、ある程度の方向性は見えてくるのですが、それを証明するためのエビデンスが必要になってきます。

例えば保険会社さんは、最も精密なデータを持っている会社の1つではないかと思いますが、その集めた膨大なデータを使って何かできないかというときに、彼らだけでは行き詰ってしまいます。そこで大学や研究室などのアカデミアと連携し、既にあるデータ、エビデンスにはどんなものがあるか、どの数値を追いかけたらいいか、何人分のデータを集めて解析したらエビデンスになるか、といった知見を借りるような動きが出ています。

ヘルスケア領域では、いいサービスがあってもエビデンスが無いと正しいものと認められません。いいアイデアだけで終わってはもったいないので、Health 2.0でも企業とアカデミアを上手くつなげていきたいと思っています。

ーーアカデミア側には、どういったメリットがあるのでしょうか?

上田:研究のための研究に止まらない、持続可能なプロセスの構築が可能になります。アカデミアはどうしても研究がゴールになりがちで、その研究の先にどんなビジネスがあるか、まではアカデミアの領域ではありません。しかし、研究のための研究では、論文は増えても、世界を変えるには至りません。ただ、最近では各大学のセンターオブイノベーションで企業との連携を模索するなどのケースは増えていると思います。

“その他5%”を見捨てない「Precision Medicine」–––現役医師が注目する高精度医療とは?

ーー他にも、上田さんが注目されているトピックはありますか?

上田:個々⼈の遺伝⼦情報や⽣活環境、ライフスタイルの違いを解析し、疾病予防や治療に活かす「Precision Medicine(高精度医療)」にも注目しています。従来は、統計データから導き出された「平均的な患者」を想定した医療が一般的でした。95%の人にとって有効であれば、5%の人には効かなくても、それで良しとされていたんです。

しかし、遺伝子や分子科学についての研究「ゲノミクス」を始めとする「オミックス」が発展し、個々人の身体情報や栄養状態、血液データが低侵襲かつ低コストで取れるようになるにつれ、状況が変わりつつあります。AI、ビッグデータの発展による解析技術の向上もあいまって、一個人としての患者さんにとって最適な治療を施せるようになってきているんです。

ーー近年あらゆる業界で話題になっている、ブロックチェーンについてはどういった状況でしょうか?

メドピア株式会社 Health 2.0 Asia – Japan 統括ディレクター/医師 上田悠理氏

上田:グローバルでは議論が落ち着いてきた印象です。前提として、匿名性、改ざん不可能性、相互運用可能性を劇的に高めてくれるブロックチェーンは、非常に重要な技術です。ただし、ブロックチェーンはあくまでもインフラに過ぎず、それ単体でなにか新たな価値を生み出せるものではありません。一時は騒がれたAI技術が、もはや基盤技術となって特段強調されなくなってしまったのと同様に、ブロックチェーンも「あって当たり前」の技術となっていくでしょう。

また、ブロックチェーンには、「ひとつのブロックに収められるデータの容量が少ない」という弱点もあります。対処策も検討されてはいますが、そもそも「本当にブロックチェーンに載せる必要があるのか?」「そこまで匿名性、改ざん不可能性、相互運用可能性を高める必要があるのか?」をよく熟慮した、それが必要な情報について取り入れていくべきでしょう。

ーー日本特有のヘルステックのトレンドはありますか?

上田:日本は、他国と比較して、大企業が元気な印象があります。アメリカや中国に比べてスタートアップへの投資額がまだまだ少ないこともあり、大企業が主導し、中小企業とも連携しながらヘルスケア業界を盛り上げているんです。住友生命が運営する健康増進型保険「Vitality」や、NTTドコモが運営する「dヘルスケア」は、スタートアップと積極的に組んでサービスを拡張している代表例ですね。

自分の意思で動く義手、医療機器のハッキング–––Health 2.0で明かされる、ヘルスケア業界の最前線

ーーこうしたトレンドを前提に、上田さんは「Health 2.0 Asia – Japan」の統括ディレクターとして、どういった活動をされているのでしょうか?

上田:アメリカが本家のカンファレンス「Health 2.0」を、そのブランドを保ちつつも日本に適した形で開催するため、あらゆる準備を行なっています。プログラムづくり、スピーカー集め、スポンサー営業…。とにかく“足で稼ぐ”ことを意識していて、お酒を飲むのも大好きなので飲みの場も含めて、日々たくさんの方々にお会いしながらカンファレンスをつくり上げていっています。

ーー今年の開催では、社会に対してどういった働きかけをしていきたいと考えていますか?

上田:技術水準の高度化、データ量の増大を背景に、それらを「いかに融合させ、ソリューション化させるか」を、来場者のみなさんと一緒に考えていきたいです。「Beyond the Fusion」というメインテーマにも、そうした「融合の果てにあるものを考えたい」という想いを込めました。大企業とアカデミア、スタートアップ、行政、投資家。また、テクノロジーと地域、医療従事者と患者など、様々なファクターを融合させ、「人間がより良く生きる」を実現するための「その先」が少しでも見えると良いですね。現在のヘルステックは、「何ができて、何ができないのか」を明らかにしたうえで、「どういった方向に進んでいくべきか」、「どうコラボレーションできるか」を考えていけたらと思います。

メドピア株式会社 Health 2.0 Asia – Japan 統括ディレクター/医師 上田悠理氏

上田:また、優れたヘルスケアサービスをマーケティング観点で後押しする目的もあります。ヘルスケア業界は、“真面目”な人が多く、せっかく優れたソリューションが出てきても、それを認知してもらい、使い続けてもらうための魅力を持たせる、デザインについてはあまり重視されてきませんでした。

しかし、それでは多くの人々に質の高い医療サービスを提供することはできません。こうした状況を打破するため、Health 2.0では、「素敵さ」「かっこよさ」「使いやすさ」といった観点からも、最新のサービスやテクノロジーを伝えていきたいと思っています。

ーー最後に、今回のHealth 2.0 Asia – Japan 2018におけるイチ押しのコンテンツを教えてください。

上田:ブロックチェーン、サイバーセキュリティ、スリープテック、健康経営、フレイル…。今年は新しくとり入れたジャンルが多く、イチ押しを決めるのは難しいですね…(笑)。

どのセッションも面白いと思うのですが、強いて言うなら、1日目の「仮想現実(VR/AR/MR)が実現し、変革する知覚」に登壇するAlbert Chi氏は、特に注目です。「自分の意思で動く義手」の開発者で、その患者であるJohnnyさんと共に来日して登壇してくれます。その患者さんは、片腕が義手なのですが、神経を義手とつないでおり、思ったままに義手が動かせるんです。

でも、義手をつける手術をすればすぐに思い通りに動かせるようになるかというと、勿論そうではなくて、そもそもないものを意識して動かす、というのは、脳も動かし方が分からないんですね。手を握ろうと思っても、脳のどこを意識して使ったらいいのか分からない。そこで、VRでのリハビリテーションを使って脳をハッキングしながら、脳の使い方、義手の動かし方を訓練するんです。実際にその様子もデモで見せてくれるので、ぜひ生で見ていただきたいです。

また、2日目の「ヘルスケア領域に迫るサイバー危機」というキーノートも注目です。サイバーセキュリティというと、プライバシー情報や財産情報などの情報流出のようなものをイメージする方が多いと思うのですが、医療におけるリスクは少し切り口が違います。ペースメーカーなどの医療機器がどんどんIoT化していくなかでハッキング被害を受けると、外から体内にある医療機器を操作できるようになります。

例えば埋め込み式除細動器がハッキングされたら、それを付けている患者さんが健康で元気な状態のときに電気ショックを送って心臓麻痺を起こすことができてしまいます。漫画『DEATH NOTE』の世界のような事態が現実に起こり得るんです。実際にペースメーカーがハッキングし得ることは既に証明されているのですが、このあたりはまだ日本ではあまり議論がされていなくて、この領域の有識者であるFred Trotterに来日して話していただきます。

ピッチコンテストも、今年は決勝戦(Pitch Final)だけでなく、1日目にLightning Pitchを開催し、約30社が登壇します。Lightning Pitchは、Facebook上で一般公開のライブ配信も行うので、ぜひ多くの方に見ていただき投票に参加いただきたいと思います。

※上田悠理氏が統括ディレクターをつとめる「Health 2.0 Asia – Japan 2018」が12月4日、5日で第4回目の開催となります。
ヘルスケアとテクノロジーの最新をキャッチアップできるイベントへぜひお越しください!

【イベント概要】
◇名称:Health 2.0 Asia – Japan 2018
◇開催日:2018年12月4日(火)、12月5日(水)
◇開催場所:ヒカリエホール(東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ9階)
◇主催:Health 2.0 LLC、メドピア株式会社
◇公式サイト:https://www.health2conjapan.com
◇参加費:¥91,800(Full) / ¥59,400(1Day)

お申込みはこちらから:Health 2.0 Asia – Japan 2018

上田 悠理Yuuri Ueda

医師/メドピア株式会社 Health 2.0 Asia – Japan 統括ディレクター

早稲田大学法学部を卒業後、岡山大学医学部に編入し医師免許を取得。形成外科・訪問診療医として、在宅高齢者の褥瘡管理に携わる。臨床を継続する傍ら、2017年4月よりメドピアが主催するHealth 2.0 Asia – Japan統括ディレクターに就任。臨床現場で感じるニーズと、テクノロジーで可能なこととの間に大きな隔たりを感じており、この壁を破壊するべく、ヘルステック領域のカンファレンスHealth 2.0 Asia – Japanの統括を中心に活動している。
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