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睡眠は評価と行動変容、どちらを優先すべきか?睡眠改善テクノロジーの最新事例から徹底議論

2018年12月4日から5日にかけてメドピア株式会社主催で開催された、世界最大規模かつ最もアクティブなグローバル・カンファレンス「Health 2.0 Asia - Japan 2018」。産学官からヘルスケア業界をリードするトップランナーたちが集い、数十にも及ぶセッションが繰り広げられました。

本記事では、「『睡眠』を向上させるテクノロジー」と題したセッションの様子をダイジェストでお届けします。

人間の生活に欠かすことのできない「睡眠」。睡眠負債といった言葉に代表されるように、現代人の睡眠時間の不足や質の低下は、社会問題となっています。良質な睡眠を実現するためのテクノロジーとは何か、そして睡眠評価の正確性と行動変容は、どちらが優先されるべきなのか。睡眠テクノロジーに取り組むトップランナー3社のデモ講演と、付随するディスカッションで、最先端の事例と知見が明かされました。

※セッション登壇者
・田澤 雄基(慶應義塾大学医学部 精神・神経科領域横断イノベーション研究室 助教)モデレーター
・白濱 龍太郎(RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック 院長)パネリスト
・千川原 智康(フィットビット・ジャパン合同会社 カントリーゼネラルマネージャー)デモ
・今井 隆之(株式会社フジクラ 新規事業推進センター シリコンバレーオフィス 所長)デモ
・小林 孝徳(株式会社ニューロスペース 代表取締役)デモ
 ■目次


「睡眠を削って頑張る」は時代遅れ。アメリカでも睡眠重視の機運が高まる

田澤雄基氏、白濱龍太郎氏
(左)田澤 雄基氏(慶應義塾大学医学部 精神・神経科領域横断イノベーション研究室 助教)
(右)白濱 龍太郎氏(RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック 院長)

田澤雄基(以下、田澤):おはようございます。モデレーターを努めさせていただく、田澤と申します。本セッションでは、テクノロジーを活用した睡眠改善に取り組まれている3社をお呼びしてデモ講演を行なっていただいたのち、具体的なソリューションを議論していきます。

私はうつ病や気分障害を専門に研究しているのですが、この領域は睡眠と深い関連性を持っています。いま個人的に取り組んでいる課題は、精神疾患の睡眠状況を、患者さんの主観的な評価ではなく、テクノロジーを活用して定量的に評価していく仕組みを作り上げること。

まずはパネリストとして、医師で睡眠のプロフェッショナルである、RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック院長の白濱先生をお呼びしたいと思います。

白濱龍太郎(以下、白濱):こんにちは、白濱です。国内に数十ヶ所しかない、日本睡眠学会の認定施設であるクリニックで、年間600件前後の患者さんに睡眠に関する専門検査を行なっています。他にも順天堂大学の客員講師、ハーバード大学の客員研究員として、睡眠の研究にも従事しています。

田澤:ハーバード大学でパブリックヘルスのお仕事をされている白濱先生の目に、アメリカの「睡眠」にまつわる社会状況はどう映っていますか?

白濱:アメリカでは、チェルノブイリなどの事故に睡眠障害が関与していた報告が出されたこともあり、国策として睡眠改善に取り組む機運が高まっています。以前は「睡眠時間を削って頑張る」ことを美徳とする文化がありましたが、ここ数年は、テクノロジーも活用しつつ、しっかりと睡眠を取ることが是とされる風潮に方向転換しています。

田澤:やっぱり生活の質、ハイクオリティな仕事を担保するために、睡眠は重要だということですね。

パーソナライズ化されたアドバイスで、睡眠改善に取り組むニューロスペース社

田澤:それではデモ講演に移っていきたいと思います。まずは企業向けの睡眠改善プログラムを提供しており、これまで60社、1万人以上の睡眠改善をサポートしてきた、株式会社ニューロスペース代表取締役社長の小林孝徳さん。

小林 孝徳(株式会社ニューロスペース 代表取締役)
小林 孝徳氏(株式会社ニューロスペース 代表取締役)

小林孝徳(以下、小林):ニューロスペースの小林です。今日はANAさんと共同開発した、時差ボケ調整アプリをご紹介させていただきます。

アプリはANAさんの予約情報と連携しており、フライトのスケジュールがアプリに自動で反映されます。フライト予定のデータをもとに、食事や仮眠を取るべきタイミング、また機内で寝て過ごすべきか否かなどをアドバイスしてくれる仕組みです。

このアプリのタイムラインに則って行動すると、海外での時差ボケを調整しパフォーマンスを最大化することができます。将来的にはアプリだけに留まらず、ラウンジでの休み方や提供する食事内容の調整など、リアル空間のサービスとも連携していきたいと思っています。

田澤:長らく睡眠テクノロジーに関わってデータや知見を溜めてきたとのことですが、患者さんの状況や国、年齢に応じて行うべきアドバイスも変わってくると思います。アドバイスのアルゴリズムはどういった方針で組んでいるのでしょうか?

小林:おっしゃる通り、取るべき睡眠スタイルは人によって違うので、「パーソナライズ」をコアコンセプトにアルゴリズムを組んでいます。勤務形態やご家族の状況など、パーソナルな情報を取り込んだうえでアドバイスを提供しているんです。個別に最適化されたアドバイスを提供できる点は、我々の強みでもあります。

白濱:パーソラナイズは本当に大事ですよね。居眠り運転で交通事故を起こしてしまった事件の鑑定人を務めさせていただく機会もあるのですが、外から見ていると分からないけれど、育児による睡眠不足が根本的な原因となっていたケースは少なくありません。

ヘッドデバイスで脳波を測定し、睡眠改善に挑むフジクラ社

田澤:続いてのデモ講演は、株式会社フジクラの新規事業推進センターで、シリコンバレーオフィス所長を務められている、今井隆之さんです。脳波を測定することで良質な睡眠に誘導するヘッドバンド型デバイスを開発するアメリカのスタートアップとコラボし、睡眠改善に取り組まれています。

今井 隆之(株式会社フジクラ 新規事業推進センター シリコンバレーオフィス 所長)
今井 隆之氏(株式会社フジクラ 新規事業推進センター シリコンバレーオフィス 所長)

今井隆之(以下、今井):こんにちは、今井です。フジクラは、オープンイノベーションを通じた社会の課題解決を目指し、「2030年ビジョン」を発表しました。ビジョンの中で、人びとの健康寿命の延伸とQOL向上という目標を掲げ、共感してくれるスタートアップ企業との協業をはじめています。今回は協業先のスタートアップのひとつであるSleep Shepherd社の製品「Sleep Shepherd」を紹介します。

同製品は、おでこに脳波センサー、両耳にスピーカーがついているヘッドバンド型のデバイスです。脳波と胎動を測定し、睡眠の状態を可視化します。また状態に応じて左右の耳から異なる周波数の音を入れ、低周波の唸りを脳波の周波数より少し低い周波数に設定することにより、脳波の周波数を徐々に下げて安定した睡眠に導きます。今後は日本でも、BtoB向けの睡眠改善サービスを共同開発してリリースする予定です。

田澤:睡眠の質に最も寄与している要素は何でしょう?

今井:実は、睡眠時間と自己採点が最もよく効いています。結局、睡眠の質においては「自覚」が重要なんです。

世界最大規模の睡眠データベースを保有するフィットビット社

田澤:では最後のデモ講演です。フィットビット・ジャパンでカントリーゼネラルマネージャーを務められている千川原智康さんに、 Fitbitを活用した睡眠改善についてお話しいただきます。

千川原 智康(フィットビット・ジャパン合同会社 カントリーゼネラルマネージャー)
千川原 智康氏(フィットビット・ジャパン合同会社 カントリーゼネラルマネージャー)

千川原智康(以下、千川原):初めまして、千川原です。2018年の11月6日に発売され、好評を博している、「フィットネストラッカー Charge3」を紹介させてください。

初めてタッチスクリーンを採用した本作は、腕の動きと心拍数をあわせて計測することで、高精度で睡眠状態を検知できるようになっています。覚醒状態、レム睡眠、深い睡眠、浅い睡眠の4段階にジャンル分けして睡眠状態を計測し、それぞれの理想的な割合も示してくれます。こうして睡眠状態を視覚化することでインサイトを与え、健康増進に役立てていただくわけです。

Fitbitはこれまで全世界で8,000万台以上のデバイスを販売してきており、75億日分を超える世界最大規模の睡眠データベースを保有している点も強みです。データベースを分析することで、さまざまなことが分かります。たとえば世界各国の平均睡眠時間を算出してみたところ、日本国内の25万人のユーザーの平均睡眠時間は6時間10分で、47ヶ国中39番目だと判明しました。

健康経営や健康増進のためのキーデバイスとして多くの企業に導入されており、導入企業はすでに100社を超えています。良質な睡眠は、生産性やクリエイティビティにとって非常に大切だと私たちは考えています。今後もデバイスと共にそうした考え方を普及させていきたいです。

田澤:FitbitはUIの綺麗さも含めて、熱心なファンが多い印象がありますよね。

評価の正確性か、行動変容か。ユーザーに応じた優先順位の切り替えが必要

田澤:みなさんデモ講演ありがとうございました。ディスカッションに移りたいと思います。

我々医師の立場からすると、どうしても睡眠評価の精度を最重視してしまうのですが、Fitbitなどのお話を伺い、それだけではないと思わされました。たとえ評価が医学的に曖昧でも、インターフェースなどでユーザーのマインドを刺激できると、改善や治療に繋がりうる。

千川原:今後センシングのテクノロジーが発展していく中で、正確さはどんどん増していくはずです。そんななかでフィットビット社が果たすべき使命は、正確さだけを追求するのではなく、ユーザーの意識レベルから行動変容を起こすことだと思うんです。たとえば、術前術後の体力回復や、院外での様子のモニタリングなど、これまで医療が手の届かなかった領域にFitbitが役立つと感じています。

田澤:その際、行動変容と評価どちらを目的にするのかを明確に意識することが重要となってくるでしょう。

一方で今井さんは、耳から音を介入させるというユニークな手段で行動変容を起こそうとされていますよね。

『睡眠』を向上させるテクノロジー

今井:私も、精度を高めるだけでは行動変容は起こせないと思います。いかにしてユーザーエクスペリエンスを高めるかが大事です。ただ行動変容と評価のどちらにフォーカスすべきなのか、現在の睡眠テクノロジーの状況だとまだ答えが見えづらいので、両方面からサービスを展開して見極めている最中です。

田澤:小林さんは、ANAさんと共同開発された時差ボケ調整アプリは行動変容にフォーカスされている一方、デバイスによる評価にも取り組まれていますよね。今後はどのように展開される予定でしょうか?

小林:測定の精度が高まってこそ、行動変容の質も上がってくると思います。寝ている最中にエアコンや照明を制御し、睡眠の質を改善するためには、リアルタイムの睡眠データを正確に取得する必要がある。とはいえ測定の精度がまだ追いつかない部分では、先に行動変容のソリューションを出すことも考えています。

田澤:お三方にコメントをいただきましたが、白濱先生は、医師の目線から見て、行動変容と評価の精度の兼ね合いについてはどうお考えですか?

白濱:ターゲットによって、求められる精度は変わってくると思います。商業ドライバーさんや、睡眠が原因で精神疾患にかかっている方など、特にセンシティブなターゲットに対しては、一定以上の精度が求められます。ユーザーさんに応じて、デバイスを使い分けていくことが大切でしょう。

田澤:一方でFitbitのような、生活における睡眠の質を改善するタイプのものは、正確性よりも行動変容が優先されるのではないでしょうか。皆さん、今日はありがとうございました。